(邪馬台国を1.5部ぐらい的な時空と決めつけて話を展開してます)紆余曲折を経て結界師から魔術師に鞍替えすることになった墨村家の跡継ぎとして箔を付けるためにカルデアに来た利守 と、彼を見ていた暢気な一ちゃん ぐだの名前(立香)出てますが、名前だけです
▼数年前に書いた「守るべき土地を失った結果空間支配能力を魔術協会に目を付けられた墨村・雪村両家をどうにかすべく魔術師として身を興すことにした利守」の大雑把な続きみたいなもんです。ただここでは利守は魔術の基礎は遠坂家には学んでない
▼私は成長利守の髪をロングにする癖(へき)がある 守美子さん譲りの髪質の子どもがひとりぐらいいてもいいじゃないと思って(正守は顔が守美子さん似だから髪質も似てる可能性あるけど坊主だしな)
pixivからの転載

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【FGO×結界】カルデア職員墨村利守(20代後半)と、新入り一ちゃん

 ここには、ドクター・ロマンなる人物がいたらしい。

 聴いた話では、ただの人間だったけど実は人間じゃなかったとか、カルデアが維持できていたのは彼ひとりの功績だったとか、色々聞く。それも人伝だが。

 で、その彼の後継のような立場にいるのが、あの背の高い、長い黒髪の青年らしい。

「あ、忙し。あ、忙し」

 そう呟きながら、山積みの書類を抱えてカルデアの廊下を疾走していることが多い。ざらりとした直毛の黒髪は、伸びるとすぐに癖が出る身としては少し羨ましいところがある。閑話休題、それが棚引いている姿ばかり目で追っていたので、ある日、昼下がりの人気のない食堂でカツオのたたき定食を食べていたときは思わず目を瞠ったものだ。そして、尋ねてしまった。

「仕事は一段落ついたの?」

「え? あぁ、まぁ、小休止ってところですね」

 近くで見ると存外若い。少なくとも三十路には達していない。但し、目の周りの隈が自分に劣らずべったりと貼り付いていた。相当無理を重ねているのだろう。無理もない。聴いた話では往時はもっと人数がいたというスタッフも、今は20人程度だ。その人数でこの広い広いカルデアを切り盛りするのは辛いを通り越して苦行だ。ましてや、ただの人間ならば。コロッケ蕎麦を載せたプレートを彼の向かいに置く。特に拒否はされなかったのでそのまま席について蕎麦を啜り出す。しばし落ちる沈黙。切り出したのは、やはり自身だからだった。

「君、隈ひどいけど若いよね。そんなに激務なの?」

「表立っては見えないでしょうが重労働なんですよ」

 嘆息混じりに彼は答えた。そして嘆くように言う。

「あぁ……カツオのたたきが身に沁みる……ドクターは偉大でしたよ……仮にも『人間』だった身であそこまでやってたんだから……」

「そこがわかんないんだけど、『人間だった』ってどういうこと? 誰に聴いてもはぐらかされるんだけど」

「あー、それですか」

 味噌汁を啜った彼は、目を閉じた。そして、目を軽く伏せたまま答える。

「人間だったけど、人間じゃなくって。でも人間になった。そんな人でしたよ」

「わかんないな~~抽象的すぎて。もっと新入りサーヴァントの僕にもわかりやすく説明してよ、君責任者なんでしょ」

「責任者は『今』はダ・ヴィンチちゃんです。僕ではありません。なんかドクターがいなくなる間際に責任押し付けていったけど僕ではありません。なんでかドクターがいなくなったあと僕にみんな仕事を訊いてくるけど僕じゃないんです……はぁ……」

 白飯を食べる彼は、深々と溜息を吐いた。眉間の皺が渓谷のように険しい。よくよく見ると、いやよく見なくても自身と同じ日本人のようで(あるいは日系人か)、アジア系特有の幼顔だというのにそれがわからないほどのものだ。土方の眉間の皺とどっちが深いだろう、などと本人たちに失礼なことを考えながら蕎麦を啜った。

 彼から、「いかにも疲れてますオーラ」が漂ってくる。シャチクというやつだろうか、と自身が思っていると、何やらぶつぶつと呟きだした。様子がおかしい。

「そもそも僕はただあのカルデアで働いたっていう実績が欲しかっただけだったのに……にわか魔術師じゃとてもじゃないけど時計塔に上がれなかったし……寧ろ空間支配系能力者として封印指定喰らいそうになったし……僕は封印指定されるほどじゃないって言ったら実家に手が伸びそうだったからとりあえず敷居の低かったカルデアでほとぼりを冷ましつつ実績を積んでそうして魔術師として家に凱旋しようと思ってたのに……あんな騒動があって……1年経って……働きづめだったのが今さらに働きづめになって……僕は……僕は何をしていたんだっけ……」

