fate/little bitch ~煉鉄の小悪魔~ 作:七草探偵事務所
“私”の仕事内容が、三種類に大別されることは前述した。既に、州境を越えて漏出する敵戦力の迎撃任務及び、敵地潜入からの敵戦力の間引きには幾度か従事した。
アーチャークラスの“私”は、戦闘において
「ここいらだな」
先導していた男が立ち止まる。背から蠅の翅を生やした、どこか小汚くも洒脱な男──オベロンは小高い丘を仰ぎ見ると、“私”を見、顎をしゃくった。
“私”に見てこい、ということだ“私”は背後のベオウルフを振り返った。
「見てこい。前に見たことあるだろうがな」
ベオウルフの了承を得、改めて、“私”はオベロンの顔を一瞥する。丸い鼻の朴訥とした顔立を、年がら年中不機嫌そうに顰めている男……それが、“私”のこの男への印象だった。何がそんなに気に入らないのだろう、と思いつつも、だからとて聞くに聞けない“私”である。基本的に諜報活動がメインのオベロンとは、ほとんど喋ったことがない。ベスと仲が良い、というのは、時々聞く──。
「なんだ?」
「いえ。では参ります」
相変わらず不機嫌そうなオベロンの目がこちらを向くや否や、“私”は駆け出していた。彼の目は、何か恐ろしく感じる。深淵の底、昏く淀む奈落を思わせる黒い目。誰かに似ているような気がする、泥濘のような目から、“私”は逃れるようにした。彼の目は、全てを見透かすような気がするのだ。
“私”は丘を駆けのぼっていく。相変わらず記憶喪失だが、身体の動かし方は、大分板についてきた、と思う。
今まで体に染みついた手続き記憶だけで身体が動いていたが、その記憶そのものをちゃんと自分で把握できている感覚。この丘を駆けのぼるのに、どれくらいの力が必要なのか。思い描いた時間でそれを行うには、どのくらいの配分をすればいいのか。真名がわからないサーヴァントなどまだまだ半人前と言わざるを得ないのだろうけれど、これまで何度かの戦闘を経て、力がついてきたという感覚は生まれてきた。いや、戻ってきた、と言うべきか。
丘の稜線まで近づいたところで、“私”は一度立ち止まった。いきなり顔を出しては、場合によってはそのまま頭を吹っ飛ばされかねない。サーヴァントであるならある程度の四肢欠損等の損傷は問題なく『修復』できるが、霊核が位置する頭部と心臓へのダメージは、即ち致命傷だ。
身を屈めた“私”は、恐る恐る、と顔を出して、いよいよ顔を顰めた。
広い平原のただ中、それらはぽつねんと見えたに過ぎなかった。だというのに、じとりと迫りくる圧は、同盟が保有する戦力……例えば幻想種や機械化装甲歩兵の比ではなかった。黒々とした影の群れ。サーヴァントの残留霊基が英霊の座に償還されず、それ自体が意思を持つに至ったもの。それがシャドウ・サーヴァント、であるという。曰く、サウスカロライナ州に空いた穴……パールヴァティーが救国の七騎を始めとした数多のサーヴァントを強制召喚した際に生じた召喚痕が重力変動を起こし、孔と化したもの。そこから湧き出てくるものが、あの厄人、と呼称されるシャドウ・サーヴァントたちだ。
魔術的に見れば、シャドウ・サーヴァントは極めて稀な事例でそう見られるものではない上に、とても価値のある現象でもあるという。サーヴァントよりも劣る能力に加え、魔術的に“剥き出し”になった霊基からは読み取れる情報も多い。英霊の座や境界記録帯といった概念で説明される世界機構はまだまだ不明な点も多く、シャドウ・サーヴァントが仮に現代に現れたらお祭り騒ぎだろう……とかなんとか、司馬懿とリツカが言っていたのを思い出す。最も、まさしくサーヴァントの自分にはぴんとこない話ではあった。
それに、今必要なのは、敵としての厄人への知見だ。“私”はその群れから発せられるいいようもない不快感を覚えながら、じい、とその姿を観察した。
