転生したドン・キホーテが真の騎士になるそうです   作:シデ・ハメーテ・ベネンヘーリ

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夜の森の逃避行、そして―――

「ぐっ、う!!」

 キハノはひたすら逃げる。

港から外れた小さな森の中を突っ切ろうと、ひたすら足を動かす。

 

 

 

「逃げてみよ!儂の拳を避けられるものならばな!」

 

 だが、その都度に木がへし折られていく。

アサシンの一撃は重く、そして確実にキハノの命を狙っていた。

 

 

 

「なんで、なんで俺がこんなことに!」

 

 キハノの言葉はそのとおりだった。

彼からしてみれば、街を歩く中で港に偶然たどり着いたら訳のわからぬ二人組に殺されかけている―――しかも絶賛逃走中だ。

 

 

 

 キハノは強くはない。

いや、正確にはそうではないのだが―――兎角、サーヴァントに立ち向かえるほどの力量は現在持っていなかった。

 

 

 

 

 

 

「この男、聖杯戦争を知らないのか?」

 

 キハノの言葉を耳に入れた言峰が疑問符を頭に浮かべる。

その左手には3本の刺突に特化した黒い短剣……黒鍵が握られており、並び立つ木の間をジグザクに走るキハノに対して照準を定めていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ、ハァッ、ハァッ、げほっ、げほっ」

 

 十数分ほどだろうか?過度のストレスと激しい運動にキハノの肺はボロボロになっていた。気管支には血の味をする唾が上り、激しく呼吸したせいで喉奥は真っ赤に腫れ上がった。

 

 

 

 

 

「む。そろそろ、か」

 しゅたり、とキハノの前に回り込むアサシン。

言峰はそれを見て一言呟けば、走る足の速度を緩め、ゆっくりとキハノの首裏……脊椎を狙う。

 

 

 

 

 

「カカカ、楽しかったぞ、小僧。もっとも、今の貴様は力量不足以外の何物でもないが……流石にもう一度儂の一撃をそらすことはできんだろう?」

 

 

 

「……ぜぇ、ぜぇ」

 

 

「フム、返事もできぬ……か。まぁいい、直に―――」

 

 

「待て、アサシン」

 とどめを刺そうとしたアサシンを止める言峰。

それを怪訝そうな表情でアサシンは言峰を見た。

 

 

「なぜだ、マスター。殺せという命令のはずだが?」

 

 

「その男に少し話を聞きたい」

 そういって言峰はその場にしゃがみこんだキハノを見下ろし近づく。見た目は単なる一般人、右手にはフランス王家の国章であるフルール・ド・リスに酷似した令呪の赤い幾何学模様が刻まれている。

 

 

 

 

「貴公、この場が何か知らなかったのか?」

 

 

「けほっ、けほっ、知らないも何も……あなたたちは一体何者なんだ」

 

 

「ふむ、本当に知らない――か」

 言峰の脳裏でどうすべきか脳細胞が演算する。

ただの一般人なら右手を切り落とし、そのまま令呪だけ放棄させて聖杯戦争から脱退させればいい。だが、すでに言い訳できぬほどに聖杯戦争の濃い部分を見せつけてしまった……1個人に。

 

 

 

 再度、決定事項を提唱する言峰。

その一言は、とても冷酷なものだ。

 

 

「アサシン、この男は私が仕留める。その方が父上も納得されるだろう」

 

 

「おうよ、どのように殺すか見させてもらおうじゃねぇか」

 

  

 言峰の黒鍵がキハノの首めがけて飛ばされる。

完全なる死の剣が、風を切ってキハノの喉を切り裂かんと向かっていく。

 

 

 

 

 

(なんで、俺が、俺だけが。俺は……俺はなんで!)

 

 すべてがスローモーションに見える。

死の寸前というやつだろう。キハノは心臓が締め付けられる感覚に襲われる。

 

 

 

 

 だが、その時だった。

キハノの脳……否、かつての■■が、こう囁いた。

 

 

(願え、騎士を。今の弱き自らを守る、騎士を願え)

 

 

 

素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。

降り立つ風には壁を。

 

 

四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。

 

 

(な、なんだ……この言葉は――聞き覚えがない)

 

 

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

 

繰り返すつどに五度。

 

ただ、満たされる(とき)を破却する

 

 

 

(所詮、たまたま選ばれた常人だったか……)

 言峰が虚無の目でキハノを見下ろす。

黒鍵は喉元まで迫っていた。

 

 

 

―――告げる。

 

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

 

聖杯の寄るべに従い、この意、この理ことわりに従うならば応えよ。

 

 

 

(……にたく、ない!死にたくない、俺は、まだ!)

