Muv-Luv Alternative The Phantom Cemeter(改稿版)   作:オルタネイティヴ第Ⅵ計画

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Episode3:横浜基地襲撃

Episode3.横浜基地襲撃

 

 

2001年10月22日(月)09:11

 

 

(――あの老人ども!……あと、あと一息なのよッ……!)

 

この日、オルタネイティヴ第4計画総責任者である、香月夕呼は荒れていた。

人の責任を追及するしか能ない、彼女曰く無能な連中、或いは自身の保身にしか興味がない国連軍上層部の連中に……まだ結果は出ないのかと催促を受けたことが原因であった。

そして国連軍内部の……正確には米軍からの出向組、所謂第5計画推進派閥からの嫌味もあった。

普段であればこの程度、軽くあしらうか無視して終わりなのだが、今回はいつも以上に嫌みったらしいばかりではなく、的確なカウンターがあったためにそれが彼女を苛立たせた。

いや……正確には、先ほどの彼女の胸の内にもあるように、あと一歩のところで足踏みする状態が長らく続いていたことを指摘されたから。

つまりは、自分の限界のようなものを他人に……特に彼女が無能と見下す連中に指摘された気がしたために、どうしようもない苛立ちが胸に芽生えたためであった。

特にそれがもう何日も続いた徹夜明けの朝なら、苛立ちもひとしお増すというもの。

それが故意だと分かれば尚更だ。

何故なら、国連本部があるアメリカ合衆国ニューヨークは、丁度夜の時間帯。

しかしここ日本では時差があるため、上記の時間帯となる。

そんな嫌がらせに度重なる寝不足が重なれば尚更で、苛立ちを通り越して怒りにジョブチェンジするというもの。

 

(理論は出来ている……それなのに……!)

 

夕呼はこの世界ではトップクラスの、いや紛れもない天才である。

それこそ過大評価や誇張なく、世界最高の頭脳の持ち主だろう。

その彼女が解決出来ない問題ということは、並大抵の人物は勿論のこと、並大抵の天才でもどうにか出来る問題ではない。

というか、確実に彼女以外には無理であろう。

 

香月夕呼という女性は、多くのモノを抱え込んでいる。

その中で一番大きいものといえば、やはり人類の未来(じんるいのあす)であることは疑いない。

彼女は何とも不幸なことに、それをたった1人で抱え込んでしまっていた。

天才とは常に孤独、孤高の存在であると言われている。

その例外に漏れることなく夕呼も常に1人であった。

 

彼女の数少ない友の中に、神宮司まりもがいる。

確かに彼女は親友だが、公私の区別は付けなくてはならないことも夕呼は当然理解しているし、自身の考えをまりもに話したところで特に変わることはない。

残念ながら頭脳と言う点で言えば、まりもは一介の凡人に過ぎないし、情報統制の観点やその他の点からも話すことはできない。

語り過ぎれば無用な気遣いを招いてしまう。

要は公的な理由と私的な理由の両方があるということだ。

それが一番親しいまりもに適用されるということは、他の人物にも当然当てはまらない。

それ故に夕呼はこれまでも、そしてこれからも孤独の存在であることは間違いない。

だからこそ夕呼は、その抱え込んでいるものを半分抱えてくれるという、あの男(・・・)に惹かれたのだが……。

はて、あの男とはいったいどの男だろうか?

黄金、ゴールド?

いや違う、銀?はくぎん……?

シルバー?プラチナ?

いやそうではない。

夕呼は今まで恋愛などしたことはない。

そんなものに現を抜かす暇はなかったし、これからもそんな暇は存在しないと本人は思っている。

 

思考が知らないうちにあられもない方向に逸れたことに夕呼は気づき、苛立ちが更に加速する。

非現実的で訳の分からないことを考えている自分に嫌気がさし、遂には机の上に積み上げられた書類の一部を、怒りに身を任せソファーに向かって放り投げるという暴挙に出た。

これ程夕呼が荒れるのは珍しいことだ。

彼女の執務室をよく観察すると、部屋中が何かしらの重みで押しつぶされそうだった。

キャビネットは容量を超え、本や書類が棚から溢れ出し、床に積み上げられている。

そこかしこにできた本の山は、不安定にそびえ立ち、わずかな動きでも崩れそうだ。

足元には開いた本が無造作に散らばり、どのページも読まれるのを待ち望むように無言の視線を送っているかのようで……だが、それが夕呼にはたまらなく不快だった。

そこには答えなど既にないことが分かっているからだ。

何度読み返してもそこから答えを導き出すことはできなかったからだ。

この部屋の惨状が、彼女の心の状態の鏡のような状態だと言えるかもしれない。

それほどまでに彼女は珍しく心が荒れて……苛立っていたのだ。

 

