鬼滅の波紋疾走 JOJO'S BIZARRE ADVENTURE PartEX Demon Slayer   作:ドM

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フライング大正の奇妙なコソコソ噂話

「エリナ達を守り続けてくれたんだね」
「へへ、まあな!」
「ありがとう、スピードワゴン」
「いいってことよ! ジョースターさん!」
「君が友人であること、ぼくは誇りに思う」
「……ぐすっ。おう!」




金石の交わり

「いやはや、お恥ずかしいところをお見せしてしまい……」

 

 畳に胡坐をかいて座るスピードワゴンが照れ気味に頭を掻く。その様子は紳士然とした風格を取り戻していた。

 

「無理もありません。四半世紀ぶりの再会ですものね」

「本当に良かったです。ジョジョさんと再会できて……」

 

 しのぶの言葉に、炭治郎が同意した。

 

(この人がジョジョさんと一緒に冒険したという、すぴどわごん、すぴいどわごおん、スピードワゴンさんか……)

 

 炭治郎は頭の中で必死に発音を整理している。少しずつ英語の人名にも慣れてきたようだ。ちなみに一番発音が大変だったのは"ツェペリさん"だ。

 

(優しくて力強い匂いだ。それに、心の底から嬉しそうな気持ちが伝わってきて、俺まで嬉しくなってしまう……当然だろうな)

 

 嬉しいに決まっている。二十五年前の別れを最後に命を落としたと思っていた、大切な友人が生きていたのだから。

 

「スピードワゴンの姿を見て、本当に長い年月が経ったんだと実感したよ」

「二十五年だぜ! 二十五年! 本当に、良く生きてたもんだ! 俺ぁ嬉しくて仕方がねぇ! 今までの人生で一番ハッピーだぜ! ジョースターさんは今もこうしてピンピンしてんだからよぉッ!」

 

(……口調が安定しない人ですこと)

 

 スピードワゴンは今、最高にハイってやつなので致し方ない。

 

「良かったぁ……あれ、善逸。どうしてしかめっ面で耳を塞いでいるんだ?」

「……いや、まぁ」

「?」

 

(やっべぇぇぇぇぇぇ! このおっさん、発する音の何もかもがでかすぎんだよッ!? 会ったときから既に騒がしかったけど、ジョジョさんと再会した途端ものすごいことになった!! 滅茶苦茶喜んでるのは分かるんだけどさ、もうちょっとだけ静かにしてくんない!?)

 

 無理だ。

 

 善逸の聴覚は今、スピードワゴンのお祭り騒ぎでいっぱいだ。その音に慣れるまで時間がかかるらしい。善逸でも分かるぐらいに超お偉いさんなお金持ちオーラを出してる上、物理的にどうしようもないので頑張って我慢してるのである。

 

「んん、失敬。さて、初対面の方もいるようなので、改めて自己紹介せねばな。儂は、ロバート・E・O・スピードワゴン。ジョースターさんと共に、吸血鬼と戦い続けている者、とでも言えば良いですかな」

「胡蝶しのぶです。存じ上げております、スピードワゴンさん。海外の医学・薬学の書籍には、必ずと言って良いほど載っている名前ですから」

「おや、ご存じで」

「ぼくも聞いているよ。スピードワゴンは数年前に、財団を立ち上げたんだってね」

「おう!」

 

 スピードワゴンが渾身のドヤ顔を見せる。ジョジョ相手にはどうしても昔の性格が出てしまう。それはともかく、実際誇るべき実績である。

 

(裁判の時、ジョースターさんが語った仲間の中にスピードワゴンさんの名はあった。あの人がお館様にお願いしたあの時、本当に驚いた……まさか、あのスピードワゴン財団の創設者その人だったなんて……)

 

 彼は世界規模の大物だ。有名人だったからこそ、特定も容易だった。この来日を知った各方面のお偉いさん方は、さぞや大騒ぎしたことだろう。それにこの様子、ジョジョとは相当仲が良い。

 

(不死川さん……みんなでもっと説教しておくべきだったかしら……)

 

 しのぶは笑顔のまま、こめかみに血管を浮かべて握り拳を素振りしている。

 