 

 

誓いを此処に。

 

我は常世総ての善と成る者

 

我は常世総ての悪を敷しく者。

 

 

 

 

 黒鍵の剣先が喉に触れる。

あと一寸で、キハノは確実に死ぬ。

 

 

 

 だが、最後の一言をキハノは断末魔のように叫ぶ。

ただ1つ、生きたいがために。

 

 

 

「汝、三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!!!」

 

 

 

 

 

「む!?マスター、避けろ!!」

 

 アサシンが目を開き言峰に声一杯の警告をする。

明らかな魔力反応、否。膨大な魔力が森を覆う。

 

 

 頑丈に作られた黒鍵がその魔力反応に耐えられず、瓦解する。

 

 

 とてつもない熱気が森を覆う。

土を焼き、幹を焦がし、空を照らす。

 

 

 

「馬鹿な……この男にそのような魔力はッ」

 

 

 

 

 風が巻き起こる。

木が切り裂かれる。言峰の頑丈な衣がその風でことごとくほつれていく。

 

 

 

 

 

 

 

「サーヴァント、ランサー」

 凛とした、鋭く……しかし明朗な女の声が響く。

光と風の奥から、たった一人の……蒼い鎧を身に纏った純白の長髪をたなびかせる少女が現れる。

 

 

 

 

 キハノは気絶していた。

当然である。本来為すべき儀式もせず、触媒も持たず、たった1つの意思と自らの素質で呼び出したのだ。人理の影法師を……それも《本来召喚されるべきではない、抹消された存在》を。

 

 

 

 

「妖精騎士ランスロット、召喚に応じ参上した」

 

 

 

 湖の騎士。

その目に鎧と同じ色の仮面を被った少女は、ただそう告げる。

 

 

 

 

 アサシンは顔を強張らせる。

聖杯の知識には、このような存在……否、霊基は確認できない。

 

 

 

 明らかに、異常事態だった。

だが、アサシンは不思議と笑みがこぼれた。

 

 

「こやつ……強者か!!」 

 

 

 

「ランスロットだと……しかもランサー。三騎士のうちの一柱が召喚されていないのは聞いていた。だが、このような少女が。しかも、自分から真名を名乗るなど」

 

 

 

 異常である。

召喚され、その場で自らの真名を名乗る。そのような事態はあってはならない。しかも儀式もせずにこのような強力なサーヴァントが召喚された―――そんなこと、あってはならない。

 

 

 

「――この人が僕のマスターなんだ」

 妖精騎士ランスロット……そう名乗った少女(ランスロット)は自身の足元で横たわり失神するキハノを一瞥する。

 

 

 

「なぜここに呼ばれたのかは分からないし、いまいち状況も飲み込めてはいないんだ。だけれど」

 

 

 

 ランスロットの仮面の奥に潜む眼光が、アサシンと言峰を見る。

 

 

 

 

「キミたちが僕とマスターの敵ということだけは分かる」

 

 

「くく……くく、くく……くはははははははは!!!! 滾る滾る!! 血が!! 肉が!! やはり武とは生き死にあってのもの!」

 

 

 

 アサシンが声を上げた。

それをランスロットはただ見るのみ。

 

 

「良いではないか、なァ……湖の騎士よォ!!」

 

 

 

 アサシンがランスロットに飛びかかる。

その一撃は確実に霊基を……サーヴァントの心臓を狙ったもの。

 

 

 

 

 

 だが、ランスロットはそれを避けもせずに――両の篭手の表に取りつけられた剣の鞘で防いだ。

 

 

 

 

 

(やはりこやつ……相当の強者だな。しかも明らかに異常な魔力反応―――まともにやり合えば、確実に儂が不利か!)

 

 

 

 

 

「ねぇ、ひとつ聞いてもいいかな?」

 ギチギチと、鞘と拳が激しい音を立てながらせめぎ合う。

異常な魔力反応が尚も続いていた。

 

 

 

 

 

「おう、聞いてみるがいい!!」

 

 

 

 

「―――それ、本気?」

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