鬼滅の波紋疾走 JOJO'S BIZARRE ADVENTURE PartEX Demon Slayer   作:ドM

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仕事が一段落したので短めだけど一話投稿('ω')

来週から我が流法(モード)は『(やすみ)』!
『有給休暇』の流法(モード)!!

になるので更新頻度上げます。




四半世紀の再会

 ジョナサン・ジョースター、竈門炭治郎、竈門禰豆子、我妻善逸、嘴平伊之助の五人は様々な思惑が重なり、蟲柱・胡蝶しのぶの拠点である"蝶屋敷"の預かりとなってから、一か月が経過した。

 

 季節は梅雨に差し掛かろうとしていたが、幸い晴天だ。

 

 蝶屋敷の外周を炭治郎、善逸、伊之助が走っている。しのぶ指示の下、基礎体力向上の為に走り込んでいるのだ。この一か月間、鬼狩りに出掛けては軽く休んで鍛錬の繰り返しで、そのきついサイクルにも慣れてきた頃だ。

 

ヒュウウウウウ

カアアアアアア

シィィィィィィ

 

 口から全集中の呼吸音が漏れる。三人は隊服を着たまま常中を維持し、炭治郎は水の呼吸で走り続けている。これは、ヒノカミ神楽の呼吸が常中で保てない為だ。その全容は未だ謎が多く、呼吸の使用そのものの負担が異常に大きい。検証が必要だった。

 

「ぬぉおおお! 努力! 努力! 努力ぅ―――!!」

 

 炭治郎は歯を食いしばって手足を動かし、ぐんぐん前へと進んでいく。やや湿気た空気と気温にたまらず汗ばむも、お構いなしだ。

 

(俺はまだまだ強くならなければ! ヒノカミ神楽の呼吸は未だに長く維持できない。まだ、何かが足りないんだ!)

(ひぃ、ひぃ、張り切ってるなぁ、炭治郎のやつ……)

(俺も負けらんねぇぜぇ!)

 

 すぐ後ろを走る善逸と伊之助は、絶対に強くなってみせるという凄味を感じた。

 

 炭治郎は、多くの実戦、ジョジョとの鍛錬により大幅に強くなった。今も実戦と鍛錬の繰り返しによりぐんぐん腕を上げている。那田蜘蛛山で、自らの手で下弦の壱を仕留めたのは事実。しかし、あれはあくまで皆の助けがあったからこその戦果だったと思っている。善逸も、伊之助もそうだ。

 

 ジョジョとの協力で、下弦の鬼を一網打尽にした功績が認められ、三人は鬼殺隊の階級では上から七番目である"(かのえ)"に昇格した。

 

 当初は更に上の階級を提案されたのだが、これを炭治郎が固辞した。ついでと言わんばかりに善逸と伊之助も"(かのえ)"になってしまったが、二人は納得している。まだまだ精進が必要なのは、伊之助も良く知るところだからだ。

 

 ただし、善逸は強い鬼と戦わされそうなのが嫌だからである。

 

 余談だが、村田は"(かのえ)"から一つ上の"(つちのと)"に昇格した。柱合会議に召喚された際、冨岡が産屋敷に推薦したのだ。

 

『村田は頭を丸めました』

『……何言ってんだおめェ』

 

 一見、謎の理由だったが、ジョジョの能力を把握していたおかげで全員ギリギリ理解できた。村田の頑張りは、鬼殺隊全体でも認められたのだ。彼の身を挺した犠牲が組織的に報われた瞬間だった。村田は冨岡の献身に感激する。

 

『また生やしたら、派手に丸めて貰うかもな、村田』

『!?』

 

 受難は続く。

 

(初めて会ったときも、珠世さんの隠れ家で十二鬼月に会ったときも、柱合裁判の時もそうだった。俺は、ジョジョさんに助けられてばかりだ。俺だって、あの人を助けられるぐらいになりたいっ!)

 

 その眼光に更なる闘志が宿る。走るペースを上げ、ひたすらに走り続ける。長距離走にあるまじき速度だった。

 

「猪突猛進ッ! ぬおおおおおお! 負けられっかぁ!」

 

 炭治郎に負けじと伊之助が鼻息荒く疾走し、追いすがる。強くなりたいという気持ちは、決して負けていない。いつか、山のようなあの男も超えてみせるのだと。

 

「ヒイイイイイ! まだ速くなんの!? 二人共待ってぇ―――!」

 

 二人の四歩程後ろを、涙目の善逸が追いかける。短距離走なら圧勝できるが、短距離走とは負担の異なる長距離走はしんどいのである。それでも、常人ではありえぬ程の速度だが。

 

(爺ちゃん。俺、結構強くなったよ。下弦の鬼も倒せたし……。うう、それなのに、お、俺達、なんでこんなひたすら走り続けてるんだっけ……?)

