鬼滅の波紋疾走 JOJO'S BIZARRE ADVENTURE PartEX Demon Slayer   作:ドM

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前回、19:00頃間違えて執筆途中の方を投稿してしまい、結果として修行パートが丸々すっぽ抜ける大惨事になりました……。申し訳ありません! 現在修正済みです! 後、小説版読んでたらお婆ちゃんの名前が判明したのでそこも修正してます!

ぎ、ギリギリセーフ(;'ω')


那田蜘蛛山の悲劇 前編

 ひさの家に滞在してから早二週間が過ぎた。朝焼けが見え始めた。起きる頃合いとなった時間、寝室で炭治郎、善逸、伊之助はまだ寝息を立てている。ジョジョは、また三人よりも早く起床し、その様子を真剣な表情で見守っていた。

 

「……」

 

「ムー……」

 

 ちょっと距離を置いて、禰豆子も見守っていた。十二歳程の体で、何故かジト目だ。これは、習慣になりつつあるジョジョの真似である。波紋の気配で抱っこされたくてもできない時間を繰り返している内に、自然とこうなってしまった。親の真似をする子供の原理だ。

 

ヒュゥゥゥ……

カァァァァ……

シィィィィ……

 

 眠る三人の息遣いに耳を澄ませ、ジョジョは喜びの表情で力強く頷いた。

 

(出来ると信じてはいたが、奥義と呼ばれる技術をこんなに早くマスターするなんて……!)

 

 かつてジョジョが、師ウィル・A・ツェペリから波紋法の基礎を学び一週間。そこからズームパンチを会得するまで一週間、計二週間かかった。三人が、"常中"の会得に至ったのも二週間。奇妙な偶然であった。

 

「……ん、朝だ」

「ハッ! 一番乗りィ!!」

 

 炭治郎と伊之助がほぼ同時に覚醒した。僅差で炭治郎が一位だが、それを言うと伊之助が不貞腐れるので触れないでおく。

 

「ふへへへ……やっぱ……禰豆子ちゃん……可愛いなぁ……シィィ……ンガ!? 伊之助の声!!」

 

 善逸はだらしない笑顔で鼻ちょうちんを出していたが、伊之助の声を聞いた途端に目を覚ました。元々耳が良いのでいつからかこうなった。寝言から察するに、夢の中で禰豆子と遊んでいたのだろう。それでも雷の呼吸を怠っていなかったのは大したものだ。

 

「おはよう。タンジロー、イノスケ、ゼンイツ。良いお知らせがあるんだ」

「おはようございます。良い……? まさか!?」

「俺が一番だろ……って、おい!」

「良い……お知らせ……マジ!?」

 

 寝起きの微睡みが瞬時に吹き飛んだ。

 

「できていたよ! 常中! よく、頑張ったね……」

「や、やった!」

「オッシャアアアアアアアア!」

「ああああああ!! 肺に穴が開くかと思ったぁ────!!」

 

 三人は握り拳で両手を挙げて大喜びだ。善逸は号泣している。

 

「ムー!」

 

 つられて禰豆子も両手を挙げた。善逸は萌えた。

 

 何度も何度も何度も、肺の空気を絞り出された苦しみがついに報われたのだ。ついにとは言っても、常識外の習得速度だった。

 

 こうして喜んでいる間も、"全集中の呼吸"は切らしていない。三人とも、"常中"をモノにしたと言って差し支えないだろう。

 

 特訓中、"常中"の維持は徹底し続けた。模擬戦の時、パウられた時、食事の時、風呂の時、就寝の時、最寄の村で良縁の嫁入りがあるとの話を聞いて皆で祝いに行った時、良縁に恵まれるという村の言い伝えがある花"ホオズキカズラ"を、花嫁姿に感化された炭治郎が取りに行った時、見つからなくて、ジョジョの提案によりみんなで探した時、どんな時も、全集中の呼吸を維持し続けた。

 

「ジョジョさん、本当にありがとうございました!」

「あ、ありがとうございました」

「…………礼は言っとくぜ」

 

 三人でジョジョに礼を言った。伊之助は頭を下げず、目線も合わせてはいなかったが、感謝の気持ちは本物だった。自分一人なら、これ程まで強くなっていない。敵を打ち倒すだけが強くなる道ではないことを理解できた。要は照れているだけである。

 

 奥義を差し引いても、三人は大幅に強くなった。実戦さながらの戦いで体は鍛えられ、連携も上達した。下手な"血鬼術"よりも奇妙な戦術を取る"波紋使い"との戦いは、かけがえのない経験として活かされていくだろう。

