転生したドン・キホーテが真の騎士になるそうです 作:シデ・ハメーテ・ベネンヘーリ
5月7日。イングランド最後のオルレアン攻撃での砦とも言えるレ・トゥーレル要塞がフランス軍の手によって落ちた。
同時に聖乙女ジャンヌの活躍はまたたく間にフランス全土へと響き渡る。
神が遣わせた使徒。
聖者であると讃えられたジャンヌ……だが、実際に行った戦い方は至極合理的なものだったことは当時はあまり知るものは少なかった。
「野戦に砲兵を持ち込む……たしかにそれは思いつかなかった」
ジル・ド・レェ卿はオルレアンの周辺の戦場跡を見れば、その荒れ様とジャンヌの戦法に舌鼓を打つ。
「当然ですな。我が主ですので!」
「ハハハ、相変わらずドン・キホーテ卿はジャンヌどのを信じられておられる!ですが……私がもう気になることがひとつ」
「ドン・キホーテ卿、『知っておりました』な?」
「―――ハハ、何をおっしゃいます。ジル・ド・レェ卿……私はただジャンヌの花道に手を添えただけなれば」
くすんだ鎧。
剣を地面に刺しながら話し合う男二人の話に、華々しさの欠片はない。
「フランス貴族というのは学習するものが少ないものでしてな。突撃、突撃、突撃すれば勝てると思う。それを裏手に取られイングランド弓兵に殺されるのは多々あった。ポワティエしかり今まで然り」
「ですがドン・キホーテ卿。あなたは違う…重騎兵に遥か劣ると言われる農民上がりの軽騎兵を分け与えられながら、至極有利な位置へと動かした。まるで……ジャンヌの野戦砲兵戦術に適した戦術機動であった」
「軽騎兵を重騎兵のごとく扱う術、よければご指導願いたい、ドン・キホーテ卿。あなたの戦術を」
先程から黙しているドン・キホーテ卿に、ジル・ド・レェ卿は教えを乞う。物憂げな目をしていたドン・キホーテ卿は、それに対し唇を開けば。
「軽騎兵は機動性に優れます。ハンガリーの方などもそうですが、重騎兵はある一定の火力に対しては軽騎兵に大きく劣ります」
「ですが、軽騎兵はもとから装甲がなく速い。馬の突破力はありますからね……扱いは難しいですが、今後は主流になるでしょう」
「なるほど。しかしドン・キホーテ卿。それでは騎士を駆逐してしまうのでは?」
「騎士とは面持ちですよ、ジル・ド・レェ卿。自らの理想のために部下を殺すのは……騎士ではありません」
ニッコリと笑うドン・キホーテ卿。
ジル・ド・レェ卿はそれにどことなく何かを感じてしまう。
「ドン・キホーテ卿、なにかあったのですか?」
「なにか、とは?」
「いえ、顔持ちが暗いと思った次第です。いつもであればもっとはつらつとされているでしょう?」
「あ、あぁ。ははは!少しばかり感傷に浸っていたのです。初の戦いですからな!しかしジル・ド・レェ卿に言われて目が覚めました。もう、戦も終わっておりますからな!」
はつらつと話すドン・キホーテ卿。
だが……その顔に、なにか影が差し込んでいた。