 

 三人が重点的に走り込んでいるのには理由がある。善逸は、悲鳴を上げる筋肉に目を背けるよう、しのぶの言葉を思い出す。

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

 

『三人は肺がよく鍛えられてますね。偉い偉い』

『ありがとうございます』

『どんなもんだぁ!』

『うへへ……』

 

 美少女のストレートな誉め言葉に善逸は茹蛸のごとくデレデレだ。

 

『後は筋力と体力をどんどんつけていきましょう』

『はい!』

『かかってこいやぁ!』

『……分かりました!』

 

 三人は張り切っている。善逸も例外ではない。しのぶは不安定でおっかない音がするけれども、絶世の美女な上、優しさも確かに併せ持っている。善逸は彼女の言葉に弱いのだ。

 

 偉い人だからという発想はほとんどない!

 

『全集中の呼吸による身体能力の強化は、地力が向上すればするほどそれだけ強力になります。常中を繰り返しながら、ひたすら鍛錬鍛錬です』

 

 両腕の握り拳を見せながらの艶やかな笑顔で言われた。しのぶは、三人に付き添っているジョジョに視線を向けた。

 

『波紋法の修行による肺の強化、実に素晴らしいです。ジョースターさん、是非とも取り入れたいので、訓練の改良を手伝って頂けますか?』

『喜んで』

 

 ジョジョはにこやかに了承した。

 

 現在ジョジョは、蜘蛛に変えられた人達の治療と並行して、鬼殺隊の基礎訓練方法や、いわゆるリハビリである機能回復訓練のテコ入れも手伝っている。蜘蛛に変えられた隊士の復帰にも活用される。

 

 炭治郎達に課した訓練方法は普通の隊士達ではついていけない可能性が高いので、ある程度の改良を加える予定だ。それでも相応にきつくなる予定である。

 

『ふふふ、夢が広がりますねぇ。炭治郎君、善逸君、伊之助君。貴方達にも付き合ってもらいますよー』

 

 しのぶはうきうきと上機嫌だ。今この瞬間から、波紋使いの鍛錬法と、鬼殺隊の鍛錬法が組み合わさり、強化技術に革命が起きようとしていた。

 

『……』

『……』

『……』

 

 炭治郎達は、ジョジョと共に取り組んだあの訓練を思い出し、鳩尾(みぞおち)をそっと押さえた。

 

 "波紋の呼吸"は、呼吸のリズムにその全てがある。呼吸だけ鍛えれば自然にパワーも鍛えられるという理屈から、とにかく呼吸を鍛えることに重点を置く。即ち、心肺機能の強化が得意ということだ。

 

 "全集中の呼吸"は、一度に大量の酸素を血中に取り込む事で、身体能力を大幅に向上させる技術だ。効率の良い心肺の強化は、当然こちらにも恩恵をもたらす。

 

『暫くはうちで色々と手伝ってもらうことになります。よろしくお願いしますね。あ、敬語は不要ですよ。貴方の方が色々と先輩ですから』

『分かった。こちらこそ、よろしく!』

 

 更に、鬼殺隊関係者の中に、波紋使いの才能を有する者がいないか選別も行っている。手の空いた隊士や隠の者から順次調べ上げているが、まだ見つからないようだ。

 

 鬼殺隊として一番重要な鬼への対処は、今のところ隊士だけでなんとかなっている。ジョジョが超好待遇の食客として加入してからというもの、何故か鬼の攻勢が弱まったのだ。

 

 それに加え、ジョジョが鬼狩りに出る場合、必ず"柱"を同行させることが条件となった。下弦が全員けしかけられた上に全滅した以上、今ジョジョが動けば、上弦の鬼が奇襲を仕掛けてくる可能性が高いからだ。

 

 以上の理由から、ジョジョは現状裏方に徹している。鬼の被害者を含む隊士の治療。訓練の改良。波紋法の才ある者の発掘。波紋使いとしてやって貰いたい仕事は、たくさんあった。

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

 

「戻りましたー……」

「ま、負けた……」

「……」

 