「し、しのぶさん。なんで素振りしてんの? すごく、怒ってる音がするんですけど……」

「なんでもないですよー」

「……」

「なあ、それより"ざいだん"ってなんだ?」

 

 伊之助は初めて聞く言葉だ。その疑問に、しのぶが答えた。

 

「個人が所有する資産、お金や人材で立ち上げた組織のことですよ。目的は人によって様々ですけど」

「ふーん……んじゃ、このおっさんは"オヤカタサマ"みてぇなもんか」

「そんな感じです」

「……あんま強そうには見えねぇな!」

「コラ、伊之助!」

「うぉいッ!?」

 

(後で正座ね……)

 

 炭治郎が伊之助の失礼な物言いを注意し、善逸が怒り、しのぶは後ろで再び拳を素振りしている。確かに、スピードワゴンの体はガッシリとしているが、鬼殺隊の面々やジョナサン・ジョースターには及ばない。

 

「はっはっは! 良いのだ。イノスケ君の言う通りだよ。儂はそんなに強くない。だからこそ、財団を立ち上げた」

「……一応言っておきますけど、この人の財団ならこの国の山を百座以上自分の物にしたとしてもへっちゃらなぐらいですからね」

「山を百! それはおっさんが百ある山すべての王になれるってことか!?」

「そういうことですよ」

 

 しのぶが、伊之助に分かりやすく財団の力を説明する。伊之助はスピードワゴンのことを目を輝かせて見ている。

 

「お前スピードワゴンさんぶっ倒すとか言うなよ……」

「あ? 何で分かったんだ?」

「やめてくれぇ!?」

「ダメだぞ伊之助。それにこの人は、ジョジョさんの友達なんだからな」

「……わぁーってるよ」

「助かるよ、イノスケ」

「やれやれ、ぶっ倒されんで何よりだわい。儂の団体は主に、全世界の医療や自然動植物の保護。医学・薬学・考古学への支援が目的だな」

「全世界!? それって、この世の国全部ってことですか!?」

 

 炭治郎がその余りの規模の大きさに仰天する。ジョジョの話で知った世界の広さを思えば、余りにも壮大な話である。

 

「まだ、手の届かん範囲はある。ゆくゆくはそのつもりだぞ、タンジロー君」

「へー……」

 

 炭治郎は、なんかもう色々と規模が大きすぎる話なので何も想像ができず、気の抜けた返事しかできなかった。

 

「が、それは表向きの話」

「表向き!? 裏の顔があんの!? ヒィィィ!?」

 

 善逸が部屋の隅っこにすっ飛んで怯えだした。悪い女、こわーい男。何か色々と思い出してしまうようだ。

 

「なんだ、トラウマでも抱えとるんか? そんなに怖がることはなかろうゼンイツ君。裏の顔と言っても、それは君達鬼殺隊とよく似たものだからな」

「鬼殺隊と?」

「そうか、スピードワゴン。やはり君は……」

 

 ジョジョは薄々感づいていた。スピードワゴンが財団を立ち上げた本当の理由を。

 

「儂は何も、ジョースターさんに会うためだけにすっ飛んできたわけではない」

 

(あ、違うんだ)

(違ったんだ……)

(ちげーのか)

 

 炭治郎達はそうだと思っていた。

 

「ジョースターさんの送ってくれた電報で事情は理解しとる! この国にも人類を脅かすであろう悪しき鬼がいることをなッ!」

「つまり、鬼殺隊にも力を貸してくれるのですか?」

「勿論そのつもりじゃ、シノブ女史。儂は明日、カガヤさんにお会いする。図々しいお願いなのだが、今日一日、此処に泊めてはもらえぬか?」

「ええ、良いですよ。迎えのものを此方に寄こすよう伝えておきますのでご安心を。ジョースターさんとは、積もるお話もあることでしょう」

「ありがとうッ! 無論、それが一番大事でな! ……実は来日した時にな、政府の者が旅館をご用意しますー等と言ってついてきたのを撒いたもんで」

「無茶苦茶だこの人!?」

 

 色々ととんでもない話が出てきたが、何はともあれスピードワゴンは鬼狩りを手伝う気らしい。

 

(スピードワゴンさんはジョースターさんだけでなく、鬼殺隊にも協力的みたい。財団の知識と財力、人材の豊富さは味方になってくれれば頼もしいことこの上ない。お館様との交渉、上手く行くといいわね……)