「あー、お兄さん。お兄さん。ちょっと落ち着こうか。ねっ」

 もしや休めた拍子に気が緩んでしまったか。泣きそうではないが死にそうな顔をしている彼が思い詰めている気配が濃厚に感じられたので、自身は慌てて彼の肩を叩いた。彼の持つ割り箸が盆の上に落ちる。顔を手で覆う彼の肩に手を置いたまま、自身は生前警察官をやっていたときに対処した酔っ払いを思い出した。それより事態はよっぽど深刻だったが。

 結局このあと「食事中すいません!」と職員の誰かが食堂に駆けつけてきて、それを耳にした彼は勢いよく顔を上げると急いで食事を掻っ込み、「それじゃどうも」と意味のない挨拶を自身にして盆を片付けて彼は足早に立ち去っていった。

 成る程、あの切り替えの速さ。責任を押し付けられるわけだ。そう言えばまだ名前も知らないあのカルデア職員を気の毒に想った。切り替えられるからこそ仕事を任せられるということには、身に覚えがあったので。

 

 気になった。気になったので、モニターに向かいキーボードを叩きながら、傍らに控えるダ・ヴィンチに尋ねることにした。

「ダ・ヴィンチちゃん。あの新入りのサーヴァントは何て言いましたっけ」

「あぁ、2人……事実上3人か。3人いるけどどれかな」

「日本人で目に隈があるスーツコート二本差しの成人男性」

「あぁ、それは君と同じ日本人の斎藤一だよ。君の国だと割と有名人って聴いたことがあるけど」

「斎藤一……あぁ、新撰組ですね。そっか、新撰組が増えたのか。そういえばダ・ヴィンチちゃん。邪馬台国では余計な仕事をよくも増やしてくれましたね……」

「おぉっといけない、急用を思いついた! ばいばーいっ」

「あ、くそっ逃げられた。……はぁ……」

 本当に遁走したダ・ヴィンチを追いかける気力も体力もなかった。なので目の前の仕事を再開する。立香のこの1年の行動経歴に関する隠蔽工作は並大抵ではない。幸いこの間の微小特異点のようなことでやって来るサーヴァントはいるものの、人理修復を成し遂げるまで力を貸してくれたサーヴァントはほとんど退去している。彼らに因果を含ませるのも大変だ。自らのマスターの将来のため、と言えば大概が肯いてくれるが、肯いてくれない場合はそれはもう大変で……

(僕、何してるんだろうなぁ)

 溜息が漏れる。

 烏森が封印されて、残されたのは位の下がった神佑地――魔術用語では霊地――を持つだけの、希少な空間支配系能力の家系。ここで魔術師になれば、「位は低くても歴史は古い霊地を所有する魔術師」ということになる。だから裏会の伝手で魔術師から基礎を学んだ。その後の行程は、先程斎藤一(とは知らなかった相手)に述べた通りだ。

「思えば遠くに来たもんだ……」

 ふと、天井を見上げる。宙を見つめて、そこに故郷を思い描いた。

 自分が海外でどたばたとしている間に兄は2人とも結婚したらしい。子どもも産まれたそうだ。ただ長兄は覇久魔で裏会の幹部をやっているし、次兄は雪村家に婿入りしたから、やはり跡継ぎは自分ということになっているらしい。否、結界師としての墨村家は終わったのだから跡継ぎも何もないのだが。これからは自分たちを守っていくために魔術を学ばなければならない。そのための手段だった。手段だった、はずなのに。

「帰りたいなぁ」

 その呟きを、積み上げられた大量の書類の束が吸い込んだ。

 

 

 自身は、そこらを歩いていたダ・ヴィンチ女史をようやく捕まえられた。確実に答えられるのはこの人だろうと踏んでのことだ。

「あ、ダ・ヴィンチちゃ~ん。丁度良かった。ねぇ、あのここの職員っぽい、背の高い長い黒髪の日系人っぽいのって誰?」

「あぁ、さっき君のことも訊かれたなぁ。うん、君のことも教えたんだから君にも彼のことを教えないとね」

 そう言って、ダ・ヴィンチは悪戯っぽく笑いながら言った。

「彼は墨村利守。君と同じ日本人だよ。異能者の家系出身で、1年前のカルデアの危機には彼の結界術で結構なところがなんとかなった。その点も含めて事実上の責任者として押し付けられそうになっている気の毒な青年だよ」

「ハァ、結界術ね」

 頭を掻きながら、自身は言った。

「なんだか難儀そうで」

「応援してあげてね。私は、ひょっとしたら」

「ひょっとしたら?」

「おやこんな時間だ。それじゃ~ね~☆」

 そう言ってダ・ヴィンチは駆け去ってしまった。華やかな残り香が漂った。

 それが死を予感させる香りだとは、このときは思わなかった。

 

 

 

 

 

End.



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