鬼滅の波紋疾走 JOJO'S BIZARRE ADVENTURE PartEX Demon Slayer 作:ドM
「ん……。うぅ……。こ、ここは……」
青年が覚醒する。
(ぼくは、確かディオと……。暗い……。真っ暗だ。それに、狭い)
青年は重たく感じる瞼を開けるが、辺りに明かりらしきものは見当たらない。両手で周囲を探ってみると、立ち上がることすら出来ない程密閉された空間だと分かった。
(全面が、柔らかい……)
手触りから察するに、壁と天井にはクッションのようなものが張り付けられているようだ。その造りは非常に頑丈で、ちょっとやそっとの力ではビクともしない。更に探ってみると、自分の首元にサラサラとした砂のようなものがあることが分かった。
(閉じ込められている……?)
動かす手も鉛のように重く、体がだるい。後の妻に手厚く看病されている最中、意識を取り戻したときもこのような気怠さだった。
「……ハッ! そうだ! エリナッ! エリナは無事なのかッ!? あの赤ん坊も!!」
意識にかかっていた靄が吹き飛んだ。自らが助けたいと願った最愛の人と、母を失った赤子が置かれている状況は、自分のそれよりも遥かに重要だ。
(どこかに閉じ込められている? ディオ……。君の仕業なのか!?)
その可能性が充分にあった。自分は船上での戦いで間違いなく死んでいた筈。だが、そんなことを考えている場合じゃない。今やるべきことは一つだ。
「この場から脱出する!」
青年の眼に闘志が宿る。
コオオオオオオオオオオオ
偉大なる師から教わり、数多の死闘において繰り返されてきた、呼吸による力。
(口内がひどく乾いている……。呼吸をするだけで喉と肺に刺すような痛みが走る……! だが、それでもッ!)
「
山吹き色に輝く拳により、天井に怒涛のラッシュを仕掛ける。
(硬いッ! かなり頑丈だ! それなら何度でも!)
天井を殴打する轟音と共に、拳がより一層輝きを増す。
「ウオオオオオオオオオッ!」
轟音の中に金属が軋む音、破片が飛び散る音が入り混じる。その圧倒的破壊力を物語っていた。本来、青年を閉じ込めていたソレは、爆薬数十樽分の破壊力にも耐えうる極めて頑丈な代物だ。
だが、青年の唸る拳はその丈夫さもお構いなし。轟音と共に、天井が軋んでいく。
「これでどうだァ───ッ!!」
バッグォォ────────ン!!
最後の輝きと言わんばかりの大きな大きな爆音と共に、青年を押し込めていた天井が空高く吹っ飛んだ。
青年はすぐさま立ち上がり、彼の全貌が明らかになる。
身長195㎝。体重105kg。黒い髪に大木のような腕と脚。首筋に浮かぶ星形の痣。はち切れんばかりの筋肉。ボロボロになった正装には乾いた血痕がいくつもついており、重機関車を思わせる屈強な肉体は微かに痩せたものの未だ健在だ。
青年の名は、ジョナサン・ジョースター。通称ジョジョ。イギリスの名門貴族。ジョースター家の当主ジョージ・ジョースター一世の一人息子。人間を吸血鬼に変えてしまう太古の呪物、『石仮面』に端を発する戦いに身を投じ、数多の死闘と出会いを経て、その血の
「よしッ!」
ジョジョはすぐさま飛び出して戦闘態勢を取り、周囲を見渡す。日は沈み、月と星が瞬いている。夜だ。穏やかに波の音を立てる海と、緩やかに波打つ砂浜。自分が海岸にいることが分かる。
「……」
敵の気配を探ると、少なくとも近くにはいないことが分かった。次にジョジョは足元を確かめる。そこには、蓋を吹っ飛ばされた豪著な棺桶があった。
(ぼくはこの棺桶の中に閉じ込められていたのか……。そして、ここに漂着した)
棺桶の中には、吹っ飛ばした蓋の残骸だけでなく、人の頭一つ分ほどの灰の山があった。
(この灰は……。この気配は……。ディオ……!? そうか、君はもう……)
完全に使い果たしたように思えた波紋はほんの少しだけ残っていたのだろう。どちらが先に力尽きてもおかしくない状態だった。波紋の力がディオの生に終止符を打ち、ジョジョを生き永らえさせた。運命は、ジョナサン・ジョースターに味方した。
不倶戴天の宿敵であり、親の仇であった筈のディオだが、戦いの果て、何故だか友情のようなものを感じていたジョジョ。その灰を見て沈痛な表情を浮かべる。決着はついたというのに、その心は悲しみで満たされていた。
(もう、考えたって仕方のないことだ……。ディオ。どうか安らかに眠ってくれ……)
かつては家族であったこともある男に追悼の意を捧げ、ジョジョは周囲の状況把握に乗り出す。
(それにしてもここは……。ん? あ、あれは!?)
