異世界空手部・やわらかスマホの裏技   作:コッコリリン

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迫真空手部の三人の設定はオリジナルです……ってここまでするとほぼオリ主じゃねぇかいい加減にしろ!(説教)

あ、そうだ(唐突)

皆さん、感想コメントありがとナス!


7.迫真空手部、公爵邸を後にして子爵邸へ

 身体が動かない。意識は朦朧としていて、夢か現実かもわからない。しかし、不思議と悪い感じはしなかった。

 

 暗闇の中を、一人漂う。何もない闇。孤独を感じ、いつも一緒にいる先輩たちの名を叫ぼうとするが、声が出ない。

 

(僕は……ずっとこのままなのか……?)

 

 まるで羽毛で包まれているような安堵と心地よさ。だけどこのままではいけないと、本能がそう叫んでいるのがわかる。

 

 ここから出ないと。この闇に身を委ねたら、もう抜け出すことはできない。故に藻掻く。ここから出るため、あらん限りの力で藻掻く。

 

 しばらく藻掻き続けていると……暗闇に差し込む、一筋の光が視界を覆っていく。

 

 あの先へ進めば出られる……そう信じ、そこへと向かっていく。

 

 光へ辿り着く寸前、突如として脳裏に蘇る記憶。泣き叫ぶ幼い自分。力無く項垂れる男性。そして自分が縋りついているのは、白い布で顔を覆われている誰か。

 

(……あぁ、そうか……すっかり忘れてたな)

 

 それを見て、思い出す。悲しい記憶。辛い思い出。そして、

 

(僕が、魔法を使いたいって願ったのは……)

 

 

 

 

 

 

 

「う……」

 

 重い瞼を持ち上げ、目を開ける。頭はまだ痛むものの、虚脱感に包まれた身体が、徐々に力を取り戻していくのを実感した。

 

 最初に視界に飛び込んで来たのは、どこかの建物の天井。どうやら眠っていたようだとわかるのに、しばし時間がかかった。

 

「……ここは?」

 

 ゆっくりと上体を起こす。何か夢を見ていた気がするが、それよりも何故眠っていたのかという疑問があった。確か、スゥシィの母親の目を治した筈だが、その後の記憶がない。どういうことかと、いまだぼんやりする頭で考えようとした。

 

「木村ぁ! 目を覚ましたかぁ!」

 

「え? わ」

 

 突然、起きた身体に走る衝撃。見れば木村の視界には、美しいブロンドの髪をした頭が見えた。その正体が何かわからなかったが、すぐに思い出す。

 

「スゥ……ちゃん?」

 

 一瞬、どう呼ぼうか悩んだ末、様付けすれば怒るだろうと判断した木村は、結局ちゃん付けで名を呼んだ。

 

「起きたか木村ぁ! よかったゾ、本当に……!」

 

「おいコラァ! 突然倒れてんじゃねえよお前よぉ! 心配させやがって!」

 

「木村殿……よくご無事で……!」

 

「ポッチャァ!」

 

 木村の耳に入る、聞き慣れた仲間たちの声。三浦が顔を手で覆い、野獣はポロポロ涙を流し、八重もポッチャマを抱きかかえながら涙ぐんでいる。皆が皆、木村のことを案じていた。

 

「僕は……何でここに?」

 

 木村がいる場所はどこか見覚えのない部屋だが、スゥシィがこの場にいるということは公爵家の一室なのだろう。広い部屋の中にあるベッドで横になっていた木村の周りに集う野獣たち。そしてその中には、公爵と彼の妻であるエレンが隣に立っていた。

 

「木村殿! もう大丈夫なのか?」

 

「え、ええ……あの、あの後に僕は一体……?」

 

 あの後のことを覚えていない木村は、木村の身を案じている公爵に問いかけた。それに答えたのは、木村に抱き着いているスゥシィだった。

 

