詰みゲーみたいな島(四国)に人類を滅ぼす敵として転生した百合厨はどうすりゃいいんですか?   作:百男合

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※グッドエンドルート後の話だと思いねえ。


夢見た先はハーレムエンド♡

『そのっち…そのっち起きなさい』

「むにゃむにゃ。ぐーすかぴー」

『そのっち…にぼっしー兄とにわみんが半裸で抱き合ってるよ。起きて見なくてもいいの?』

「なにそれ見たい!」

 目をぱっちりと開き、園子はがばっと布団から起き上がった。

 だがそこにあるのは暗闇一面の世界。いつもの自室ではないことに頭に疑問符を浮かべる。

「あれぇ? ここどこ?」

『起きたみたいだねーそのっち。昔の自分ながらこれで目を輝かせて起きるのはちょっと引くよ』

 声の方を見ると綺麗なお姉さんがいた。

 すごい美人だ。仕事ができるバリバリのキャリアウーマンといった感じでスーツがよく似合っている。

 それにどこか見たことのあるような顔…というかいつも洗面所でよく見ている顔がそこにあった。

「え? あれ? ひょっとしてあなた…大きくなったわたし?」

『さすが過去のわたし。話が早いんよー。わたしはあなたから見て10年後の乃木園子。アダルトそのっちとでも呼んでもらっていいんよー』

 今より出るとこも出ていてセクシーになっている自称乃木園子に、園子は目を瞬かせる。

「いや、24歳にもなって自分のことそのっちっていうのはちょっと痛い」

『何か言ったかなぁ?』

「ナンデモナイヨー」

 どうやら地雷発言だったらしい。圧をかけてくる自称未来の自分から目を逸らしながら、園子は尋ねる。

「で、10年後のわたしがどうしてわたしの夢の中に?」

『そのっち。これは残念ながら夢じゃないんよー。現実。圧倒的現実なんよー』

 声に悲壮感をにじませながら10年後の乃木園子は言う。それに首をかしげる園子に、10年後の園子は説明しだした。

『わたしが今日ここに来たのはあなたに伝えたいことがあったから。多分もうすぐあなたの人生にとって重大なターニングポイントが訪れるんよー』

「ターニングポイント?」

『そう。わたしが一生結婚できるかできないかどうかの、重大な、ね』

 言った後どんよりとしたオーラが10年後の乃木園子からあふれ出す。その様子に園子は困惑しかない。

「え? 結婚? どういうこと?」

『そのっち、よく聞いて。近いうちににわみんがいつものように壁の外へ行って身体のアップデートをしてくる。その翌日が勝負の日だよ』

 自分の肩を掴み、真剣な顔の10年後の乃木園子に戸惑いながらも耳を傾ける。

『その日は朝からにわみんの様子がおかしいからよくわかると思う。で、放課後は絶対ふーみん先輩と一緒に部室で2人きりにしちゃだめだよ!』

「どうしてー?」

『にわみんの身体に今までなかったもの…オチ〇チンが生えちゃってるからだよ!』

 10年後の園子が放った突然の下ネタに園子の顔が真っ赤になる。

 乃木園子14歳。小説でそういう描写は書けても実際に見たり聞いたりするのは苦手なまだ初心な少女であった。

『オチ〇チンが生えたことで2年間抑え込んできた性欲が爆発。部長のふーみん先輩に処理を頼んだにわみんはなし崩しにそのまま』

「え? え? え? にわみんとふーみん先輩が? 部室で? え?」

『顔真っ赤にして混乱しない。散々そういう小説書いたり読んできたでしょーに。というか、にわみんもなんでわたしを頼ってくれなかったのかなぁ。わたしはウェルカム状態で絶対断らなかったのに』

「違っ、わたしそんなえっちじゃないもん!」

 10年後の自称自分に必死に反論する園子。それに『あー、そういうのいいから』と24歳の園子はひらひらと手を振りながら言う。

『それでふーみん先輩とにわみんは付き合い始めたんだけど…問題はふーみん先輩が卒業した後。今思えばこの時無理やりでもにわみんを略奪していれば』

「そんなことしない! だってふーみん先輩は大切な仲間だし、にわみんが幸せならわたしは」

『まあまあ、人の話は最後まで聞いてよそのっち。その上で反論があれば聞くから』

 わかってるわかってると言わんばかりの10年後乃木園子に促され、いつの間にか表れていた座布団とちゃぶ台。その上に置かれていたお茶とお菓子を勧めながら24歳園子は話を続ける。

『高校生になったふーみん先輩とにわみんとのお付き合いは、すれ違いが続いたんよー。高校生の生活サイクルは中学生とは違うからねー。デートの回数も段々減って行って、あれこれいそがしいふーみん先輩をにわみんはそれとなくサポートしてたんよー』

 その言葉に園子はその光景を容易に思い浮かべることができた。確かに丹羽ならそうするだろう。

『でも、それゆえふーみん先輩は気付かなかった。にわみんの我慢に。というか、にわみんに甘えまくってたんだよねー。最終的に他の男と浮気するし』

「え、そうなの!?」

『うん。あ、それについては後で詳しく説明するから。でね、6月ごろ衣替えがあるじゃない。その時に、ね。いつものようにリトルミノさんがわっしーの胸に飛び込んだ時見ちゃったんだよ……成長したわっしーのお山がブルンブルンするのを』

 言った後どこか遠い目をする10年後の乃木園子。

『あれはもう、暴力だったね。鋼の精神を持っていたにわみんが陥落したのを誰も責められないよ。ちなみにその時のわっしーは10年前より成長していたからそのっちが想像している映像よりすごいと思う』

 そんなになのか、と園子は思わず身を乗り出して「くわしく」と10年後の乃木園子に尋ねる。だが重要なのはそこじゃないと座布団の上に座りお茶を一口すすった未来の園子は告げた。