 走り込みを終え、蝶屋敷の敷地内に帰ってきた。三人共へとへとだ。伊之助は炭治郎に競り負けたことを悔しがっており、善逸は最早言葉すら発する気力がない様子だ。

 

「あ、帰ってきたよ!」

「タオルある?」

「あるよ! お水もばっちり!」

 

 炭治郎達の元へ、汗拭き用タオルと竹筒に入った飲み水を持った三人の女の子が駆けてきた。寺内きよ。中原すみ。高田なほ。良く三人一組で看護師をしている、蝶屋敷の三人娘だ。

 

「お帰りなさい!」

 

 元気よく三人を迎えたきよはおかっぱ頭で、蝶を模した髪飾りを耳の上あたりに一個ずつ着用している。服装は、白い看護服の上に桃色の帯。

 

「タオルです!」

 

 三人にタオルを渡したすみはおさげで、その根元の結び目に蝶飾りを付けている。服装は、白い看護服の上に水色の帯。

 

「お水もどうぞ!」

 

 三人に飲み水を渡したなほは三つ編みで、蝶飾りは三つ編み先端の結び目に一つずつ着けている。服装は、白い看護服に緑色の帯。

 

 三人共、こうして甲斐甲斐しく世話をしてくれる。

 

「ありがとう三人共……生き返るよ」

「うう……水ってこんなに美味しいんだ……」

 

 炭治郎と善逸は、よく冷えた水で喉を潤す。アルプスのハープを弾くお姫様が飲むようなスゲーさわやかな味。三日間砂漠をうろついて初めて飲むような味だ。

 

 伊之助は猪頭を外し、竹筒の水を半分飲んで、残りの半分を頭から思いっきり被った。

 

「ヒャー! 冷てー!」

 

 頭をぶんぶん振ると、水滴が善逸辺りに飛び散った。

 

「ギャー! こっちに散ってきたぁ! 犬かおめーは!?」

「豪快だなぁ。拭かないと風邪引くぞ、伊之助」

「へっ、これが一番良ィんだぜ」

「ったく……ん?」

 

 三人が一段落していると、善逸が持ち前の鋭い聴覚で妙な音に気付いた。聞き慣れない音だ。

 

「……なんか変な音がするぞ。でっかい工場みたいな音がこっちに近付いてくる。しかもすっげー速い」

「工場の音?」

「うん、なんかドドドドドー、みたいな音。汽車……? とはちょっと違うな」

 

 善逸の言葉に炭治郎が首を傾げる。

 

「……?」

 

 気になった炭治郎は、善逸が見る方向の匂いを嗅いだ。

 

「本当だ。何か変な匂いがするぞ。炭を焼いた時の匂いに少し似てる気がする。こっちに向かって来る!」

 

 炭治郎も、善逸の言う"でっかい工場みたいな何か"を匂いで察知した。生まれて初めて嗅ぐ匂いだ。

 

「少し揺れてんな! 結構でかいぞ! 猪突猛進ッ!!」

 

 伊之助も二人に続いて触覚で察知すると、猪頭を被り直しておもむろに外へ飛び出した。

 

「あ、伊之助! ……俺達も行ってみよう。変な匂いだけど、鬼ではなさそうだ」

「う、後ろは任せとけ。炭治郎」

「ああ、頼んだ。なほちゃん、きよちゃん、すみちゃん、ちょっと見てくるよ」

「「「いってらっしゃい!」」」

 

 炭治郎は、伊之助を追うように外へ出た。その真後ろを付いていくように善逸も同行した。三人揃って"でっかい工場"の気配へ視線を向けた。

 

「あの馬車みたいなのがそうかな?」

 

 音の主は既に目に見えるところまで近づいてきていた。かなりの速さだ。真っ赤に塗られた鉄板に、黒い布の屋根。銀色で飛び出したような先端部分には半分に切った丸い電灯のような物が二つ付いている。

 

 それは、馬も見当たらないのに、車輪を転がして爆走していた。

 

「え!? あれって!」

 

 善逸は、その正体に気付き、大きく目を見開いた。

 

「……じ、自動車だッ!!」

「じどうしゃ?」

「じどーしゃぁ?」

「超が何個も付く大金持ちとかお貴族様しか持ってない車だぞ! ちょっと前に町で女の子が噂してた! 馬がいなくても走るんだよ! 汽車みたいに!」

「きしゃ?」

「きしゃぁ?」

「この田舎者(いなかもん)どもが」

 