黒い影に包まれたような外観がゆらゆらと緩慢に動く様は、亡霊そのものだ。成り立ちを考えれば、そうおかしな表現ではあるまい。その亡霊は酷く緩慢なようでいて、人間のそれよりは遥かに早い歩みだ。
数、10騎。槍や剣といった近接戦闘用武装を持った個体は4騎。その後方からついてくる個体が6騎、という編成だ。
厄介だな、と思った。
後方支援に長ずる個体が多ければ多いほど、初手でのアーチャークラスのサーヴァントによる敵の漸減、および効果的な制圧が難しくなる。
いかに敵の支援攻撃を行うサーヴァントを素早く制圧できるか。そうして、敵の白兵戦部隊を安全に処理するか。これが、本時戦闘の肝になりそうだ。
(理解した。一旦戻ってこい)
ベオウルフの声を聴覚野に響かせながら、”私“は一旦丘を降りた。敵の移動方向から、ナッシュビルへ向かっていることは自明だが、移動速度から考えれば猶予はある。作戦を練る時間は十分にある。
「それで、どうする
“私”が下るなり、オベロンは気だるげに腕組みしながら言った。ここで言う隊長とは、この3人の行動を指揮するベオウルフを指している。バーサーカーでありながら、ベオウルフの狂化値はE-と極めて低い。“ベオウルフ”の名を縁故として授かっただけのクラスであり、【狂化】のスキルは便宜上与えられたスキルに過ぎないということだ。むしろその本性はむしろ極めて理知的と言って良く、「事実上のセイバーだろ」というオベロンの訴えもちょっとわかる。
「助けを呼ぶか? さすがに10騎はちょっと多い。俺たちは3人で、しかもうち1人はお飾りときた」
朗々と語るように言うオベロン。お飾りとは、オベロン自身を指していた。キャスタークラスは元より直接戦闘を得手としないクラスだろうけれど、オベロンは輪をかけて戦闘に不得手だった。多分、敵の機械化装甲歩兵と戦ったら即敗北する程度、らしい。
「偉そうに言うなよ」
「俺は妖精の王だぞ。偉いが?」
「そうかいよかったな」べオウルフはなおのこと喋ろうとするオベロンをさっさと黙らせると、「俺たちだけで処理する」
「自信がおありだな」
「正当な戦力評価だ。俺とアーチャーの2人でも十分にやれる。仲達殿と大将の判断に上申した通りさ。あとは、敵をどう倒すか、という手順さえちゃんとすればな」
ベオウルフは言った。淡々とした口調だ。
“私”はびっくりした。これまでの“私”の戦いぶりを振り返れば、むしろ“私”は心もとないサーヴァントではないか。まして真名すら忘却しているざまである。そんなサーヴァントをあてにしていることが、“私”にはうまく理解できていなかった。
「確かにな」オベロンは言いながら、“私”を一瞥した。「どこぞの大英雄様か知らんけど、基本スペックだけなら最上位の戦闘能力を持ったサーヴァントなのは違いない」
まさか、という目をベオウルフに向けたが、彼は泰然と見返してくるだけだった。オベロンの言質が真実である、と雄弁に語っている。
「過大評価ではございませんか」
「そうかもしれないな」
おっかなびっくり言うや、ベオウルフはあっさりと返答した。
「過大評価だと思うなら、妥当な評価だと思うくらいに活躍すればいいだけのことさ。気にすんな」
「そんな身勝手な」
「いい機会じゃねえか。世間はわざわざお前の成長を待っちゃくれねえよ。それとも、全部の記憶を思い出して、大英雄様の力を取り戻してから戦争やるってか? 随分お気楽な話だな」
“私”は口を噤んだ。ベオウルフの発言は、酷く理不尽なもののように思われた。だが、黙った理由は理不尽さ故ではなかった──手慰みのように顎に手を当てて眉を寄せるベオウルフの朱色の目は、理知さえ感じさせるほどの澄んでいた。
ベオウルフの言葉のもつ理不尽さは、真実がもつ理不尽さなのだ。
「で、その手順とやらはどうする」
「アーチャーが言った通りだ。後ろを始末しないことには始まらねえ。如何に迅速に背後を潰せるか、が鍵になる」