 

「おお、そうだ! 大事なことを思い出したわい。タンジロー君!」

 

 何を思い出したのか、スピードワゴンが炭治郎に向き直った。

 

「はい!」

「ジョースターさんを助けてくれたと聞いた! 本当にありがとう!」

 

 スピードワゴンが感謝を述べた。

 

「行き倒れ寸前だったこの人を助け、日本語を教えてくれたのは君だそうじゃあないかッ!」

 

 炭治郎に恩義を感じているのはジョジョだけではない。スピードワゴンもだ。行く当てのなかったジョジョを助け、日本語を教え、共にいたのは他ならぬ炭治郎である。

 

「いいんです。俺もジョジョさんには助けられてばかりですから」

「ふむ、やはり謙虚な若者だ……ジョースターさんの話と、善良な匂いに違わぬ」

 

 スピードワゴンは、暗黒街で生き、いろんな悪党を見て来た故に、悪い人間といい人間の区別は『におい』で分かる。

 

「匂い? おっさんも紋次郎みてーに嗅覚が鋭いのか?」

「ジョジョさんが話してたやつですね!」

「そう、彼の特技だよ」

「ま、嗅覚とはちと異なるがな」

「炭治郎みたいな人、外国にもいたのか……」

 

 世界は広い。"匂い"で相手の人となりが分かる者同士の出会いだった。ちなみに、蝶屋敷の住民全員、すごく善良な『におい』である。さぞや良い匂いだろう。

 

「君に何かお返し出来れば良いのだが」

「そんな、お返しだなんて……」

 

 欲のない男、竈門炭治郎である。

 

「それなら、善逸と伊之助の為になる物が良いです。二人が喜ぶなら、俺も嬉しいですから」

「い、いいよ、俺なんもしてないもん。なんなら俺だってジョジョさんに助けられてばっかりだしさ……」

「伊之助は、何か欲しいものとかないのか?」

「……あるけどいらねぇ」

「なんだそりゃ」

 

 伊之助の欲するモノ。それは、山の王として君臨し、己の最強を証明することだ。しかし、これは他者から与えられて得るものでは断じてない。己の手で勝ち取るものである。従って、今のところ特に何も浮かばない。

 

「あ、そうだ! 炭治郎、禰豆子ちゃんのために何か貰えばいいじゃん! 綺麗なお洋服とかさ! 禰豆子ちゃんが綺麗なお洋服を着たとこ見てみたーい! ヒャァァァァ! 幸せッ!!」

「なんで興奮してるんだ……。善逸……」

 

 善逸は素敵なお洋服を着こなす禰豆子を想像し、悶絶しながら大変なことになっている。

 

「……」

 

 しのぶが笑顔のままスーッと後ろに下がった。この生物から距離を取りたいのだ。

 

「禰豆子の分は、俺が用意してあげたい。今なら、服ぐらいならなんとかなるからさ」

「……お前ほんと変なとこで頑固だよな。まぁだいぶ稼いでるけどさ、俺ら」

 

 炭次郎達は下弦討伐の特別報酬も貰った上に、階級が上がった事で給金も大幅に上がった。しかし、鬼狩りに修行にと、使う暇がないので貯金は溜まる一方である。

 

「兄の意地ってやつかい? タンジロー」

「はい!」

「不思議だな、なんだか分かるような気がするよ……」

 

(なんとまぁ、欲のない者達だ……)

 

 スピードワゴンは眩しい物を見る目で、炭治郎達を見る。生まれついて多くの悪党を見てきたスピードワゴンにとって、三人の欲の無さは微笑ましい。

 

(服ならばたくさん用意できたのだが……。ま、仕方あるまい)

 

 余談だが、もし炭治郎がスピードワゴンに禰豆子の服を要求していた場合、東京湾の一番でかい倉庫が、禰豆子専用の衣服で埋め尽くされていた。この男、加減をする気がない。

 

「となると伊之助、"あるけどいらないやつ"以外なんか欲しいもんないのかよ。炭治郎もこの調子だしさ」

 

 スピードワゴンは何か返さないと絶対に気が済まなそうだ。善逸はとりあえず伊之助に振った。

 