 

 小指でパウられるだけではなかった。落ち葉をくっつけて盾にする。その盾で空を飛ぶ。葉の一枚を取って投擲すれば肺の辺りへ的確にめり込ませる。三人の木刀同士をくっつけて惑わす。全身をツルツルさせる。距離を取ろうとしたら腕を伸ばしてパウられる。何より元々すごく強い。

 

(ものすごく勉強になった……)

(優しい音を出しながら滅茶苦茶してくるもんなぁ、この人)

(こいつやっぱ人間じゃねえ。葉っぱで空飛ぶとか絶対山の化身だ)

 

 とにかく想定外なことへの耐性が出来た。

 

「礼を言いたいのはぼくもさ。君達との戦いは、最高の鍛錬になった」

 

 ジョジョもそうだった。三人の実力者達による模擬戦は、非常に質の高い特訓となった。指導というのは、一方的に相手に物を教えることではない。自分自身の勉強にも繋がることである。

 

 戦えば戦うほど強くなるサムライ達との模擬戦は、終盤になるに連れ激戦となっていった。時には波紋で受け流しきれず、木刀なのに切り傷で出血することもあった。

 

「俺達も強くなったはずなのに、ジョジョさんも強くなってることに気付いたときは、この世の終わりかと思いました」

「おかげさまで」

 

 善逸は若干目が死んでいる。

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 仕上げにもう一度模擬戦を終え、ひさが奥義習得祝いにと、また天ぷらを振舞ってくれた。四人は喜んで美味しく頂いた。取引(?)の甲斐あって、伊之助は箸使いが上達し、すごい勢いで天ぷらにがっついた。マナーはまだまだこれからのようだ。

 

 食事を終えて暫くした頃、鎹鴉からついに指令が来た。

 

 目的地は那田蜘蛛山。

 

 ひさの屋敷から旅立つ時が訪れた。

 

「お世話になりました!」

 

 お世話になったひさに、四人で深々と頭を下げた。ただし、伊之助はジョジョが優しく頭を抑え、抵抗しても無駄だから諦めてるだけである。

 

「では切り火を……」

 

 そう言うととひさが"必勝"と書かれた木で固定された火打金を、火打石で叩いて軽い火花を起こした。

 

「ありがとうございます!」

 

 炭治郎がお礼を言うと、ジョジョが問いかけた。

 

「キリビ……。これは、何かの儀式かい?」

「はい、お清めや魔除けになるんですよ。あの文字は"必勝"と読んで、必ず勝つという意味が込められてます」

 

 伊之助は、切り火を攻撃と勘違いして威嚇しようとしたが、寸前で治まった。

 

「まじないの類か。ひささん、どうもありがとうございます」

「どのような時でも、誇り高く生きてくださいませ。ご武運を……」

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 那田蜘蛛山を目指して四人が走り、一人は木箱で眠る。伊之助が、ひさの言葉の意味を炭治郎やジョジョに何度も問い、みんなで丁寧に一つ一つ教えていると、やがて日は沈み、目的地が見えてきた頃には夜が訪れた。

 

「うう、怖いなぁ」

「弱味噌は治んねぇな、全裸」

「裸はお前の方だろ猪頭!! 怖いもんは怖いんだよ!」

 

 とは言うものの、善逸以外は速やかに入山する気だ。ジョジョすらいない独りぼっちは、もっと怖いので頑張って同行した。頼りになりすぎて、引っ張られていくようだ。

 

「……あれは!?」

 

 炭治郎が血の匂いで人の気配に気づいた。山の麓に倒れている青年がいた。黒い隊士服、背に"滅"の字、片手には日輪刀。鬼殺隊隊員だ。こちらを見て助けを求めている。顔にはいくらか血液が付着していた。

 

 炭治郎が駆けつける。

 

「大丈夫か!! どうした!!」

「い、糸だ……」

「糸?」

「け、血鬼術の糸だ! 隊員達が糸で操られて! 斬り合いになっている!」

「!?」

 

 一同の表情が険しくなる。敵の取った手段は、卑劣極まりない。

 

「お、俺は繋がれてなかったらしい。悪いがここで待機させてくれ……。怪我は大したことないが、足手纏いになる……」

 

 そう言って、隊員は匍匐前進で岩場にもたれた。命に別状はなさそうだ。

 