『その日からにわみんにとって地獄の日々が始まった。勇者部の女の子たちは美人ぞろいだしね。そういう目で見ないように必死に我慢してたよー。でも恋人のふーみん先輩は高校の新生活に浮かれてたからねー。にわみんのそんな変化に気づかなかった。我慢に我慢を重ねた結果、にわみんの性欲は爆発した』

 10年後の乃木園子の言葉にごくりと生唾を飲む園子。

『きっかけは放課後。プール清掃の依頼が来た時部室で水着に着替えていたわっしーと遭遇したのが始まりなんよー。今より破壊力抜群なわっしーのメガロポリスの誘惑に勝てるわけもなく、にわみんは…』

「え? おかしくない? なんでわっしーは女子更衣室で着替えなかったの? ……まさか」

 園子の言葉に10年後の乃木園子はうなずく。

『わっしーもにわみんのこと大好きだったからねー。ふーみん先輩から放置気味だったにわみんの状況も知ってた。だから仕掛けたんだろうね』

 なんてことだ。自分の親友が恋人のいる男を食っちゃうような女だったとは。

 しかもその恋人は自分たちの先輩であり敬愛する元勇者部部長だ。なのに何が彼女をそんな凶行に駆り立てたのか。

『今思えば、この時がわたしが介入する最後のチャンスだったんだよねー。新天地調査のために防人の子たちと一緒に出掛けてた時を狙ったわっしーは戦略家なんよー。おのれわっしー!』

「えっと、わたしとわっしーはズッ友なんだけど、なんでそんなに恨んでるの?』

 怨嗟の言葉を告げて周囲からドス黒いオーラを出す10年後の乃木園子に、思わず園子は尋ねる。

『そのっち、憶えておいて。恋愛に女の友情なんて邪魔だよ。それにわっしーはミノさんは誘ったのにわたしを誘ってくれなかったんよー。おかげでこの歳になってもまだ独身』

「え? 24でまだ独身は普通だと思うけど」

『話を最後まで聞いてそう思えるなら言ってみるといいよー。で、わっしーに手を出したにわみんはその肉体に溺れた。そりゃそうだよ。男にとって極上の身体だからねー。で、その後はゆーゆ、ミノさん、にぼっしーと2年生組は次々と陥落していったね』

 10年後の園子の言葉に園子は半信半疑だ。

 いくら性欲が爆発していたとはいえ丹羽がそんな不義理なことをするとは思えない。そんなことをすればみんなが傷つくことは、誰よりも勇者部の皆を大切に想っていた彼が1番わかっていると思ったからだ。

『嘘じゃないよ。なんだかんだ言ってみんなにわみんのこと大好きだったからねー。高校生になった途端にわみんを放置していたふーみん先輩にみんな言葉にはしなかったけど不満を持ってたし。だったら奪っちゃえって』

「そんな、そんなことで勇者部の皆の絆が」

『そのっちはあの時のにわみんを知らないからそんなことが言えるんだよー。見ていてかわいそうになるくらい落ち込んでたからねー。それににわみんは最後まで自分の性欲を勇者部の皆で発散させるのに抵抗してた。それをなし崩し的に誘惑したのはみんなだよ』

 実感を籠った言葉でそう言われては何も言えない。

 今の丹羽からは想像できないが、もし自分がそんな丹羽を見たら力になりたいと思う。

 それが自分の身体をささげて解決することなら、彼の意思に反しても。

『納得したみたいだねー。ちなみにわっしーとにぼっしーはゆーゆの後ろから抱きしめてにわみんのオチ〇チンがゆーゆから生えてるように見える二人羽織プレイが大好きだったよー。基本3Pじゃないとにわみんの性欲発散には体力がもたなかったからねー』

 聞きたくなかった、そんなこと。

 思わず真っ赤になった顔を覆う園子に、『まだまだこんなもんじゃないんだけどなー』と初々しい過去の自分を見て10年後の園子は思う。

『で、残っているいっつんも黙っていない。隣の部屋に住んでいるという強みを生かしてお家で散々浮気えっちしてたみたいだよー。「お姉ちゃんがしてくれないこと、わたしが全部してあげる♥」って』

「いやいや、それは流石に嘘でしょ」

 あの純真な樹がそんなことをするはずがない。だが10年後の園子の顔は真剣だった。

「え、本当に?」

『そのっち。女は変わるんだよ。特に好きな人に関することならね。あとふーみん先輩によるにわみん放置に1番怒ってたのはいっつんだったからね」

 なんてことだ。姉妹で1人の男を奪い合う事態になるなんて。

 事実は小説より奇なりというが、この園子がいる未来は相当アレらしい。しかも何もせず放っておけば自分がその未来を歩むそうだ。

『あと、防人隊の子たちと安芸先生にもにわみん、手を出すよ』

「嘘でしょ⁉」

 ちゃぶ台が揺れ、園子の分のお茶がこぼれる。その反応を予想していたのか、10年後の園子は自分の分の湯飲みはしっかり手に持っていた。

『いや、考えてみてよそのっち。にわみんだよ? あの痒い所に手が届く優しさと気配り。さらに新天地をテラフォーミングする人型さんの身内。四国での約束された将来。顔も悪くない上に優しくて将来性もある優良物件。それに男性免疫がない防人の女の子たちが勝てるわけないよー。あと安芸先生も』

 10年後の園子の言葉に園子は何も言い返せない。

『まあ、それでもにわみんとそういう関係になったのは1番最後だけどね。それまでは水面下でそういう攻防はあったらしいけどメブーの統率により誰も手を出さなかったの。そのメブーがまさかあんなことになるなんて…』

