転生したドン・キホーテが真の騎士になるそうです   作:シデ・ハメーテ・ベネンヘーリ

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リアル忙しくて遅れて申し訳ありませんでした


拝謁

 1429年3月上旬。

シノン城、謁見の間。

 

 王の宮というよりかは騎士の城と呼ぶべき質実剛健な風貌の謁見の間。

 

 貴族風の服を纏い優男といった風情の顔つきの男…王太子シャルルは玉座の上から跪く二人の男女に言葉を紡ぐ。

 

「ドン・キホーテ・デ・ロレーヌくんとジャンヌ・ダルクちゃんだね。まずはよく来てくれた、歓迎するよ」

 にっこりと笑う茶髪の王太子。

けして美男子と呼べぬが、それでも整った顔で微笑むそれは、時代さえ良ければ大層愛妾を囲えたことであろう。

 

 もっとも、今のフランス王家にとってこの時代は最悪であるのは間違いない。

 

 ヴァイキングの末裔たるイングランド王はフランス王の名を求めフランスがそれらとの苛烈な戦に身を投じてから早80年ほど。

 

 フランス国民は疲れ果て、しかもあまつさえイングランド王をフランス王として仰ぐものも出てきた。

 

 パリは奪われ、ランスでの戴冠式など行えはしない。

そんな絶望的な中、シノンにてフランス起死回生の策を臣下らと練っていた王太子シャルルの元へヴォークルール城主よりある伝令が入った。

 

 曰く、神の声を聞いたと言う狂女が来たと。

曰く、その女は聖女らしいと。フランスに勝利をもたらすとのことであると。

 

 あとついでになんかヤバい男も付き人にいるというのもあったのだが、シャルルはこれを利用しようと考えた。

 

 というより、もう後がないのだ。

客寄せパンダでもなんでも居なければまともにフランス軍が機能しないくらいに士気の低下が甚だしい。

 

 王位の正統性が薄れている王太子、パリを奪われた王太子、フランス王太子(笑)。

 イングランドからのプロパガンダ含め散々な言われようなのだ、そこらの農婦を聖女として担ぐなど正真正銘最終手段であったのだが…。

 

(なるほど。この立ち振る舞いは…聖女と言われても疑いは持てないね。横の自称騎士は――ロレーヌ公がそんな名前の騎士を雇っているとは記録がないし、あとでカマでもかけてみるかな)

 

「さて、ジャンヌ・ダルクよ。僕は君を正式にフランス軍の聖女…指揮官として受け入れよう」

 

「殿下、左様な横暴は!」

 

「僕は君に発言を許したつもりはないが?それともなんだ、正統性に疑問のある王太子になど発言の許しを得る必要はないと?」

 

「い、いえ、そのような事はありませぬ」

 

「ならばいい。君が忠臣であることは承知の上だ。あぁそれに。他の臣下たちのことも勿論信じているよ」

 

「さて、聖女ジャンヌ・ダルクよ。君が正当な聖女であるかどうかはこの後にきちんと調べるとして……横のドン・キホーテくんは何者なんだい?」

 

「殿下、ありがたきお言葉。そして……ドン・キホーテは我が騎士に御座います」

 ジャンヌ・ダルクは跪いたまま、そのように言葉を返す。緊張感は感じられない、礼儀知らずというふうには思えない…さすが聖女といったところなのだろうか?なにより、(自称)騎士ドン・キホーテ卿を羞恥なく自身の騎士と言えるとはジャンヌもだいぶ染まっている風な感じもある。

 

「ハハハ!騎士だと?革鎧のその男が?笑わせる!殿下、やはりすぐさまその農婦をつまみ出しましょう!」

 

「―――騎士の主君を惜しげもなく侮蔑するとは王家の貴人も堕ちたものですな」

 

「なに?」

 

「シャルルマーニュの血を継ぎしフランス王家の方々、我が主がそこに身を預けると聞いて安心しておりましたが、見当違いのようだ。ジャンヌさ…ジャンヌ、やはり去りましょう」

 

「ふぇ!?あ、アロンソ!何言ってるのですか?ステイ!ステイです!不敬になりますよ!」

 珍しくあわあわしてドン・キホーテ卿を止めようとしているジャンヌ。まぁこのバカは何をやらかすかわからないのでいつもあわあわしてそうなので、やはり可哀想である。だが聖女をあわあわさせるとはドン・キホーテ卿もなかなかの強者と言えよう。

 

「田舎者が私に楯突くとは。我が爵位は「爵位など興味ありません。所詮は位を称するものに過ぎぬ。貴殿の人となりを信じるに値せぬものとしたまで」

 

「な、こ、こやつ!おい、衛兵!いますぐこいつを打ち首に!」

 

「やめよ。疾く控えるが良い」

 

「で、殿下!流石にこのような無礼は」

 

「控えろと言った。次はないぞ、私は血族だろうが容赦はせぬ。それともなんだ、我が令に背くとは貴公はイングランドの手の者であるのか?」

 