他人に対する苛立ちと、よく分からないことを考える自分に対する苛立ちの両方が頂点に達していた時、彼女のデスクの電話が鳴った。

 

「チッ」

 

と夕呼は舌打ちをしつつ、受話器を取った。

だが受話器を取ったからには、極力苛立ちを表に出さないように気持ちを切り替えてから、夕呼は息を吸った。

 

「はい、香月」

『副司令!緊急事態ですッ!』

 

電話の主はイリーナ・ピアティフ中尉だった。

夕呼の副官兼個人秘書でもあり、横浜基地の通信士も兼ねている人物だ。

自分の副官が珍しく慌てている様子に、夕呼は少しだけだが驚きを覚える。

だが逆にそれが先程までの苛立ちを、ほんの少しだが納めてくれたような気がした。

 

(にしてもこんな時に、それも朝一に緊急の案件……ましてや、ピアティフを慌てさせる問題を起こした馬鹿がいるっての?)

 

しかし同時にそのような考えに至り、また別の苛立ちの感情が湧き出かけた夕呼だった。

 

「はぁ?こんな時になんだっていうの?」

 

ここで夕呼は珍しく失態を犯している。

普段、ピアティフが彼女を呼ぶ際は、博士であることが多い。

だがピアティフは今回夕呼を呼ぶ際、副司令と呼んだ。

それを見落としたことで、彼女は事の重大性を認識するのがワンテンポ遅れてしまった。

丁度その時だった。

けたたましい音で警報が鳴ったのは――。

 

『防衛基準態勢1発令!即時出撃態勢にて待機せよ』

『総員第1種戦闘配置!対地対空迎撃戦用意!』

 

夕呼は珍しく驚き、声を大きくして聞き返した。

 

「――っ!?一体何なのよ!?」

『正体不明の戦術機が1機、基地に向かって来ています!至急、中央作戦司令室までお越しください!』

「すぐ行くわッ!」

 

受話器を叩き付けるように戻して、彼女は自らの執務室を後にした。

 

(一体どこの馬鹿よ、この基地を襲おうなんて――オルタネイティヴⅤ推進派が?いやこんな分かりやすい手は使わないはず……)

 

彼女は様々な思考を張り巡らせながら、急ぎk足で司令室へと向かった――。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「司令」

「博士か」

 

夕呼は慣れない急ぎ足で中央作戦司令室に入ったが、不思議と息はあがらなかった。

そこにはこの横浜基地の司令であるパウル・ラダビノッド准将がおり、入室してきた夕呼を出迎えた。

 

「司令、状況は?」

「……あれを見たまえ」

 

ラダビノッドに促され、司令室正面のスクリーンに夕呼は目を向けた。

そして驚きから目を見開いた。

 

スクリーンには見たこともない1機の漆黒の戦術機が映っていた。

どことなく武御雷を思い起こさせるようなフォルムをしているが、あのようなデザインの戦術機は、世界中のどこにも存在しないのは明らかだった。

しかし、夕呼が一番驚いたのはその戦術機自体にではない。

その手に持っている兵装、つまりは武器に驚いたのだ。

 

この戦術機の武装を簡潔に述べるのならば、近接戦闘用の武器が1つに、射撃系武器が1つだと言える。

詳しく解説すれば近接戦闘用の武器、74式近接戦闘長刀が1本、可動兵装担架システム……つまりはブレードマウントに装備されていた。

因みに可動兵装担架システムというのは、戦術機の兵装や追加装備を携行させるために開発されたサブアームシステムの総称だ。

サブアームと言っているだけあって、その動力源……即ち電力こそ戦術機に依存しているが、独自の駆動系システム及び伸縮装置を備えており、戦術機本来の腕には劣るもののこれ独自で攻撃することも、ガンマウントであれば可能である。