「ありがとうございます。ゆっくり休んでください」

「山の中には後九人いる……。どうか、どうか頼む……」

「はい! みんな、行こう!」

「ああ!」

「腹が減るぜぇ!」

「腕が鳴るだろ……。ひぃぃ……」

 

 炭治郎に続いて、ジョジョ、伊之助、善逸も入山した。堂々とした足取りだ。一人除いて。

 

「……」

 

 青年は、山中に入っていく勇気ある隊員達を見届ける。まず、炭治郎達の背を見た。

 

(あいつら、"常中"をやってやがる。俺より年下だろうに……)

 

 次に、青い隊服を着たジョジョの背を見る。

 

(青い服、奴か。西洋の鬼狩り……。でっけぇな……。宇髄様と同じぐらいあるんじゃねーか? いや、それよりも……)

 

 ジョジョの右手を見た。

 

(なんで、水の入った手桶なんかもってんだ……?)

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 森は木々が鬱蒼と生い茂っており、蜘蛛の巣が張り巡らされていた。暗く、視界が悪い。さっきから、捩れたような禍々しい匂いがそこら中から漂っている。炭治郎は、少し怖かった。だが、心強い味方がたくさんいる。迷いはなかった。

 

「一、二、三……」

 

 ジョジョが、持参した手桶の中の水を指差して数えている。手桶を持った手が、仄かに光っていた。

 

「四、五、六。気を付けて、鬼は六人。少し向こう側に四人いる」

「分かりました」

「六ぅ!? なんでそんなに群れてんだよ!?」

「うるせぇ!! 数はこっちと一緒だろうがぁ!」

「合ってねぇよ!? 一人足りねぇから!!」

「静かに、四人の中の二人がこっちに近づいてるみたいだ」

「……」

 

 善逸は沈黙した。

 

「あそこ、隊員がいる……」

 

 生き残りだ。こちらに背を向けて屈んでいる。髪は短めでサラサラとしたストレートヘアだ。体は震えており、怖がっているのが分かる。恐らく、まだ操られていない。炭治郎が肩を叩くと、焦った様子でこちらに振り返った。

 

「誰だ?」

「応援に来ました。階級・(みずのと)、竈門炭治郎です」

「同じく、我妻善逸です」

「俺だァ」

「ジョナサンです」

 

 鬼殺隊には階級制度が設けられている。炭治郎が名乗った"癸"は、一番下である。戦力としては正直心許ない。青年は、明らかに憔悴しており、炭治郎達が常中をしていることにも気づいていなかった。だが……。

 

「癸……。待て! あ、あんたは……聞いてるぞ。十二鬼月を一人倒したって言う、西洋の鬼狩りか……! 俺は村田だ。助けてくれ!」

 

 村田と名乗った隊員は、ダントツで目立つジョジョにすぐ気づいた。下弦の参を倒したことも、既に知れ渡っているらしい。

 

「はい。話は聞いてます。隊員達が操られていると」

「そうだ……。すぐそこに……。あっ!」

 

 村田が森の奥を指差し顔を青褪めさせた。

 

キリキリキリキリキリキリ

 

 糸が軋むような音と共に、森の奥から隊員が現れた。日輪刀を片手に立っているが、体はゆらゆらと揺れて、表情は虚ろ。口から血を垂れ流していた。正に操り人形の様相を呈している。

 

「あいつらだ! あいつらはもう……!」

「う……。ひ……ひどい……」

「気色悪い動きしてんな!」

 

 善逸と伊之助は隊員の惨状に顔を顰める。最初の隊員に続いて、後続が次々と現れた。操られた隊士たちは計四名だ。微かに息はあるが、意識はない。四名とも日輪刀を振り上げて、ゆっくりと接近してくる。

 

「あれなら()()()()なるッ! タンジロー! ネズコを!」

「はい!」

「ゼンイツ、手桶守ってて!」

「……分かりました!」

 

 ジョジョの呼びかけに応じ、善逸がやけに元気よく木製の手桶を預かり、炭治郎は突然木を登りだした。猿並の超スピードである。

 

「え、なんで登って……速ッ」

「やったぁ! ジョジョさん、のっけからあれやる気だっ!」

「おい……。出番ねーんじゃねーかこれ……」

「?」

 

 炭治郎はあっという間に頂上へ上った。

 

「そこにしよう」

 

 付近で一番太い木の枝に立つと、ジョジョへ合図した。

 

「やってください!」

「分かった! 思いっきりいくぞ!」 

 

 

 

コオオオオオオオオオオオ

 

 

 

「!?」

 

 ジョジョが、波紋の力を練り上げた! 来日して以来、最大級のパワーだ! 