これを見ろ、と言うなり、“私”の視界に地図が浮かんだ。現在地を起点にして、周囲5mi範囲で作成されたマップには、中心に青いブリップが3つ集まっている。赤いブリップが存在しないのは、カルデアからレイシフトしてきたマスターないしサーヴァントとカルデアの設備……確かカルデアスだったか……の戦術データリンクが発揮できないが故に、リアルタイムでの広域情報共有ができないためだ。とは言え、こうしてローカルでの情報共有システムは既に構築済みで、狭い範囲ながらも情報共有自体は行えている。
「敵の配置はこうだったな」
オベロンが言うなり、今まで空白だったマップに赤いブリップが点灯する。数10。2つの集団に分かれる形で分布する赤い点は、丘の先に展開する厄人を示している。
オベロンに続いて、ベオウルフが言う。
「戦闘集団は傘型の陣形をとっている。先頭に1騎、背後に3騎という構えだ。後方を襲われた時に即座にカバーできるように、背後を厚く取ってるといったところか。
他方、背後の6騎は鶴翼に近い。最後尾の2騎は直掩で、両翼の4騎がカバー、と見るが」
“私”は頷いた。ベオウルフの注釈に従い、マップに表示される詳細データは、先ほど“私”が見た視覚情報を元に彼が分析を加えたものだった。“私”には背後の6騎、としか記憶になかったが、支援を護衛する直掩の厄人がいると考えた方が妥当だ。事実、“私”の視覚情報を呼び出せば、最後尾に位置するサーヴァント2騎は、何やら槍らしきものを持っている。仮に奇襲をしかけて背後のアーチャーに白兵戦を挑んだとしても、即座に反撃されるのは容易に推測できる。そして邀撃に手間取っている間に、敵アーチャーと前衛に包囲・殲滅という流れだ。
「素人考えだが、中々手堅く構えていらっしゃるんじゃないの?」
慇懃で甲高い声だった。オベロンは、相変わらず気怠い顔つきだが、その気だるさの中に活力がみなぎっている。そうだな、と応えたベオウルフも何故か酷く真顔を作るなり、陰鬱な顔つきのオベロンをじい、と見つめた。
「な、なんだ」
「いや」至って真面目な顔……は変わらずだが、ほんの少しだけベオウルフの口角の片っぽがつり上がった。「これから作戦の説明をする。見ろ」
自分たちを示す青い光点が消え、再度浮かび上がる。敵の前衛と対峙する1騎。もう1騎は敵陣の背後。そうしてもう1騎が丘の稜線沿いに展開、という形で──。
「なんで俺が最前線なんだこのボケナスがァーッ!」
オベロン全ギレ。「うるせえぞ」という素っ気ないベオウルフの発言もなんのその、オベロンは怠い顔のまま真っ赤になるという珍妙な顔で憤激していた。
「さっき俺が言ってたこと覚えてるよなぁ!? 俺は戦闘なんてできねえの、か弱い妖精さんなの! 朝のひばりの声でうきうきしてるだけの雑魚なの俺は! あんなのに囲まれたら即死だボケ!」
「あ、そういや武器がねえな。これ使うか、ほれ
「え、あ、ども、ありがとうございます……ってフルンディングじゃねえか!」
「あの嬢ちゃんと筋力同じくらいだろ。筋力Dだっけか。そんだけありゃ、振れる振れる」
「そういう問題じゃねえだろうが!」
いやもう本当にうるさい。青筋をたててカンカンになったオベロンがオーバーリアクションをするたび、髪の毛の間からシラミやらムカデがぽんぽんと跳ね、耳の穴からぼろぼろとウジが零れた。“私”はにこやかな表情を顔面にはりつけながら、顔面に降りかかる虫たちを優しく受け止めていた。顔面で。
べち。あ、ゴキブリ……。
「よく聞け、邪悪な妖精さんよ」
「なんかムカつくな……」
「いいか、確かにアンタは戦闘に関しては雑魚だ。第一級のクソ雑魚ナメクジだ。俺が保証する。喜べ妖精」
「殺すぞテメエ」
「その
「……」
「ともかく。確かにアンタは直接での戦闘は脆いが、素早さだけは超一級品だ。違うか?」
壮絶なジト目をかましていたオベロンが、不意に眉を寄せた。衝動的に何か言いかけたが、ぐっと口を噤むなり、嫌々というように頷いた。「一応はな」