「ぐ、ぅ……し、承知致しました」 

 不満げな顔をしながら後ろに下がるデブ貴族。

プライド高そうだが仕事はできそうだ。ちょっと可哀想である。

 

「さて、ドン・キホーテ卿よ。貴公に尋ねたいことがある」

 

「王太子殿下のお言葉とあれば如何様にも」

 そして跪くドン・キホーテ卿。

リテラシー分かってんのかわかってないのかよく分からないのがさすが我らのドン・キホーテ卿である。

 

「貴公、我が騎士にならぬか?此の時勢にて貴公のような騎士は珍しい。我が騎士となれば貴公の家も相応の物とするが…」

 

「殿下の手前、大変申し訳ありませんがお断りさせて頂きます。私には既に主がいます故」

 

「ほう……こう言ってはなんだが、聖女殿は農婦の出だ。後で調べてみるものの貴人の血筋ではない。それと比べ、私はヴァロワの血を受け継いでいる。騎士としては主の位の高き者のほうが名誉と思うが?」

 

「貴人であるかどうかは血や位ではなく心や気風にありまする。大変な不敬と存じ上げて申し上げますが、この世には生まれながらにして王や貴人になった者は存じませぬ」

 

「この中にも、先祖が農夫や海賊であった方もおられることでしょう。しかし武勲や功績を挙げられて貴きを手に入れたことと存じ上げます」

 

「殿下、私の主は例え何があれどジャンヌ様がのみ。ジャンヌ様が望めば殿下にもお仕え致しますが、ジャンヌ様が望まねばお仕えはできませぬ」

 跪きながらそう述べるドン・キホーテ卿。

騎士物語みたいな事言ってるが、騎士の時代割と終わりかけなのにリアルでこれ言ってるのは結構アカンやつである。

 

「ふ、ふふ、ふふふふ」

 

「ふはははははは!いやいや、申し訳ない!流石だ、聖女殿。君は最高に素晴らしい騎士をお持ちのようだ!」

 

「いやなに、ドン・キホーテくんが単なるつまらぬものと思い試させてもらったが……思った以上に傑作だ。悪いということではない、むしろ君のようなものは非常に面白い!そして素晴らしい!」

 

「あぁ、シャルルマーニュ王の気持ちも少しはわかったかもしれないな。形だけの騎士ではなく心も騎士のものを相手とするのはこのようなことなんだね」

 

「あぁ。では聖女殿。改めて君にお願いしたい」

 

「ひゅあ!は、はい!」

 ぼーっとしていたジャンヌ。

思わずびくっとしてシャルル王太子の言葉に返事をする。

 

「君の騎士殿に細やかながら私から名前を授けたい。よろしいかな?」

 

「え!?あ、えーと、それは…」

 ちらっとドン・キホーテ卿を見るジャンヌ。

ドン・キホーテ卿はこくり、と頷く。

 

 少し考えたジャンヌ。

そして次の言葉を返す。

 

「大丈夫です、殿下。何卒よろしくお願い致します」

 

「そうかそうか!では、どうしようかなぁ」

 すると、さっきから顔を真っ赤にして我慢しているデブ貴族を一瞥するシャルル王太子。

 

「貴公、なにか良いものは思いつかないか?案がほしい」

 

「ぬぉ!で、殿下!あ、案ですか…そ、そうですなぁ?このどどど、ドン・キホーテ卿に名付けるにふさわしい名は…」

 いたずら小僧風に微笑むデブ貴族。

ろくな名前をつけそうにない。

 

「ローラン、などいかがでしょう?」

 訂正、こいつも中二病だった。

赤くなったのは多分酸欠だったのだろう。デブ貴族と思いきや隠れ中二病なのは珍しいことである。少なくとも騎士物語の騎士の名前を提案するなどだいぶ拗れている。

 

「いや…安直だからローランは却下だ」

 しょぼんとするデブ貴族。

シャルル王太子は思案して…そして結論を出す。

 

「よし、ドン・キホーテ卿。君にはフランスの名字を授ける。これからはドン・キホーテ・デ・ロレーヌ・フランスと名乗るが良い。貴殿を正式にフランスの騎士と認める」

 あとでロレーヌ公にも連絡入れとこうと思いながら、ドン・キホーテをジャンヌと一緒の客寄せパンダみたいにしようと思ったシャルル。

 

 だが、シャルルは心の隅でこうも思っていた。

この二人と友人になりたい、と。

 

 その出生より損得合理でしか動けなかったシャルル王太子。だが、彼はいつも孤独であった。

 

 しかし、彼は久しぶりに笑った。

滑稽であろう、馬鹿であろう、アホであろう。よりにもよって王太子の前で即刻打ち首になりそうなことを長々と述べる騎士など笑うしかない。

 

 だが……不思議と疑う気にはならなかったのだ。

そして、それが間違いでなかったことに気づく。

 

 たった一人の狂人の出現。

それはフランスの歴史…いや、世界の歴史を動かしていくのは未だ誰も気がついてはいない。

 

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