鬼滅の波紋疾走 JOJO'S BIZARRE ADVENTURE PartEX Demon Slayer 作:ドM
スピードワゴンの解説には、
一人を除いて誰も突っ込みません。
空気が存在するように!
大地が存在するように!
水が存在するように!
そこに在ることが"当然"なのだッ!
"当然"の事象なので、
決して誰も突っ込まないッ!!
蝶屋敷縁側の広い庭。晴天登る真昼間。
「……」
「……」
二人の男が鬼気迫る表情で向かい合っている。
一人はジョジョ、馴染みつつある真っ青な隊服で拳を握り締め、相手を見据えている。その拳はまるで巌のようである。
対する男は炎の如き男、炎柱・煉獄杏寿郎。隊服の末端に炎の刺繍が施された羽織を纏った出で立ちで、木刀を力強く握り締め、ジョジョの姿を独特の眼光で射貫く。
(立ち会うだけで伝わってくる……。彼の熱い心と、吹き荒れる闘志がッ! 彼に呼応して、ぼくまで熱くなってしまう!)
(気配だけでこれか! 見事と言う他なし! 鬼が手も足も出ない訳だ! やはりジョジョは、今まで戦ってきたどんな相手をも凌駕する!)
そして、二人を囲うように、炭治郎、カナヲ、善逸、伊之助、那田蜘蛛山の生き残り、尾崎を始めとするリハビリ中の隊士数名が緊張の面持ちで見守っている。
(見てるだけなのに息が詰まる。張りつめた匂いだ)
(見取り稽古……)
(俺まで緊張すんだけど!)
(もう瞬きできねぇぜ!)
しれっと炭治郎の隣を確保したカナヲを加えた炭治郎達四人。
この場の隊士達に下された指令は、この戦いの見取り稽古。煉獄に手本を見せてもらうだけでなく、ジョジョの戦いも注目されている。今後、実戦で波紋使いと連携を取るであろうことを考慮しているからだ。
それと、炭治郎達の任務は、それに加えてもう一つある。
「この威圧! 鉛を背負わされたみてーな重厚な
血が騒いで仕方がないスピードワゴンは、四人の後ろから二人の様子を見守っている。背が四人よりも高いので鑑賞に支障はない。炭治郎達は、スピードワゴンがうっかり飛び出さないよう壁になっているのだ。念のため。
ジョナサン・ジョースターVS煉獄杏寿郎のエキシビションマッチ!
目的は"全集中の呼吸"を見せる為。スピードワゴンへのデモンストレーションだ。
ちなみに、最初の候補は鬼殺隊でも特にポピュラーな水の呼吸の使い手、水柱・冨岡義勇だったのだが『俺は柱ではない』と断られた。
炎の呼吸は歴史が古く、どんな時代も必ず炎柱が在籍していた由緒ある呼吸だ。水の呼吸と同じく使い手は多い。
スピードワゴンが良く知っている波紋戦士ジョナサン・ジョースターと、鬼殺隊最高峰の実力を持つ炎柱・煉獄杏寿郎の模擬戦は、"全集中の呼吸"の力をありありと示すことだろう。ついでに、隊士達にも見取り稽古をさせようという寸法だ。勿論、産屋敷家も了承済みである。
柱の稽古は、柱同士の模擬戦によるものが多い。ジョジョは食客だが、その戦闘力の高さから許可が下りた。
『ジョジョ相手では加減できそうにない! 本気で良いか!』
『望むところさッ!』
ほかならぬジョジョ自身が乗り気だったのも大きい。柱の力を知りたいのと、実のある修行になると思ったからだ。
ジョジョの勝利条件は煉獄の戦闘不能、又は木刀の破壊。煉獄の勝利条件は、木刀をいずれかの急所へ直撃させることだ。
煉獄が使う木刀は、普段より軽めのものにしているとは言え、柱の使用に耐える非常に頑丈なものだ。模擬戦と言うより、鈍器で実戦しているようなものである。
ジョジョなので大丈夫だ!
「これが柱ッ! レンゴク・キョウジュロー! だが、ジョースターさんも決して負けちゃあいないッ! あの鋼の肉体は今も健在! 重圧同士、拮抗して二人の間が荒野の
(耳栓しといて良かった)
善逸は真顔でほっとしている。その声は耳栓を余裕で貫通してくるが、かなりマシになった。なんで、みんな気にしてないのか不思議で仕方ない。
「いくぞ! ジョジョ!」
「来いッ!」
二人が戦闘態勢を取り、呼吸音が力を増す!
ゴオオオオオオオオオ
コオオオオオオオオオ
(始まった!)
先に動いたのは煉獄!
地を揺るがし、土を抉る轟音!
煉獄が前のめりに突っ込んだ!
(え、見え……)
その速度は隊士達の視覚を置き去りにした!
(師範の方が、炎柱様より速い。だけど……)
見逃さなかったのはカナヲ唯一人!
(速いだけじゃあないッ!)
煉獄の先制攻撃がジョジョに迫る!
──炎の呼吸 壱ノ型
──不知火
木刀が袈裟懸けに振り下ろされた!
「シッ!」
ジョジョは身を捻じって避けた。
(やはり、速さはゼンイツ並! 力はタンジローとイノスケ以上ッ! 避けるのが精一杯だ!)
波紋の力は、つま先、肘、膝で特に発揮する。しかし、煉獄の斬撃をそれで正面から受けてはひとたまりもない。速さ、重さ、精密性。どれを取っても未知の領域。受け流すには慣れが必要だ。
(ジョジョさんが避けた!?)
(あのギョロギョロ目ん玉の太刀筋は、それほどの威力だってのかよ!)
炭治郎と伊之助は、初手でジョジョが避けたことに驚いている。これは、自分たちの斬撃だったならば全て受け止め、くっつく波紋によって反撃されていたからだ。
(これでは、波紋で彼の斬撃を止められないッ)
真正面から正々堂々の斬撃であるにも関わらず、ジョジョはかわすしかなかったのだ。しかし今、煉獄は木刀を振り下ろした直後、隙が生じている筈だ。
(キョウジュローに反撃を……! ッ! 否!)
ジョジョは即座に思考を切り替えた。反撃ではなく、防御に!
「はっ!」
──弐ノ型 昇り炎天
振り下ろされた木刀はトンボ返りし、吹き上がる炎の如く斬り上がった!
「くっ!」
ジョジョは上がってくる斬撃に対し、右肩を前に突き出すショルダータックルのような姿勢を取った!
ガ ッ ! !
そして、右肩で木刀を引き込むように受け止めた!
(やはりっ! 防御していなければ、首に直撃していたッ!)
炎の呼吸は、強力な斬撃が多い攻めの型であり、脚運びに主眼を置いた受けの型である"水の呼吸"とは対称的だ。故に、水の呼吸に比べると隙が生じやすい欠点がある。
(すげぇ……!)
伊之助は震えながら感服する。
(なんであんな無茶な姿勢で打って威力が出るの!?)
煉獄の斬撃はどうだ! 袈裟懸けによる隙を力でねじ伏せて反転、整っていない体勢のまま、キレのある追撃を繰り出してきた! それをジョジョ相手にやってのけるには、心技体、全て揃っていなければ不可能ッ!
(炎の呼吸なのに、水の呼吸の如く変幻自在の斬撃……。これが炎柱様の力……)
(煉獄さんの今の太刀筋、俺達ではまだ真似できない)
炭治郎達は、先の二撃で煉獄との力量差を痛感した。
(嘘……。あんなのって)
(骨が砕けても、おかしくない)
(下弦の鬼相手でも無傷な訳だ……)
一方、尾崎を始めとするその他の隊士達は煉獄の斬撃でビクともしないジョジョの頑丈ぶりに戦慄している。
パシッ
「おお、捕えたッ!」
「ジョジョさんが取った!」
コオオオオ
ジョジョは受け止めた木刀を見逃さず、右肩と左手の指先で挟み込み、波紋を流し込んだ!
