やはり東方の青春ラブコメはまちがっている。   作:セブンアップ

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こうして、彼ら彼女らの祭はフェスティバる。

 

 東方学院の祭、通称"幻想祭"1日目。土日2日間での開催。土日であれば仕事が休みの人も多い。故に一般客も招くことでこの学院の良さを知ってもらおうという魂胆らしい。代わりに月曜日と火曜日は代休である。

 

「現在、異常無しです」

 

『了解。こっちも異常は無いよ』

 

 俺達生徒会、そして文化祭実行委員は校内の巡回を行っている。全員が巡回に出払うとクラスの方にも回らないということもあり、その辺りを考慮しながら時間で交代して行う。

 幻想祭の様子を撮影するのも仕事のうちだが、生徒間でのトラブルや、不審者などの発見など、解決するのがこの巡回の目的。特にこの幻想祭では毎年、鬼人正邪とかいう人物が荒らしに来るという迷惑な輩がいるらしい。姿が分からないから、探しようがないけど。

 

「あ、お兄様!」

 

 背後から誰かがそう呼び、振り返る間もなく背中に衝撃が加わる。

 

「お兄様っ、久しぶり!」

 

「おう、久しぶりだな。でもいきなり背中にアタックはやめてね?骨折れると思ったから」

 

「その時はフランが一生面倒見るから大丈夫だよ?」

 

 全然大丈夫じゃねぇしそれ。骨折れただけでなんで一生面倒見られるんだよ。俺より小さい奴に。

 

「相変わらずね、八幡は」

 

 フランドールと共に、レミリアお嬢様と紅がやってくる。

 

「十六夜なら仕事中ですよ」

 

「それを見に行く途中だったのよ。本当なら八幡の働きぶりも見たかったけれど」

 

「で、2人は何やってるんですか。クラスの方は?」

 

「私はこの2日間、幻想祭には参加しないわよ。なんせ仕事は全て彼女達に任せたから」

 

「えー…」

 

 この人仕事押し付けるだけ押し付けて自分は優雅に幻想祭を楽しむ気かよ。絶対この人の下で働きたくねぇ。ていうか1回働いてるわ、俺。

 

「私は普通にまだ仕事の時間ではないので、お嬢様の付き添いをしています」

 

「お前仕事してても途中で寝たりするんじゃねぇの?」

 

「そ、そんな事するわけが!……多分」

 

「多分って言っちゃったよ」

 

 こっちもこっちで相変わらずだな。

 

「ノーレッジ先輩は……家ですか」

 

「聞かなくてもすぐに分かる辺りね」

 

 俺と張るぐらいのインドア人間。こんなお祭り騒ぎに出向くなんて、天と地がオクラホマミキサーを踊ってもあり得ないレベルである。

 

「それで、八幡は今何してるの?」

 

「異常がないかの巡回と、後は学校のホームページに掲載する写真の撮影です」

 

「八幡がカメラを向けると不審者に見えてしまうわね」

 

 そういう当たり前のことを言わない。なんならすれ違いざまに「なんか撮られてるんだけど…」って言われてるんだけど。仕事だから仕方ないだろ。これだから仕事嫌なんだよ。労働はクソとはよく言ったものだ。

 

「お兄様、私を撮ってよ!」

 

「そういうやつじゃねぇよこれは」

 

 こんなん残したらお前何撮ってんだって話になるから。撮らないから。

 

「とりあえず、俺はまだ仕事中なんで。十六夜を見たいなら俺のクラスにでも行ってください。今の時間帯ならまだ接客中だと思うんで」

 

「どうせなら貴方に接客してもらいたかったのだけれど……他の仕事をしてるなら仕方がないわね。まぁ、精々頑張りなさい」

 

「じゃあね、お兄様!またお家に遊びに来てよーっ!」

 

 紅魔館組が去り、俺は仕事を再開する。

 今のところ、異常事態はない。不審な挙動を起こす人物も、見る限りいない。

 

「はぁちまん」

 

 まぁ、それはこいつが現れるまではの話。普段なら人の視線すら感じ取れるヒッキーセンサーが、背後にいる人物を気取ることが出来なかった。こいつもステルスヒッキーを取得していたのか。

 声を掛けられた瞬間、振り向くことも出来ずに背後から抱きつかれてしまう。それも、腕もろとも拘束するように。

 

「久しぶり、八幡」

 

「…封獣」

 

 比那名居が転校して来て以降、封獣とは出会さなかった。だから懸念していた。いつまた前の時のような仕打ちを受けてしまうのかと。

 

『それじゃあ首を絞めて息の根を止めよう!それでもう一度八幡を蘇生させるの!』

 