 この時代、自動車の保有者は華族や大金持ちぐらいなもので、大都市の整備された道ですら極稀にしかお目にかかれない代物だった。自動車が大衆に受け入れられたのは、1923年の関東大震災後、市バスや円タクシーがメジャーになった時のことである。

 

 三人がこちらに向かってくる車でやいのやいの騒いでいると、蝶屋敷前で凄まじい金切り音を立てて急停止した。

 

 それは、現代で言うところの旧車。クラシックカーだ。前輪、エンジン付近はボディよりも細い銀色。先端付近とライトは真鍮色。先端部分は細かな網目の鉄で覆われており、赤塗りのボディに黒い車窓と、真っ黒な幌。前輪の後方やや上部に据え付けられた替えの車輪が特徴的だ。

 

 デイムラー車。イギリス王室。後にインドのマハラジャも愛用した超高級車である。

 

 善逸は、絶対高いヤツだと怯えている。

 

「こ、こいつはこの土地の主に違いねぇ! 見てろ! ぶっ飛ばしてやる!」

「やめろォ―――――――!? 俺らのお給金が纏めてぶっ飛ばされるわ!」

「中に人が乗ってる! ひっくり返したら危ないぞ!」

 

 自動車に飛び掛かりそうな伊之助を炭治郎と善逸が押さえる。

 

「―――! ―――――!!」

「――! ―――――ッ!!!!!」

「―――! ―――!!」

「あん?」

 

 どうやら何かを押さえているのは自動車の中の誰かも同じらしい。

 

バンッ!

 

「何か出た!?」

 

 自動車後方の扉が吹っ飛びそうな勢いで開かれ、中から男が飛び出した!

 

「ど、どなたですか?」

「何もんだ、おっさん!」

「Mr.Joestar……!」

 

 飛び出したのは、正装を着こなした初老の紳士だった。

 

ド ド ド ド ド ド ド ド

 

 

 我われはこの初老の男を知っている!

 

 いや! このまなざしとこの顔のキズを知っている!

 

 

(今この人、じょおすたあって言ったのかな?)

 

「外国の人……? ひょっとして、ジョジョさんの知り合いかな?」

「このおっさん、ジョニィのダチか!」

「……!? J()O()J()O()!? You said JOJO!? Please! Please tell me!!」

 

 初老の男は、"ジョジョ"に反応して炭治郎へ迫った。男は炭治郎の両肩を掴み、すごい勢いで揺すっている。体格が良いせいか迫力がすごい。炭治郎は匂いで目の前の男性が狂おしいほど必死なことを理解したッ!

 

「わぁぁ!? この人、ジョジョさんのことを知りたがってる。どうしよう! なんて返せばいい!?」

「と、とりあえず、ジョジョさんのとこに連れてきゃいいんじゃない? 案内するって!」

「そうか! え、えーと。まい、ねーむ、いず、かまど、たんじろー。じょじょず、ふれんど。ふぉろー、みー」

 

 炭治郎は、緊張気味にジョジョから教わった英語で会話を試みる。かなりたどたどしい。

 

「Seriously!? OK!!」

「や、やった! 通じたぁー!!」

「すげぇや! すげぇぞ! 炭治郎!」

「二人が操ってた暗号だな!?」

「英語だ! 英語!」

 

 何故か分からないが、三人共凄まじい達成感を感じる。炭治郎は、そわそわする初老の男性を屋敷の玄関目指して案内する。

 

「きゃー! 炭治郎さん! この人は誰ですか!?」

「ジョジョさんの知り合いらしい。このままだと伊之助みたいに暴走しそうだから! 俺が案内するね!」

「わ、分かりました! お願いします!」

 

 心配そうな三人娘に事情を説明し、炭治郎達と初老の男性は玄関内に到着した。

 

「……?」

 

 男は、屋敷の玄関で履物を脱いでいる三人を見て何か考え込む仕草を見せた。

 

「……あ!」

「?」

「す、すまん! 儂、日本語分かるぞ! この通りな!」

 

 三人はずっこけそうになった。さっきの苦労は一体なんだったのか。

 

「急に日本語喋りだした!?」

「おじさん、こっちの言葉分かるのかよ!」

「じゃあ始めっから話せよ!」

 

 突然日本語を話し出したので三人が総ツッコミした。

 

「失礼した! 慌てすぎて忘れとった! 儂はロバート・E・O・スピードワゴンッ! ジョースターさんはあっちにいるのだな!? 確かにいるのだなッ!?」

 

 スピードワゴンはそう言いながら、大慌てで靴を脱いでいる。どうやら履物を脱ぐ作法も知っているらしい。

 