「母上の目を治してくれた直後に、突然倒れたのじゃ……けどよかった。本当によかったのじゃ! 爺と母上を救ってくれた恩人を死なせずに済んで……!」

 

「あの後、この部屋に運び込んで治癒魔法の使い手に見てもらったが、どうやら君は重度の魔力切れを起こしたらしい……後少し、魔力を回復させる薬を飲ませるのが遅れれば危険だった」

 

 公爵が木村の身に起きた原因を説明する。それを聞いて、野獣は納得いったような顔をした。

 

「なるほど道理でねぇ。やっぱあの本、ページの後ろに行けば行く程強い魔法な分、魔力の消費が半端ないって、はっきりわかんだね」

 

「今の木村は簡単な魔法を連続で使うだけで疲れちゃうから、そんな魔法を使ったら一発でぶっ倒れちまうゾ……俺、木村が死んじゃったのかと思って気が気で無かったゾ……!」

 

「けれど、無事でよかったでござる……もうどこにも異常はござらぬか?」

 

「は、はい……少し疲れてるような気はしますけど、大分楽になりました」

 

 木村の胸の中で泣くスゥシィの頭を撫でながら、木村が大勢の人たちを心配させたことに対して申し訳なさで胸が一杯になる。軽い気持ちで、身の丈に合わないことをすれば身を滅ぼす……それを実感してしまった。

 

(……もっと魔力を増やせるよう、努力しないとなぁ……)

 

 だからこそ決意する。これでは、いずれ重要なことで野獣たちの足を引っ張ってしまうことになりかねないとわかってしまったから。

 

「本当に、申し訳ありませんでした……私の目を治したばかりに……」

 

「エレン……」

 

「母上……」

 

 そう考えていた木村に、エレンが頭を下げて謝罪する。木村が倒れる原因になってしまったことを気に病んでいる彼女に、木村は慌てた。

 

「いや、そんなこと……あれは僕が進んで行ったことです。あなたが気に病むことではありませんよ。それに倒れたのは僕がまだまだ未熟だっただけです」

 

「けど……」

 

「それなら」

 

 何か言いたげなエレンを遮り、木村が続ける。その顔には笑顔があった。

 

「どうせなら、謝罪の言葉なんかよりもお礼の言葉が欲しいですね」

 

「え……?」

 

 一瞬、呆けるエレンに続き、野獣と三浦が追従するように口を開いた。

 

「だよな~。治した木村がぶっ倒れる程の後遺症だったんだから、欲しいのは『ごめんなさい』とか『申し訳ない』なんかよりも『ありがとう』って言葉だってそれ一番言われてるから(経験者は語る)。だから笑ってくれよな〜頼むよ〜」

 

「そうだよ。せっかく木村がスゥちゃんと公爵さんを見えるようにしたのに、そんな悲しそうな顔されたら木村の努力が台無しだゾ」

 

「木村殿……野獣殿、三浦殿……」

 

 さすがに無礼が過ぎると一瞬思った八重だったが、それは彼ら三人がエレンに罪悪感を抱かせないための気遣いであることに気付く。そして、三人の気持ちを察したエレンは、初めこそ戸惑っていたものの、その優しさに触れたおかげで暗い気持ちが消える。そして、

 

「……本当に……私のために、ありがとうございました」

 

 そう言って、目を潤ませながらもう一度頭を深く下げたのだった。

 

 

 

〜114秒後〜

 

 

 

「本当に、君たちには感謝してもし切れない。娘を救ってくれたばかりか、身を呈してまで妻の目を治してくれるとは……本当に、本当にありがとう」

 

 木村が動けるようになったため、公爵と共に別室へと移った一行。スゥシィは失っていた時間を取り戻そうとするかのようにエレンと共に寝室にいるためこの場にはいない。

 

 そして公爵は、大切な家族の危機を二度も救ってくれた一行に深く頭を下げた。

 

「どういたしましてだゾ。スゥちゃんのカッチャマを助けたのは木村だけどな~」

 