 マジであの時、死を覚悟した。走馬灯が見えてたって不思議じゃなかった。あの時の封獣は、完全にやる気だったから。

 

「私が居なくて寂しかった?」

 

「んなわけねぇだろ。むしろ首絞められる恐れが無くて精々…」

 

 した。と言い切ろうとしたところで、俺の腹に添えられていた封獣の手が、今度は首に添えられる。

 

「寂しかったよね?」

 

 否定はさせない。そう言わんばかりの圧を込めた手。

 

「今仕事中なんでしょ?頑張ってるね、八幡は」

 

「ならさっさと…」

 

「でもそんなの関係ないからさ。ちょっと来て」

 

 封獣に強引に連れて行かれそうになったその時。

 

「何してるんですか?」

 

 とある人物からの待ったが入る。声の方に視線を向けると、鋭い目つきでこちらを睨んでいる魂魄がそこにいた。

 

「…誰かと思えば、新生徒会長じゃん」

 

「その手、離してください。八幡さんが困っています」

 

「八幡さん?何勝手に私の八幡を名前呼びしてんだよ」

 

「八幡さんは貴女のものでも、誰のものでもありません。彼は彼のもの。八幡さんを我が物顔で発言するのは控えてください。不愉快です」

 

 魂魄と封獣の対面。ただの話し合いになるわけもなく、周りがその一部始終を見ていた。当然だ。新しい生徒会長が一般生徒に対して厳しい物言いをしていたら、多少なりとも目立ちはする。

 

「不愉快なのはこっちのセリフだ。あの銀髪女と似たような事言われたのが尚更腹が立つ」

 

「…何の話ですか?」

 

 銀髪女と言われて、俺は1人思い当たる。俺の身近にいて、かつ封獣とも関わりがあった人間。

 

『八幡は誰のものでもないじゃない。あまり束縛はよろしくないわよ、エゴイストさん』

 

 十六夜咲夜。以前、彼女も魂魄と同じようなことを、封獣に言い放っていた。

 

「…お前には関係ない。とにかく、私の八幡に馴れ馴れしく近づくな。法が無かったら、お前も銀髪女も殺してるところだ」

 

「法があろうと無かろうと、貴女のような邪悪な人間に私は殺せません」

 

「言うじゃん。前に私のイタズラにまんまと引っかかった間抜けが」

 

 そういえば宝塔を探して初めて魂魄とあったあの時、封獣のイタズラにやられたとか言ってたな。

 

「そこ!聖なる秋の行事に何トラブってんの!」

 

 2人の間に水を差したのは、文化祭実行委員の秋穣子。隣には姉の静葉も。

 

「穣子さんに静葉さん…」

 

「秋になるとうっさい姉妹のお出ましか」

 

「秋の幻想祭にトラブルなんてナンセンスよ。内容は知らないけど、そんなもん他所でやってちょうだい。こちとら幻想祭に魂込めてんのよ」

 

「…アホらし。こんなぬるいイベントの何が楽しいんだか」

 

 封獣は幻想祭をバカにするように吐き捨て、こちらに視線を向け、そして。

 

「じゃあね八幡」

 

 封獣は俺の首に口づけする。彼女にしては軽く、そしてすぐに終わった。それを見た周囲の人間達は、黄色い声を上げる。

 

「八幡の事、ずっと見てるから」

 

 ストーカーじみた事を言い残し、彼女は去って行った。

 

「あんた、あの女の男ならちゃんとトラブル起こさないように言っておきなさいよ。もっかい同じ事起こしたら今度は幻想祭出禁にするわよ」

 

 どうしよう。普通にそれはそれでありなんだけど。俺も正直、文化祭はそこまで楽しみと思ってるわけじゃないし。文化祭の日は勉強しなくて良い日なわけだし、サボっても良いと思うわけなのだが。

 

「…貴方、何かよからぬ事考えてる?」

 

「はっはっは。そんなわけ」

 

「なら良いけど。生徒会長も気を付けてよ。ただでさえ天邪鬼が来るかも知れないのに」

 

「…重々承知しています」

 

 秋姉妹は注意の声掛けを行い、再び校内の巡回に戻って行った。

 

「八幡さん」

 

 魂魄は俺の名前を呼ぶと、首元にハンカチを当てられる。その部分は先程、封獣がキスをした部分だ。

 

「濡れているので。こんな穢らわしい体液を晒したままにするわけにもいきません」

 

「お、おう」

 

 確かにベタベタのままは気持ち悪くて嫌だけども、なんだろう。言葉に謎の圧が込められた気もしないではない。

 

「これでよし、と」

 