「…………ある!」

 

 いつの間にか腕を組んで考え込んでいた伊之助が答えた。

 

「お、なんだよ?」

「天ぷらぁ!」

「て、天ぷら……」

「天ぷらか」

 

 たまらずジョジョが噴き出した。

 

「あはははは! イノスケらしいや。それじゃあ、みんなで天ぷら食べるかい?」

「今ならお夕飯の仕込みはまだの筈です。今の内に、アオイに頼んで今日は天ぷらにして貰いましょうか」

「やったぜぇ!」

 

 伊之助、渾身のガッツポーズ。実はすっかり大好物なのである。

 

「そうとくれば、儂に任せなさい! とびっきりの材料を用意しよう!」

 

 スピードワゴンは張り切っている。一体どんな材料を用意するつもりなのか。

 

「スピードワゴンさん、みんなで食べる時、ジョジョさんや貴方がどんな冒険をしてきたのか聞かせて欲しいです!」

「良かろう! タンジロー君! 儂もたくさん語るとしよう!」

「ぼ、ぼくのこともかい? なんだか照れるな……」

「あ、俺も気になる」

「俺も聞きてぇ!」

「私も興味ありますよ」

 

 どうやら、楽しい食事会になりそうだ。

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 黒髪を二つの青い蝶飾りで結ぶツインテール、青みがかった隊服の上から白い看護服を着用した少女、神崎アオイは、台所に山の如く用意された材料を見ながら唸っている。

 

「車海老……」

 

 東京湾の干潟で採れた、新鮮で活きの良い海老だ。まだ生きているのか、その太い胴体がビチビチと動いている。たっぷりと身が詰まっていることだろう。

 

「川越の紅赤……」

 

 赤みの強い皮が特徴的な、大きなサツマイモだ。

 

 紅赤は現代でも『サツマイモの女王』と称される程の高級品で、サツマイモとして最高峰の味を持つが、高度な栽培技術を要する為、その値段は非常に高い。何より、天ぷらに相性が良い。

 

「これ、賀茂茄子よね……まん丸……」

 

 従来の細長い茄子とは違い、手のひらサイズのまん丸な果実のような賀茂茄子。これも現代では『なすの女王』と称される京野菜。無論高級品だ。天ぷらとの相性も抜群である。

 

「乾しいたけ……」

 

 しいたけは当時、松茸を凌ぐ高級品だった。大きく茶色いカサのしいたけは、大きめのボウルに満たした冷水につけられており、水分を取り戻してツヤツヤとしている。

 

「春菊も南瓜も、どれもすごい一品じゃない……」

 

 全ての材料が、老舗の高級旅館や料亭で用いられる程の一級品だ。そんな高級食材がアオイの目の前にどっさりと用意されている。

 

「腕が鳴るわ……がんばろ!」

 

 アオイの後ろで闘志を燃やす三人娘共々、アオイは目の前の高級食材に挑みがかった。

 

「三人共よろしくね! 私一人じゃ絶対手に余るからっ!」

「「「はーい!」」」

 

 アオイ、きよ、すみ、なほの戦いが始まった! 

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 翌日、鬼殺隊本部。産屋敷邸。

 

「到着しました。スピードワゴン様。今、目隠しと耳栓を御取り致します」

 

 スピードワゴンは蝶屋敷を後にし、隠に運ばれ鬼殺隊の本部に到着した。

 

(蝶屋敷、良いところだった。久しぶりに、心休まるひと時を過ごせた。長らく働き詰めだったからな……)

 

 昨夜は天ぷらに舌鼓を打ち、集まった皆にジョジョと自分のこれまでの冒険を語り、蝶屋敷にいる鬼殺隊の面々と親睦も深めた。何より、ジョジョが無事なことを知れた。どこか解放感がある。本当に楽しかった。

 

「ようこそ、スピードワゴン様。ここからは私がご案内致します。どうぞ此方へ」

「御親切にどうも」

 

 スピードワゴンは、隠の者に案内され、産屋敷邸へと歩みを進める。

 

(さて、ここからは儂の仕事だ。頑張るとしよう!)

 

 紳士服の襟を整えるその姿は、見紛うことなき紳士、ロバート・E・O・スピードワゴンだ! 