「アンタの仕事は、前衛をとにかく引っ掻き回して、包囲を形成させないこと。あわよくば後衛についた直掩を前衛から引き剥がすこと。この2点ができれば最高だが、前者だけでも十分だ」
「しかし、いくら何でも無謀では。確かにオベロンさんの速度を捉えるのは難しいでしょうが、包囲されればそれこそお終いです」
「その前に、俺とお前で後ろを叩くんだ。前衛を引き付けたところ、でお前が射撃で敵戦力を攻撃。お前に敵の意識が集中した瞬間に俺が背後から急襲、白兵戦で後衛を刈り取る。後衛を壊滅させた後は4騎のシャドウ・サーヴァントだ。オベロンに攪乱された
「はぁ。もしもの時は俺の宝具でなんとかする。気にするな」
もう、オベロンはいつもの表情に戻っていた。倦怠感に満ち、厭世的に細められた黝い目。病的にやつれたかのような肌は真っ白……というよりは若干まだ赤みがかっている。いや、よく見れば額にはまだ青筋が一本二本……。
「いいか、俺の名前はオベロンだ。オベロン・ヴォーディガーン。ブリテン島を終わらせる終末装置にして妖精國を終わらせたのが、この俺だ。義務だとか任務なんてのを
「まーだ言ってんのかそれ。長ったらしい口上といい恥ずかしくねえのか、思春期の流行り病か? お似合いだけどよ」
「はー、うっせえうっせえうっせえわ!」
あきれ顔のベオウルフに全ギレ継続中のオベロン。
仲がいいんだな、と思った。人一見仲が悪そうに見えて、互いに間合いを知っているような、そんな雰囲気を感じる。
「ったく」
うんざりするように言いながら、オベロンは掌を掲げた。どこからともなく飛来した蛾が手にとまると、ベオウルフに向けて「ふぅ」と息を吹きかけた。
ついで、オベロンはその掌の上の蛾を躊躇なく握りつぶした。べちゃ、と体液が手のひらの上に拡がるなり、その汁を両手で混ぜ合わせ、“私”の弓にこすりつけた。
「な、なにを!?」
思わず言ったが、“私”はすぐに理解した。オベロンの役目はキャスターで、その本質は前衛への支援だ。“私”は我知らずに、自分の裡にある力のようなものが増大する感覚を味わった。気が付けば、ベオウルフの姿は見えなくなっている。
「お前の気配を断った。それと、うーん。なんだ、そう。バフのモリモリ森鴎外だ」
「馬糞がなんですか?」
「要するに」オベロンは渋面をした。説明の仕方を誤った、と彼らしからぬ素直さで反省したらしかったが、“私”には与り知らぬことである。
「俺の魔術はお前には相性がいいってことだ。ベオウルフにもな」
「同じ出自の英雄だからでしょうか」
「そういうんじゃあねえな。たとえ出典は違かろうが、戦い方やら何やらで“相性のいい悪い”ってのがある、ってだけだ。スカサハ=スカディほどの【原初のルーン】があればそういった相性の善し悪しすら超えられるんだろうが」
“私”は頷いた。オベロンはこういうけれど、確かに初めてこのアメリカで目覚め、スカディの援護とともに戦った時よりも、力がみなぎる感覚はより強い。
「おいベオウルフ、いるんだろう」
「なんだ。やっぱ剣が欲しいか?」
どこからともなくベオウルフの声が聞こえた。声の聞こえ方からして、さっきと位置は変っていないんだろう。
「フルンディングじゃなくてネイリングの方を貸せ。俺に剣術の心得はねえんだ。鈍器をぶん回すくらいはできらぁ」
「ほー、ネイリングをぶん回せんのか?」
「え、ネイリングをぶん回すの?」
「なにボケてんだ。ほれ」
風を切る音が耳朶を打った。と思うや否や、巨大な棍棒らしき剣が放り投げられた。ぎょっとする“私”を後目に、当たり前のように投げつけられた剣の柄を掴むと、オベロンは不如意に顔を顰めた。「これ後何発で壊れるんだ?」
「あと10回くらいか? 好きに使え、替えはある」
「人使いが荒い奴だな」
「王様ってのは人を使ってナンボだろ」