「まぁ俺たちも襲撃者に対して頑張ったし、多少はね?」

 

「ポチャ(よきにはからえ)」

 

 どこか誇らしげな三浦と野獣とポッチャマ。もう二人の言動には何言っても無駄だと判断した木村と八重は黙ってることにした。

 

「ここまでしてもらっておいて、やはり何もしないという訳にはいかない……レイム、頼んでおいた物を」

 

「かしこまりました」

 

 恭しく頭を下げたレイムは、手に持っていた銀の盆を差し出す。その上には両手で持てるサイズの袋一つと、小さな宝箱一つ、そして箱に収められている小さな白い宝石の指輪が一つ乗っていた。公爵が袋を手に取り、それを差し出す。

 

「まずはこれを受け取って欲しい。娘を救ってくれたことと、道中護衛してくれたお礼だ」

 

「やったぜ」

 

 一人テンション上がる野獣。

 

「は、はい」

 

 そんな野獣を放置して、差し出された袋をおずおずと受け取る木村。だが手に持った瞬間、その重さに驚いてテーブルの上に落としてしまう。

 

「うわ、重い……これは?」

 

「中には白金貨40枚が入っている」

 

「っ!?」

 

 木村の質問に公爵が答える。すると何故か八重が愕然とした。

 

「ん? 白金貨? 何だそりゃ?」

 

「し、知らないでござるか野獣殿……!? 白金貨は金貨より上の貨幣で、一枚で金貨10枚分でござる……!」

 

「え? 金貨10枚分って……」

 

 震えが止まらない八重に言われ、木村は頭の中で計算する。旅の途中で八重から教わった貨幣の数え方を思い出しつつ、ひーふーみーと数えていき、答えが出た。

 

「えーっと、日本円に直すと金貨1枚で10万円だから、白金貨一枚100万円……つまり袋の中にあるのは4000万円ですね」

 

「14万!?」

 

「耳おかしいんですか。4000万です」

 

「はぇ〜、4000万かぁ」

 

「4000万はすごいゾ~」

 

 ………………………。

 

「……ファッ!? よよよよよよよ4000万!?」

 

「あっ」

 

「えぇ!?」

 

 脳の理解がようやく追いついた三人が、その金額に驚愕、そして呆然とする。

 

「そ、そんな金額恐れ多くて受け取れませんよ!?」

 

「クゥーン……クゥーン……クゥーン……」

 

「ポッチャマ、ポッチャマ、ポッチャマ、ポッチャマ」

 

「や、野獣殿三浦殿! しっかりするでござる!」

 

「ポッチャ(用意)」

 

 遠慮する木村に、想像以上の金額にパニックになった野獣と三浦は呆然としながらうわ言のように同じ言葉を繰り返し、八重が揺さぶって正気に戻そうと躍起になった。とりあえずポッチャマは二人にみずでっぽうを食らわそうとお腹を膨らませていた。

 

「いや、是非受け取ってくれ。それに見合うことを君たちはしてくれたのだから。そうでなければ、私の面目が立たない」

 

「……わかりました……そういうことでしたら、これはありがたく頂戴いたします……」

 

「ポッチャァ!(発射)」

 

「溺れる! 溺れる!」

 

「あっあっあっあっあっ」

 

「ちょ、ポッチャマ殿、拙者も巻き添えくらってるでござ、わぷ!」

 

 公爵と木村がやり取りをしている間、その後ろはポッチャマによって大惨事になっていた。

 

「それから、これを」

 

 続いて、今度は宝箱を手に取る。蓋を開けると、そこには4枚のメダルが収められていた。盾を中心に二頭のライオンが向かい合うレリーフが彫られている。

 

「我が公爵家のメダルだ。元々は公爵家御用達の商人に与えられる物だ。これさえあれば、検問所を素通りできるし、貴族しか利用できない施設も利用可能になる。何かあれば公爵家が後ろ盾になるという証になるし、君たちの身分証明にもなっている。これも受け取ってくれ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「おぉ、かっこいいメダルだゾ~!」