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 案内されたのは、柱合会議の場としても利用される縁側付近の畳部屋で、スピードワゴンと六人の男女が敷居を隔てて正座で向かい合っている。それを見守るように縁側前の障子を陣取り同じく正座する二人の巨漢がいる。

 

「ウブヤシキ家の皆さん。お忙しい中、一家総出でのお出迎え。誠にありがとうございます」

 

 皴の混ざった顔で穏やかに微笑み、スピードワゴンは紳士然として礼を述べた。帽子は既に脱いでいる。

 

「スピードワゴン殿、遠路はるばる、ようこそおいで下さいました。私は産屋敷家九十七代目当主。産屋敷耀哉。我ら産屋敷家一同、貴方の来訪を心より歓迎致します」

 

 産屋敷耀哉が代表し、スピードワゴンの来訪を歓迎した。後ろに控える六人の妻子も共々、膝元の畳に指を添えて会釈している。

 

(不思議な声だ。奇妙な安らぎがある。何十年も会っていなかった無二の親友や両親と再会したような、そんな気分を思い起こさせるわい……)

 

 落ち着きのある雰囲気からか、若くして既に貫禄がある。

 

(この方がジョースターさんの言っていたウブヤシキ・カガヤさん……会ったときは顔の半分、鼻より上が病に侵されていると言っていたが、今は鼻先程まで浸食されておる)

 

 耀哉がやってきた時、彼は妻子に手を引かれて現れた。目が見えないというのもジョジョが送った電報そのままだ。

 

(これ程蝕まれておるとは……体内は間違いなくボロボロ、不治の病に侵された老人もかくやといったところだ。立っているのもやっとだろうに……)

 

 耀哉の後方に控えているのは、妻のあまねと五つ子の子供達だ。スピードワゴンから向かって左から、息子の輝利哉、娘のひなき、にちか、くいな、かなたである。

 

 妻のあまねは、二十代後半程。結んだ白髪に薄眉の、皴一つ無い美しい女性だ。桃色の着物に、青い蝶の刺繍が施された黒い羽織を纏っており、耀哉の後方で静かに控えている。

 

(ふうむ、浮世離れした雰囲気を持つ方々だ。皆、どこか現実離れしており、水墨画から出でたような神秘性がある。それにこの匂い、なんと清廉な……タンジロー君達にも引けを取らんッ!)

 

 ひなき、にちか、くいな、かなたは、白髪でおかっぱ頭。紫の花柄が刺繍された紺色の着物も含め、全員瓜二つの容姿だ。ぱっと見で異なるのは髪飾りのみ。

 

 輝利哉の髪の色は子供の中では唯一黒色のおかっぱ頭。四人と同じく紺色の女性物の着物を着ている。いわゆる女装だ。病弱で生まれてしまう産屋敷家の男児を、十三の歳まで女子として育てるしきたりの為である。

 

 輝利哉の髪色を除き、五人揃って母親にそっくりだ。年は八歳。十にも満たぬ子供達である。

 

(この国で言う"辻髪"にも届かぬであろう子供たち。しかし、上級貴族も顔負けの堂に入った姿。既に、立ち振る舞いも洗練されておる。厳しく躾けられたのだろう)

 

「そして、この子達は宇髄天元と悲鳴嶼行冥。貴方の護衛を最優先にしております」

 

 縁側の障子を陣取っていた二人が座ったまま、ずいと前に進み出た。

 

「スピードワゴン殿、命に代えてもお守りする」

「どうぞ、ごゆるりと……」

「感謝しますぞ。テンゲンさん、ギョウメイさん」

 

 身長198㎝と身長220㎝の巨漢、鬼殺隊最高戦力。音柱・宇髄天元と岩柱・悲鳴嶼行冥はスピードワゴンに挨拶すると、縁側に出てから静かに障子を閉めた。裏側で待機しているのだろう。

 

(ふぅー、目を見張るような威圧感だったわい。爆走する自動車も真正面からぶっ飛ばしそうな鍛え抜かれた肉体! 特にギョウメイ君。これほどの巨人、アメリカでも早々見かけん! 増してや、東洋人の平均身長は西洋人に比べそれほど高くない。これも東洋の神秘と言うべきか……)