「むう!」
木刀はミシミシと音を立て、微かに震えている。
(……動かん! 波紋の力か! ジョジョの力か! 両方だな!!)
(ぐ、すごい力だ! 気を抜くと持っていかれる!)
(指で止めてる!? 炎柱様の力でも動かせないなんて……)
驚くカナヲは、挟まれる木刀を観察した。ジョジョの指先が淡く光っており、木刀は指先と肩に張り付いている。
(でも、あのままだと木刀が……)
両者の力は拮抗しているが、木刀は耐えられそうにない。そうなればジョジョの勝利が決定するだろう。カナヲは持ち前の視力で理解した。彼女は非常に目が良いのである。
(煉獄さんはどうするんだ?)
(俺らはああなったらおしまいなんだよなぁ……)
(じょうたろうが勝ったか!)
炭治郎達もジョジョの勝利を予感する。自分たちの場合、パウられて終いである。
「少々手荒いが! こうするしかあるまい!」
「ッ!?」
ダ ン ! !
煉獄は強く地を蹴り大きく飛び上がった!
「ええ!?」
「嘘ォ!?」
炭治郎と善逸は、その信じられない光景に仰天の声を上げた。
「ひゃ、105㎏はあるジョースターさんを木刀ごと持ち上げて」
「ギョロギョロ目ん玉が飛び上がりやがったぁ!?」
スピードワゴンと伊之助も同様だ。信じられない膂力だ。
──伍ノ型 炎虎
煉獄は、ジョジョがくっついた木刀を容赦のない勢いで振り下ろした!
グ オ ン ! !
(虎!?)
その場にいた全員、燃え盛る虎がジョジョに牙を剥く姿を幻視した。
「ジョジョさん! 危ない!」
振り下ろされた勢いのまま、ジョジョは大地に叩きつけられる!
ド グ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ ォ オ !
爆音と共に地が激しく揺れ、夥しい量の土埃が舞い上がった!
「
スピードワゴンは帽子を押さえながら、ジョジョの名を呼ぶ。
(人体が発して良い音じゃないでしょあれ……)
尾崎は顔色が悪い。あれは普通に死ぬ。スピードワゴンはジョジョのことを当然心配しているが、死ぬとは思っていないようだ。
「ゴホゴホ! カナヲ!」
「……!」
炭治郎は咳をしながらも、土埃がこちらに飛んでくる直前、仁王立ちで市松模様の羽織を脱ぎ、背を少し丸めているカナヲに覆いかぶせた。
背を真っすぐにしているのは、木箱で眠る禰豆子が巻き添えになる可能性を少しでも減らす為。羽織をカナヲに被せたのは彼女が土で汚れるのを防ぐためである。羽織に関しては、ジョジョによる紳士の教えの賜物だ。
「……スー」
カナヲの呼吸音がほんの少し深めになった。
「ギャァァァァ! 目に入ったァ────!!」
「見えねぇ!?」
善逸は哀れにも直撃。伊之助は猪頭のおかげで視界はともかく肉体的には無事だ。
「どうなった!?」
他の隊士達の視界も当然塞がれ、二人の様子は見えない。
「晴れてきたぜ!」
全員が固唾を飲んで見守る中、土煙が収まり、徐々に晴れていく。
「あ!?」
見えたのは、仰向けの姿勢で地に叩きつけられたまま、中空に左手の二本指を突き出しているジョジョと、木刀を振り下ろした姿勢のままの煉獄だった。二人の眼光に宿る闘志は、些かも衰えていない。
「……」
「……」
振り下ろされた木刀はジョジョの胸、心臓の辺りに当たっていた。
(背中を強く叩きつけられた衝撃で、呼吸を遮断されてしまったか……。ぼくもまだまだだな……)
その様子に、隊士の一人が言う。
「急所だ! 炎柱様の──」
「待って、あの木刀」
炭治郎の羽織から顔を出したカナヲが、指を差した。
その顔はちょっとツヤツヤしている。
「え? ……ああ!?」
「……よもや!」
煉獄の木刀をよく見ると、柄より上がボッキリと折れていた。
(地面に叩きつける直前! ジョジョは隙と見て指を木刀に突き込んだ! 並の者ならば受け身の姿勢に手一杯でもおかしくない! 何たる度胸!)
ジョジョと煉獄は体勢を立て直して向き直るや否や、硬く握手した!
「はっはっは! 感服したぞ、ジョジョ! 貴殿の最大の武器は、その大胆不敵さだな!」
「君の方こそ、まさか体ごと投げられるとは思わなかったよ」
「木刀は折れた! 得物を折っていては柱として不甲斐なし! 穴があったら入りたい! この勝負、貴殿の勝ちだ!」
「いや、これが日輪刀だったなら、君の斬撃はぼくの心臓を切り裂いてただろう。急所に当たったんだから、君の勝ちだよ」
「日輪刀で心臓を穿ったとしても! ジョジョならば絶対に反撃していた!」
「日輪刀が折れたとしても、君は貫いていたさ」
(ジョジョさんも煉獄さんも、勝ちを譲り合ってる……)
(似た者同士ね……)
(なんでピンピンしてんのあの人)
「キリがないのう。もう、間を取って引き分けで良かろう」
テンションが元に戻ったスピードワゴンの言葉により、結局そうなった。
「あ、ありがとう。炭治郎」
「うん!」
炭治郎はカナヲから羽織を返して貰い、土埃を手で払って着直した。
「いででででで!?」
「目ぇ押さえて何してんだ伊之助……」
「ずっと瞬きしなかったら目がいてぇ……」
「砂埃じゃなくてそっちかよ」
「いたたた……」
「お前もか炭治郎」
二人共今の今まで瞬きしてなかったらしい。よく土埃が直撃しなかったものである。
「いやはや、素晴らしい勝負だった。キョウジュローさん、全集中の呼吸の神髄、とくと見せて頂きましたぞ。身体強化能力、実に見事なものです」
「お役に立てたようで何より! 俺も良い修業になりました!」
「ぼくも勉強になったよ。また機会があればやりたいな!」
「うむ!」
三人共満足そうだ。
「すごい……。本当にすごい! 俺も、あんな風になりたいッ!」
「それはジョジョさんの方? 煉獄さんの方?」
「両方!!」
「お前意外と欲張りだよな」
「ウズウズするぜぇ! 誰か俺と戦え!」
「……私と戦う?」
「よっしゃぁ! いくぜかなっぺ!」
「カ・ナ・ヲ! 戦うけど! 先に庭のお掃除!」
「へーい……」
ジョジョと煉獄の戦いを見て、炭治郎達は心の火を灯したようだ。
「俺らも機能回復訓練頑張るかぁ……」
「あれってさ、あんなに苦しかったっけ……」
「……また、あれやるんだ。ふふ、うふふふ」
「尾崎! しっかりしろ! 尾崎!」
リハビリ中の隊士達は何を思い出したのか、遠い目をしている。
(ジョースターさんとキョウジュロー君に釣られて、皆やる気になっておる。デモンストレーションだけでなく、訓練中の者達の士気を上げおった。人を焚き付けるのが得意な二人だわい……)
スピードワゴンは、闘志を燃やす若者達を暖かい目で見守った。
大正の奇妙なコソコソ噂話
その後の休憩中。
ジョジョは煉獄に誘われ、
生まれて初めて相撲を観戦した。
「オオズモウ! すごい迫力だったなぁ!」
「はっはっは! そうだろう、そうだろう!」
「特に土俵際のかけひき! 手に汗握ったよ!」
「そうだな! あの戦略性も醍醐味の一つだ!」
「キョウジュロー! 是非また誘って欲しい!」
「勿論だ!」
煉獄杏寿郎、相撲の観戦仲間が増えご満悦ッ!