鬼滅の波紋疾走 JOJO'S BIZARRE ADVENTURE PartEX Demon Slayer   作:ドM

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炭カナをすこれ……。
今回超短めですが、20日にも投稿予定なのでユルシテ


フライング大正の奇妙なコソコソ噂話

炭治郎はスピードワゴンが来るまでの一か月間で
カナヲを原作と同様、コイントスの遣り取りで射止めてるぞ!



花開く

「おはよう。カナヲは今日も早いな!」

「お、おはよ……」

 

 炭治郎にカナヲと呼ばれた女性の隊士は、緊張した様子を見せている。炭治郎に返した挨拶も声がか細く、顔がやや俯いていた。

 

 しのぶやアオイも付けている蝶を模した髪飾りで、側頭部を束ねるサイドテール。脛が半分隠れる丈のスカート型隊士服を着ており、その上から真っ白な羽織を着用している。

 

 栗花落(つゆり)カナヲ。炭治郎、善逸、伊之助の同期だ。

 

「また、基礎訓練を手伝って欲しいんだ! いいかな?」

「う、うん……」

 

 その表情は微かに紅潮し、緊張した様子を見せている。

 

「ありがとう! 一緒に頑張ろう!」

 

 蝶屋敷で出会った当初のカナヲは、微笑みを張り付けただけの実質的な無表情、無感情。指令に従いひたすら鬼を狩る機械のような人物だった。ジョジョや炭治郎達にも素知らぬ顔で、皆から距離を取って訓練に取り組んでは鬼狩りに勤しんでいた。

 

 しかしある日のこと、カナヲは少しずつ打ち解けていった。

 

 彼女は、指示されていないことに関してコイントスの表裏で決めていた。それを見た炭治郎は、彼女の持つ"表裏"の刻印が入ったコインを借りて、空に打ち出したのだ。

 

『表が出たら、カナヲは心のままに生きる!』

 

 結果は表だった。炭治郎は大喜びしながら、真っ直ぐな心で力強い励ましの言葉を送ってきた。それから、カナヲは自分の心の声が聞こえるようになった気がした。

 

「ねえ、炭治郎」

「なんだい?」

 

 これまでカナヲに接してきた者達は、カナヲが張り付けた笑みで塩対応を取っていたらそそくさと離れていた。

 

「どうして、私なの……?」

「カナヲとも仲良くしたいから!」

「そ、そう……」

 

 直球だった。あの時も炭治郎はこんな調子で、他の人とは大きく異なった。「さよなら」と言ってすげなく対応しても、歩み寄ってきた。嫌がった故の拒絶ではなく、無関心故の拒絶だったことを見透かしたように

 

「それに、一緒に修行したいのはカナヲがすごいからだよ。俺たちはジョジョさんに波紋の呼吸でたくさん鍛えて貰って、肺を何回も潰されてやっと常中を身に着けたのに」

 

 炭治郎が屈託のない笑顔でカナヲの技量を褒める。炭治郎達と同期であり、ジョジョにパウられていないにも関わらず既に常中を会得しており、三人に引けを取らない強さを見せていた。才能という点で見れば、三人を凌駕している。

 

「は、肺を……?」

「そう! 大変だった! ……本当に。カナヲはしのぶさんの継子(つぐこ)なんだろう? あの人は今、すごく忙しそうだから、しのぶさんから教わったことや、心構えを聞かせて欲しいんだ」

 

 "継子"は柱や元柱へ志願、又は推薦された者が就く。次期柱の候補として柱直々に育てられている隊士である。相応の実力と才覚が必須だ。彼女は、胡蝶しのぶの姉である、胡蝶カナエの呼吸法"花の呼吸"を見様見真似で会得した。端的に言って天才だ。

 

「俺もジョジョさんから戦いのコツをたくさん教わったからさ、色々教え合って一緒に訓練すれば、俺達はもっと強くなれるぞ! 大丈夫な時で良いから!」

「……良いよ」

「やった!」

 

 小さく頷くカナヲに、炭治郎が喜ぶ。ジョジョ、善逸、伊之助、スピードワゴン、蝶屋敷のみんなに続き、カナヲとも仲良くなれそうだと。

 

 どんな修行を積んできたのかに対しても興味深い。今、彼のモチベーションは非常に高い。カナヲが持っている技術もどんどん吸収するつもりだ。

 

「きっと、今しのぶさん達がやっている訓練の改良にも、何か役立てるぞ!」

「そう?」

「うん!」

 

 炭治郎達は今、ジョジョとしのぶが治療の傍ら取り組んでいる訓練の改良を手伝っている。ぶっちゃけて言えば実験台である。ここ最近は何故か鬼の活動が弱まってきているので、今では指令で鬼狩りに赴くよりも、蝶屋敷に滞在している時間の方が多い。なので、基礎体力向上に励む絶好の好機だった。

 

「俺、嬉しいよ。こうして話ができたこともだけど、カナヲはなんだか、今までより自分の心の声をよく聞いているような気がするんだ」

「声……」

 

(そうなのかな?)

 

 カナヲは思う。自分が心の声を聞いてるのかは今でもよく分からない。幼少期から激しい虐待を受け、親の手で兄妹が殺されるところを目の前で何度も見た。そんな過酷な環境に心の何かが切れてから、そんなことは考えたこともなかった。

 

 ただ、一つだけ分かっていることがあった。

 

 今、自分がよく聞こうとしている声は――。

 

(炭治郎の声……)

 

 今の自分は、炭治郎の声が聞きたいと思っている。傍にいて欲しいと思ってしまう。

 

 炭治郎の赤みがかった真っ直ぐな目で見つめられると心音が大きくなる。一緒に話していると、それがより一層顕著になる。今、自分が変な顔をしていないか心配になる。彼一人に感情が大きく揺り動かされている。

 

「……」

「カナヲ?」

「え!? あ、うん! な、なあに?」

 

 名を呼ばれ、咄嗟のことで、慌てて返事をする。

 

(ど、どうしよう……。変な人だと思われてないかな……)

 

 自分の挙動不審が変に見られていないか心配する。不思議だった。自分が自分でないみたいだ。一挙一動が、ぎくしゃくしてしまう。彼のことを思うと、胸が締め付けられる。顔が熱くなっているのが分かる。

 

(うぅ……。な、なんなの……。これ……)

 

 それは、栗花落カナヲの初恋だった。

 

 彼女は、竈門炭治郎を切っ掛けに、何かが変わろうとしていた。

 

「考え事?」

「う、うん、ちょっとだけ……」

「そっか」

「……」

 

(落ち着くのよ……。今までこんなことで心を乱されることはなかったじゃない……。鬼と戦っていた時だって、常に冷静に……)

 

 火照る顔を冷ますよう精神を集中する。慣れない。本当に慣れない。不便だ。だけど、嫌じゃない。それに気付いた時、また顔が熱くなりそうになった。悪循環だ。

 

(……そういえば)

 

 冷静さを取り戻すと、カナヲの中である懸念が生まれた。

 

「あの、聞きたいことがあるんだけど……」

「何だい?」

「……」

 

 カナヲは炭治郎から目を逸らしたまま話しかけた。目をパチパチと瞬かせて、緊張した様子だ。

 

(言いにくい事なのかな? こういう時はしっかりと待とう!)

 

 炭治郎は、答えを急かすことなく待った。優しい表情で、カナヲを見つめている。困ったことに、その顔がカナヲの心を更に惑わす。

 

 言いにくいのも無理のないことだった。彼女が抱いた懸念は、乙女として非常に重大な問題だからだ。

 

「……えと、私、変な匂いしてないっ?」

「匂い?」

「うん……」

 

 それは体臭! 炭治郎の嗅覚が超スゴイのは、この一か月でカナヲもよく知るところだ!

 

(わ、私、何言ってるんだろ……)

 

 カナヲはまだ自覚していない。本能的に感じ取った死活問題だった。心の奥底から湧き上がる不安感がなんなのか、いまいちよく分からなかった。

 

 カナヲも蝶屋敷の一員。医学上、清潔を保つことが健康の秘訣であることは知っている。任務明け、又は一日に一度は必ず風呂に入り、体を清潔に保っている。余談だが、カナヲは風呂が好きだ。幼き頃の記憶、胡蝶家に引き取られた、最初に浮かぶ暖かな思い出の一つだからだ。

 

 そんな感じで、身だしなみには気を使っているが、暖かくなってきたこの時期、訓練に鬼狩りにと、汗をかく機会が増えてきた。

 

「変じゃないよ」

「!」

 

 炭治郎が即座に否定した。何故だかそれがとても嬉しい。カナヲの表情がパァっと明るくなった。

 

「カナヲはとても良い匂いがする!」

「み゜」

 

 ボフッという音と共に顔が瞬時に赤くなった。しかも"ま行"に"半濁点"を付けたような聞いたことない発音だ。炭治郎の火の玉剛速球による弊害! カナヲは不慣れでむず痒くて熱い感情に対処しきれない!

 

「うわぁ! 大丈夫!? 顔がすごいことになってるぞ!」

「だ、大丈夫……。大丈夫だから……」

 

 炭治郎に掌を突き出して意思表示する。しかし目が合わせられない、体がプルプル震える。炭治郎は修行を望んでいるのだから、これ以上時間を取らせるわけにはいかない。

 

(カナヲは困っている! こういう時は、どうすればいいんだ!?)

 

 炭治郎は分からなかった。拒絶の匂いはしない。しかし困っている。なんだか嗅ぎ慣れぬ匂いだ。

 

(なんとなく、禰豆子の傍にいるときの善逸に似たような匂い……?)

 

 嗅いだことのある匂いから似た者の記憶を手繰り寄せたらそうになった。だが、何故そこで善逸なのか自分自身にも分からなかった。

 

 それより、この力強い突き放し方は如何したものか。何に困っているのか。時間が解決するのだろうか。自分に協力できることはないのだろうか。様々な考えがグルグルと炭治郎の脳裏を過る。

 

「一旦離れた方がいいかな?」

「離れないで!」

「分かった!」

 

 判断が早い。

 

(うう~……)

 

 カナヲは、この感情に慣れるまで時間がかかりそうだ。

 

 

 

 

ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ

 

 一方、少し離れた木陰に身を隠す人影が一つ。呪詛のオーラが迸る。

 

(とんでもねぇ炭治郎だ!)

 

 珍しく早起きな善逸が、炭治郎とカナヲの様子に聞き耳を立てていた。般若の面を彷彿とさせる怒りの形相で歯軋りをしている。今にも奥歯が砕けそうだ。

 

(あれもうあれじゃん! 女が男に惚れた腫れたなアレじゃん! なーにが良い匂いだコンチキショォ!! 俺だって禰豆子ちゃんの為に、きびしぃー訓練に耐えてるってのにあの野郎ォ! あの野郎ォ――!!)

 

 今までのカナヲは無機質な音を発し続け、何を考えてるかさっぱり分からなかった。しかし今ではどうだ。あの高鳴る心音、微かに聞こえる鈴の音を転がすような嬉色に満ちた声。姉妹のように育てられたしのぶにすら見せることのなかった、"感情"が籠っている。それが善逸の聴覚なら手に取るようにわかる。確定だ。

 

 一体あのスケコマシがどんな手管を用いたのか。同じ釜の飯を食った親友の突然の裏切りに、善逸は怒り心頭だ。

 

(ヤツに天誅をくれてや……)

 

 ガシッ

 

「んぁ?」

 

 突然自分の体が宙に浮き、間の抜けた声が出る。

 

「ゼンイツ」

「ゼンイツ君……」

「ひ」

 

 善逸の背後から現れたのは、ジョジョとスピードワゴンだった。二人は片方ずつ、善逸の両脇から腕をガッチリとホールドしている。身長差で持ち上がったのだ。持ち上がった勢いで、足がぶらんぶらんしている。

 

「さ、今日も一緒に訓練の改良だ。シノブとイノスケが待ってるよ」

「いかんぞゼンイツ君。こういう時はな、クールに去るものだ」

 

 善逸は持ち上げられたまま二人に運ばれていった。

 

「イィィィィィヤァァァァァァ!! 去るッ! 去るからッ! もう実験台はいやだぁ――ッ!!」

 

 涙目で首を縦横無尽に振り乱し、宙ぶらりんになった両足をバタ付かせながら汚い高音を発している。連れて行かれた先でしのぶとジョジョが巻き起こす、修行と言う名の恐るべき実験に恐怖しているのだ。

 

「人聞きの悪いことをいうんじゃあないッ。ゼンイツ君も来るんだ。シノブ女史とジョースターさんの特別訓練は、才能や実力に応じて区分けする予定なのだ。ゼンイツ君のように偏った実力者のテストケースも重要なのだぞ」

「それに、効果は既に実証されつつあるよ。君はどんどん強くなってる! ちょっと可哀想だけど……。ここが正念場だ! ゼンイツ!」

「それは分かってるし、痛みに最大限配慮してるのも分かるんだけどさッ! 怖いのよ! 俺の体どうなっちゃうの!? なんか最近、いくら息を吸っても肺が苦しくならないのが逆に怖いッ!!」

 

 善逸が喚くのはいつものことなので、ジョジョ達もだいぶ慣れてきた。しかし、修行場まで連れてくれば、観念したかのように皆に負けず劣らず頑張ってくれる男なのである。

 

 去り際、ジョジョとスピードワゴンは二人に思いを馳せる。

 

(カナヲは、"タンジローとの恋"というすてきな好奇心で動き出した。ぼくの心が暗く冷えていた時、エリナが優しく暖めてくれたのを思い出すなぁ……)

 

 若き二人の青春に、かつての自分と妻の姿が重なる。

 

(彼女は心を開いたのだな……。厳しい冬を越え、暖かな日差しが蕾を花開かせるようにッ! やりおる! タンジロー君!)

 

 スピードワゴンも、蝶屋敷で密やかに始まった青春を心の中で祝福した。

 

(と言っても、タンジローはまだ気づいてなさそうだけど……)

 

「離してぇ――――――!」

 

 そんな中、善逸の情けない悲鳴が蝶屋敷に響き渡った。

 

「善逸のやつ、匂いがすると思ったらまた逃げようとしてたんだな。全く……」

「……」

 

(……今もしかして、何か大事なことがすり抜けてなかった?)

 

 カナヲは何故だか分からないが、善逸のせいで致命的なすれ違いが生じたような気がした。何となくなので口には出さないが。

 

「人間の肺はそんなに大きくなったり縮んだりしねェ――――!」

 

 あの叫びは、すっかり蝶屋敷の名物と化した。

 

 




大正の奇妙なコソコソ噂話

炭カナをすこれ……

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