 

 頼もしい護衛達だが、一つ疑問が生じた。

 

「儂の護衛はありがたいのですが……カガヤさん、貴方の護衛は付けないのですか?」

「はい、私には不要です。貴重な戦力を、私一人に使うものではありませんので。他の者達は皆、鬼狩りに励んでおります」

「それはまた、なんと豪胆な……」

 

 大切なお客人に何か起きないようにという理由で、宇髄と悲鳴嶼は此処にいた。産屋敷耀哉の命よりも、ロバート・E・O・スピードワゴンの命を守るよう厳命されている。

 

(歯痒いもんだな)

(お館様……)

 

 襖の裏に控える二人、本音を言えばこの場の全員を守りたい。しかし、八年にも渡り悲鳴嶼の進言を断り、護衛を拒み続けている耀哉には暖簾に腕押しであった。

 

「正直なところ、私は驚いています。まさか数年前設立されたあのスピードワゴン財団にも、"鬼狩り"に該当する部門があるとは……」

 

 スピードワゴン財団は1910年、明治43年に設立された。

 

 全世界の自然動植物保護。医学、薬学、考古学への支援活動を行う、アメリカ経済を動かす程の大組織として有名だ。

 

 産屋敷家は近々ヨーロッパを中心に起きるであろうあの大戦争の気配に備え、諸外国の情報を仕入れていた。鬼殺隊の活動に支障を出さない為だ。スピードワゴンの名は知っていて当然の結果だった。

 

「はっはっは、それは儂も同じところ。まさか極東の地で、人々の為に怪異へと立ち向かう者達と出会うことになるとは。いやはや、世界中旅をして回ったと自負しておりますが、予想もつきませんでしたわい」

 

 鬼殺隊とスピードワゴン財団の邂逅。それは正に青天の霹靂だった。尚、善逸は関係ない。いや、ちょっぴりある。

 

「さて、早速本題に入るとしましょうか。よろしいかな?」

「勿論です。御用件を伺いましょう」

 

 ここからが本番だった。アメリカ経済をも動かせる大物がどのような話を持ってきたのか、産屋敷家も気になるところだ。

 

「ここへ来たのは他でもありません。儂も、鬼殺隊の鬼狩りに協力させて頂きたいのです」

「ほほう。それは実にありがたい話です」

 

 耀哉は顔をより綻ばせる。

 

「具体的には、どのような活動を予定しておられるのでしょうか?」

「無論、お話ししましょう」

 

 スピードワゴン財団の主な活動内容は、大まかに言えば四つだ。

 

 一、医療、諜報、教育に長けた人材の派遣。

 

 二、最新の医学・薬学技術の提供。

 

 三、無償による、関係者全員の診察・治療。

 

 四、波紋使いの斡旋。

 

 まず、一、二、三の準備を、スピードワゴンは着々と進めていた。

 

「目黑村に財団の支部を設けます。各地の医療機関への技術共有や人員、金銭的な支援が主になりますかな。名目は、日本の医学薬学の発展に寄与する為。貧困により治療の手が届かぬ者への支援の為。そんなところです」

「そこまでして頂けるとは、よろしいのですか?」

「ええ、元々日本にも支部を設立する予定でしたので……外国人の儂らが各地に関係者を送り込むとなると、これぐらいはしなければなりませんからな」

 

 後の話だが、最初は良い顔をしなかった各地の医療関係者や行政のお偉いさんも、何らかの理由により仏の如き満面の笑みでスピードワゴン財団を受け入れたと言う。何らかの理由により。

 

「当然、名目上と言えども、全力を尽くす所存です」

「ほう」

「ゆくゆくは日本の医療全体への支援を予定しております。難病を患い、貧困に喘いで死を待つしかなかった者、例えば"結核"を患った者の為、大規模な病院でも格安で入院出来る仕組みを構築します。儂の手から離れてもその機能を維持するように」

 

 結核は、当時の日本人を最も死に至らしめた感染症だ。最初のワクチン開発に成功するのも1931年。昭和のことであり、まだ自然治癒でしか回復が望めない。

 

 現状必要なのは暖かく清潔な環境と、栄養のある食事、適度な睡眠だ。しかし、結核を患ったことで困窮する者にそれができる筈もなく、罹れば大概の者は死を待つしかなかった。