 楠芽吹といえば園子も信頼を置く防人隊の隊長だ。すこし真面目過ぎる性格だが、とても丹羽に身体を許すとは思えない。

『どこからかにぼっしーとにわみんがエッチなことしてるのが彼女の耳に入ってねー。まあ、十中八九にぼっしー本人が言ったか壁の外の調査中そういう現場を目撃したかのどっちかなんだけど』

 ちょっと待て。にぼっしー何やってんの。

 夏凜の行動に思わず園子は額に手を当てる。それを見て10年後の園子は新しい湯飲みにお茶を注いだ。

『で、メブーってにぼっしーに対抗意識あるでしょ。だから当然にわみんに迫って…返り討ちに遭った結果セッ〇スにドハマリしちゃって』

「セッ⁉」

 スれた自分と違い直接的な言葉に顔を真っ赤にする園子に純情だなぁと10年後の園子は羨ましく思う。

『で、壁の外でもゴールドタワーでも暇さえあれば結合して。それが他の防人の子たちにバレちゃってねー。隊長がこの体たらくなら何も言えないし、みんなにわみんを狙ってたから。チュン助やしずしずもにわみんの身体の虜になっちゃったんだよー』

 ちなみにチュン助とは加賀城雀、しずしずとは山伏しずくのことである。

『ただ1人、ゆみきちだけは最後まで「弥勒家再興は自分の手で行いますわ。丹羽君に頼ってそれを行うのは違いますの」って抵抗してたんだけど…お察しください』

 そこは頑張ってよ弥勒さん。ふーみん先輩と一緒の最高学年でしょ?

『あと安芸先生も教師と教え子という禁断の関係に思った以上に盛り上がっちゃって。最初はにわみんと防人のアレコレを監督する立場だったんだけど次第に関係は逆転していったね。なんていうか、恩師があんな顔と声を出す姿を見るのは複雑だったよー』

 まるで見てきたかのように言う10年後の園子だが盗撮してたんだろうか? そんなことするくらいなら混ざればよかったのに。

 いかん、いつの間にか自分も10年後の園子の思考に染まってきている。

 思わず頭を抱える園子に、10年後の園子はまだまだ衝撃的な事実を告げた。

『で、その年のクリスマス。ふーみん先輩の浮気が発覚します。相手は同じ高校の先輩。理由はにわみんに放っておかれて寂しかったんだって。わたし視点からしたらふーみん先輩の方がにわみんを放って遊んでたように見えたんだけどね』

 その言葉に思わず「えぇ…」と困惑の声が園子から漏れる。ふーみん先輩なにしちゃってんのと。

『で、それに怒ったいっつんがにわみんと浮気していたことを暴露。しかも防人隊を含め39股してたことが発覚して修羅場。その後の仲直りックスは燃えたそうだよ。未だに自慢してくるんだ。いっつん』

 疲れたように言う10年後の園子に、園子は同情するしかない。39股といっていたからそこに自分は入っていないことが明白だったからだ。

『で、その後もメブーに手を出したことを知ったにぼっしーが無理心中を図ってにわみんを刺したりとか、散々放っておいたのに今更恋人面するふーみん先輩をわっしーとゆーゆが監禁して目の前でにわみんとの見せつけ3Pをするとかいろいろあったけど』

「ちょっと待って、そのいろいろの部分詳しく!」

 聞き逃すには重大すぎる情報をサラッと言った10年後の園子に思わず訊き返すが、話を続けていく。

『問題はその後。まず今から3年後。わっしーとゆーゆの妊娠が発覚します』

 あまりにも衝撃的な発言に、園子の思考がフリーズする。

『で、その後はメブー、ミノさん、にぼっしー、イッつん、ふーみん先輩、チュン助やしずしず、ゆみきちを含めた防人隊の子全員が妊娠しちゃったんだよねぇ。バーテックスと人間だからそういうのないと思ってたんだけど』

「え? 妊娠? 嘘でしょ?」

 まだ混乱してしどろもどろになりながら話す園子に、『マジだよ』と10年後の園子は言う。

『その結果何が起こったと思う? 人類とバーテックスの子供というある意味神様と人間のハーフに大赦大喜び。人型さんも祝福。新天地に皆行ってしまって四国にはわたし1人。みんな人型さんと新天地にいる女の子たちの手厚い看護を受けながらの出産。大学を卒業するころには5歳児の子供たちがいっぱいおばちゃんおばちゃんってわたしのこと呼ぶの。で、権力だけは私に集中してやれ乃木様だのやれ園子様だの……もう忙しくて目が回る生活が続くのね。で、新しい防人の子たちを選出したりテラフォーミングが終わった本州への移住計画でまた成功して権力が高まる私。その結果権力目当てで群がる男たち。当然にわみん以上に素敵で話の合う男なんていないわけで……』

 どんどん暗くなっていく10年後の園子に、園子は何となくこの園子が自分の元に現れた理由がわかった。

『もうね、疲れちゃった。わたしまだ24なのに小学生くらいの子供たちに「園子おばさん」って呼ばれてるんだよ。みんな幸せそうに新天地で母親やってるのに私だけ独身。しかもフリーで処女。権力だけはあるからやっと取れた休日も半強制のお見合いでつぶれる。もう仕事なんて全部放って新天地に行ってにわみんとわっしーの子供の男の子と光源氏計画するのもいいかなぁって最近思い始めてるよ。アハアハハ』