即ち可動兵装担架システムは、戦術機の第3・第4の腕と言っても過言ではない。

その大事な可動兵装担架システムを、この戦術機は片方潰している……つまりは装備していない。

 

射撃系武器の解説に入ろう。

この戦術機の装備している射撃系武器は、通常の突撃砲と比べやや大きいことが特徴と言える。

これこそが夕呼が驚いた点でもあり、何より問題であった。

この機体が装備している射撃系武器は、99式電磁投射砲EML-99Xをまるで小型化したような砲であったことだ。

電磁投射砲というのは、日本帝国国防省が発注し、帝国軍技術廠によって試作された電磁投射式速射機関砲……所謂レールガンというやつだ。

その開発自体は帝国軍技術廠で行われたが、肝心の機関部には横浜から提供されたブラックボックス化した機関部が使用されている。

この際電磁投射砲の詳細な解説は省くが、通常の99式電磁投射砲の運用には、専用のバックコンテナが必要となる。

つまり可動兵装担架システムの両方を潰す必要があるのだ。

 

もしこの戦術機の装備しているこの砲が、仮にバックコンテナなしで運用されていたなら夕呼も確信は持てなかっただろう。

だがこの機体は実際には前述の通り、可動兵装担架システムを片方潰して何やらバックコンテナを装備し、そこから給弾ベルトを覗かせていた。

その給弾ベルトは、この戦術機の左手の小型化された電磁投射砲ような砲に接続されており、左腕に武器そのものが連結され、それを右手で支えていた。

 

そもそも電磁投射砲は、公にされた武器ではないし、大抵の人物が見れば何やら大砲を装備しているようにしか見えないだろう。

だが夕呼は確信をしていた。

そしてハッキリと断言できる。

あれは間違いなく電磁投射砲の小型版であると。

 

(あれは間違いなく電磁投射砲!どこから流れたの!?)

 

夕呼の心の中は次第に焦りの感情に支配されていった。

前述の通り夕呼には分かる。

あれが電磁投射砲の小型版であると。

サイズは99式の半分以下だが、間違いはない。

 

彼女の脳内に様々な可能性がよぎる。

つい先ほど中央作戦司令室に来るまでの間に否定した、国家の関与が大いにあり得る可能性をまた考え始めた。

電磁投射砲は現在、日本帝国軍のみが保有している。

つい先だって、試作の1つがソ連のカムチャッカ半島に持ち出されたとのことだが、諸事情によりソ連軍基地で放棄され、その放棄は問題なく完遂されたと報告を受けている。

つまり、ソ連に模倣される可能性はないはずだった。

ということは、帝国軍が関与している可能性が大いに高い。

しかし帝国が関与しているとしてそのメリットは?

寧ろデメリットしか浮かばない。

ソ連が関与している可能性、つまりは放棄が完全ではなく、模倣された可能性はあるが仮に模倣したとして小型化まで成し遂げたということか。

或いはその両方か。

 

とまぁ、様々な可能性を一瞬で夕呼の脳内を駆け巡ったが、しかしそこは流石の夕呼と言うべきか、今考えても致し方のないことと切り捨てた。

そして一瞬浮かべた驚きの表情は直ぐに鳴りを潜め、いつもの平静な表情に戻り、ラダビノッドに向き直り問う。

 

「――あれは?」

「やはり博士でもわからんか。つい先ほど基地の対空レーダーに探知されたのだが、基地の4キロ手前に接近されるまで一切探知出来なかったのだ……」

 

戦術機は、第1世代機なら17メートルほど。第2・第3世代機なら19メートルほどの巨大さを誇っている。

また例え戦闘機の技術が数十年前から止まっていたとしても、レーダー技術はかなり発展を遂げている。

にもかからず、基地の直近に近づかれるまで反応がなかったということは、考えられる理由は1つしかなかった。

 

