Twitterによくある感じの嘘松とか嘘柱的なことを現実で口に出して喋っちゃうような嘘つき主人公ちゃんのお話です。

※しのぶさん性格改変ではなくただのオリ主です

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ハーメルンで嘘柱で検索しても一件もヒットしなかったので初投稿です。

追記
オリ主の身長が低すぎたので修正しました。掛け算も出来ないのか(困惑)


嘘柱さん「お館様に似た凄腕の剣士の人が一振りで十二鬼月八人斬り殺した話ってもうしたっけ?」

 ──一人の剣士と、一人の鬼が対峙していた。

 剣士は女、それも背丈四尺*1程度しかない童女であった。俯き脱力しきった様子の彼女に対し、鬼は異常な程の警戒心を見せていた。

 丈が八尺*2を超える大柄の鬼。それも百人は人を喰い、鬼殺の剣士も数多く屠ってきた。血鬼術を扱う異能の鬼だ。十二鬼月では無いものの、自身の半分も丈の無い、弱そうで小さい小娘に対して警戒するほど、弱い鬼でもない。

 そんな鬼がここまで彼女を警戒した理由は、偏に目の前の剣士が放つ異様な雰囲気にあった。

 

「……貴様、柱か?」

 

 俯き、その長い黒髪と漆黒の日輪刀を持つ脱力しきったその姿、底の知れない威圧感。

 今まで喰らった剣士とは明らかに格が違う。間違いない、この小娘は鬼狩りの最高位、柱の一人に違いな──

 

「柱……?」

 

 彼女が顔を上げる。鬼の血走った瞳と女のドロリとした闇のような瞳と目が遭う。

 そして口を開いた娘がボソリと呟いた。

 

「私は柱ではありませんよ?」

 

「なん……だとッ……!?」

 

 鈴のような声。気迫も何もない、ただ幼い子供の声であった。

 その声を耳にした鬼の感じたものは、この圧を放つこいつですら柱ではないのか、という驚愕では無い。

 

 ──恐怖。

 

(……恐怖!? この儂が……このような小娘を、恐れただと……ッ!?)

 

 思わず後退る鬼に対して、彼女は一歩詰め寄り、口を開いた。

 

「──いやですねぇ! 私みたいなか弱い娘が柱になんてなれる訳無いじゃないですか! 柱っていうのは鬼殺隊最強の剣士ですよ? 数多くの剣士が在籍する鬼殺隊で、たったの9人しかその位につくことはできないんです。それをあなたみたいな雑魚鬼一人倒せない私を掴まえて柱だなんて、柱の方たちに失礼すぎますよ! そもそも最終選別ですら無様に逃げ回っていつの間にか終わってたっていう恥ずかしすぎる入隊経歴で、しかも力も足りず鬼の首を落とすことすら出来ない私が──」

 

 ──軽薄。

 

 先程まで纏っていた雰囲気とは比べ物にならないほどに、軽薄な語り口。あの闇のような瞳は見間違いだったのではないか? 

 そう思ってしまうほどにニコニコとした穏やかな笑顔。キラキラと輝く瞳。

 鬼はその変り身に呆気にとられ、恐怖を忘れ、怒りに心を埋め尽くされた。しかしその怒りも、未だに止まらぬ軽口に呆れスッと何処かへ消えてしまった。

 

(──儂はあのような阿呆を、一瞬でも恐れてしまったのか)

 

 

 そして次の怒りの対象は、このような者を一瞬でも恐れた己自身。

 

「もう良い、柱であろうがあるまいが貴様はこの儂が喰ろうて──」

 

 ……恐怖とは、生物が生きていくために必須の生存本能である。

 恐れる故に、命の危機を回避する事ができる。恐れる故に、死を退けるために己を鍛える。

 

 ──恐怖を失った生き物は、己に迫る死に気付くことすらできないのだ。

 

「ッ!」

 

 一閃。棒立ちで長々と口を動かしていた彼女が唐突に刀を振った。

 虚を衝かれた。半分ほどまで刃が入る。血が、吹き出す。

 

「ごめんなさい、今の嘘なんです。本当は私、鬼殺隊が柱の一人、口の呼吸の使い手の『口柱』というものなんです。ほら、よく回る口に似合った良い呼び名だと思いません? 口の呼吸と言っても口で吸って口で吐くとかそういうことでは無いんですけど──」

 

 ──理解出来ない。

 何時切られた? 何故切られた? 動きは見えなかった、痛みも遅れてきた、何故……何故、何故!? 

 ──もう出し惜しみなどできぬ、血鬼術を使うしかあるまい……。

 

「血鬼じゅ──」

 

「──嘘の呼吸、参の型。──宵闇騙り」

 

 一閃。

 

「クソッ!」

 

「あーあ、外しちゃった。鬼さん、結構速いですね〜」

 

(なんとか避けた! 速すぎて剣筋が見えなかったが、反射で躱せたッ! 大丈夫だ、儂にかかればこの程度の小娘の剣を躱すことなど──)

 

 ──回る。

 

(何だ……?)

 

 

 

 

 

 景色が落ちて行く。あの忌々しい小娘も落ちて行く。

 ……何が起こったのかはわからんが、……良い気見だ。

 

 ──落ちて行く。

 

 落ちる

 

 落ちる

 

 

 

 おち──

 

 どさり……と、何かが地面にぶつかる音。

 何だ? 何が落ちた、奴か……? いや、違う。

 ならば、なぜ奴はまだ立っている……!  