「しっかりしてわたし! あとそれ割といい考えだと思うよ」

 話を聞いた限り丹羽の子供は6歳。あと7年経てば13歳だ。

 31歳の自分を好きになるかわからないが、今から夢中にさせておくのは悪い考えではないと思う。世の中には20歳くらい年の離れた夫婦もいるし。

『そうかな。わたし、まだチャンスあるかな?』

「うんうん。がんばって! わたし応援してる!」

『ありがとう、14歳のわたし……って、そうじゃない!』

 危うくこのまま帰ってもいいかなーと思っていた10年後の園子は、目的を思い出して10年前の自分に告げる。

『いい、そのっち! わたしみたいになりたくなかったら放課後絶対ふーみん先輩とにわみんを2人きりにしちゃダメ! むしろ自分とにわみんが2人きりになるくらいの気持ちでいて!』

「そ、そんなこと言われても」

『わたしは精霊の枕返しとあーやや大赦の巫女たちの力を借りて夢としてこの事実をあなたに伝えた。わたしはもう手遅れだけどあなたには幸せになってほしいの、そのっち!』

 ちなみにあーやとはゴールドタワーにいる巫女の国土亜耶のことだ。

 言葉と共に暗かった空間が明るくなっていく。いつの間にかちゃぶ台や湯飲みも消えていた。

『ああ、朝が来る。憶えておいてそのっち! 絶対にふーみん先輩とにわみんを』

 最後の言葉を聞くことなく世界は真っ白となり、乃木園子の意識は覚醒したのだった。

 

 

 

「おはよーミノさん」

「おう、どうした園子。今日は早起きさんだなー?」

 いつもはニワトリの寝巻のままサンチョという猫みたいな枕を持って食卓に寝ぼけ眼で来る園子が珍しく制服を着てしゃんとしている。

 今日は雨でも降るのかと思いながら席に着き、銀は乃木家のお手伝いさんが持って来た朝食を園子と2人で食べる。

「うん、今日は面白い夢を見てねー。小説に書くのに夢中だったんよー」

「へー。あたしも変な夢見た。夢の中に未来のあたしが出てくるんだ」

 銀の言葉に、ぽとりと園子は右手に持っていた箸を落とした。

「へ?」

「なんかあたし以外が丹羽と結婚して子供ができて、あたしが行き遅れるっていう話だったんだけど妙にリアリティーあってさ。そんなことあるはずないのに」

「ミノさんも見たの⁉ どんな内容だった! わたしちゃんとにわみんと結婚してた⁉」

 急に真剣な顔になって自分を問いただす園子に目を白黒させながら、銀は夢の内容を思い出す。

「え、園子か? 園子は……そういえばあたしと一緒に大赦で働いてたなぁ。独身仲間だって言ってたような…。でも、たかが夢の話をそんなに気にする必要は」

「あ、もしもしわっしー? 今朝変な夢見た? うん。うん。そのことについて話があるんだー。そう。まずは学校に着いたらゆーゆとにぼっしーを交えて話し合おうか」

 銀の答えを聞いた園子はすぐさまスマホを起動し、東郷に連絡を取っていた。

 

 

 

 昼休み。勇者部。

 そこに丹羽の姿はなくいるのは女子7名だけである。

 丹羽には今日女子だけの緊急会議があると言って外してもらった。

 女の子だけの秘密の会議と聞いて百合イチャ好きの丹羽は目を輝かせる。だが「覗いたり盗聴したら嫌いになるよ」という友奈のガチトーンの言葉に本能的な危機を感じたのか、快く参加を辞退してくれた。

「さて、それじゃあアタシに対するこの扱いの理由を聞かせてもらおうじゃないの」

 昼休みになるや否や東郷と友奈に簀巻きにされて勇者部部室に連れ込まれた風は、他の6人を見ながら言う。

「理由は今朝見た夢です。風先輩は見なかったんですか?」

 若干目が据わっている友奈の言葉に風は思わず身を引く。見ると他にも風を威圧的な目で見るメンバーがちらほらいる。

「え? ああ。なんかアタシ以外の勇者部の皆が丹羽と新天地で暮らす夢を見たけど、でもたかが夢だし」

「その風先輩は、結婚してましたか? 丹羽君と結ばれて子供はいましたか?」

 尋問するような東郷の言葉に目を逸らしながら言いにくそうに風は告げた。

「いません。というか、独身よ。それを回避する方法を未来のアタシを名乗る女になんか言われたけど、もう憶えてないわ」

 その言葉に6人は互いに目配せし、うなずいた後風の拘束を解いた。

「ふーみん先輩。よく聞いてね。私たちも同じような夢を見たんよー。で、詳しい内容はね」

 園子は今朝見た夢の内容を事細かに風を含め勇者部全員に話していった。

 すると見る見る皆の顔が赤くなり、特に風は見ている方がかわいそうになるくらい動揺していた。

「え、嘘⁉ アタシと丹羽が⁉ ないない!」

「そう? 未来のあたしの言ってる内容とほぼ一緒だったわよ。違うのはあたしがそういうことに混ざらなかったことね。未来のあたしが言うには『あれが一生で一度の最後のチャンスだった』みたいだけど」

 園子の話を聞き終えた夏凜がそう答えると、他の面々も自分たちが見た夢との差異を発表していく。

「わたしは最初風先輩が丹羽君に手を出されたのは一緒だけどその後別れて恋人になったのは東郷さんだったよ。で、私だけ仲間外れでいつの間にか風先輩も元鞘状態に」

「私の場合は風先輩の役割をそのっちがしていたわ。浮気はなかったけど、1人だけだと体力がもたないって勇者部のみんなと防人隊の子たちも巻き込んで…『本当は混じりたかったのに、そんな関係ふしだらだわ』って10年後の私が突っぱねてたらいつの間にか1人だけ独身になってたそうよ。『丹羽君を手に入れるためならくだらない自尊心は捨てなさい』って言われたわ」

 友奈の世界は東郷が丹羽の恋人だったようでなぜ自分だけそういうことにならなかったのか不思議そうにしていた。おそらく友奈ちゃん大好きな東郷が絶対に手を出すなと丹羽に念押ししたんだろうなぁと友奈以外の面々は思う。