「――ステルス、ということですね」

「ステルス性能を持った戦術機など、米国のF-22A(ラプター)ぐらいだと思っていたが……どうやらそうではないようだな」

「外装を見る限り、設計思想は近接戦を重視する帝国やソ連寄り……といったところでしょうが、どうやらそれだけではないようですね。いずれにせよ、性能は相当なものと思うべきでしょう。何よりあの電磁投射砲……アレを使われたら基地は一溜りもありません」

「やはりアレは電磁投射砲か――まさかとは思うが……あのフォルムといい、電磁投射砲といい帝国が?」

 

先ほども述べたように、どことなく武御雷を思わせるような鋭角的なデザインをもつこの機体。

恐らく何も知らない人々に対し、日本人が設計したと言えば納得してしまうであろう、日本人向けの風貌を持つ機体だ。

しかし、このようなデザインの戦術機は世界中のどこを探しても存在しないのは、横浜基地の誰もが知っていた。

 

そしてラダビノットも夕呼と同じ考えを持ったようだが、彼女はそれをバッサリと切り捨てる。

 

「いえ、その可能性は低いかと……今はそれよりあの機体の目的です」

「しかし肝心のその目的が分からん……あの不明機(アンノウン)は基地に侵入後、第1滑走路上で停止したままだ。破壊工作が目的ではないのは明らかだが――まるで何かを待っているようだな……」

「愉快犯なら、わざわざこの横浜基地を選んだりしないでしょう。ですが司令の言う通り、何かを待っているようですね」

 

そこでラダビノットが何かに気づいたようで、ハッとした様子で夕呼を見る。

 

「博士。まさかとは思うが……」

「いえ、第5計画派の仕業ではないと思います。彼らがこのようなあからさまな手段に出るとは考えられません。無理矢理可能性を考えるならプロミネンス計画派か、キリスト教恭順派ですが……電磁投射砲のことを考えると、それらの可能性も低いでしょう」

「ううむ……」

「――司令。迎撃部隊の配置、完了しました」

 

オペレーターが、迎撃部隊1個中隊の配置完了を告げる。

スクランブルして凡そ15分弱。

 

(遅い……)

 

夕呼は思った。

 

「遅い!既に15分近く経っているのだぞ!」

 

いくら発見が遅れたとはいえ、出撃に時間がかかりすぎている。

やはりたるんでいる……。

それ感じたのは、夕呼は勿論のこと、ラダビノッドも同様であったようだ。

 

「司令。A-01の出撃準備は既にできているはずです。そちらも出しますわ」

「いいのかね博士?あれは博士の子飼いの部隊だが……」

「このような状況です。出し惜しみはするべきではないかと。それに向こうも律儀に待っているのです。出さないのは失礼というものでしょう」

 

夕呼は既に待機しているA-01部隊に出撃を命じた――。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

再三の警告を無視し、依然として第1滑走路上に佇み続ける正体不明の戦術機。

スクランブル発進した基地駐留の戦術機甲部隊1個中隊は、滑走路上に鎮座する不明機を囲う形で展開した。

部隊が包囲する態勢を取っても、依然として不明機に動く気配はなく、ご丁寧に包囲が完成するのを待っているかのようで、余裕の佇まい、いや王者とも言うべき佇まいがそこにはあった。

恐らく、第3世代かあるいはそれに準ずるものであろうが、未だかつて見たことも聞いたこともないその機体に対し、遂に司令部から攻撃許可が下りた。

 

迎撃に出た部隊の中隊長が、部隊の仲間に指示を飛ばす。

 

『トレボー01より中隊各機へ。所属不明機を捕獲する。ただし搭乗衛士の殺傷は禁ずる。繰り返す、搭乗衛士の殺傷は禁ずる!』

『優しいねぇ。その100分の1でいいから、俺にも気を遣ってくれよ、中隊長殿』

 

司令部からの指示に、衛士の1人が不平を言う。

 

『トレボー03、無駄口を叩くな。いいな、基地内だからな。誘導弾は極力使用するな』

『『『了解!』』』

『よし、かかれ!』

 

