転生したドン・キホーテが真の騎士になるそうです 作:シデ・ハメーテ・ベネンヘーリ
「そんなものか、ドン・キホーテ卿!そんなものでは、王家に仕えるには足りませんね!」
剣を振り下ろし、ドン・キホーテ卿を気絶させんとするジル卿。
「まだまだぁ!」
それを相手に笑みを浮かべながら剣を避けるドン・キホーテ卿。
刃を落としたエストックと呼ばれる細剣を持ったドン・キホーテ卿。同じく刃を落としたロングソードと盾と言ったベーシックな武装のジル卿。
互いに実戦訓練や決闘で扱われる全身鎧を身にまとい、しかし馬には跨がらず地面を蹴っての戦いを行っていた。
(思ったより、強い。単なる口だけの者と思えば…だが、妙な剣術を使う!)
ドン・キホーテ卿の動きを見て、ジル卿は歯ぎしりをする。
それもそのはず。
ドン・キホーテ卿が使っている剣術はイタリア剣術でもなければドイツ剣術でもない。スペイン剣術と呼ばれるこの時代にはないモノ。
スペイン剣術の最大の特徴は数学的に計算された幾何学的な動きで敵の動きを読むかのように…そう、まるで闘牛を相手にするマタドールの如き戦闘機動で敵を翻弄し、隙を見つければその剣で刺し殺すのだ。
父から教えられたドイツ剣術、前世よりの知識にあるスペイン剣術。この組み合わせや使い分けを行う我らがドン・キホーテ卿。思慮深く知識に富んだ彼が、いかに努力をしたかは表現するまでもない。
特にスペイン剣術に関しては前世の知識のみで師範はいない。南よりもたらされたイタリア剣術の写本を手に独学でスペイン剣術を脳内で構築、学んだ自己流の剣術とも言えるだろう。
そしてその成果が今、成し遂げられようとしていた。
ジル卿はロングソードと盾でのフランス騎士流の剣術による戦いを行っているが、振った剣は避けられシールドバッシュしようにも飄々とした動きに合わせることは困難である。
「くっ、あ?」
そして……首に刃が突きつけられる。
もっとも先端には球状のものが取り付けられているので死にはしないが、決まりだった。
「ジル・ド・モンモランシー=ラヴァル卿。良い腕でした」
「………」
がくっ、とジル卿の腰が崩れ、その場に座ってしまう。
敗北の虚無感によるものか、別のものか。
だが、ジル卿は笑う。
憑き物が取れたかのごとく。
「ジル。ジルで構いません、ドン・キホーテ卿」
「貴公は王の騎士に相応しい。私が保証人です」
伸ばされたドン・キホーテ卿からの手を掴むジル卿。
だが、その片手には刃落としされたダガーが一つ隠されて握らていた。更に勝利の声が審判よりまだ挙げられていない。
「…うぉお!!」
「ジル卿、お見事です」
言葉とは裏腹に、エストックの先端でジル卿の手……その先にあるダガーごと押さえつけるドン・キホーテ卿。
隙が全くなかった。
油断していなかったのだ。
「勝負あり!ドン・キホーテ卿の勝ち!」
ある口伝によれば、ジル卿とドン・キホーテ卿はこれより友になったのだという。ドン・キホーテ卿と共に聖女を守らんとする騎士が、この決闘を経て生まれたのである。
「アロンソ」
「は?どうかされましたか、ジャンヌ」
「あなた。私に一言もなく決闘を受け入れましたね?」
「ああいや、それは…」
「そこに座ってください。お説教の時間です」
決闘が終わった後の黄昏のオルレアン。
広場に置かれたベンチを指差す聖女の顔は、不思議と怖かった。
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