 逆に東郷の10年後は根本から条件が違うらしい。風ではなく園子が最初に性の手ほどきをし、そのまま囲い込んで勇者部の皆と防人隊32名で丹羽をシェアしていたようだ。

 東郷が独身だった理由は高潔な精神と自尊心の問題だったらしい。それが倫理的には普通なのだが、10年後の東郷は後悔しているようだった。

「わたしも東郷先輩と同じですね。ただ、わたしの場合はお姉ちゃんからまだ早いって言われて、いつの間にか除け者にされてた感じです。『あの時無理やりでも混ざっていれば』って後悔してました」

「あたしは園子が見た夢とほぼ同じだな。で、園子と一緒に四国の大赦で働いて独身。休日も見合いでつぶれるのも同じ。最近じゃ園子が弟2人を狙ってるんじゃないかって戦々恐々としているらしい」

 恨みがましく風を見つめる樹とあっけらかんと言う銀。

 それに対して風は「え、アタシが悪いの⁉」と混乱し、「そんなことしないよぉ~」と園子は自分の無罪を訴えていた。

「アタシの場合はほぼ東郷の言ったのと同じね。10年後のアタシに『絶対乃木より早く丹羽のことを捕まえなさい』って念押しされたけどそのことだったのね」

「でもふーみん先輩浮気するんじゃない。で、にわみんを傷つけてさぁ……少なくともわたしがにわみんを最初に捕まえた場合、浮気とかは一切ないみたいだよ」

 まだやってもいないことで責められてはたまったものではない。

「そんな未来、あり得るはずがないでしょ! アタシが丹羽以外の男と浮気するなんて!」

「ええ~本当に~」

「いやいや園子。お前も大概だからな。なに親友と恋人をシェアしようとしてんだよ。普通は倫理的にアウトだぞ」

「そうよそのっち。そんなの不健全だわ」

 親友2人に言われては園子も黙るしかない。風を煽るのをやめ、すいませんと謝り小さくなる。

「あんたらさぁ…今思ったんだけど誰も丹羽とそういうことになることを必死に否定したりしないのね」

 そんな中、勇者部のツッコミエースが核心を突いた。

「な、ななな、なに言ってんのよ夏凜! アタシは勇者部部長として、部員が困ってたら手を差し伸ばすのは当然で」

「手を差し伸ばすというか、手で竿を〇くというか」

「そのっち、下品よ」

「わたしもクラスメイトが困ってたら、その。処理するのもやぶさかではないというか」

「あれ? 樹ちゃん丹羽くんとカップル扱いされて困ってるって言ってなかったっけ?」

 友奈の指摘に樹が顔を真っ赤にする。

「あたしは、まあ丹羽は命の恩人だし、目を覚ましてすぐ動けたのもあいつのマッサージのおかげだしな。恩を返すという意味で少しくらいは」

「そ、そうよ。私も足が治ったのは丹羽君のおかげだし。彼の性欲処理はただの恩返しで、やましい気持ちなんて何も」

「えー、2人ともそうなの? わたしはちゃんとにわみん大好きだよ! それに嫌々義務感でされてもにわみんは気を使うと思うし、ここはわたしが」

 丹羽への恩返しを理由にしようとする銀と東郷に園子が明るく言う。

「そうすると東郷が言った倫理的にアウトな状態になるでしょう。でも、聞いた限りじゃ風に任せるのはなしね」

 全員の話を注意深く聞いていた夏凛が意見をまとめ始める。それに全員が耳を傾けていた。

「じゃあ、ここはこの完成型勇者であるあたしが代表して丹羽とお付き合いして健全な恋人関係を築くのが1番みたいね。倫理的にセーフで、四国でも壁の外でもどこでも一緒にいられるし。それにマンション暮らしだから一晩中でも」

「「「「「「待った」」」」」」」

 鳶が油揚げをかっさらうようにおいしいとこだけ取っていこうとする夏凛の肩をがっちりと6本の腕がつかむ。

「それは違うんじゃないかなぁ、夏凜ちゃん」

「その理屈なら、別にわたしでもいいんじゃないかなぁにぼっしー。倫理云々はわたし1人がにわみんと付き合えばいいんだし」

 友奈と園子が笑顔ではあるがプレッシャーをかけて言う。

「かーりーん。なに1人でいい格好しようとしてんのよ。そういうのは勇者部部長の役目でしょ」

「そういうのはクラスメイトのわたしのほうがふさわしいと思いますよ、夏凜さん」

 犬吠埼姉妹も同じく圧をかけて夏凛の肩を強く握る。

「そういうのはよくないと思うわよ夏凛ちゃん。ここは私が恩返しのために犠牲になるから」

「そうだぜ夏凜。恩を受けたら返す。大事だよなー。あたし、丹羽には返しきれない恩があるからさぁ。この中では優先順位1番高いだろ?」

 東郷と銀も恩返しという名目を盾に言外に自分こそが健全な恋人にふさわしいと言ってきた。

「じゃあ、この中で丹羽のこと本当に好きな奴。手、上げなさいよ。あ、ちなみにあたしは好きよ。最近気づいたけど」

 夏凛のまさかの発言に風と友奈、樹は驚く。

「え、か、夏凜ちゃん?」

「アンタ、なんかキャラ違くない?」

「どうしたんですか? まさかサプリと間違えて危ないお薬を…」

「飲むか! くやしいけど、気づいたのよ。あいつのこと好きだって。百合イチャ好きの変態だけど、あたしのことをちゃんと見て受け入れて、立ち直らせてくれた相手だから」

 そう言って顔を真っ赤にする夏凛は誰がどう見ても乙女だ。

 急なキャラ変に戸惑う3人に、東郷が手を上げて言う。

「私も丹羽君が好き。車椅子のかわいそうな先輩じゃなくて、東郷美森としてちゃんと1人の女の子として見てくれた最初の男の子だもの。それに友奈ちゃんへの気持ちも否定せず肯定してくれた。命も助けてくれたし、彼が困っているならこの命をささげてもいいとも思ってる」

