鬼滅の波紋疾走 JOJO'S BIZARRE ADVENTURE PartEX Demon Slayer   作:ドM

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明日から仕事なので更新が遅れます!
誤字報告ありがとうございます。本当に助かります(´;ω;`)


吐き気を催す邪悪と、白き聖槍

 翌々日、浅草に到着した。日が沈んでいるのに、街並みが照らす明かりで昼のように明るい。大きく文字が書かれたノボリが洋風建築物の近くにいくつも並んでいる。道に敷かれた線路を、たくさんの人を乗せた大きな路面車が走る。

 

「オオ……!」

「……」

 

 数えきれないくらいの人達が街を行き交う。和洋色とりどりのファッションに身を包んだハイカラな若者がガヤガヤと喧騒を立て、夜の街並みに消えていく。外れの方を見れば、奥ゆかしい和製建築の家屋が並び、雅さを醸し出している。

 

「コレガ、日本ノ都会ノ街並ミ。スゴク、美シイデス!」

 

 ジョジョは、初めて見る浅草の街並みに目を輝かせていた。横にいた炭治郎はと言うと。

 

「……」

「タンジロー……?」

「……うっぷ」

「具合ガ悪イノカイ!?」

「す、すみません。人が多すぎてめまいが……」

「ゴメンヨ、気ヅカナクテ……。ドコカ人ノイナイ場所ヘイコウ」

「お願いします……」

 

 今度はジョジョが炭治郎に手を貸す番だと言わんばかりに、炭治郎をおんぶして裏通りへ向かう。身長差が30㎝以上あるので、肩を貸すよりもこうした方が手っ取り早かった。

 

(ジョジョさん、この二日間ですっかり言葉が上達したなぁ……。うえっぷ)

 

 炭治郎は、ジョジョの背に揺られながら青色の頭巾を被り、しみじみ思った。

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

 

「山かけうどんください……」

「あいよ」

 

 頭髪のない中年の店主に注文をする。

 

 街外れにつくと、頭巾を被ったままの炭治郎は、少しやつれていた。だが、体調はすぐに回復した。丁度近くに、屋台のうどん屋さんがあったので、二人はここで腹拵えすることにした。

 

「ヤマカケウドン?」

「えーっと、長芋と太い"ぱすた"が入った"すうぷ"です。美味しいですよ」

「ワア、楽シミダナァ!」

 

 屋台のすぐ近くに用意された木製のベンチに、二人で腰掛ける。

 

(で、でっけぇあんちゃんだな……。足伸び切ってんじゃねーか)

 

 ジョジョにとって座高が低すぎたので、足が投げ出されたような形になっていた。

 

 二人で温かいお茶を啜り、ほっと一息吐く。うどんの完成を待っていると、不意に、炭治郎の背負う木箱がカタカタと音を立てた。

 

「お、禰豆子が起きた」

「本当ダ。木箱ガ揺レテル」

 

 道中もずっと眠っていた炭治郎の妹、禰豆子が目を覚ました。木箱の戸が片開きのドアのように開く。ジョジョも禰豆子の姿を初めて見る。

 

「ムー……」

「おはよう禰豆子。ぐっすり眠れたね」

 

 炭治郎が、寝ぼけ眼の妹に優しく声を掛ける。中から現れたのは、10歳にも届かぬ小さな女の子だった。横向きにした竹筒を咥えている。黒い髪は足の方まで伸びきっており、末端部分が赤い。身に着けている桃色の着物と黒い羽織はぶかぶかで、サイズが明らかに合っていなかった。

 

(タンジローの話によれば、ネズコの歳は14歳。なるほど、これがこの子の身体操作能力か。彼の面影を感じる、可愛いらしい女の子だなぁ)

 

「イツモコンナニ、眠ッテイルノカイ?」

「全く消耗してない筈なので、道中ぐらいには目を覚ますと思ってたんですが……。変だな、禰豆子の体が小さいままだ」

「……!」

 

 疑問に思っていると、禰豆子がジョジョに飛びついた。

 

「ワッ」

「禰豆子?」

「……」

 