 

「なんならツケも利くようにしておきますか」

「喜ばしいことですね。貴方のおかげで命を救われる者は、さぞ多いことでしょう」

「だと良いのですが。表向きはそう進めて行きますわい。まぁ、ちょっとしたお節介ですな」

 

 スピードワゴンが頬の傷を軽く掻きながら言う。

 

 結果としてこのお節介は、とある結核の青年を救うこととなった。

 

「成程、財団の表向きの活動は各地の診療所・病院への援助、医者の派遣と」

「ええ」

 

 あくまで表向きはそうだ。だが、耀哉は既に真の目的が読めていた。

 

「言い換えれば、各地の医療関係者に貴方の息がかかる」

「そうですとも」

「最終的に、全ての診察所・病院が鬼殺隊と秘密裏に協力することとなる」

「然り。慧眼、恐れ入ります。一から施設や人員を用意するのは時間がかかりすぎる。鬼殺隊の支援をするならば、こうするのが一番手っ取り早いでしょう。もっとも、民間人は巻き込まないよう、最大限注意せねばなりませんがな」

 

 産屋敷家の五人の実子達が微かに反応したような気がした。耀哉の息子、輝利哉は内心で舌を巻く。

 

(僕の想像以上に規模の大きい話だ。この方は、"手っ取り早さ"の為にそこまでのことを……。父上は、スピードワゴン殿とは長い付き合いになるだろうと仰っていた)

 

 だからこそ、一家総出で迎えるに至ったのだ。

 

 スピードワゴンの狙いは鬼殺隊で言うならば、全国の医療機関をスピードワゴン式の"藤の家"と化してしまうことだった。鬼殺隊の裏方仕事は隠、鎹鴉、藤の家の者などが行っており、情報収集、資材の提供、後処理、隊士の搬送と応急処置などなど、多岐に渡る。しかし、その手の届く範囲には限界があった。

 

 技術の向上、人手増加による隊士達の死亡率軽減。情報収集の効率化。物資の確保。考えられる利点は多い。

 

 この申し出は、正に渡りに船だ。

 

(流石、父上。平然としておられるが、この支援が実現した暁には鬼殺隊への貢献は計り知れない……。どれ程の人とお金が動くのか、想像できないぞ……)

 

 規模が大きすぎる為、日本経済にも大きな影響を及ぼす可能性もある。

 

「そして、恐らく皆さんが最も関心を寄せてるであろう"波紋使い"ですが、そう遠くないうち……そうですな、一週間もあれば来日するでしょう」

「素晴らしい!」

 

 耀哉の子供達、障子裏に控える柱の二人は内心驚いた。耀哉がこんなに大きな声を出すのは非常に稀だからだ。耀哉の表情は微笑ではなく満面の笑みだ。

 

「日本に訪れる前、知らせが波紋使いの皆さんへ届くよう手配しておきました。国際電話で中国に滞在する財団員を経由しておりますので、我々がこうして話している間にも、あの人達は此方に向かってることでしょう。チベットと日本ならば、英国や米国に比べれば近所みたいなものです」

 

 日英間が9195km。日米間が10144km。日本とチベットが4620km。

 

 半分ぐらい近所だ! 

 

「カガヤさんの御病気についても当然言い含めております。あちらには波紋使いの医者もいるので、何か策を講じてくれるでしょうな」

 

 四、波紋使いの斡旋は既に実行していた。

 

「……スピードワゴン殿、何とお礼を言ったらいいか」

「いえいえ、礼ならジョースターさんに言って下され。あの方が詳細に知らせてくれたおかげで儂も先んじて行動することができた。それに、波紋使いの皆さんもその名を見て駆けつける方が、多いでしょうからなぁ、ふふふ」

 

 何故か嬉々としてスピードワゴンは言う。

 

「……しかし困りました。これ程までの御厚意。返礼せねば産屋敷家の名折れと言うもの。何か返せる物があれば良いのですが」

「ほう、それはありがたい申し出。よろしいのですかな?」

「勿論です。力になれることならば何なりと」

 

 スピードワゴンも何か欲しい物がある素振りを見せた。その目はギラついているが、何か重大な使命を抱えた者のギラつきだ。

 