中隊長の男の合図で、日本から国連に供与された12機の77式戦術歩行戦闘機・撃震の中隊が一斉に動き始め、その包囲網を狭めるため1歩目を踏み出したその時だった。

先程まで彫像の如く動かなかった不明機が動き出した。

中隊全機が歩みを止め、衛士たちはトリガーに指を掛けた。

すると不明機は右手で待った、という仕草をした後、大砲のような武器をパージしてゆっくりと地面に置いた。

全員が降伏するつもりなのか?と思った直後、今度はその機体の大砲以外の武器がマウントされている、唯一の可動兵装担架システムが動いた。

即座に全員が理解した。

こいつはやるつもりだと。

 

『所属不明機に告げる!無駄な抵抗は考えるな!貴様は完全に包囲され……』

 

中隊長がオープンチャンネルでそう告げていたその時、不明機が僅かに前傾し前屈みの姿勢になった。

明らかに跳躍(ジャンプ)ユニットを使用する体勢だ。

 

『ッ!?来るぞ!』

 

中隊長が反応し、皆に声をかける。

中隊各機が一斉に散開し、発砲した。

まず手始めに、前衛の4機が1門ないしは2門の突撃砲を放った。

だが次の瞬間、その不明機の機動に中隊12機12人の衛士たちは、度肝を抜かれることとなる。

それは何故か……理由は不明機が跳躍ユニットを使用した途端、一瞬で視界から消え去ったためだ。

 

『『『なッ!?』』』

 

無線から、まるで中隊全員が示し合せたかのように、同じ驚きの声を発した。

 

(どこにいったッ!?上か?)

 

と後衛の衛士の1人は困惑するが、戦場では考えるのを止めた奴から死んでいくことは、当然本人も理解している。

故に、この衛士は前や上、横を確認するがどこにも不明機の姿はない。

噴射跳躍、つまりはブーストジャンプかと思ったが、そうではないようだ。

しかし一瞬で消えるなど神の所業。

衛士の困惑がさらに加速し始めた時、味方の無線でその衛士は我に返る。

 

『トレボー06!後ろだッ!』

「なんだとッ!?」

 

しかし警告を受けた時は既に時遅く、巨大な衝撃と共に己の機体が地面に倒されたことに気付かされる。

 

「ぐはッ!?」

 

衝撃で一瞬息が詰まったものの、自分はまだ生きていることに衛士は気づく。

あの僅かな間に一体何があったのか。

困惑から未だ頭は抜け切れていなかったが、生きているならまだ戦える。

そう思い、衛士は網膜投影に映し出された機体状況を確認するが、そこには驚きの結果が表示されていた。

 

「ッ!?」

 

機体の跳躍ユニットが完璧に破壊されていた。

それと同時に、倒された衝撃で脚部が一部破損していた。

これでは機体を起こすことが出来ない。

衛士の網膜投影は、自分が一瞬で完璧に無力化されたという事実を示していた。

 

『06!糞ッ!貴様ぁッ!?』

『待て早まるな!』

 

仲間の1人がいとも簡単に屠られたのを見て、中隊の一部の衛士が、陣形を無視して攻撃を始めた。

仲間の感情任せの行動を、その中隊の仲間が制止しようとするが止めきれず、なし崩し的に戦闘が拡大していった。

だが、それではまともな戦いが出来ようはずもなく、立て続けに中隊は不明機に撃破されていった。

全機見事に、跳躍ユニットのみを破壊されて。

 

不明機が中隊を全機撃破するのに要した時間は、僅か3分程だった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

オルタネイティヴ第4計画直属第1戦術戦闘攻撃部隊、通称A-01部隊。

あるいは特殊任務部隊A-01とも呼称される。

 

かつては連隊規模を誇り、精鋭と名高かったこの部隊も、現在は損耗につぐ損耗を重ねて1個中隊の定数割れにまで、その規模を縮小していた。

だがその個々の能力は未だに高い。

或いはそれに準ずる、金の卵とも言える者たちが所属する、未だに世界でも有数のエリート部隊といっても過言ではない。

その栄誉ある部隊の部隊長を務める伊隅みちる大尉は、先ほどの戦闘を他のA-01部隊員と共に、少し離れた位置から一部始終を見ていた。

 

先ほどの戦闘を見る限り、不明機は突撃前衛(ストーム・バンガード)に適しているチューン、あるいは設計が施されているようで、跳躍やそれに付随するスピードも、恐らくは武御雷と同等か……いや、明らかにそれ以上の性能のように思えた。