 胸に飛びついてきたが、ジョジョの胸筋が大きすぎたせいで、腕が回せてない。すると、禰豆子はよじ登って、首にひしっとしがみついた。ジョジョが背中を優しく叩いてあやしてやると、目を細めて落ち着いている。その姿は、寝起きに親に甘える子供そのものだ。 

 

「フフ、甘エン坊ナ子ダナ……。ヨシヨシ」

 

 禰豆子をあやすジョジョを見ていると、炭治郎はどこか懐かしい気持ちになった。

 

(そっか、禰豆子は安心したからずっと眠ってたんだ。不思議だな、姿形は似ても似つかないのに、ジョジョさんを見ていると父さんを思い出す……。禰豆子も同じなんだろうな)

 

 ジョジョと禰豆子の姿に、在りし日の景色を思い出していると……。

 

 

 ──どこからか、あの忌むべき匂いがした。

 

 

「っ!?」

 

 炭治郎が急に立ち上がった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 人酔いしていたときよりも更に顔色が悪い。動悸が上がり、汗が噴き出している。尋常ではない状態だ。

 

「ドウシタンダイ、タンジロー? ……マサカ、鬼ガイルノカイ!?」

「鬼舞辻……無惨……!」

「!?」

 

 それだけ言い残すと、炭治郎は脇目も振らず走り出した。

 

 禰豆子はジョジョから身を離し、肉体から軋むような音を立て、体を14歳程の大きさに変化させた。凄まじい変化速度だ。そして、炭治郎の後を追いかけて行った。

 

「へい、山かけうどんお待ち……ってどこいくんだあんたら!?」

「アッ! ソノウドン貰イマス!」

 

 ジョジョは、店主から自分のうどんを受け取って、炭治郎と禰豆子を追いかけた。

 

「お、おぉぉぉい!? どんぶり持ってくんじゃねぇよ!?」

「ゴメンナサイ! 後デ絶対ニオ返シシマスッ!! アチチ!」

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 ジョジョは、片手にうどんを持ったまま、炭治郎と禰豆子の後を追う。追いつくにつれて、寒気のようなものを感じた。

 

(何か! 何か恐ろしいことが起きようとしているッ! 波紋探知機で!)

 

ザザザザザザ

 

 うどんに波紋を流し込むと、ダシの波紋が鬼の居場所を指し示す。

 

(いた! タンジロー! ネズコ!)

 

 多くの人が行き交う大通りの中、二人を見つけた。

 

 炭治郎は、黒いペイズリー柄のスーツに白い帽子を付けた青年の肩を掴み、怒りの形相で睨みつけており、青年も炭治郎を睨み返している。

 

(あれが……。キブツジ・ムザン……!)

 

 見事な偽装だ。うどんの探知機がなければ、ジョジョも人間と勘違いしていただろう。だが、探知機が指し示す反応は、間違いなく鬼のそれだ。反応が強すぎて、ダシがこぼれる程だ。熱い。

 

 炭治郎が日輪刀を抜刀しようとするが、彼は躊躇した。

 

 無惨と思わしき男性は、なんと、近くにいた女の子を抱きかかえたのだ。

 

(なんてことだ……。ヤツは人間の振りをして妻と子供がいるんだッ!)

 

 青褪める炭治郎の前で、無惨と呼ばれた男が女性と二言ほど言葉を交わすと、妻子の死角から、すれ違った和装の青年目掛けて爪を立てた! 

 

「!!」

「ナッ!?」

 

「ぐあおおおおおお!!」

 

 ジョジョと炭治郎は驚嘆する。首筋に傷がついた青年は、瞬く間に変貌した。体中から太い血管が浮かび上がり、鋭く生え変わった牙で、傍にいた妻に喰らい付いた! だらだらと涎を垂らし、目の色が赤く変色していく。

 

「やめっ……!」

「キャアアアッ!」

「ムー!」

 

 炭治郎は、鬼と化し妻に襲い掛かる青年を取り押さえようと動き出すが、いち早く禰豆子が駆け抜けた! 

 

「禰豆子!」

「!」

「ガアアアアア!!」

 

 人間を守るように動いた禰豆子が、鬼化した青年を取り押さえた。

 

 すかさず炭治郎は被っていた頭巾を丸めて、青年の口に押し込んだ。

 

(鬼になってしまった青年はタンジローとネズコに任せよう! ぼくは、ぼくに出来ることをやらなくっちゃあならないッ!!)

