何故アルバレア公はルーファス、ユーシス以外の正統後継者を作らなかったのか。
Cルートのパーティーにレンが加入した意味は何か。
(贖罪がテーマのCルートでデュバリィ、アリオスがpt入りしたのは意味があったが、レンだけよくわからなかった)
謎と言っていいのかどうかよくわからないところを勝手に脳内補完して書き上げました。
アルバレア公の罪状が酷いことになってますが、まