鬼滅の波紋疾走 JOJO'S BIZARRE ADVENTURE PartEX Demon Slayer 作:ドM
無惨様以外の登場人物はシルエットをイメージしてます。強敵の初回の勢揃いはシルエットにしないと禁断症状が出る性癖を持ってるのです。趣味です('ω')
遡ること、那田蜘蛛山で下弦の鬼が全滅した直後。
――ベン
琵琶の音が鳴る。
――ベン ベン
無限城。襖、畳、階段が上下左右バラバラに配置された歪な場所。鬼舞辻無惨の拠点の一角で、琵琶の音を鳴らす鬼がいる。
――ベン ベン ベン
鳴ること、計六回。音に呼応するかのように、無限城の各所に突如襖が現れ、開いた先から次々と姿を見せる者達がいる。皆、その片目には縦書きで"上弦"と刻印されている。十二鬼月、上弦の鬼達だ。
(異空間、無限城。無惨様の招集命令か)
上弦の参、猗窩座は、現れた他の鬼を一人一人目で追って確認する。
(妙だ。ここに呼ばれるのは、上弦が鬼狩りにやられた時。だが、欠員は出ていない。陸から壱まで全員揃っている)
「どういった御用向きで……?」
「お兄ちゃん……」
上弦の陸、一心同体。妓夫太郎と堕姫。
「ヒョヒョ……」
上弦の伍、壺の異形。玉壺。
「恐ろしい……恐ろしい……」
上弦の肆、怯える翁。半天狗。
「……」
上弦の参、紋様付き。猗窩座。
「おやおや? みんな勢揃いだ。喜ばしいね!」
上弦の弐、虹色の瞳。童磨。
「無惨様が……。御見えだ……」
上弦の壱、剣士。黒死牟。
――ベン
八畳ほどの畳張りの場所へと、上弦の鬼が瞬時に寄せ集められた。琵琶の鬼の血鬼術だ。向かって右から妓夫太郎と堕姫、玉壺、半天狗、猗窩座、童磨、黒死牟の順番で横一列に並んでいる。上弦の位順だ。
――ベン
「……」
琵琶の音と共に上弦の鬼達の目の前に現れたのは、鬼舞辻無惨。片手で歪に盛り上がった首の肉を押さえ、一段高い床に立つその姿は洋装の男性だった。無惨は沈黙し、鬼達を睨みつけるように見つめる。非常に不機嫌な様子だ。
無惨が言葉を発する前に、黒死牟と童磨は正座で姿勢を正し、こうべを垂れ、残りの鬼が平伏した。
「ヒィィィ……」
半天狗だけ怯えながら平伏している。
(……! ヒョ、これは、鬼達の記憶。
(ヒィィィ! 流れ込んでくる!)
突如、脳内へと急速に記憶をねじ込まれる感触を覚えた。上弦の鬼達の脳内に、未知の情報が流れ込んできたのだ。これは、無惨の能力による情報共有だ。その内容は、あの憎きジョナサンのもの。
これまでジョナサンに倒された鬼達が、少しずつ蓄積してきた"太陽の力"の情報だ。下弦の鬼が全滅したことも分かった。ちなみに、アレは伏せている。
「ヒィィィィィィィィィ! なんと恐ろしい能力!!」
真っ先に、半天狗がジョナサンの能力に恐れ慄き、体を丸めている。
「こいつぁ……」
「こんなのって……」
堕姫が妓夫太郎にしがみついた。堕姫は少し震えている。
「いやはやこれは! 鬼への脅威という他ありませぬな!」
「それもまたよし……」
「ははは! これは良くないんじゃないかな。玉壺」
「ヒョ……」
何故だかカラカラと笑いながら玉壺を諫める童磨。
「異国の戦士……。無手ながらなんという強さ……」
黒死牟はジョナサンの強さに唸っている。
「下弦の鬼は、このまま解体する。今、他の鬼達にも纏めて情報を流した。死に物狂いでジョナサンの情報を集めて殺してこい。
「御意……」
「畏まりました!」
「承知」
「ヒィィィ、承知致しました……!!」
「ヒョ、仰せのままに……」
「「分かりました……!」」
無惨が一方的に指示を出すと、上弦の鬼達は有無を言わず了承する。手慣れたものだ。
――ベン
無惨はそれだけ言い残すと、もう用はないと言わんばかりに去っていった。
これは、首に喰らったあの
肉体の変化が封じられ、成人男性の肉体で固定された。心臓と脳の大部分は未だに焼け爛れたまま。激痛だけでなく、行動自体が大きく制限された。
回復に時間を要する為、無惨はジョナサンの始末を配下に丸投げし、回復を待ちながらジョナサンについて調査している。ただし結果は芳しくないが。
実はこの時、全鬼に流したジョナサンの情報が原因で、ほとんどの鬼達は恐怖を覚え、一斉に捕食活動を自粛してしまった。あろうことか、ジョナサンの始末どころか鬼への抑止力になってしまったのである。後々、そのことに無惨は更に憤慨することとなる。
無惨が去り、無限城には上弦の鬼達が揃って取り残された。
「ヒョ……。これはどうしたものか……。ある情報をもう少しで掴めそうだったと言うのに、これでは保留にする他あるまい」
玉壺は、単独行動でとある情報を収集していたのだが、指示を出された以上、無惨の指示を優先しなくてはならない。この件は、ジョナサンを始末してから取り掛かるしかなくなった。
「だがそれもまたいい」
玉壺は何故か、それを肯定的に受け入れた。
「ヒィィィ……。百十三年振りに会ってみれば、玉壺は間の悪いことをしておった。間が悪い。運が悪い。これは凶兆やもしれぬ……。
半天狗が怯えながら玉壺を遠回しに馬鹿にした。意外と毒舌らしい。
「玉壺、ある情報って何だい? 教えておくれよ」
「オオ、童磨殿……。最早詮無きこと……お気になさらず」
玉壺が首をウネウネと横に振った。
「それよりもだ……。無惨様は……。あのジョナサンの始末、手段は問わぬと仰られた……」
黒死牟がすかさず本題に切り替える。その姿にはどこか威厳を感じさせる。
「いいねぇ、もしかしたら色々御借りできるかもしれないよ」
童磨がへらへらと同意する。呪いや見張りで雁字搦めにすることが多い無惨にしては、非常に珍しい指示だからだ。
「ところで黒死牟殿に聞きたいんだけど。あのジョナサンってやつの能力、あれも呼吸が基点になってるみたいなんだよね。もしかしてあれが"日の呼吸"ってやつなのかい? 黒死牟殿が皆殺しにしたとは聞いたことあるけど、俺、見たことないし」
「断じて否……、"日の呼吸"はあのような……。奇天烈な技ではない……!」
黒死牟は力強く否定した。その様子は、どこか怒気を孕んでいる。
「そっか。ともあれ、ありがたきことに、無惨様は選択の自由をお与えくださった! やぁ嬉しい! これは妓夫太郎と堕姫、猗窩座殿には特に吉報だぜ? 三人はジョナサンの能力と相性が特に悪そうだから!」
「……」
童磨の隣にいた猗窩座の額に、血管が浮かび上がった。
ゴ パ !
突如、童磨の下顎が血飛沫を上げて吹っ飛んだ。猗窩座の裏拳が童磨の顎に直撃したのだ。童磨は避けようという素振りすら見せなかった。その顎は即座に再生した。
「ヒィィィ」
「まぁまぁ、俺は心配して言ってるんだぜ? 猗窩座殿の血鬼術じゃあ、ジョナサンはどうすることもできない。そこで提案があるんだ」
「……」
ダ ン !
「あ」
猗窩座も最早用はないといった様子で飛び立った。無限城の中を素早く飛び回り、その姿はあっという間に見えなくなった。童磨は完全に無視だ。
「ああ、猗窩座殿! 照れてるのかな? 内心穏やかでないのは分かるが、このままでは彼が犬死にするのではないかと心配で仕方ない! 一先ずさよなら猗窩座殿。さよなら!」
軽薄な笑みを浮かべ、猗窩座の神経を逆なでるような物言いで童磨は別れの挨拶を述べた。既に猗窩座の姿は見えない。
「妓夫太郎、堕姫。お前たちは聞いてくれるかい? 紹介のよしみでさ」
「あぁ……」
「……」
妓夫太郎はくっつく堕姫の頭を撫でながら童磨に応える。
「おうおう、可哀想な妹よう。こいつぁこんなに怯えちまってる……。妬ましいよなぁ……。あの坊ちゃんヅラした異国人んんん。ありゃ特別な奴だったんだろうなぁ。一刻も早く死んで貰いてぇよなぁ。けど……」
「そう、二人じゃ勝てないだろうね。天敵でしょあれ」
「くそがあああああああああ!!」
「ヒョ!?」
「ヒィィィ!」
妓夫太郎が空いた方の手で顔をバリバリと掻きむしった。その拍子に飛び散った血液は堕姫を避け、隣の玉壺にかかった。半天狗は突然キレた妓夫太郎に怯えている。黒死牟は無言だ。
「そこでだ。そこで俺の提案さ」
「……」
「皆幸せになれる素敵な計画がある! 無惨様も手段は問わないと仰ってくれたことだ! きっと御許可頂ける!」
「……あんたにゃ、一応借り作ってっからなあああ、聞いてやるぜぇ」
「よーし!」
童磨が張り付けたような満面の笑みですくっと立ち上がり、みんなの顔が見える位置に畳の範囲内で移動した。無惨が乗っていた一段高い床は乗ったら無礼になりそうなので避けている。
「俺たちはいまこそ……! 今こそ……!」
童磨が無駄に溜めた。上弦たちはイラッとした。
「共に手を取り合い! 戦う時!」
「……」「……」
「……」
「……」
「……」
(早く帰ってくれないかな)
琵琶の鬼、鳴女は、キラキラと虹色の目を輝かせる童磨に呆れた様子を見せる。彼のその言葉は、どうしようもなく薄っぺらい。
「……」
フッ
「あ! 黒死牟殿! さよなら!」
何も言わず黒死牟は消え去った。もう、気配はどこからも感じられない。
「じゃあこの四人で協力することになるかな」
「
「ヒィィィ、強引すぎる……」
「俺は皆が心配なんだぜ。俺の予想が正しければ、あのジョナサンに一番刺さりそうな血鬼術を持ってるのは俺なんだからさ」
「ヒョ?」
「こう見えても、俺はちゃあんとジョナサンのこともみんなの役割も考えてるんだ。妓夫太郎と堕姫にも色々お願いすることになるかな」
「……聞こうって言いだしたのは俺だぁ。あんたの言うこと聞くのは吝かじゃねぇ」
「……お兄ちゃんがそう言うなら」
妓夫太郎と堕姫は、すごく嫌そうな顔をしているが了承するようだ。
「琵琶の君は、手伝ってくれないのかい?」
「嫌です」
「連れないなぁ。ま、いいか。さぁさぁ、色々と準備しないとね! 忙しくなるぞぉ!」
「……」
鬼は仲間意識がほぼない。鬼同士、立場を巡って争う敵としか認識していない者がほとんどだ。無惨の呪いである。しかし、矢琶羽と朱紗丸のような例もある。この場に残った上弦の鬼達は甚だ不本意ではあるが、ジョナサンが脅威であるとの見解も一致している。
結果として思惑は重なり、童磨の計画が始動した。
・ ・ ・ ・ ・
とある砂浜。波の音しか聞こえぬ、草木も眠る丑三つ時。月明かりしか見えぬ暗闇の中、ゆっくりと歩を進める影が一つあった。
波の音に、砂を蹴る音が微かに混じる。
(此処で)
砂浜を歩く何者かは、暗いベージュ色のローブで全身を覆っており、フードも被っている為、顔が見えない。
(私が仕える筈だった"運命の御方"が消え去った)
緩やかに押し寄せる波が足に当たる程の場所で立ち止まると、懐から何かを取り出した。それは、人間の顔程の大きさをしている。
(
それは、石で作られた異形の面。
(この場所から、数多の"運命"が変わり始めた。既に、本来進む筈だった"運命"とは著しく異なる未来へと進みだした者もいるだろう。そうなのだろう?)
ローブの何者かは、その面を見つめる。まるで何か問いかけるように。
(石仮面よ)
その者が手に持つは、石仮面!
此処は、ジョナサン・ジョースターが日本に上陸した最初の場所。既に棺桶とその残骸は綺麗に撤去されており、砂浜は元の静寂を取り戻していた。
(ここだ、ここがその始まりの場所! ついに辿り着いた……。おおお、最早跡形もない……。本当に、本当に消え去ってしまったのだな……顔も知らぬ我が主人よ……。シクシクシクシク……)
暫し、慟哭するようにシクシクと震える。
(こうなっては)
辺りをゆっくりと見渡すと、町を目指して前進した。その足取りは先ほどよりも速い。町へ入る直前、ローブの者に変化が起きた。
(
その姿が霧のように揺らいでいく、徐々に体が霧散していく。消え去る直前、風にローブが翻り僅かに左腕が露出した。その手には、奇妙な点があった。
(私が仕えるべき、異形の君……! 悪のカリスマと成る者をッ!)
その左手は。
(それが果たすべき"
右手の形をしていた。
大正の奇妙なコソコソ噂話
それは、ある誕生を奪い、ある未来を救うチャンス