 

 ──ジョジョが動いた。浅草の人々を守るために。

 

コオオオオオオオオオオオ

 

 再びうどんに波紋の力を流し込む。すると、どんぶりの中のうどんが一直線に固まった。ジョジョは、細長い槍のように様変わりした麺を、無惨目掛けて投擲したッ! 

 

キ ゛ ュキュウ──ン!! 

 

 分厚い鉄の扉に、弾丸が当たったような轟音が辺りに響き渡る! 

 

「キャア────!!」

「銃声だ!!」

「ににに、逃げろぉぉおお!」

 

 波紋が流れ込む特有の音を、銃声と勘違いした浅草の住民達が、一目散に逃げ出す。整備された広い街道だった為、転んだり、踏みつけられる人はいなかった。

 

 喧騒に満ちた街並みは、無惨とその妻子、竈門兄妹、鬼化した青年と妻、ジョジョ、()()()()()()()()()()()だけを残し、無人と化した。

 

「ぐっ!?」

「つ、月彦さん!?」

「おとうさん!?」

 

 月彦と呼ばれた、無惨の姿を見て、妻子が戦慄する。

 

「な、なんだこれは……」

 

 彼の首に、白く細長い槍のようなものが刺さっているのだ。鋼鉄のように硬い。だが、奇妙なことに突き刺さった場所から血が噴き出していない。

 

ド ォ ッ シ ュ ゥ !! 

 

「ぐおぉぉぉぉおおおお!?」

「キャアアアアア!?」

「おとうさーん!」

 

 白い棒から無惨が心底嫌うおぞましい力が流れ込んでくる。

 

「こ、これはまるであの忌々しき太陽のッ……! アガアアアァァァ!!」

「つ、月彦さ……ッ!?」

 

 月彦の妻、麗は、見たこともないほど怒りに満ちた表情の月彦を見て青褪める。顔の周りに夥しい量の血管が浮き出ており、大きく見開いた目は真っ赤に染まり、叫び声をあげる口からは鋭い牙が見える。

 

「ひっ……ば、化け物ッ!?」

「邪魔ダァ!」

「きゃっ!?」

「離れろっ!」

 

 鬼化した青年を禰豆子に任せた炭治郎は、自分が下になって滑り込むようにしてすかさず無惨の妻子を引き離した。

 

「ナイス! タンジロー!」

「はい!」

「おとうさん! 待ってぇ!」

「追いかけちゃだめだ! あいつは危険だ!」

「グガァァァァァ!! 熱い! 熱いぞ!」

 

 月彦と呼ばれた男、無惨は、悶絶しながら凄まじい速度で浅草を駆けていく。

 

(ムザンは超スピードで逃げた。あの様子なら、何者にも目をくれず、人のいない場所まで逃げ出すだろう。あの女性と女の子がムザンを追いかけてしまうのも、タンジローが食い止めてくれた。二人が追いつくこともない。これで被害は食い止められた筈だ……)

 

 ジョジョは、冷静に状況を分析し、一先ず浅草の人間が脅威に晒される危機は脱したと判断する。

 

(キブツジ・ムザン、なんてヤツだ! 無関係な人間を何の躊躇もなしに……!)

 

 ジョジョは、無関係の人間を平気で巻き添えにする無惨の所業に怒りが隠せない。

 

 無惨に不意打ちを仕掛けたのには理由があった。あの男の傍から少しでも皆を遠ざける為、あえて轟音が響く波紋の攻撃を無惨にけしかけた。無惨が街の往来で躊躇なく犯した所業を見て決断したのだ。結果、無惨のせいで傷ついた夫婦を除き、怪我人は一人も出なかった。竈門兄妹とジョナサン・ジョースターの見事な連携の賜物である。

 

(あのレディー達には気の毒なことを……。それに、食べ物であんなことをしてしまった。ごめんなさい、父さん。うどん屋のおじさん……)

 

 水分を多量に含んだ麺が、波紋との相性抜群だったとはいえ、自分の為に心をこめて拵えてくれたうどんを粗末に扱ったことに心底悔やむ。それに、必要なことだったとは言え、あの女性と女の子は心に深い傷を負ってしまったことだろう。

 

「鬼舞辻無惨!! 俺はお前を逃がさない! どこへ行こうと!!」

 

 逃げ出している無惨は、声の主を見る。見覚えのある耳飾り(トラウマ)を見て、更に怒りがこみ上げた。だが、状況が悪すぎると決断した無惨は、そのまま裏通りに入っていった。

 

「地獄の果てまで追いかけて! 必ずお前の頸に刃を振るう!! 絶対にお前を! 許さない!!」

 

 炭治郎は姿を消した無惨めがけて叫ぶ。お前を必ず倒すという誓いの叫びだ。

 

(タンジロー……。ぼくならムザンを追いかけられる。だが……)

 

 ジョジョは、禰豆子に押さえつけられている青年の下へ駆けつける。

 

(今は彼をなんとかしなくては!) 

 

 頭巾で口を塞がれた青年は、うつ伏せに取り押さえられている。うなじには、三本線の切り傷がついており、血が流れている。

 

(占めたッ! 傷が治っていない! イコール、完全に鬼化した訳ではないッ!)

 

「ジョジョさん!」

「タンジロー! コノ人治セルカモシレナイ! ヤッテミル!」

「本当ですか!? 頼みますっ!!」

 

(ぼくは、体内に侵入しようとした吸血鬼の血を波紋の力で押し出したことがある……。それと同じことをこの人の体で行えば……!)

 

 淡く光ったジョジョの手が、青年のうなじを触れる。

 

 その直後、こちらに向かう二人分の足音が聞こえた。

 

「銃声があったのはここか! ……貴様ら! 何をしている!?」

「酔っ払いか!? 離れろ!!」

 

 黒い警帽に黒い制服、警察だ。

 

(まずいっ! 波紋の音を聞きつけて警察が来た! このままでは波紋の呼吸が乱されてしまう!)

 

 他人に干渉する波紋の力はかなりの集中力を要する。このままでは、青年の治療ができなくなってしまう。

 

「異人と女性が青年を押さえつけているぞ!」

「引き剥がせ!」

 

 警察が、ジョジョを青年から引き離そうとする。

 

「やめてくれ! ジョジョさんは治療をしているんだ!!」

「なんだお前は!」

「邪魔をするな少年!」

 

 無惨の妻子を離した炭治郎は、警察を食い止めようとする。このままでは青年が手遅れになってしまう。

 

(どうしたら……。このままじゃこの人が……!)

 

 

 ──惑血 視覚夢幻の香 

 

 

「!?」

「コレハ、花ガトンデイル!?」

 

 膨大な数の色鮮やかな花々が乱れ飛ぶ。緊急事態でなければ、じっくりと眺めていたであろう絶景だ。警察達は視界を防がれて身動きが取れなくなった。

 

「さあ、今の内に」

「ドナタカ分カリマセンガ、アリガトウゴザイマス!」

 

 紺色に赤い花の刺繍が施された和服の女性が現れた。その後に続くよう、グレーのシャツに白と青の袴を着た青年が現れる。何者だろうか。

 

「あなたは……あなたの匂いは……」

 

 炭治郎は、現れた人物の匂いから正体を察する。彼女と、後ろの男性は……。

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

 

 先ほどまで、鋭い鉄針のようだった白い棒は、くたりと折れ曲がっている。水でふやけているかのようだ。

 

「これは……!?」

 

 無惨は、首筋に刺さった白い棒の正体を認識した瞬間、はらわたが煮えくり返った。

 

「う、う、う、うどんだとォ!! ふざけているのかぁ!? この私がこんなものでぇぇ!!」

 

 怒りに身を任せ、麺を握りつぶし、辺りに汁が飛び散る。

 

 無惨の体内には心臓が七つ、脳が五つ存在する。人体で言うところの急所を破壊されても、死なないように用意したスペアである。

 

 首に刺さったうどんの秘めたるエネルギーは、下半身に収納している心臓と脳まで及ばなかった。その為、致命傷には至らない。だが、無惨の中に流れ込んだ、太陽に酷似した力は、無惨の体に絶大なダメージをもたらした。