 拭き取り終えたハンカチをスカートのポケットに仕舞い、この場にいない封獣に呆れの言葉をこぼす。

 

「全く、あの女は周りを掻き乱す事ばかりする。私がいる限り、あのような輩に手を出させはしません」

 

 そう言って、魂魄もその場から去って行った。一時の修羅場を終え、俺も再び巡回へと戻ろうとしたその時。

 

「きゃっ」

 

「おっと、失礼」

 

 目の前で人と人がぶつかる様子が見える。尻餅をついてるわけでもなく、ただぶつかっただけ。ぶつかった側の人物も軽く謝罪して、廊下を歩いて行く。

 

「人、混んできたな…」

 

 これだけ人が多いと、鬼人正邪という輩がどこにいるか見つけにくい。それに実物を知らんから、変装してるか否かも分からん。分かってるのは運動神経が良い事と、狡猾な事ぐらいか。こんなんじゃ見つける手がかりにすらならん。

 

「あら、貴方は確か……比企谷さん、でしたね?」

 

「ん?」

 

 鬼人正邪の捜索に、早くも難航してるところに、見慣れない顔に声を掛けられた。

 

「九十九里浜で、総領娘様と言い合いになった方…ですよね?」

 

「…あ」

 

 思い出した。そういえばこの人、見覚えあるかも。比那名居の隣にいた女性。結構毒舌ぶっ込んでた人だった気する。

 

「比那名居の…」

 

「はい。改めまして、永江衣玖です」

 

「どうも」

 

「この度は、幻想祭での総領娘様の姿を見たく思い出向いたのですが……この和風喫茶というのはどこにあるのでしょう?これだけ人が多いと、見つける事も難しく…」

 

 人が混んでる最中に地図見ながら歩くのは危険だからな。それに見つけにくい。巡回がてら、一旦クラスに戻るか。

 

「それウチのクラスの出し物なんで。案内しますけど」

 

「それはありがたい。ぜひお願いします」

 

 永江さんを引き連れて、自分のクラスの方へと歩き出した。道中、永江さんから比那名居の話を尋ねられる。

 

「総領娘様はどうですか?クラスに馴染んでいますか?」

 

「馴染んでる……のか分かりませんけど、馴染めてなくはないと思いますよ」

 

「どうせあれでしょう?文化祭のクラスの出し物を決める時も、"桃こそこれからの千葉を担う象徴となるべき果実よ!桃をベースにした飲食店を出店すれば"とか言ってたんでしょう?」

 

 凄えこの人。一字一句間違う事なく当てやがった。もしかして聞いてた?

 

「総領娘様の事など手に取る様に分かりますから。あれほど分かりやすい人間ほどいません。子どもみたいに見えます」

 

 前から気にはなっていたが、この人と比那名居はどういった関係なのだろう。幽々子様と魂魄、お嬢様と十六夜の主従関係みたいなものなのか。

 

「あの人の傍若無人っぷりは見てて呆れが出るばかりです。最も、飽きはしないですけどね」

 

「…さいですか」

 

 永江さんと会話を続けると、うちの教室が見えてきた。入り口付近には、行列が出来ている。

 

「あそこが俺らのクラスです」

 

「あれが……中に入るには少々時間が必要になりそうですね」

 

 幻想祭が始まって数時間で行列が出来ているのは、俺らのクラスだけじゃない。ここに来るまでにいくつかのクラスで列が出来ていた。ただ気がかりなのは、男性の比率が多い事なのだが。

 

「ちょっと覗いてみるか…」

 

 これだけ男性が多いのだから、下心ありきで来る輩もいないわけではない。女子校擬きの高校なわけだし、不安はある。そう思い、チラッと教室の中を覗くと。

 

「分かっとんだろうな。うちのクラスの奴に手ェ出したらテメェの頭に雷落としてやっから覚悟しとけよ」

 

「はい!お嬢様!!」

 

「あんたらは私の賽銭箱(ATM)よ。良い?1番高いの頼みなさい」

 

「で、でも手持ちがあまり……」

 

「そんなもん知ったこっちゃないわよ。その辺のコンビニでも銀行でも降ろして来なさい。そうすればサービスするわよ、咲夜が」

 

「ちょっと」

 

 何この喫茶店。一応和風なんですけど。なんでそんなSM仕様になってんの?というかあんな接客どう考えてもクビだろ。

 するとこちらに気がついたら博麗は、細目で睨んで文句を言う。

 

「あんた何サボってんのよ。こちとら妖怪みたいに湧いて出る人間の接客してんのよ」

 

「あれのどこをどう見たら接客になるのん?」

 