オベロンは幾分か気分を害したように目を細めて眉を顰めてから、慨歎とともに口にした。まぁなぁ。
「よし。じゃあ行くぞ。アーチャー、攻撃のタイミングは俺が図る。合図を出したら背後の直掩騎から撃破していけよ」
「わかりました」
「よし……状況開始」
*
「面倒癖えな……」
独語めいた言葉を漏らしながら、丘を迂回していくオベロン。草原を駆けるに従い、牧歌的なまでの青い風が額を流し、ウジのように白濁した髪をさらっていく。異形に歪んだ左腕の動かし辛さを感じながら、それでも今はこの左手がありがたい。オベロン自身は非力だが、人理に外れた物であるが故に限定的に付与されたバカ力のお陰で、こうした大剣を持つのもなんとかなる。最も、キャスターのオベロンには全く以て不要なスキルでしかないのだが。
「あぁ面倒くさいな……気持ち悪い」
自分に言い聞かせるように、オベロンは口にする。耳朶を打つ自分の歪な声に身を竦ませながら、オベロンはいつの間にか、敵の前衛、彼我距離1km地点に滑り込んでいた。
左手に棍棒じみた大剣を握りしめて、オベロンは思う。
「……やっぱり俺がバチコン殴り合いするの無謀すぎねえかなぁ。ねぇそう思わない? これ読んでる人そう思うよね、そこのあなたね?」
この弱音である。妖精王オベロン、傲慢この上なく自由気ままに振る舞う男だが、それはあくまで自分の安全が担保されている状況に限ってのものである。自分の身の安全が保障されない現状では、彼は弱気だった。要するに、オベロンは基本的に情けない奴だった。
さりとて、ネイリングを左手に構えて正々堂々と敵影の正面に立ち塞がるオベロンである。もちろん強い気持ちによる勇敢な行いなどではない。
「やあやあ我こそは妖精王オベロン、勇壮なるアルベリヒであるぞ! 腕に覚えのある者はこの我を討ち取ってみせよ!」
我ながら芋臭い演技だな、と思うオベロンだったが、実際のところは大変朗々とした声音で、名乗りだけなら立派な武将という風格だけはあった。最も風格だけである、という自覚は彼自身が何よりある。
幾ばくか、間があった。のろのろと進行していた何騎もの影が静止して見合わせること数秒。
「──ヒェッ」
凄まじい豪速が耳元を掠めた。背中の翅が一部千切れ飛び、透明な翅がはらはらと宙を舞った。背後に展開するアーチャーの狙撃だった。寸で躱せずに食らえば死んでたな、という冷徹な思考はちゃんと脳の裏側にちゃんとあったが、そんなちゃんとしたサーヴァントらしい思考回路は一片ほどしかなかった。大部分を占めていたのは、世界全てへの悪態だった。敵への悪態であったりそれを押し付けてきたベオウルフへの悪態であったり。そして一番は、この戦術を恐らく推してきたであろう、フジマルリツカへの悪態であった。
「ふざけがやがって!」
無数に飛んできた矢を無理やり剣で弾き飛ばしながら、オベロンは己が内から湧き出ようとする憎悪を酷く冷静に見つめている。
醜いほどの汚濁。訳もなく横溢する憎悪と倦怠。奈落のように深い情動は、我がごとながら酷く空虚で、他人事のようですらあった。いや、事実そうなのかもしれないが。
あらん限りの罵詈雑言が頭の中に浮かび、困惑しながらも彼はともかく敵陣に突撃した。樹々の間を抜ける朔風のように4騎の
「あーもう勝てねえこれ」
ほとんどヤケクソで振るったネイリングを当然のように盾で防がれて、泣き言だって漏らしてしまう。悲劇は他人から見たら滑稽な喜劇でしかないものだ、ということは、妖精王オベロンはよく存じている。惚れ薬を使った時もそうだし。妖精國を飛び回った時だって、まぁ所詮あんなのは、言ってしまえば愚かな喜劇に過ぎなかったのだ、少なからず、オベロンにはそう見える。
「妖精王オベロン様はなぁ──」
オベロンは、鼻の潰れた芋臭い顔を、不愉快げに歪めた。これまでの必死な形相に挿した僅かな情動。苛烈ですらある感慨のまま、防がれて当然な太刀筋を撃ち込んでいく。
「ハピエン厨なんだよぉ!」