あらかわい、え?この子たち世界壊せるってマ?   作:うろ底のトースター

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気付けばもう3ヶ月経ってんの、なんで???


伝説の狐と戯れる実験

独特の通知音とともにクロステストの概要が送信されてくる。この通知音、アイが勝手に変えるというイタズラを頻繁に行うため、たまになんの音が分からなくなるので注意だ。

 

『・・・また通知音を変えたのかね』

 

「ええ、まぁそうですね」

 

もちろんアイのせいですなんて言えるわけもなく、博士の怪訝な視線を受け流すことになる。いつかバレそうで怖いのだが、一向にやめてくれる気配がない。むしろ楽しんでいる節がある。

 

閑話休題。

 

『さて、今回の相手だが───』

 

「Keterっすか」

 

『───ああ、久々のな』

 

SCPー953 妖狐変化

 

オブジェクトクラスは今言った通りKeter。

 

9つの尻尾を持つ狐のオブジェクトで、名前の通り変身能力を持つ。暗示やらテレパシーやらも使えるらしい。

 

いわゆる九尾の狐である。元いた場所が朝鮮半島らしいく、「九尾狐(クミホ)」と呼ばないと怒りだすらしい。クミホというのは朝鮮半島での九尾の狐の名称であり、日本や中国に比べて、恐ろしい存在というイメージが強いらしい。

 

え?なら日本や中国ではどうなんだって?分かってんだろ。

 

性格は敵対的かつ残忍。主食が人間の内臓であり、拷問を好むらしい。シンプルイズベストな凶悪さである。怖い。

 

ただし、犬が怖かったり変身しても狐の要素がどこかに残ったりとちょっと抜けてるところがあるらしい。かわいい。

 

さて、そんな彼女だが、これまでに何度か収容違反を起こしており、その度に決して少なくない被害を出していたわけだが、最後に収容違反から既にかなりの時間が経っている。俺が収容されるなどのいざこざがあったのに、である。

 

理由は記事に書いてあったが、まぁ、その、世界の変態相手ではさすがに恐怖が勝ったらしい。口が裂けても可哀想とは言えないが、哀れではある。

 

『過去の例を見るに杞憂だとは思うが、何かあったら逃げてくれ』

 

「了解です」

 

しかし、暗示にテレパシーか。認識災害やらミーム汚染やらとはまた別に”暗示”、”テレパシー”として分けられているあたり、何かしらの違いがあるんだろう。そこら辺は分からねぇ(学無し)。

 

放し飼いされている犬に群がられながら、俺は扉に足を進めた。

 

 


 

 

部屋の中央、椅子に腰掛けティーカップを傾けている女性がいた。狐の耳に9つの尾を持った彼女が九尾狐なのだろう。装いが質素な白いワンピースでありながら気品の感じられる、傾国と謳われる美しさの一端が現れていた。

 

部屋はこれまで見たものに比べると広くはなかったが、彼女の趣味によって飾り付けられ、素人目で見てもお洒落に感じた。にしても装いといい装飾といい、韓国というよりもヨーロッパ風に彩られているのはなぜだろうか。

 

「そう他人の部屋をジロジロと観察するものではないぞ、小僧」

 

よく通る声だった。深緑色の瞳が、舐るようにこちらを見ていた。

 

「ふむ、下手に着飾って来ようものなら喰ってやろうとは思ったが・・・」

 

怖すぎだろ。

 

「まぁ許そう」

 

危うく世界が終わりかけた。

 

「座れ。茶をやる」

 

内心冷や汗を流しながら、俺は向かいの椅子に腰を下ろした。

 

 


 

 

「あ、美味しい」

 

特別紅茶に明るいわけではないけれど、上等な品なのだろうと思えた。

 

「私が選んだのだ、当たり前だろう」

 

自信あります!なんて感じもない、純粋に当たり前だと思っているんだろう。言葉の中に抑揚がなかった。

 

え、九尾の狐ってヨーロッパにも手を伸ばしてたの?それとも南アジア?ダメだ分かんねぇ。紅茶どころか地理にも歴史にも伝承にも明るくなかった。

 

「そう表情(かお)を二転三転させて、なにか気になることでもあったか?」

 

「あ、えっと・・・」

 

九尾狐(わたし)らしくないか?」

 

すげえな、読心術も使えるのか。

 

「お前は分かりやすい」

 