 

「ひ、光ってる!? これが……。西洋の呼吸法……!」

「東洋らしいっすよ」

 

 善逸が突っ込んだ。一方、木々の上で炭治郎は次の準備に取り掛かった。

 

「起きるんだ! 禰豆子!」

 

 背負う木箱が音を立て、禰豆子が目覚める。体を成長させながら木箱から出ると、炭治郎の隣に立った。

 

「俺の肩に乗るんだっ! こことここ、足を乗せて大丈夫だから!」 

 

 炭治郎は、自分の両肩を叩いて禰豆子に指示を出す。

 

「ムー」

「よし!」

 

 禰豆子は指示に従って、炭治郎の両肩に足を乗せて立ち上がった。

 

「罪なき隊員達を弄ぶ悪鬼ッ! 許してはおけないッッ!!」

 

 ジョジョが拳を突き出して構える。そして、大声に呼応するかのように、体中が輝きだした! 

 

「ふるえるぞハート!」

 

 拳が輝きを増す! 

 

「燃えつきるほどヒート!」

 

 拳が更に輝きを増すッ!! 

 

「オォォォォォオ!! 木々を伝われッ!! 波紋ッ!!」

 

 

ド ッ ゴ ォ ! ! 

 

 

 ジョジョが、一本の木目掛けて拳を叩き込むッ! 

 

仙道波紋疾走(せんどうはもんオーバードライブ)ッッ!!」

 

 

ブゥワァァァァァァァァア

 

 

「今だっ! 禰豆子! 飛べぇ!!」

「!」

 

 禰豆子が炭治郎の肩を蹴って大きく飛翔! 鬼の脚力によるハイジャンプは、相当の滞空時間を可能とした! 

 

「広がれぇぇぇぇぇぇぇぇえええッ!!」

 

 

シュパァァァァ──────ンンン

 

 

 ジョジョの膨大な波紋エネルギーは、木を伝わり、葉を伝わり、大地にも広がっていく! 夜露のついた瑞々しい木々や花々が、余すことなく波紋を伝えていく! 

 

「う、嘘だろ!? も、森が……!! ま、眩しっ!?」

 

 村田は今! 現実が受け止めきれなかった! 当然のことだった! 夢でも見ているのかと思った! 森が黄金色に輝いているのだッ! その光は、暗闇を照らす、陽光の如しッ!! 

 

 

 そして当然、糸に伝わった! 

 

 

シュボォォォォォォォォオ!! 

 

 

()()()が燃えた!?」

「あれが糸かぁ!」

 

 黄金色の森は、操り糸を燃やし尽くし、糸を運ぶ蜘蛛を燃やし尽くしたッ! 鬼と血鬼術は太陽に弱い! イコール、波紋に弱い!! 波紋エネルギーの前に、敵の血鬼術は成す術なく消失していった! 

 

 

 糸を失った隊員達がゆっくりと倒れ伏した。

 

 

 

ギュキュゥ────ン!! 

 

 

 

 ──ギャアアアアアア!! 

 

 

 

「あれは波紋が通った音……。四体分だ。それに悲鳴。シュウシュウ溶ける音もする」

 

 善逸の鋭い聴覚が、女性の悲鳴と溶解音を感知した。

 

 

 ──アアアァァァ…………。

 

 

 悲鳴は掠れ、徐々に消えゆく。善逸は、悲鳴の正体が即座に分かった。

 

「早速波紋に巻き込まれたヤツが出たんだな……」

 

 この辺にいた鬼達全員がもろに巻き込まれたようだ。敵ながら災難な奴らだった。

 

 

スタッ

 

 

「お前ら……!」

「!?」

 

 訳も分からず消滅したであろう鬼をほんのちょっぴり憐れんでいると、突如、善逸と伊之助と村田の前に鬼が降ってきた! 