ジョジョは目に入ったものを見て驚愕する。砂浜を越えた先に建物がある。それは、知識では知っていたものの現物を生まれて初めて目にした。暗くて見え辛かったが、それでも分かるほど特徴的な建築物だ。
茶色がかった木材で形成された壁に、曲線の入った屋根瓦。入口横に据え付けられた大きな布地には、漢字で大きく『鮮魚』と書かれていた。尚、ジョジョには読めなかった。その隣にも、隣の隣にも似たような様式の木造建築が並ぶ。
建物を観察していると、住民が家の入口から恐る恐る顔を覗かせた。蛇腹になった紙で作ったランタンのようなもので明かりを確保している。どうやら驚かせてしまったらしい。全員男性だ。恐らく家主だろうか。黒い髪に黒い目、黄色がかかった肌に寝巻用の浴衣。東洋人だ。彼らを見て、ジョジョはここがどこなのか確信した。
(な、なんてことだッ! ここは、東洋の最東端! 日本じゃあないか!!)
19世紀に入り、英国と日本の交流も盛んになっていた。イギリス名門貴族の出であり、貿易商を営んでいた父のおかげで、ジョジョは日本文化への知識も多少あった。自身が幼児だった頃には、祖国にイワクラ使節団が来訪したことを知っている。
(……あの人たちには悪いことしちゃったな)
日本人は礼儀を重んじると聞く。ジョジョは、家から顔を覗かせている人々に向かって、深々と頭を下げた。言葉までは分からないので、自身の気持ちを態度で示した。暫くすると、住民たちはどこかほっとしたような表情でそそくさと家の中に引っ込んでいった。暗く遠目でも分かるほど、ひどく何かに怯えているようだった。
(随分怖がらせてしまったようだ……)
住民を不用意に怖がらせてしまったことに責任を感じるが、今は気持ちを切り替えることにする。ジョジョにはまだやるべきことがあった。
(少なくとも、不意打ちを狙う輩は近くにいないが、念には念を入れよう。可能性は低いけど、ぼくと一緒に流れ着いたディオの手下がいるかもしれない。彼らに危険が及ぶ可能性が少しでもあるなら、確かめなきゃ)
コオオオオオオオオオオオ
独特の呼吸音と共に、ジョジョの手が淡く輝きだした。
(
ジョジョは、その辺の砂を両手の平でありったけすくい、波紋の力を注ぎ込む。
ピッシィィィィィ
異音と共に、砂が大きな器に変貌した。更に、砂で形成された器で海水を掬い取ると、器の中の海水が独特の形状で渦巻きだした。
海水の波紋を伝わり。砂の器を伝わり、腕を伝わり、体を伝わり、地面を伝わる。波紋の力による探知機だ。かつて、吸血鬼と化した殺人鬼との戦いで会得した技である。自身の成長を経て、その性能は強化されていた。
(これは、
危険を感じ、すぐさま波紋が探知した気配に向けて走り出す。罪のない日本人が
ジョジョは、砂の器を片手に気配の元へと疾走した。
大正の奇妙なコソコソ噂話
ジョジョが大西洋から日本に流れ着いたのは、スタンド使いがスタンド使いにひかれ合うように、波紋が鬼にひかれたからです。多分