「でも今ので何人かは高いの頼んでくれたし、わざわざ金下ろしてまで来てくれたわよ」

 

「そいつら出禁にしろよマジで」

 

 男性陣が多い理由の一部を垣間見た気がする。こんな喫茶店嫌だよ。誰だよこいつらに接客業任せたの。ていうか。

 

「お前裏方だろ。確かに手を出す奴を追い出せとは言ったけども」

 

「こっちの方が楽だし」

 

「クソが」

 

 料理出来る奴はそこそこいるし、もっと言ったらそこまで手を加える品々じゃないから、人手に困ってるわけではないんだけどさ。でも、ちょっと横暴過ぎやしませんかね。

 

「一応ちゃんと接客しろよ。こんなんでトラブったら、秋姉妹が飛んで来るぞ」

 

「なんで私より立場の下の奴に媚びなきゃならないのよ」

 

「そうじゃなくてだな。ほら、あいつの接客とか見てみろ」

 

 俺が指差したのは、イキイキと接客をこなす奥野田の姿。

 

「いらっしゃい!何名様ですか?」

 

「2人です」

 

「かしこまりました!2名様入りまーすっ!」

 

「…居酒屋のノリ入ってない?あれ」

 

「あれ真似するの?したら和風喫茶から和風居酒屋になるけど」

 

 なんか違う。喫茶店であんな大きい声を上げる店員いないよ?ていうか博麗があんなの真似したら笑い死にしそう。

 

「死にたい死に方選ばせてあげるけど?」

 

「えっなんで」

 

「だって今あんたにムカついたから」

 

 だから怖いって。その勘で見透かすのやめろよ。どうなってんだよお前の勘は。

 

「お待たせしました。きのこスパゲッティでございます」

 

 十六夜の、澱みない動きの接客。あれが彼女の自然体。完璧な接客だ。

 

「あそこまでなれとは言わんけど、せめて炎上するような真似はやめてね」

 

「サボってるあんたに接客がどうとか言われたくはないわね」

 

「残念ながら生徒会の仕事してるんだなこれが」

 

「盗撮が仕事とは、堕ちたものね。正式にあんたを祓えるのなら、全力を出す必要があるわね」

 

「オーバーキルだから、それ」

 

 本当ああ言うとこう言うなこいつは。

 

「おいお前ら、何をイチャついとんだ。早よ仕事しろや」

 

 と、そこに蘇我が俺と博麗に横槍を入れる。い、イチャついてねぇし?俺ディスられてただけだし?

 

「で、生徒会の仕事でなんか撮影すんだろ。早よ撮って他所行きな。割と客増えてんだ。その辺で駄弁られると邪魔になるからな」

 

 そう言って、蘇我は厨房の方に入って行った。

 

「さて、仕事しますか…」

 

「待った。私もう10分で休憩入るから、入り口近くで待っときなさい」

 

「えっなんで」

 

「あんたに奢ってもらうためだけど?」

 

 なんでその「お前何言ってんの」感出せるの?お前が何言ってんのって話よ?

 

「待たなかったら、祓うからね」

 

「えぇ…」

 

 同じクラスで無ければ、きっとここはスルーを決め込んでいただろう。しかし残念な事に、彼女と同じクラス。他のクラスに移動出来れば良かったんだけどね。しかしそんな実力主義的展開な事があるわけもなく、ただただ巫女という名の皮を被った悪魔による蹂躙が始まってしまう。南無阿弥陀仏。

 

 そんなわけで10分後。

 

「さ、何から奢ってもらおうかしら」

 

「自慢じゃないが、財布の中には500円しかないぞ」

 

「ざけんじゃないわよ下ろして来なさい」

 

「お前がふざけ…」

 

「な、ない!私、いつもここに置いてるのに!」

 

 軽口を叩いていると、別のクラスの教室から騒ぎの声が。遠目から状況を窺うと、短い亜麻色の様な髪をした人物が騒いでいる。

 

「リリカ、どうしたの?」

 

「いつも演奏に使ってるキーボードが無いの!とっても大切な物なのに!」

 

 どうやら演奏で使うキーボードを無くしたとの事。キーボードの大きさの基準なんて知らんが、大体は持ち運びがやや面倒な物だ。それを無くすとなると、その人物の管理能力云々の話じゃなくなってくる。

 

 無くす、ではなく奪われたと考えるなら。

 

「…早速、動いたって事で良いのかね。これ」

 

 頼むから面倒な事はやめてくれよ。仕事自体が面倒だってのに、これ以上面倒な事増えたらマジでストレスで死ぬぞ俺。

 

 俺は仕事が嫌いなんだから。

 

 

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