「あ、そっすか」

 

紅茶を一口。

 

「それで、どうして洋風な雰囲気にしたんです?」

 

「嫌だったか?」

 

「むしろ好きです」

 

「そうか」

 

ティーカップを置き、手を組んで、ゆっくりと口開いた。

 

「さて、理由だったか・・・」

 

昔の話が始まるのだろうか。悠久を生きた彼女のことだ、重い話の一つや二つあっても不思議ではない。俺は身構えた。

 

「まぁ、気分だ」

 

「気分」

 

「そうだ」

 

「そっすか」

 

なるほど、なるほど、気分か。

 

「意外か?」

 

「ですね」

 

「やはりか、そんな表情(かお)をしていた」

 

空のカップに、紅茶を注いだ。

 

「・・・化けた私と見えた人間は、二つの表情(かお)しか見せてくれなかった。見惚れるか、恐怖するかだ。前者と後者の落差が面白くてな。私はその表情(かお)が好きだった」

 

彼女の持つ凶暴性、その原因なんだろう。蕩けたように頬を赤らめていた。

 

「しかし、そうだな。他の表情(かお)を見るのも面白いな」

 

 

 

「それが物珍しいからなのか、お前だからなのかは、私には分かりかねるがな」

 

頬杖をついて、彼女は微笑んだ。

 

数秒、時間が止まったような気がした。

 

「・・・」

 

「見惚れたか?」

 

「不可抗力です」

 

「恐怖に歪ませてやったらさぞ面白いだろうな」

 

「やめてください」

 

 


 

 

九尾狐の朝は早かった。というか、今日が楽しみで寝れなかったと言うが正しい。なんせあの神谷朱里がやってくるというのだから。

 

神谷朱里、謎のメッセージによってその存在は今や収容施設全体に知れ渡っており、一部が熱狂的なファンと化している、らしい。然しもの九尾狐もメッセージに添付されていた少年の笑顔にハートを撃ち抜かれた1体であり、クロステストの話が掛かったときにはそれはもう大喜びしたものである。表には出さないが。

 

さて、ここで彼女の頭を悩ませているのはどう出迎えるかである。

 

(せっかく部屋の中では自由なのだ。それに趣向品もある)

 

ここで現在分かっている朱里の情報を整理してみよう。

 

・アメリカ在住日本人

・笑顔が素敵な男の子

・ホスト()

 

好みも趣味も分からん。どうすればいいんだこれで。

 

(いやまて、あの歳で海外に移住したということは、それだけの理由があるはず・・・。まさか、米国の空気が好きなのか!)

 

それは両親の仕事が原因である。

 

さて、正解かどうかはともかく、これでアメリカンな飾り付けにしようと決まったわけだが、ここでまた問題が発生する。

 

(まずい、これまで見てきた米国の光景が全てあの変態どもに上書きされていく!)

 

以前見た動物に興奮する変態どもが、彼女の記憶を侵食する。これにより、アメリカに対する知識がゼロに還った。

 

混乱、焦燥、そろそろポーカーフェイス苦しくなり、ついにすました真顔が歪みかけたその時、天啓が降りる。

 

(英国!そうだ英国だ!きっと米国と似たようなものだろう!元は支配下に置いていたと聞くしな!)

 

結果、今回のような部屋模様が生まれたのである。

 

この緊張は、クロステスト中延々と続き───

 

「ふむ、下手に着飾って来ようものなら喰ってやろうと思ったが・・・」

意訳:パジチョゴリ(韓国の伝統衣装)なんて着てきたら多分性欲が抑えられなかった。

 

「嫌だったか?」

意訳:嫌だったらすまない・・・。

 

「むしろ好きです」

 

「そうか」

意訳:そうか!

 

───まぁ、ともかく、事の裏側はこのようにぽんこつで構成されていた。もはや伝説の九尾狐の威厳はどこへやら。20も満たない小僧に手玉に取られいいようにされている、主観的には。

 

だから、最後にやり返したくなったのだろう。

 

朱里の赤面を見て満足した彼女は、静かに鼻血を流しながら次は自分から呼ぼうと決心した。神谷朱里のホスト化がさらに進行するのは、また別のお話。




神谷朱里

ホスト


九尾狐

朱里以外の全男性特攻持ち。なお朱里はアンチピックの模様。ホストにハマるってこんな感じ、多分。




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