 

「お、鬼! 生きてる!?」

「こいつが近づいてた鬼かぁ!! 残りはどこだぁ!」

「新手ッ!」

 

 伊之助、村田が抜刀していた日輪刀を構え、戦闘態勢を取った。善逸は二人の後ろで手桶を置いて、更に庇うよう抜刀した。傍目に見ると謎めいた行動だが、波紋探知機として重要な道具なので、しっかりと守る。

 

 現れたのは、白い髪、白い着物を纏った子供のような鬼だ。不快そうに睨むその左目には、縦書きで"下()"と刻印されていた。

 

「十二鬼月!? 禰豆子ちゃんみたいに飛んで逃れたなッ!?」

「じゅ、十二鬼月……。那田蜘蛛山に潜んでいたのかッ!」

「ちっ!」

 

 竦む善逸と村田を尻目に、下弦の肆は踵を返して逃げ出そうとした。恐らく血鬼術も波紋の力で封じられている。これを斬らない選択肢はなかった。

 

「伊之助! 波紋が流れ込んだ音は四つ! 三人死んでる! 生き残ったのはこいつだけだ!」

「よっしゃぁ! 逃がさねーぜ!!」

 

 伊之助が迷わず突進した。

 

「……ッ。足が」

 

 飛んで逃れたが、一足遅かった。波紋の余波が足に及んでいたのだ。両足の脛から下が溶け落ち、鬼がうつ伏せに転んだ。千載一遇のチャンスだ。

 

 

 

 

 

(あの木を殴った男が、無惨様の仰っていたジョナサン……)

 

 下弦の肆 累は、倒れたまま己の死を悟った。二刀流に猪頭の変なヤツがこちらに突っ込んでくる。溶けた足が再生しない。血鬼術も発動しない。詰みだ。相性が悪いとか、相手が上手だとか最早そんなチャチな問題じゃ、断じてなかった。

 

(無茶苦茶だ。森を丸ごと()()に変えるなんて……)

 

 太陽に変えた部分に直接触れないと効果が及ばないことは分かったが、なんの慰めにもならなかった。掠っただけでこの通り致命傷だ。

 

 あの男は、遠距離攻撃だけでなく、超広範囲の攻撃も持っている。理不尽にも程があった。()()、母が操っていた首なし鬼は逃れようもなく消滅したが、太陽の気配に気づいた累は、咄嗟に乗っていた糸を跳ねて逃れようとした。結果は御覧の有様だったが。

 

 遠くにいる()()の気配は消えていない、流石にそこまで範囲は及んでいないようだ。だが、分け与えた血鬼術は消失する。兄も姉も、ただの鬼に戻るだろう。

 

(暫くすれば、()()()()が来る……。勝てないだろうけど……)

 

 累、兄、姉、父、母の疑似家族。累が血鬼術を分け与え、顔まで変えさせて身内に仕立て上げた鬼達。累が狂おしいほど渇望していた家族、否、家族ごっこも、もうおしまいだ。

 

(俺は……俺が欲しかったものは)

 

 太陽の力が流れ込む度、死が近づく。それが何故だか暖かで心地良い。それに、死と一緒に、何か大切な()()が近づいてくるような気がした。

 

「健太郎! なんで止めんだッ!」

「伊之助。いいんだ。いいんだもう」

「イノスケ……」

「……」

 

 朦朧とする意識の中、突っ込んでくる猪頭の隊士を、顔に痣のある隊士とジョナサンが何故か食い止めた。猪頭の隊士の肩に触れ、ゆっくりと首を横に振っている。

 

(こっちにくる……)

 

 顔に痣のある隊士は、こちらに近づいて屈むと、小さな銀色の何かを刺してきた。少量の血を抜き取られる感触がある。

 

(俺の血を……? まあ、もう関係ないか……)

 

 それを引き抜くと、痣の隊士はそっと背に触れた。悲しみに満ちた目でこちらを見つめている。

 

(この手も暖かい……。ああ……そうか。俺は……)

 

 暖かな手と流れ込む陽光の力に押されるように、力を増すたび消えていった記憶が蘇る。

 

()()()()()()……俺!)

 

 累は、鬼になった自分と共に心中しようとした父母を返り討ちにし、自ら家族の絆を断ち切ったことを思い出した。

 

(ごめんなさい……。父さん、母さん……)

 

 消えゆく意識の中、燃え盛る地獄への入口が見える。当然の結果だ。たくさん人を殺したのだから。だが、その入口で、累の父親と母親が待っていたような気がした。

 

「……」

 

 累は、消滅した。

 

 




大正の奇妙なコソコソ噂話1

累が下弦の肆になってますが、病葉が死んだので繰り上げ昇進したらしいよ。

大正の奇妙なコソコソ噂話2

悲鳴上げた母蜘蛛ですが、病葉と同じくポカポカ気分で死んだのでご安心下さい。


連続更新終わり!
来週のどっかでまた更新します('ω')
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