 東郷の告白に続き、「はいはーい」と手を上げるのは園子である。

「わたしもにわみんが大好き! いつも一緒にいて楽しい気持ちにしてくれる。この気持ちを「好き」とか「愛してる」って言うと思うんだー。だから、わたしだけが感じるんじゃなくてにわみんも同じように楽しくてワクワクしてくれたら嬉しいな」

 2人の告白を聞いて遠慮がちに手を上げたのは銀だ。

「その、好きとか愛してるとかよくわかんないけど…あいつといると楽しいんだよ。でも、他の女の子と楽しそうに話してるのは嫌だ。胸が締め付けられるくらいきゅーってなる。だから、あたしだけを見てほしい。あたしのことだけ考えてほしい…変かな?」

 自分の気持ちをうまく言葉にできないもどかしさから問いかける銀の言葉にそんなことないと東郷と園子が両側から抱きしめる。

「わたしも…わたしも丹羽くんのことが好きです!」

「樹⁉」

 突如手を上げた妹に風が戸惑いの声を上げる。

「本当は、いつもわたしのこと守ってくれるのが嬉しかった。でも、素直になれなくて…だって丹羽くん、わたしじゃなくてわたしと一緒にいるお姉ちゃんやみんなを見てたから。ちゃんとわたしを見てほしい! 誰かとわたしじゃなくて、犬吠埼樹としてわたしは丹羽くんの隣にいたい!」

 成長して物怖じせず自分の意見を言えた妹の成長が嬉しくて思わず風の目から涙がこぼれ落ちる。

 だがここで泣いて樹を抱きしめるのは正解ではない。風も手を上げ宣言した。

「アタシも丹羽が好き。というか、あいつがいない日常がもう考えられない。なんていうか、もうそこにいて当たり前なのよね。だから、アタシから丹羽を取り上げる奴は許さない。たとえ部活の仲間であっても…妹でもね」

 自分を見上げる樹にウィンクをする風。実質上の姉妹間でのライバル宣言に、おお~と園子、銀、東郷の3人は歓声を上げた。

「私も、丹羽君が…ううん。明吾君が好き。愛とか恋とか難しいことはわからないけど、他の誰にも渡したくない。その気持ちは皆にも負けないよ!」

 最後に友奈が手を上げ宣言した。その言葉に夏凜はうなずく。

「じゃあ、その運命の日が来るまでじっくりと7人で話し合いましょうか。で、みんなが納得する1番いい方法…落としどころを決めましょう」

 

 

 

 数日後。その日丹羽は朝から落ち着きがなかった。

 その様子を朝食の席で敏感に感じ取った犬吠埼姉妹は学校に行く前全員にラインで連絡する。

 そして放課後。部室である家庭科準備室に入ってくるや否や7人の勇者部女性陣たちが丹羽を取り押さえた。

「ちょ、何するんですか皆さん! 俺なにかしましたか?」

「してないわよ。今はまだ」

「どっちかというとこれからにわみんがわたしたちにナニかするんだけどねー」

「そのっち、無駄口叩かないで押さえて! 友奈ちゃん、ズボンを!」

「ちょっと待って、ベルトが固くてなかなか」

「友奈、この小刀使いなさい。もう切っちゃいましょう」

「うわぁ、なんかすげぇやべぇことしてるみたいでドキドキする」

「今更ですよ銀さん。じゃあ、丹羽くん。脱ぎ脱ぎしましょうねー」

 上から丹羽、風、園子、東郷、友奈、夏凜、銀、樹の言葉である。

 某有名淫夢動画みたいに自分を7人がかりで押さえる勇者部メンバー。しかもズボンとその下のパンツも脱がせようとしていた。

 まさに7人に勝てるわけないだろ! という状況だ。これに「馬鹿野郎お前俺は勝つぞお前!!(天下無双)」と返せる余裕が今の丹羽にはない。

「ちょ、やめっ、本当に⁉ アーッ!」

 数の暴力に勝てず丹羽の下半身があらわになる。

 ごくり、と生唾を飲んでそこを見た7人の目が点となった。

「え? …生えてない?」

「生えてませんよ! 無性なんですから!」

「あれぇ? でもにわみん朝からそわそわしてたんでしょ? ふーみん先輩」

「ええ。樹も見てたわよね?」

「うん。お姉ちゃん」

 下半身にあるべきものがないことに戸惑う友奈に、丹羽が反論する。それに犬吠埼姉妹に疑いの目を向ける園子。

「説明してもらいましょうか。皆さん」

 突如自分の下半身を無理やり脱がせた7人を丹羽が笑顔ではあるがにらみつけていた。

 あ、これ本気で怒ってるやつだ。

 拘束を解きパンツとズボンを履いた丹羽に全員正座して事のあらましを話した。

「……なるほど。つまり下半身にジョイスティックが生えた俺の性欲が爆発する前に勇者部の皆で搾り取って、冷静にさせてから俺に誰かを選ばせようと。そういう結論になって俺を襲ったと。なるほどなるほど。大体わかりました」

 正座する自分を見渡して、呆れたように言う。

「いや、ありえんでしょう。百合好きの俺がそんな楽園を自ら壊すようなことするはずないじゃないですか」

 その言葉に「ですよねー」と7人は思う。よくよく考えればそうだった。

「どこの誰ですか。そんなガセネタ持って来たのは」

「えっとぉ…未来のアタシたち、かな?」

 風の言葉に訳が分からないといった様子の丹羽。そりゃそうだろうなと全員が思う。

 あれ? だとしたらなんで未来の自分たちはあんなに必死に精霊や巫女の力を借りてまで自分たちに語り掛けてきたんだろう?