 

 

 

 

 

 

 

 ──あぁ、……落ちていたのは、儂の頸か……。

 

 

 

「なんて、ごめんね。また嘘をつきました。本当は私、鬼の首くらい簡単に切り落とせますし、外しても無いです」

 

 ──灰になる。もう鬼はその姿を保っていない。彼女の言葉はもう誰にも聞こえていない。

 けれど、彼女は話し続ける。

 

「あと、口柱っていうのも嘘です。口の呼吸なんてそんな変な呼吸法あるわけ無いじゃないですか」

 

 鬼殺隊には、九人の柱がいる。柱の字の画数と同じ、九人の剣士だ。

 

 ──水柱、冨岡義勇。

 

 ──炎柱、煉獄杏寿郎。

 

 ──音柱、宇髄天元。

 

 ──霞柱、時透無一郎。

 

 ──風柱、不死川実弥。

 

 ──岩柱、悲鳴嶼行冥。

 

 ──恋柱、甘露寺蜜璃。

 

 ──蛇柱、伊黒小芭内。

 

 ──蟲柱、胡蝶しのぶ。

 

 

 ……今は、長い鬼殺隊の歴史の中でも非常に強く、優秀な人材が揃っている世代だ。

 柱が九人揃っていること自体がその証明になる。

 

 柱はただ足りなくなったらすぐに補充される、と言うわけではない。

 柱と成り得る力を持っていること。それを証明しなければならないのだ。

 

 十二鬼月を倒すか、鬼を五十切る。

 生半可なことでは達成することは不可能。

 強い剣士ほど強い鬼と戦わざるを得ない鬼殺隊の階級制度。殉職するものも少なくない数存在する。

 

 つまり柱に欠員が出ることなど珍しいことでもなかった。

 

 しかし、今の時代には喜ばしいことに九の柱すべてが埋まり、今のところ入れ替わりも起きていない。

 

 

 

 そんな中、一人の剣士が嘘のような戦果を、嘘のような速度で上げていった。

 

 ──鬼討伐数、百二十。

 

 ──内、十二鬼月二体の討伐。内約は下弦の参、下弦の陸。

 

 

 

 若干十六歳とは思えない戦果。破竹の勢いで甲の階級まで上り詰めた彼女ではあるが、柱の定員は九人。他者を押し退けてまで柱入りをしようとは思っていなかったらしく、彼女が柱になることは無かった。

 

 ……しかし、彼女を知る鬼殺隊当主を含む柱等の一部の者からは、敬意と呆れを込めてこう呼ばれている。

 

 ──息をするように嘘を吐く。嘘を吐くために呼吸をする。

 

「聞こえてないでしょうけど、可愛そうなので一応名乗っておきますね。私、『嘘柱』の()()()()()と申します。宜しくさようなら」

 

 ──十本目の柱、嘘柱と。

 

 

 

 

 

「ま、鬼に可愛そうとか思うわけないですけどね。ざまあみろですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、()()()ちゃん来てくれたんだね! ちょうどよかったちょっと聞いてよ! さっきそこの上弦の鬼にやられかけてもう駄目だって思ったときに、赤子を連れたお館様にそっくりの殿方が助けに入ってくれて、鬼の首を一瞬で切り落としたと思ったら赤子が泣き出してそれまで鬼のような表情で鬼を斬り殺したとは思えないくらいオロオロしちゃってて微笑ましく眺めてたらこっちに気づいた彼がハッとした表情で私の方を向いたと思ったら恥ずかしそうに顔を赤くして走り去っていったのもう周りのみんなは総立ちで拍手喝采で──」

 

「……全く()ったら、また変な嘘ばっかりついて……。貴女が鬼の頸を落としたところ、見てましたよ」

 

「えぇ!? もう、見てたなら手伝ってよ〜! すごく大変だったんだから!」

 

 ……鬼殺隊において彼女の名は、騙部(かたりべ)(そら)とされている。

 そもそもの話、嘘に塗れた彼女のことである。本当のことだとはっきりと言えることは少ない。

 彼女が幼い少女であること。嘘付きであること。彼女が便宜上だとしても柱と呼ばれるほどの力を持っており、嘘柱と呼ばれていること。鬼を殺すために剣を振っていること。

 

 他のことは、些末なことである。

 何故なら彼女は味方にも平気で嘘をつくし、平気で真実を口にする。

 

 張子虚という名が嘘だったとして、彼女を知る者が驚くこともない。

 

「いつも言ってますよね? 嘘ばかりついていると閻魔大王に舌を抜かれますよ?」

 

「それが目標なんだよ! 世界一嘘をついて一番盛大に舌を抜いてもらうの。そしたらきっと、抜かれた私の舌はきっととても美しくなるわ!」

 

「それ前も聞きましたけど、嘘だって言ってましたよね?」

 

「もちろん! でも、それが嘘かもしれないね? どっちが嘘なんだと思う?」

 

「……はぁ、この娘は本当にもう」

 

 

 

 

 これは、大正の世に生きる一人の嘘付き少女の物語。

*1
約120cm

*2
約240cm




(続か)ないです


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