衛士の腕はそれ程高くないようで、スピードにのみ頼り切った戦いをしていたため、例え機体性能で劣ろうとも、みちるは十分戦える相手だと判断した。

 

丁度そこに司令室からの通信回線が開かれた。

 

『伊隅。今の見ていたわね?どうやらあの馬鹿は、こちらを殺す意図はないらしいわ。跳躍ユニットのみを破壊する、大層ご丁寧な手法でね』

 

司令室の夕呼からやや怒気の含まれた声が、A-01部隊に配備された94式戦術歩行戦闘機・不知火の各コックピットに響いた。

 

「はい、副司令。随分とナメられたものです」

『いい?何としてでもあの機体を捕まえて、あのふざけた衛士をあたしの目の前に引きずり出しなさい!必ず生かしてね!』

 

夕呼の語気は徐々に強くなっていった。

 

(あぁ、これは相当怒ってるな……)

 

とみちるは苦笑した。

 

「了解!」

 

みちるは通信を中央作戦司令室から、A-01部隊内へと切り替えた。

 

「ヴァルキリー01より各機、A-01部隊の名誉と誇りにかけてあの不明機を捕獲するぞ!」

『『『了解!』』』

 

A-01部隊員たちの威勢のいい返事が、彼女の耳に心地よく届いた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

武は自分に複縦陣で向かってくる不知火を目にしていた。

国連軍で不知火を提供されている部隊、それはA-01部隊のみである。

 

(覚悟してはいるけど、12機の精鋭揃いのヴァルキリーズ相手にするのは骨が折れるな……でもやらなきゃいけないことに変わりはない、か……俺とXM3、そしてこの八咫烏があれば……って――アレ?)

 

武は向かってくる機影の数に疑問を覚えたので、レーダーを確認する。

レーダー画面を凝視したことで、網膜投影上でそれが拡大表示され、正確な機数を武に教えてくれた。

 

(――10機?この頃の伊隅ヴァルキリーズは確か12機なはず……なんで機数が少ないんだ?)

 

しかし時は待ってくれなかった。

武がそうこう考えている間に、10機の不知火は第1滑走路に着陸した。

 

『目の前の所属不明機に告げる。ただちに降伏せよ。これが最後の警告だ。降伏せよ』

 

武にとっては懐かしい声、みちるからのオープンチャンネルでの降伏勧告が入る。

 

(さっきも最後って言ってなかったっけ?)

 

と武は思いながら苦笑する。

先ほどの撃震の部隊も、戦闘開始前に同じことを言っていた。

何故何度も意味のない降伏勧告をするのか。

負けるはずがないという自信、或いは油断の現れか……又はそれほどにたるんでいるのか。

まぁ武にはどちらでもよかった。

何故ならやることに変わりはないからだ。

武は勧告を無視し続けた。

 

やがてヴァルキリーズがしびれを切らし、戦闘が始まった。

 

「――ヴァルキリー01よりヴァルキリー02。速瀬、初撃は任せる!」

『ヴァルキリー02、了解!あの不明機のケツに一発くれてやりますよ!」

 

伊隅ヴァルキリーズ全10機のうちの先陣を切るのは、お馴染みかつそしてこの部隊唯一の突撃前衛(ストーム・バンガード)である、速瀬水月中尉の不知火。

全速力で不明機に突っ込んでいった。

無論、1対1で戦うつもりはない。

あくまで後続の涼宮茜少尉機と2対1の態勢を取るためだった。

先に突っ込み、それを不明機がかわす機動を取ったところを、涼宮機と挟み撃ちにする。

その間に更に後ろの宗像美冴中尉機、伊隅機、柏木晴子少尉機、風間祷子少尉機、築地多恵少尉機、高原萌香少尉機、麻倉真央少尉機、臼杵咲良少尉機の8機の不知火は、それを支援する形から次第に変化し、最終的に取り囲む態勢を取るつもりだった。

速瀬機は手にしていた長刀を構え、跳躍ユニットを吹かす。

すると不明機は、それを避ける姿勢を一切見せず、彼女と同じように長刀を構えた。

 

「――っ!?いいわ!あたしとやろうってのね!」

 