 

「ポッチャ」

 

「なぁ八重、なんか拭くもん持ってる……持ってない?(濡れ鼠)」

 

「拙者が欲しいところでござるよ……」

 

 ちょうど人数分のメダルを受け取った4人。さらにメダル一つ一つには一行のそれぞれの名前と単語が刻まれていた。

 

「これは?」

 

「それは君たちの物であるという印だ。万が一紛失した際、悪用されないようにね。それぞれにちなんだ言葉が彫られている」

 

 木村の物には『平穏』、野獣の物には『情熱』、三浦の物には『博愛』、八重の物には『誠実』とあった。

 

「平穏か……まぁ、僕が求めてる物、かな……?」

 

「俺が情熱とか……いいねぇ!」

 

「博愛とか照れるゾ~!」

 

「ポッチャ!」

 

「拙者は誠実……何やらこそばゆいものがあるでござるな」

 

 それぞれのメダルに綴られた単語について言い合っている間、公爵が最後の一つを手に取り、箱の中の指輪を取り出す。

 

「最後にこれを……これは木村殿に受け取っていただきたい」

 

「え、僕にですか?」

 

 差し出された指輪は、シルバーリングの台に小さな白い宝石が埋め込まれたシンプルなデザインの物。ちょうど木村の指に収まる程の大きさだった。

 

「これは我が公爵家に収められていた財宝の一つでね。持ち主の魔力を一瞬で回復してくれる物だ。ただし、一度限りの使い捨てだから、使いどころには気を付けてくれ。不要ならば売ってくれても構わない」

 

「え、そんな貴重な物を……」

 

「頼む……これは危険を冒してまでエレンを救ってくれた、私たちからのお礼でもあるんだ」

 

 その公爵の顔は切実な感情に溢れているのが見て取れた。それを見れば、さすがの木村も受け取らない訳にはいかないと感じ、恭しくそれを手に取った。

 

「あ、ありがとうございます」

 

「礼はいらぬ。それは私が言わなければいけないのだからね」

 

 言って、微笑む公爵。確かに助けたのは事実だが、ここまでしてもらうと何だか逆に申し訳なってくるレベルであり、木村は恐縮せざるをえなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「また遊びに来るのじゃぞ! 絶対じゃからな~!」

 

「また行きますよ~行きますよ~行く行く!」

 

「スゥちゃんも元気でな~!」

 

「ポチャポチャー!」

 

「お世話になりました」

 

「し、失礼つかまつる」

 

 玄関先にて公爵家一家に、そして門のところまで続く道のりには衛兵がズラリと並び一糸乱れず整列しながら剣を掲げて見送られつつ、一行は手を振りながらスゥシィの元気な声を背に屋敷を後にした。

 

 予期せぬ出来事だったが、得られた物は大きい。一度に大金を手に入れた上、公爵家との繋がりを得た。さらに木村はマジックアイテムを入手し、これ以上望むのは罰が当たる程だ。

 

「FOO! これだけの金がありゃ当分困りませんねぇ!」

 

「いいゾ~これ! これで極貧生活ともおさらばだゾ~!」

 

「ポッチャ!」

 

「ちょっと、せっかく公爵さんからいただいたんですから大切に使ってくださいよ。そもそもこんな大金、僕たちには身に余るんですから、使うとしたら計画的に使わないと」

 

 手に入れた大金にテンションが上がる野獣と三浦。注意する木村だったが、その顔はどこか明るい。つい先日までホームレス生活だった上、旅の間も路銀を稼ぐのに苦労した分、その心配が無くなったのは確かに嬉しくもなる。

 

「…………」

 

 だがそんな彼らに対し、屋敷を出てから八重は黙り込んだままだった。

 

「あれ、八重さん? どうしたんですか?」

 

「……え? な、何がでござるか?」

 

「いや、さっきから黙ってるから……体調でも悪いんですか?」

 

