転生したドン・キホーテが真の騎士になるそうです 作:シデ・ハメーテ・ベネンヘーリ
オルレアン解囲から2日。
ジャンヌ一行はロッシュに滞在するシャルル王太子殿下のもとへと向かっていた。
「もうすぐロッシュにつきますね。アロンソ」
「……」
「アロンソ?」
「あ、あぁ!そうですな、ジャンヌ……はは、殿下に粗相はできませんな」
それを見て、ジャンヌは少しばかり不安げな表情を見せた。自らの騎士を名乗り戦ってくれているドン・キホーテ卿がオルレアン戦からずっとこの調子なのだ。
不安や躁鬱とは無縁といったドン・キホーテ卿が暗げな雰囲気を見せるのはジャンヌにとって初めてと言っても過言ではなかった。
「アロンソ」
「はい、ジャンヌ」
「あなたは私の騎士をやめたくなったのですか?」
「え!?いえ、そのようなことは断じてありません!」
「では、なぜそのように思い悩んでいるのですか?」
言えるはずがない。自身があの悪夢から狂気に染めきれてないということを。自分がピエロだということを知られてはならない。
「アロンソ、あなたは私の騎士です」
「悩みがあれば言ってください。それに」
「アロンソが思い悩んでいるとなれば、私はとても心配なんですよ?」
文字通り太陽のように微笑むジャンヌ。
ドン・キホーテ卿は、口を噤むまま考える。
そうだ。
私は、騎士だ。狂気などとは関係のない、騎士ではないか。
外聞、内聞、人から謂れのないことを言われようと。
私は騎士だ。私は、ドン・キホーテ。聖乙女ジャンヌ・ダルクより叙勲を受けし、まごうことなき騎士なのではないか?
「ジャンヌ。私はあなたの騎士としての責務が果たせないのではないかと心内で思い悩んでいました」
「アロンソ、それは違います。あなたは私の騎士として、十分に責務を果たしてくれています」
「私はその言葉に救われたのです、ジャンヌ。もう悩むことはありません」
ドン・キホーテ卿は自身が跨っているイングランドから鹵獲した老馬を同時に見る。
あぁ、この感覚。どこか湧き水のように考え出てくる。
そうだ、お前にも名を付けてやろう。私が改めて騎士としての面持ちをやりなおしたこの時をもって。
「ロシナンテ!」
「アロンソ?いきなりどうしたのですか!?」
「行くぞ!ロシナンテ!殿下のもとへ走るぞ!」
その言葉を待っていたと言わんばかりに老馬……ロシナンテは前足を上げてヒヒィン!と叫ぶ。
その姿はまるで。
まるで、往年の卿のようであった。
ロッシュ。
フランス中部に位置するこの小さな都に、王太子は滞在していた。
後日訪れる戦略会議のために中部へと訪れているのだ。
他の貴族もチラホラと見える様子がある。
「やぁ、お二人とも!よく来てくれたね!」
シャルル殿下がいると聞いてた大聖堂へと入ると、早速奥で暇をしていた殿下が迫ってきたと思えば手始めにドン・キホーテ卿へと抱擁を交わしたではないか。
「ドン・キホーテ卿、まずは君に抱擁だ!よくやってくれたね!」
「いやはや殿下!熱い抱擁ありがたく存じ上げますぞ!」
「ジャンヌ、君もどうだい?」
「いえ殿下。私は……!?」
すると今度はジャンヌへと抱擁を交わすシャルル殿下。
とはいえ、ドン・キホーテ卿にしたものよりは短く。
「ははは、最近はセクハラとか宮廷でうるさいからね。あんまり女性にハグするといけないんだ」
「それよりもよく頑張ってくれたね、二人とも。僕は今すごく幸福だよ」
「オルレアン解放、それと共にイングランド軍は後退した。何十年ぶりのまともな勝利だろうね?」
柔らかな光の差し込む大聖堂。
聖乙女とその騎士であるドン・キホーテ卿、そして未だ冠を持たぬシャルル王太子殿下。
「僕はね、君たち二人を友人だと思っている」
「身分とかではない。だから、この戦争が終われば存分に友人として遊ぼうじゃないか!まぁ、仕事は来るだろうから四六時中は無理だけどね」
「もちろんです、殿下!このドン・キホーテ、偉大な友人を作れることを喜びますぞ!」
「フフフ、その調子で僕の騎士になってくれないか?」
「それは無理ですな、殿下。私はジャンヌの騎士ですゆえ」
「全く頑固だ!それがいいんだけどね」
そんな風な二人を見るジャンヌはにっこりと微笑み、そして一人思う。平和な世の中が訪れたら、自らはどうするのだろうか?と。
世の女性は結婚をするものだという。だが自分にはそのような人はいるのかと思うジャンヌ。するというわけではないが、興味はある。ジャンヌは聖女の前に年頃の少女であるのだ
ふと、目をやると溌剌に笑うドン・キホーテ卿が目に入った。
「…やめです。まだ戦争も終わっていないのに」
でも。
もしも平和になれば…その時は。
ロッシュの空は明るく青色に輝いていた。
フランス王家の旗色が如く、爛々と。