 

「ぐぅ……。ぐおぉぉぉアアア……。熱い! 熱いィ……! 許さぬ、これほどの屈辱、あの忌々しき耳飾りの男に匹敵する……!」

 

 うどんで迎撃してくる男なぞ、1000年の時を生きた無惨でも生まれて初めてだ。あの腹に据えかねる男の顔を思い出す。洋服に紺色の羽織を纏った黒い髪の異人。恐らく、国内で頻繁に見かけるようになった英吉利(エゲレス)人だろう。

 

 無惨がバチンと指を鳴らすと、男女二人組の鬼がスッと現れた。

 

「なんなりと」

「花札のような耳飾りを付けた鬼狩りと、エゲレス人を殺せェ! 下弦を呼ぶ! そいつと一緒にやれ! やらねば殺す!」

「ぎょ、御意ッ!」

 

 無惨の手下が、慌てて去っていった。

 

「くそ! ぐうぅ……」

 

 裏通りに一人佇む無惨は、何もない空間から突如現れた襖へ、体を蝕む堪え難き激痛と共にその姿を消した。

 

 

 ・ ・ ・ ・ ・

 

 

「なんだったんだぁ? さっきの音。ヒック」

「やっちゃん、あれ銃声っぽかったよ……。あんた、怖いわぁ」

「はっ、豆鉄砲如き、俺がなんとかしてやらぁ」

「あんたぁ、素敵!」

「ケッ、お熱いこって……ヒック」

 

 あんたと呼ばれた丸坊主の偉丈夫とその嫁は、銃声にかこつけてイチャついている。やっちゃんと呼ばれた長髪の男がほろ酔い気分で兄夫婦に悪態を吐いていると、仕立てのいい洋装の男性が、豪風の如き凄まじい速度で駆け抜けていった。

 

「うおお!? あっぶねぇな、あいつ。ヒック。血相変えて走ってらぁ、足速ッ! ヒック……」

 

 気を取り直し、暫く歩いて長い通りを抜けると、茫然と突っ立っている女がいた。

 

「あなた……」

「おとうさん……」

 

 さっき走っていった野郎の方向を悲しそうな表情で見つめる、これまた仕立てのいい洋装の女だ。子供らしき女の子を抱っこしている。

 

「ねぇ、あんた達大丈夫かい? 随分顔色悪いけど……」

「あん? お前らもしかしてさっき走ってたヤツの知り合いか?」

「……」

「おかあさん、おとうさんどうしたの……?」

 

 その様子を見て、丸坊主の嫁はピンときた。

 

「ははーん、さっきの男が旦那と見た。あんたら逃げられたのね」

「おいおいおい、ひっでえなぁ。こんな小さい子がいるのによぉ……」

 

 坊主頭の偉丈夫は洋装の男が駆け抜けた先を不快そうに見つめる。

 

「あ、あの」

「はっはっは、身なりは良いのに、男を見る目がねーなぁ、ヒック。辛気くせぇ顔見たらせっかくのいい気分が台無しだぁ。ヒック」

「えーっと……」

「責任取って一緒に呑めよぉ! おごってやっからよ! 呑めなきゃ食えっ! 嬢ちゃんは甘いもんでも食えッ!」

「ぐすっ……。おかあさーん……」

「あー泣かないでお嬢ちゃん。やっちゃん酒癖悪いのよ。そんな酔っぱらってんのにまーだ呑むの? あんた、どうする?」

「付き合ってやろうぜ。ったく、世話のかかる弟だ」

「あの……」

「いいからいいから、諦めなさい。あの野郎の必死な顔、ありゃ二度と戻ってこないよ。可哀相にねぇ、こんなに可愛らしい女の子こさえといて逃げられるなんてさ……」

「は、はぁ……」

 

 その後、服装に統一感のない五人組の男女と女の子が、居酒屋を梯子してる姿が目撃されたという。

 

 




大正の奇妙なコソコソ噂話

無惨が何処かへ消えた後、麗さんと女の子は実家に帰ったぞ。後、友達ができたらしいよ。
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