 木村に気遣われ、八重は慌てて手を振った。

 

「い、いえいえ、何でもござらん! ただこんな大金どうしたらよいのか考えていただけで……」

 

「大丈夫だって安心しろよ~。ちゃんと八重にも分けるって。40枚あるから、ちょうど一人10枚だな」

 

「それでも1000万円分あるのか~。一気にお金持ちになっちゃったゾ~」

 

「いえ、そういう意味ではなく……」

 

 お気楽な二人に、八重が訂正しようとする。と、木村がふと思い出したことを八重に聞いた。

 

「そう言えば、八重さんのお父さんがお世話になったっていう人が王都にいるんですよね? どこにいるんですか?」

 

「あ、そうだ。そのために王都に来たんだったゾ」

 

「おいおい忘れないでくださいよ~三浦先輩」

 

「そういう野獣先輩も忘れてたんじゃないんですか?」

 

「そそそそそんな訳ないだろうしっかり覚えてたからな俺はよぉ!」

 

「どうだか……」

 

「ポッチャ」

 

 ジト目で野獣を見る木村とポッチャマ。それを見て苦笑しつつ、八重は木村の質問に答える。

 

「これから拙者が会いに行くのはソードレック子爵という方でござる。ここから少し歩いた先にある屋敷が住居でござるよ」

 

「今度は子爵かぁ……公爵よりは位は低いんだろ? 公爵に会った後だと大分インパクト薄いよなぁ」

 

「シシャモなら好きだゾ〜」

 

「ちょっと、失礼ですよ」

 

「いえ、仕方ないでござる。まさか王都に来て最初に会うのが公爵だとは、拙者も思いもしていなかったでござるからな」

 

「あ、そっかぁ」

 

「ポッチャァ」

 

 そんな会話をしながら一行は歩く。貴族街の立派な街並みを眺めながら、時に野獣がスマホで写真を撮ったりしてはしゃいだりとちょっとしたアクシデントを交えつつ、この旅の目的地であるソードレック子爵の屋敷に到着した。

 

 子爵の家も立派な門構えではあったが、公爵の屋敷に比べるとさすがに見劣りするのが野獣たちの正直な感想だった。古いというより、歴史を感じる趣ではあるが。

 

 とにかく、ソードレック子爵の屋敷の門番へ話しかける八重。その際、「九重重兵衛が娘、九重八重が参った。お目通り願いたい」と告げると、門番は走って屋敷の方へ。数十分後、戻ってきた門番に「入られよ」と門を開けてもらい、屋敷への訪問を許された。

 

「やっぱ普通、貴族に会うのってアポイントとか手順を踏まないとダメなんですね」

 

「しょうがねぇな~……(ゆとりある心)」

 

 屋敷に入る前に呟く木村に同調するように野獣が面倒臭そうに言う。公爵家に歓迎されたせいで感覚が麻痺しているのかもしれない。

 

 そうして屋敷の正面玄関から中に入ると、執事らしき人物から子爵はまだ忙しいとのことで、一度部屋で待機してもらうよう言われる。異論はなく、一行は執事先導の下、屋敷の中を歩いていく。爵位が違うのだから仕方ないにしても、ここでも公爵家の屋敷と無意識に比べてしまう。

 

 やがて部屋に通されてから数分。野獣が部屋の調度品に触れようとして木村に止められたり、八重の横で三浦がソファの上で胡坐を掻いて座って待機していると、部屋の扉が開かれた。

 

「待たせたな。私がカルロッサ・ガルン・ソードレックだ。重兵衛殿の娘が来たというが、まことか?」

 

 入って来たのは赤毛の壮年の男性だった。立派な服の上からでもわかる程の鍛え抜かれた身体は、そこにいるだけで威圧感たっぷりだった。さらには目つきも鋭く、さながら獲物を狙う鷹の如し。

 

「はい。拙者が九重八重でございまする」

 