速瀬機は跳躍ユニットを更に吹かし、水平噴射跳躍(ホライゾナル・ブースト)の勢いそのままに、長刀を不明機に向かって振り下ろした。

凄まじい衝撃が不明機と速瀬機の両方を支配し、長刀同士がぶつかり合い強烈な火花が散る。

速瀬機の振り下ろした長刀は、不明機によって受け止められた。

その衝撃で不明機の脚が地面へとめり込むが、それに対し彼女は少し唾を飲む。

 

「不知火を真っ向から受け止めるなんて!?」

 

そう、不明機は速瀬機の勢いの籠った振り下ろしを真っ向から受け止め、今に至るまで鍔迫り合いをしているにも関わらず、その勢いは足が少し地面にめり込む程度ですんでおり、衝撃で後退した様子は一切なかった。

鍔迫り合いは火花の散る勢い増す程の、猛烈なものになっていった。

 

「こいつ、機体性能だけは相当なようね!」

『ヴァルキリー02!』

「ッ!?」

 

水月の耳に通信が入った瞬間、彼女は次に何が来るかを察し、後方へと跳躍噴射(ブースト・ジャンプ)する。

すると速瀬機と入れ替わるように、そこに多数の突撃砲が撃ち込まれた。

と言っても、衛士の殺傷は禁じられているのであくまで機体を動かせなくするために、足元付近を狙ったもの。

まだ本気で打ち込んではいない。

手加減ができるだけの練度と余裕が、まだヴァルキリーズにはあった。

放ったのは迎撃後衛(ガン・インターセプター)の宗像機と伊隅機だった。

そこに追加と言わんばかりに、制圧支援(ブラスト・ガード)である風間機が放ったミサイルも若干飛来する。

若干なのは基地への被害を出さない為と、不明機の衛士の殺傷を禁じられているからだ。

勿論この程度で仕留められるとは、誰もが思ってはいなかった。

先ほど見たところによれば、この機体のスピードは相当なもの、一応先ほどの戦闘結果を考慮して誘導弾の使用は解禁されていた。

一歩間違えば、不明機の衛士を殺してしまう可能性はあったが、前述の通り避けるだろうと予測はしていたし、まだ手加減の範疇ではあるのだ。

 

速瀬機が不明機と鍔迫り合いをしている間に、既に包囲は完成していた。

 

狙いは次の一撃だった。

不明機が伊隅機と宗像機の砲撃を避け、風間機のミサイルを避けるために機動したその瞬間を、速瀬機が狙うつもりだったのだ。

 

(左右、後ろ、どこでもいいから避けなさい!それがあんたの最期よ!)

 

 

それで仕留められばよし。

もし仕留められなくとも、包囲は完成しているので、後はオープンチャンネルでチェックメイトと告げるだけである。

それでも尚抵抗するというのなら、多少なりとも不明機の衛士に怪我を追ってもらうつもりだった。

最悪相手が死ぬ可能性もあるが、その時はその時。

結局は殺し合いだ。

致し方無い。

 

水月が不明機の次の機動を見極めようと、目を凝らす。

しかし、その不明機が動いたのはそのいずれでもなかった。

不明機が選択したのは、まさかの上だった。

 

「「「上!?」」」

 

伊隅機と宗像機の砲撃を噴射跳躍で避けた――ここまではよかったのだ。

次はミサイルを避けるため、もう一度地面に降り立ち、左右或いは後ろへの回避行動を取ると思われたのだ。

しかし不明機が選択したのは、まさかのそのままミサイルに突っ込むこと。

つまり噴射跳躍を続けたのだ。

一歩間違えれば、自らミサイルへと飛び込むような機動。

まるで後ろへ噴射跳躍した速瀬機を、飛び越えると言わんばかりの高さだった。

しかもただの跳躍ではなかった。

不明機は、跳躍しながら空中で倒立反転したのだ。

ちょうど速瀬機の真上に来た時には、綺麗に機体が反転していた。

 

『『『なっ!?』』』

 

それを見たA-01部隊の全員が驚きの声を上げた。

 

(何よ!そのアクロバティックな動きは!?)

