十話
「これは…
まさか私より先に援軍が来たというのか?」
鵞仙は走り去る道に転がった怪人の死体をチラリと眺め、呟く。
確かヒーロー協会の指揮官の話ならばまだ突撃命令を出さない筈…
しかし、鵞仙の瞳には数多くの死体が不自然な死に方を晒していた。
まるで…何か大きな力に拗られたかの様に身体が千切れているのだ。
「……今は考えても仕方が無い」
何者がコレを起こしたのかが今は重要ではない。味方ならば強力な戦力となる。
この事態の中ではそれが鵞仙にとって重要だった。
「とにかく、今は奴等の頭を潰すほかないだろう」
目的地はシャープインサニティの仮本部【陣道神社】
鵞仙の記憶では大妖怪が封印されし場所だと告げられていた。
「奴等の目的がもし妖怪だとするならば…厄介としか言い様がない。
アレの準備をしておかなければ」
一瞬ギラリと光った鵞仙の眼には爛々と輝きが灯っていた。
「ッ!しつこいわね!
サッサと死になさいよ、裸マント!」
「そう言われて死ぬ奴はここにおらん!それに我輩の衣服を切り裂いたのはお主だろうが!!」
陣道神社の内部ではシャープインサニティとS級ヒーローのトップの戦いが繰り広げられていた。
S級ヒーロー2位『タツマキ』は超能力を使い攻撃を繰り出すが、シャープインサニティトップのレグレイ大佐は吸血鬼の再生能力と身体能力を使い躱す。
その戦いの中、レグレイ大佐の直属部下ダソード、ルルガの二人組はタツマキと共に神社へ侵入した二人のS級ヒーローと戦い始めた。
が、ダソードとルルガは敵の強さと異様さに驚きを隠せずにいた。
(ま、まるで歯が立たない…!
何なんだあの黒光り男は!
剣の刃が弾かれてしまう!)
ダソードは渾身の力を込めて剣を振り下ろすが、黒光り男──
超合金クロビカリと呼ばれる男相手に擦り傷一つ付けられなかった。
「中々良い太刀筋だと思うよ!
でもやっぱりアトミックさんに比べたら…ね」
微妙という表情で自らの力量を評価され、怒りを抱くが何度攻撃を繰り返そうと弾かれるだけだった。
「おっ!やっぱりゾンビマン君の再生能力は凄いなぁ。
あれだけの傷が何事も無かったかの如く治るんだし」
それどころか脅威と認識さえされていない屈辱と悔しさでダソードの太刀筋は荒くなる一方だった。
「うーん。随分待たせたみたいだし…さて、そろそろ仕掛けるか!」
「な、何で再生するの!
首を切って肉体の骨という骨を折って急所もついたのに何故…!」
ルルガが相手にしているのはある者の手によって創り出された男、ゾンビマン。
彼の最大の強みはただ一つ。
───怪人をも凌駕する再生能力である。
頭を潰されようが、急所を突かれようが、腕や足を切り落とされようが忽ち再生する。
そのために彼が負けることはあり得ないのである。
時間を掛ければ大抵の怪物を葬る事が出来るその能力は他人からすればチートと呼ばれても可笑しくないだろう。
「……弾が当たらん」
が、本人は他のS級ヒーローに比べると身体能力は低く、泥試合と呼ばれるものとなることが多い。
だが、この状況化ならばヒーローの有利である事には変わりない。
「ふむ。戦いの途中ですまないが主ら、我がまだ居る事を忘れてもらわれては困る」
が、しかし、まだ残っていた妖怪が居た。恐らくシャープインサニティのトップよりも強力な力を持つ者が…
その存在を忘れていたヒーローだったが今更気付こうとも運命は変わらないだろう。
「下準備は終えた…
後は計画を実行するのみだ。
ヒーロー共よ…果たして我の計画を止める事が出来るか?」
不吉な呟きは戦闘音の中に消え、
鬼は一歩ずつ歩を進めていくのであった。