 ソファから立ち上がり、そんな子爵の鋭い眼を見つつ、八重が名乗り上げる。子爵は彼女をじっと見つめる。

 

「その顔立ち……うむ、間違いない! 若かりし頃の七重殿と瓜二つだ! そうか、お前が重兵衛殿の娘かぁ! 母親似でよかったなぁ!」

 

 厳つい顔を綻ばせ、八重の肩に手を置く子爵。愉快そうに、そしてどこか懐かしそうに語るその口ぶりから、本当に八重の父親と親交があったのがわかる。

 

「いやはや、本当に懐かしい。重兵衛殿は私が若い鼻垂れ小僧だった時に我がソードレック家の剣術指南役としてしごかれたものだ。あれは本当に厳しかった……もうあれから20年も前になるのだな」

 

「父上は今まで育てた剣士の中で、子爵殿程に才に満ち溢れて腕が立つ者はいなかったと、いつも口にしていたでござる」

 

「そうか……重兵衛殿がそんなことを。いやはや、世辞でも嬉しいものだな、師に褒められるというものは」

 

 そう語り合う八重と子爵。と、ここで空手部の三人の存在に気付いた子爵が彼らへ顔を向ける。

 

「それで、この者たちは?」

 

「彼らは拙者が武者修行の旅の道中に出会った方々でござる。こちらから三浦殿、ポッチャマ殿、野獣殿、木村殿でござる」

 

「よろしくだゾ」

 

「ポチャ」

 

「オッスお願いしまーっス」

 

「ど、どうも……」

 

 胡坐をかいたまま気楽に言う三浦とその膝の上に座るポッチャマ、気安く挨拶する野獣、そして恐縮している木村。さすがに三浦と野獣の挨拶はどうかと思い、八重は慌ててフォローする。

 

「そ、その、彼らは礼節はともかくとして、その腕は確かなものであって……拙者も旅の最中何度も助けられたでござる」

 

「ほほぉ……?」

 

 八重にそう言われ、ギッと三人を見る子爵。三浦は動じているのかいないのかボーッとしており、木村はその視線に耐えられずに目を逸らす。と、野獣へ目を向けた瞬間、その目つきがより鋭くなった。

 

「ファッ!? な、何スか?」

 

「…………」

 

 只ならぬ雰囲気に、野獣が焦る。子爵は答えず、ただ野獣をじっと見つめる……もとい睨みつけていた。

 

「子爵殿?」

 

「……おっと、すまない。それで、私に何用で尋ねてきたのだ? ただ昔話に花を咲かせる、というのも私は大歓迎だが、そうではないのだろう?」

 

 八重に声をかけられ、野獣から意識を外した子爵は八重に問いかける。図星とばかりに、八重は真剣な眼差しを子爵へ向けながら、言葉を放った。

 

「もし子爵と出会うことがあらば、ぜひ一手指南を受けていただけ……とも、父上は申していたでござる」

 

「……なるほどな」

 

 八重が言わんとしていることを理解した子爵。そして鋭い眼が細められ、口の端が上がる。

 

 子爵の雰囲気が変わる。空手部三人はその姿に見覚えがある。それは彼らの師匠である迫真空手部顧問が本格的な組手を行う前に発する物と同じであった。

 

「やべぇよ、やべぇよ……(戦慄)」

 

「先生と同じような人がいるとは思わなかったですね……」

 

「ポッチャマ」

 

「ポチャ」

 

 これから行われることが何なのか空手部にはわかってしまい、思わず冷や汗を流すのだった。

 




公爵からのお礼に一品増えました。原作主人公より豪華になってしまい申し訳ナス!

今後の活動についてではなくお気楽アンケート開催。アニメ異世界スマホのEDでスマホ太郎がヒロインたちに手を差し出すシーン、差し替えるとしたら誰がいい?

  • スマホ太郎(アニメ主人公)
  • 望月冬夜(原作主人公)
  • 野獣先輩
  • 三浦
  • 木村
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