「……この国には、"腹を割って話す"と言う慣用句がありましたな。本音を言えば、すべて無償での提供といきたかった。しかしお恥ずかしながら、儂は貴方がたが持つ"あるもの"が欲しい」

「お聞かせ下さい」

 

 スピードワゴンが大きく息を吸った。力強い眼差しで耀哉を見据えている。

 

「それはずばり! 鬼殺隊が持つ"鬼狩り"のノウハウ! "全集中の呼吸"の技術! 日輪刀の技術ッ! 対鬼の薬学! 儂は是非とも知りたいッ! それらの技術は、スピードワゴン財団にとって、致命的に欠けているモノなのですッ!」

 

 スピードワゴン財団は、石仮面の研究とその根絶を目的としている。世界中に支部を増やし、その勢力は世界でも屈指! しかし、そんな大組織にも、どうしても足りないものがあった! 

 

 戦力だッ! 

 

「鬼殺隊には800年に渡り組織運営と戦力を維持し、鬼と戦い、人々を守り続けた確かな実績と技術があるッ! 我々は現状、少数の波紋使い達に苦労を強いることしかできぬのです! そのせいで、犠牲者が増えた! ()は親友をみすみす死なせてしまうところだった! もうそんな悲劇を起こしたくはないッ!」

 

 スピードワゴンは両手の震える握り拳で畳を力強く叩いた。

 

「お頼み申し上げる!」

 

 そして、深々と頭を下げた! 

 

その誇り高き"鬼滅の刃"! お教え願うッ!!

 

「……」

 

 耀哉はスピードワゴンの言葉を聞き、目を閉じて考えている。耀哉の妻子達も、返答が気になっているのか視線が耀哉に向いていた。

 

 すると耀哉は、フゥと大きく息を吐いた。

 

「これは、忙しくなりそうだね……」

「!」

「あまね、刀鍛冶の里へ連絡を」

「はい」

「私は、派遣すべき育手の選定をしなければ」

「ではッ!!」

「ロバート・E・O・スピードワゴン殿。鬼殺隊も、貴方に対して腹を割るとしましょう」

 

 産屋敷の返答はYESだった。

 

 YES! YES! YES! "OH MY GOD"

 

「ありがたいッ! カガヤさん! 感謝するッ!!」

「こちらこそ。スピードワゴン財団の技術と鬼殺隊の技術。交わることによって何かが起こる。確信に近いものを感じる。大きな波紋だ。久しぶりに、気分が高揚しましたよ」

「俺……! オホン! 儂もですぞッ!」

 

 財団の活動内容! 新たに追加ッ! 

 

 五、対鬼、対吸血鬼、対屍生人の技術交換ッ! 

 

 六、その応用による新技術の共同開発ッ! 

 

「スピードワゴン殿、これからもより良い関係を築いていきましょう」

「ええ、ええ。是非とも! 長い付き合いになりそうですなぁ!」

 

 産屋敷耀哉とロバート・E・O・スピードワゴンはお互い歩み寄り、両手でガッチリと握手を交わした! 

 

(おいおいおい……! エラいことだぜ! 悲鳴嶼さん!)

(嗚呼、我らは今、歴史的瞬間に立ち会ってるのやもしれぬ……)

 

 エゲレスの鬼狩り、ジョナサン・ジョースターの招致。竈門炭治郎、竈門禰豆子の容認。外部組織であるスピードワゴン財団との連携。これまで、産屋敷耀哉が下してきた決断は、鬼殺隊の歴史上において革新的だ。

 

 宇髄と悲鳴嶼も、その大きなうねりを感じ取っていた。

 

 後にこの協力関係は、より強固になって行き、後世にも多大な影響を及ぼすこととなる。

 




大正の奇妙なコソコソ噂話

「あら、伊之助さん。私に何か用ですか?」
「お前が作った天ぷら、すげぇうまかった!」
「礼ならいりませんよ」
「礼じゃねぇ! うまかったってだけだ!」
「……そうなんですか」
「おう! だからお前はすげー! 認めるぜ!」
「そ、そうですか……。ふふ」
「ばばあみてーな味だ!」
「ば……!?」

 怒られた。
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