転生したドン・キホーテが真の騎士になるそうです   作:シデ・ハメーテ・ベネンヘーリ

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青髭

 1429年4月29日。

 

 オルレアン。

ジャンヌ・ダルクといえば?と言われると真っ先に思い浮かぶのがオルレアン防衛戦だろう。

 

 シャルル7世の軍勢を破り、威風堂々とフランスの心臓の大手門と言っても過言ではないオルレアンをイングランド軍が狙うのは必然であったと言えよう。

 

 そして現在強固なオルレアンはイングランド軍の築城した砦に囲まれ、完全なる持久戦となりつつあった。

 

 もっとも補給線を構築しているイングランド側は待てば勝てるものの、完全に陸の孤島と化したオルレアンの中に籠もるフランス軍は決め手に欠けている上に食料も有限である。結果的にオルレアンにて指揮を取るジャン・ド・デュノワ司令官はフランス王や諸侯からの加勢を以ての最終攻勢での勝利を望むしかなかった。

 

 そんなデュノワ司令官の元に訪れたのは、雑多な装備のフランス軍を率いる聖女と名乗り王より担ぎあげられた少女。

 

 純白と金で象られたフランス王家の旗を掲げ、オルレアンを助けようと向かってきた少女を最初はデュノワ司令官も疑っていた。

 

 だが、少女の眼の真実味や立ち振る舞いなどがデュノワ司令官にとって信じるに値する存在となった。

 

 しかし、増援として本隊が来るのは約5日後ほど。

それまで、ジャンヌ・ダルクとドン・キホーテ・デ・ロレーヌ・フランス卿はオルレアンにて待機をすることとなるのであった。

 

 

 

「宮廷より騎士として派遣されましたジル・ド・モンモランシー=ラヴァルと申します。聖女様…以後、お好きなようにお呼びくださいませ」

 オルレアンの司令部の置かれた聖堂の中で、少しばかり痩せた顔つきの男――一般にジル・ド・レと呼ばれる男が兜を外し、跪きジャンヌへと挨拶をする。

 

 もっともジル・ド・レは、宮廷内でジャンヌに自身の立場を奪われることを危惧したラ・トレモイユ卿より派遣されたいわゆる監視役であった。

 

 一般に青髭になるまではまともだったと言われるジル・ド・レであるが、実際には青髭時代までではないもののいくつかトラブルを起こしていた不良騎士であった。

 

 そんなジル・ド・レはラ・トレモイユの政争をするための軍事上の手駒としていいように使われていたので、今回もジル・ド・レは精々仕事を行うまでというふうな調子で無気力な雰囲気を漂わせている。

 

「私はジャンヌ・ダルクと申します…ただの農婦と呼ばれることもありますが、フランス王より正式に司令官と聖女の名を賜りました。今後とも永くよろしくお願いしますね?」

 

「私はドン・キホーテ・デ・ロレーヌ・フランス!フランス王家より騎士の称号を賜った者だ。同じ騎士としてよろしくお願い致しますぞ」

 ジル・ド・レは聖女を見る。

確かに、どこか神気を感じる立ち振る舞いに笑み。だが、所詮はそれすらも演技かもしれぬ。このオルレアンで見極めてみせようと心の内で呟く。

 

 そしてもう一方…ドン・キホーテを見てジル・ド・レはどこか心にしこりのようなものを感じる。

 

 古ぼけた鉄の鎧…おそらくは誰かしらが扱ってた物を拵えなおしたものだろう。腰にかかるファルシオンも同じく、背中に備えたグレイヴもけして華美な騎士とは言えない。

 

 聖女の隣にイカれた騎士(まぁ実際そうなのだが)がいるとラ・トレモイユ卿から聞いていたジル・ド・レは、見聞とは違うその姿になにかを覚える。

 

 ジル・ド・レは幼い頃より祖父より放任されて育った。

貰えぬものは何もない、まさしく退廃貴族然とした教育環境と家庭環境。

 

 しかし、目の前の男は違う。

フランス…いや、明らかに違う。様々な騎士の混ざりものに見えた。

 

 だが、その目はまさしく騎士。

少なくとも、自ら狂気に飲まれ狂気を是としたドン・キホーテ卿は紛れもなく騎士であったのだ。

 

 それこそ、何者か著名な騎士が憑依したと言われても疑う余地がないまでに。

 

 それ故に、ジル・ド・レは奥歯を噛む。

"私がなれなかったもの"。

 

 改めて、見つめ直す。否。

睨みジル・ド・レは静かにドン・キホーテ卿へと声を投げつける。

 

「そうか。ドン・キホーテ・デ・ロレーヌ・フランス卿、貴公に決闘を申しつける。はたしてまことにフランス王家に認められて聖女の傍にいるに貴公が相応しいのか。よもや断るまいな?」

 その声に、ドン・キホーテ卿はニッと白歯を見せて笑い。

そして溌剌と声を返す。

 

「ジル・ド・モンモランシー=ラヴァル卿、貴公よりの決闘を受ける。共に騎士として存分に高め合おうではないか」

 

「え、ちょっと今からオルレアンの戦術会議に向かうのですよ!?それにイングランド軍と戦う前にそんな仲間割れをしてはなりません!」

 

「ハハハ、偉大なる聖女よ。それは違いますよ」

 ふと、背後から声が響く。

そこにいるのはうら若きデュノワ司令官であった。

 

「二人の騎士が自身らの力を確かめ合うため、そして誇りをぶつけ合うのです。不肖ながらこのジャン・デュノワ、お二人の決闘を仕切らせていただこうではありませんか」

 

「もちろん死なれては困りますので互いに武器は刃を落とした訓練用の武器を選んでいただきます。互いに戦闘不能と私が判断したらその時点で勝敗を決定」

 

「さて両者、いかがかな?」

 もはや返事は決まっていたようなものであった。

そして返された返事に対しデュノワ司令官は微笑めば、呆然とするジャンヌへと振り返る。

 

「戦術会議は少しばかり遅らせましょう。イングランドとの戦いの前に余計なわだかまりは除いておきたいですからな」

 

 正午。

太陽がオルレアンの市街地を照らしつけている。

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