 首をかしげる友奈たちだったが「まあ、それはそれとして」と園子は丹羽の手をがっちりと掴む。

「まあ、きっかけはそれだったんだけどみんなにわみんが大好きだってこと発覚しちゃってさー。こうなったら早い者勝ちだよねー。にわみん、これからデートしようぜー」

「ちょ、乃木⁉ 話が違う」

 みんなで決めた取り決めを無視してさっそく仕掛けてきた園子に風が抗議の声を上げる。

「未来のわたしに教えてもらったからー。チャンスは有限なんだって。だからわたしはそれを最大限に生かすんよー」

「それなら私だって! もう倫理観や自尊心なんて関係ない、丹羽君は誰にも渡さないわ!」

「須美⁉」

 園子に引き続き東郷も丹羽の手を掴んで引っ張り大岡捌きのような状況になっていた。

「東郷さんもそのちゃんもずるい! 私だって」

「友奈さん⁉ わ、わたしだってー」

「あー、もう! みんなで必死に話し合って落としどころを考えたのに無茶苦茶よ」

 丹羽を囲んでしっちゃかめっちゃかになっている勇者部メンバーを見て夏凛はため息をつく。

 こうならないようにうまく立ち回っていたつもりだったのに。

「ところで丹羽は朝からなんでそわそわしてたのよ。股間にその…アレが生えてるんじゃなかったらどうして」

 顔を赤くした風の言葉にそういえばと勇者部の面々は抑え込んでいる丹羽を見る。

 その視線を受け、気まずそうに丹羽は言った。

「えっと、もうすぐ三ノ輪先輩の誕生日じゃないですか。だから2年分できなかったお祝いをするために防人のみんなや安芸先生、大赦の人たちにも協力してもらってて。それで頼んでいたものが今日できるそうなので今日は早めに勇者部の活動を切り上げて見に行きたいなぁと」

 その言葉に勇者部の面々から笑顔が漏れる。

 ああ、やっぱり丹羽は丹羽だなと。勇者部の皆の幸せを第一に考え、行動するどうしようもないお人よし。

 その愛情を独り占め仕様だなんて馬鹿みたいだ。

「水臭いわね丹羽。部長のアタシにだまってそんなサプライズを考えてたなんて」

「そうだよにわみん。少なくともわたしとわっしーには計画を教えてくれてもよかったんじゃないかなー」

「いや、でも皆さんお忙しそうでしたし」 

 丹羽の言葉にそういえば最近は話し合いのために丹羽を勇者部に入れず議論していたなぁと全員が思い至る。

「つまり、今回の勘違いは全部あたしたちの早とちりってことね」

「陳謝!」

「ああ、東郷さんがハラキリ芸を!」

「早まるな須美!」

「落ち着いてください東郷先輩!」

 途端に騒がしくなる勇者部を見てもう少しこのまま騒がしくて楽しいのもいいかなと園子は思う。

 少なくとも丹羽を独り占めするための計画を発動するのは銀の誕生日の後でもいいだろう。

 その時は容赦しない。乃木家の権力でも何でも使って自分のものにして見せる。

 他の皆もそう思ってるんだろうなぁ…と見透かしながら、園子は丹羽の手を取った。

「じゃあ、にわみんが防人の皆に頼んだっていうものを見にゴールドタワーへ行こうよ。あ、大赦でもいいよ。どっちがいい」

「ちょっと園子! 東郷、あんたがそんなことやってる間に園子が丹羽を連れて行っちゃったわよ」

「おのれそのっちー!」

「あ、私も行くー! そのちゃん待ってー」

「えっと、これあたしも行っていいのかな?」

「いいんじゃないですか? もうバレちゃいましたし。ね、お姉ちゃん」

「そうね。みんなで行きましょう」

 わいわい騒ぎながらも今日も勇者部の皆は元気で平和だった。

 ちなみにその後、丹羽が頼んだのが大赦には会場。防人隊にはお祝いの飾りつけなどで、セッカにウエディングドレスと白無垢を用意してもらいゆゆゆい1年目の三ノ輪銀誕生日イベント「友の夢を」を再現しようとしていたことが発覚。新郎役を丹羽がやると勘違いした勇者部メンバーとひと悶着あったのだが…それはまた別の話。

 

 

 

【おまけ】ハーレムルートのその裏で

 

 壁の外でのバージョンアップにより股間にジョイスティックが生えた丹羽は困惑していた。

 もう1人の自分は何を考えてこんなことをしたのか。

 朝犬吠埼姉妹と一緒に食卓を囲んだだけでもうギンギンになっている。その後もこの聞かん棒は言うことを聞きやしない。

 くそ、こんなことならもぎってしまいたい。性欲がなかった昨日までの自分に戻りたい。

 このままでは性欲の赴くまま誰かを襲ってしまいそうだ。性的衝動を抑えながら丹羽は何とか放課後を迎えた。

 部室には顔だけ出して早退しよう。そう思い家庭科準備室へ向かった丹羽を迎えたのは、意外な人物だった。

「国土亜耶さん? どうしてここに」

 そこにはゴールドタワーにいるはずの巫女、国土亜耶が制服を着て椅子に腰を掛けている。

 丹羽の声に気づくと真剣な面持ちで近づいてきて、開口一番こう言った。

「丹羽明吾さん。四国と新天地…人類の将来のためにわたしと子作りをしてください!」

「ファッ⁉」

 どこまでも真剣な顔の彼女の顔は真っ赤だった。

 

 

 

