転生したドン・キホーテが真の騎士になるそうです 作:シデ・ハメーテ・ベネンヘーリ
「アロンソ、いいですか?今日はトゥールで武具を揃えます。ですから、あなたも何かと暴れないように…」
「ジャンヌ、心配は無用です。流石に私も革鎧では心配でしたからな!ちゃんとした鎧を頂きます!」
「えっと、ですからそういうことじゃなくて」
ガヤガヤと戦時であるにも関わらず賑やかなトゥールの道を歩く"ライオンの騎士"ドン・キホーテ・デ・ロレーヌ・フランス卿と聖女ジャンヌ・ダルクの二人。
シェール川とロワール川のほとり。ロワール渓谷の一角にあり重要な地域でもありながら古代ローマより存在する歴史ある街。
二人はそんなトゥールに武具と軍旗を揃えに来ていた。
もっともジャンヌは一応は軍の司令官であるので貸し与えられた甲冑鎧を纏っており、その腰には古ぼけた細剣を佩いていた。
これは単なる伝承のたぐいであるのだが…トゥールへと向かう道中、ジャンヌはサント・カトリーヌ・ド・フィエルボワという町にある教会の祭壇の後ろの地面に剣が埋まっているというような声がしたと言う。
そこで
五つの十字架とはかのキリストの聖痕に対応するデザインである。つまり聖剣と思われるそれがフランスの片田舎に発見されたのだ。
後世では事実とも眉唾とも称されるそれは、ここで確かに事実であったと読者諸君は知ることができる。
さて、後に《フィエルボワの剣》と呼ばれるそれはまだ錆びついているので当然ながらトゥールで研ぐ必要はある。
閑話休題。そんなことより我らがドン・キホーテ卿は教会で剣を見つけたことで一瞬自分のための剣ではないか?と頭によぎったが、じっくり剣を見ていた己を疑うようにジト目で見てきたジャンヌを見て常識人でありなにより主君に忠誠を誓う彼の思考がそれを唾棄。
そういうこともあって剣を得られなかったドン・キホーテ卿。とりあえずはトゥールで武具を揃えて、戦果を上げて王家の剣を下賜してもらえないであろうか?と狸の皮算用のごとく思考していた。
だが、原典のごとくドン・キホーテ卿の主装備は槍であり、無論ドン・キホーテ卿は剣はそうだが槍を優先的に手に入れたい考えでいた。ついでに言うならドン・キホーテ卿は自身の愛馬であるロシナンテがこの広大なガリアの地にいる事を信じてトゥールの街中を血眼で探りまわっていた。単に何か騎士っぽいランスチャージがしたいだけじゃないか?という無粋な詮索は無用である。
武具屋。
優しげな若い男店主がドン・キホーテ卿の装備を、女の店員を遣わせてジャンヌの装備のサイズなどを測っている中。
「いや…ふふ、キミ良い体してるね」
「?それはまぁ、鍛錬せねば騎士が廃りますから」
前言撤回。
どうやらホの気がある店主は頬を紅潮させながら、なんか変な手付きでドン・キホーテ卿の体格を測定…もとい吟味しているようであった。
「フフッ、いや、今夜よければ僕の家にどうだい?そこの女性は別部屋になるけど…」
「今日は宿が決まっておりますので、申し訳ないがお断りさせて頂きたい。ですが提案感謝いたします」
たぶんそういうのに遭遇したことがないドン・キホーテ卿は自身の体をさわさわされていることに一切気づくことなく、自分の家に泊まらせようとしてくれるなんていい人なんだ!という馬鹿なのか純粋なのか分からない思考をしていた。自己の貞操の危機であることに気づかずに。
そして、店主の目がゆっくりとドン・キホーテ卿のドン・キホーテ卿のほうの位置へと向かう。まるでその目は兎を狩ろうとする狐がごとく。
そして、手が伸ばされる。あぁ、可哀想なドン・キホーテ卿!
だが刹那、その手が力強く掴まれた。
店主は咄嗟に振払おうとするが、ピクリとも動かない。
まるで…そう。筋骨隆々の男にでも掴まれているようなその感覚。だが、腕を見るが明らかに細腕である。
「店主様、もう測定はお済みでは?」
店主の目に映るはニッコリと微笑む聖女。
だが、店主はその笑みに慈愛ではなく別のものを感じる。
「お、はは、はは!そ、そうですね!すみません、もう済んでます!」
「む?そうだったのですか?」
聖女より解放されてからドン・キホーテ卿よりパッと離される店主の手。それを見て一瞬?マークを頭に浮かべるが気にせずジャンヌの方を向くドン・キホーテ卿。
「それはそうと、ジャンヌ。そちらはもう済まれたのですか?」
「はい、だいぶ前に。それよりアロンソ、少しは貞操について教育する必要があるようですね」
「む?貞操…ハハハ!ジャンヌ、騎士たるものそこに心配はありません!それに先程は男同士であったではないですか!そんな話になり得ることは「いいですから、少しそっちの椅子に座ってもらえますか?」…はい」
そして互いに向かい合って机を挟み椅子に座る。
そしてその日はなぜかジャンヌにドン・キホーテ卿が「まずあなたは自分の貞操観念というものをしっかりと見直しなさい!」というふうなことで小1時間も叱られる。
ちょこんと椅子に座ったドン・キホーテ卿はなんで何もしてないのに自分が怒られているのかわからないまま、そして店主は骨折寸前だった自分の青くなった腕で作業をしつつ、二人の男は憂い顔で今日を過ごすことになるのであった。