「は、はい! 今もあの屋敷の中でしのぶさんとお話してる筈です!」

 

 炭治郎は、玄関奥を指差した。

 

「ありがとうッ!! タンジロー君!! ウオォォォォオオ!! ジョースターさ―――――――んッ!!」

「わっ!」

 

 スピードワゴンは、凄まじい勢いで屋敷に突っ込んでいった。

 

「ぬおお!? 滑るッ!?」

 

 靴下で清潔な木の床を駆け抜けようとするもんだから、床の滑りの良さに足を取られてすっころびそうになっている。

 

「ゲハハ、やかましくてあわてん坊なおっさんだぜ」

「お前が言うか、伊之助」

 

 善逸は真顔だ。

 

「と、とりあえず追いかけよう」

 

 三人は、ジョジョの元へ向かうスピードワゴンを追った。

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

 

「あら、来たみたいですよ。貴方のお知り合い」

「もう足音で分かってしまう……。彼が来たッ! 出迎えてあげたかったのだけれど……」

「この場合、どちらが失礼になるのでしょう」

 

 しのぶは困った表情で頬に手を添えた。患者の治療が一段落し、縁側でお茶を啜っていたジョジョとしのぶの元に、ドタドタと足音が聞こえる。二人共、彼が近い内に訪れるとは聞いていた。まさか、ここまで慌ただしくなるとは思いもしなかった。

 

「まぁ、()()には着替えておいたから。良しとしようかな」

「良くお似合いですよ」

「ありがとう、シノブ」

 

 ジョジョは準備万端と言った様子で自分の服を見る。友人に会うための準備は一応整っている。

 

 遠くから自動車の音が微かに聞こえたと思えば、既に玄関まで突入されていたのだ。電撃戦ならば完璧な速度である。

 

(無理もないか。ジョースターさんのお仲間は、彼が死んだものと思ってただろうし。死んだと思ってた人が生きていた。羨ましい話ね……)

 

 しのぶがそう考えていると、縁側奥の襖がピシャンと開いた。

 

「じょ、ジョースターさんッ!!」

 

 襖の奥からスピードワゴンが凄まじい速度で駆け寄ってきた。ジョジョは、スピードワゴンが現れた方向に向き直り、立ち上がった。

 

「久しぶりだね、スピードワゴン」

「あ……あああ……」

 

 スピードワゴンは、目の前の人物を直視した瞬間、体を震わせ、言葉を失った。

 

「お、俺はよぉ……ジョースターさん……うぐ……」

 

 涙で前が見えない。拭う余裕すらなかった。

 

 ジョナサン・ジョースターは、エリナ・ジョースターとの新婚旅行の船出で見届けたあの時の最期の別れから、()()()()()姿でここにいる。

 

 ジョジョが着ているのは、新婚旅行の時に身に着けていた紳士服だ。()()()()()()()()()()()()()()()()という、ジョジョなりの粋なメッセージだった。

 

「ジョー……スター……さん……」

「なんだか、ぼくより紳士らしくなっちゃったな」

 

 ジョジョが近寄って、何気なくスピードワゴンの手を握る。再会の握手だ。

 

「んなわけ、ねーだろ……あんたは、波紋のおかげで……ちっとも変わっちゃいねー……」

 

 取り繕う言葉もなかった。スピードワゴンはあの時に戻っていた。ジョナサン・ジョースターについて行き、共に吸血鬼と戦ったあの時に。

 

「そうだね。君もぼくも、そんなに中身が変わっちゃあいない。二十五年経とうとも……」

「……ああ」

 

 忘れもしない。スピードワゴンとジョジョの最後の別れの時のことだ。

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

 

『まったく、めでたいぜ』

 

『ふたりとも幸せになってくれよ!』

 

『おれはいつまでも応援するし』

 

『困ったときは、いつでもどんな所でもかけつけるつもりだぜ!』

 

『もっとも、かえって足手まといかな』

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

 

「ぐうう……ジョースターさん……あんたにゃ……あんたにゃ言いてぇことが、たっくさんあんだよ……!」

「ふふ、ぼくもさ」

 

 スピードワゴンは大粒の涙を流し続ける。

 

 彼は、四半世紀の時を超え、ついに"かけつける"ことができたのだ。

 

 

 




大正の奇妙なこそこそ噂話

スピードワゴンは丁度1部と2部の間に位置する年齢なので
テンション次第で口調が変わるらしいよ!

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