 

それを目の前で見た水月は特に驚いた。

しかし驚いている暇はなかった。

不明機はミサイルを華麗に避けた後、まるで着地のための受け身の時間をキャンセル(・・・・・)したかのように、着地と同時に跳躍ユニットを吹かして、速瀬機の正面へと躍り出た。

 

「くッ!?」

 

慌てて長刀を構えて不明機に向かって振り下ろすが、次の瞬間……不明機は横にズレて一瞬で速瀬機の背後に回り込んだ。

 

「なぁッ!?」

 

一瞬見失った不明機の位置に水月が気づいた……それと同時に、凄まじい衝撃が彼女の機体と身体を襲った。

何があったかは、周りから見れば明白だった。

不明機は、速瀬機の長刀の振り下ろし攻撃を凄まじい速さで避け、避けた勢いをそのまま利用して、彼女の背後に回り込んだ。

そしてそれに彼女が気づいたのと同時に、不明機は長刀を速瀬機の跳躍ユニットへと振り下ろしたのだ。

水月の不知火は、跳躍ユニットを根元から叩き壊され戦闘不能となった。

 

『大尉!速瀬中尉がっ!』

 

A-01部隊の強襲掃討(ガン・スイーパー)の茜から、驚愕と悲痛に満ちた声が聞こえた。

 

さきほどの一瞬の攻防を見て、実戦経験豊富なみちるも、ただただ呆然するしかなかった。

あの一瞬で、A-01部隊が誇る突撃前衛長が敗れたのだ。

彼女の衛士としての腕はこの隊全員が認めるものであり、間違いなくこの国においてもトップクラスのものだった。

しかし速瀬機は敗れた。

その事実はみちるを驚愕させるには十分だった。

 

速瀬機を倒した不明機は次の獲物を見つけたようで、跳躍ユニットを吹かし前進する。

 

「狙いは私かッ!?」

 

不明機は宗像機や涼宮機に目もくれず、一目散に伊隅機の正面へと躍り出た。

戦場において焦りは禁物だと分かっているみちるだが、あの不明機の機動やスピードを目の当たりにしては、どうしても焦りは出てしまう。

彼女は慌てて突撃砲のトリガーを引く。

突撃砲は36mmの弾丸をフルオートで連射する。

だが、当たらない。

不明機は噴射跳躍を巧みに使い、まるでダンスをするかのように左右上下万遍ない動きで銃弾をかわして、彼女目掛けて突進してくる。

 

「何故当たらない!?」

 

みちるの焦りは次第に加速していく。

 

彼女は先程の評価を訂正する。

 

(私の間違いだった。この戦術機の衛士は、スピード頼りで衛士としての腕はそうでもないと思ったが、それは違う!奴は機体性能だよりの、二流や三流の衛士ではない。間違いなく一流だ。それも超一流だ。この圧倒的な機体性能を使いこなすだけの、いや、機体性能以上の性能を引っ張り出す超一流の衛士だ!)

 

とみちるは理解した。

彼女は突撃砲を撃ち続けながら後悔する。

自らの誤った判断のせいで、また部下を危険に晒してしまっていることに。

 

(くッ!?また私はッ!)

 

過去に一度自身の中でケリをつけた記憶が、瞬時に彼女の脳内を駆け巡る。

そこから生まれた一瞬の後悔の念に駆られた時が、彼女の最期だった。

先ほどの敗れた迎撃機の撃震の部隊と同様に、速瀬機と同じように、またしても機体の後方に一瞬にして回り込まれ跳躍ユニットを破壊され敗れたのだった。

 

後は簡単だった。

指揮官不在のA-01部隊は連携をまともに取れず……いや、取らせてもらえなかったと言った方が正しいだろう。

次々と撃破されていくA-01部隊の面々。

結局A-01、伊隅ヴァルキリーズは10分を待たずしてあっけなく敗れたのだった――。

 




皆様、お疲れ様です。
1話の前書きを更新しましたので、ご確認お願い致します。

《本作品の留意事項》というパートを追加しました。


これは余談で、改めて再計算したのですが、元々改稿前は120話程度で終了する予定だったのですが、改稿後の方は150話程度まで伸びそうです。
長く恐縮ですがこれからもお付き合いのほど、よろしくお願い致します。

では、また次回お会いできるのを楽しみにしております。
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