 園子たちの夢に現れた10年後の勇者たちが話した内容は嘘ではない。

 嘘ではないが、その未来に至らない次元の10年前の自分たちに告げた言葉だったのだ。

 そう、勇者部の7人がそれぞれ独身を貫くルートには共通して似たような境遇の人物がいる。

 それはゴールドタワーの巫女であった国土亜耶。彼女も防人隊が丹羽に全員手を出された中、唯一無事だった…というか手を出されなかった存在だった。

 10年後の乃木園子と同じく大赦での地位を確固のものとしたのはいいものの言い寄る男は権力目当て。休日も見合いでつぶれる。

 さらに新天地にいる仲間であった防人の子供たちからは「亜耶おばさん」と呼ばれ、行き遅れを自覚する日々。

 そこで亜耶は一計を案じた。自分が行き遅れにならないための方法を。

 10年前の自分に、まだ純真で神樹様の言葉と大赦の教義に従うのが当然と思っていた自分にこう吹き込むことにした。

『近い将来、四国に未曾有の危機が訪れる。

 それを救えるのは自分と丹羽の子供のみ。バーテックスと巫女の血を引く救世主がすべてを救うのだ』と。

 会った時間はわずかだが、神樹様の怒りから自分を救い治療してくれたことに悪い感情は抱いていないはずだ。それに丹羽はその後もちょくちょくゴールドタワーを訪れては何くれとなく自分を含め防人の皆に優しくしてくれている。

 最初は戸惑うかもしれないが、やがて本当に好き同志になるだろう。自分のことなので亜耶には確信があった。

 だって今まで会った男性の中で丹羽以上に自分に優しくしてくれる男性はいなかったからだ。

 女性の芽吹や防人のみんなを除けば彼だけが唯一自分が心を許せる相手だった。今思えば初恋だったかもしれない。

 だがその時の自分はまだ未熟で、その感情の正体もわからなかった。その結果ただ仲良くなっていくみんなから一歩引いて見ていることしかできなかったのだ。

 だが、今は違う。これからは違うと7つの次元の10年後の国土亜耶たちは心を1つにして10年前の自分に語り掛ける。

 自分は手遅れだが、せめてあなただけは幸せな道をたどってと。

 自分の元に相談に来た勇者には悪い事をした。本来彼女たちにつなぐはずだった丹羽の下半身にナニが生えた次元と1つずれた次元の自分の夢につないだことに。

 だが恋は戦争。10年の間に亜耶はそのことを身に染みてわかっていた。

 騙される方が悪いのだ。最後に勝つのはこの国土亜耶、ただ1人でいい。

『ごめんなさい、芽吹先輩。加賀城先輩。弥勒先輩。しずく先輩。防人の皆。わたしが幸せになった後、必ず先輩たちも幸せになると思いますから』

 そう。新天地で今母親になっている防人たちに聞いたが丹羽の性欲と体力は底なしだ。きっと過去の自分は芽吹や防人の皆を頼ることだろう。

 そうすれば別次元の自分と防人隊の皆はずっと一緒で幸せでいられる。

 同一人物とはいえ同じことを別の次元の7人の国土亜耶が同時に計画したのは奇跡と呼ばれるほどの確率であった。

 その結果、国土亜耶の隣には丹羽明吾がいる世界が生まれる。

 防人隊たちのアイドルと付き合った彼には並々ならぬ苦労が待ち受ける未来が待っていたりするのだが――それはまた別の話。

 

 

 ハーレムルート

 改め

 国土亜耶ルート これにて完。




 ハーレムルート(全員と結ばれるとは言っていない)これにて完。
 これで書きたいものは一通り書いたので今度こそ終わりです。
 以下、よくわかるヘテロルートとその後。

【風ルート】毎日が叡智叡智ライフな日々。風が高校に行ってもそれは変わらずラブラブっぷりに樹ちゃんは自主的に週末夏凛のマンションに通い過ごしている。
【東郷ルート】中学を卒業と同時に婚約。囲い込みは万全で壁の外にも定期的に西暦時代の調査のために訪れる。肉体と精神的拘束が強めかと思いきや意外にも後ろに一歩引き丹羽を立てる大和なでしこ然とした彼女っぷりで良好な関係を築き付き合っている。
【樹ルート】時にはケンカをしたりしながらも健全なお付き合い。5年後には丹羽プロデュースでアイドルとしてデビュー。歌声が新天地で生きる人々の希望となる。
【友奈ルート】愛が重い。少しでも新カプ発掘のために他の女性に丹羽が目移りすると曇る。しかし丹羽自身が友奈の愛を重いと思わず普通に肉体的拘束を受け入れているためラブラブ。曇らないようにメンタルケアも欠かさず行っている。
【夏凜ルート】バカップル。あまりの夏凜の変わりように芽吹は現実を直視できなかったらしくしばらく寝込んだらしい。四国の外の調査や再生計画を防人たちと共に手伝い、後に園子の右腕的存在となる。
【園子・銀ルート】同志。数ある園子ルートの1つ。親友と想い人を両方手に入れた無敵ルート。大赦での権力を強めながら休む時は休み丹羽と銀と共に公私ともに充実したイチャラブ生活を続けている。後に教科書に本州を解放した偉人として載ったりする。
【ハーレムルート】全員丹羽に好意を抱いたと発覚したので度々修羅場が起こるが基本的に平和なルート。後に人型に頼み丹羽にジョイスティックを生やすかどうかは、俺が決めることにするよ。
【亜耶ルート】初めて同士でぎくしゃくしていた2人だったが双方同い年(設定)ということもあり早々に距離も近まりいい関係となる。丹羽君は浮気したくても防人の皆が怖くてできません。するつもりもないですが。10年後の亜耶の目論見通りとはいかず一途に亜耶を想い続け後に婚姻し子供を設ける模様。安芸先生ェ…。

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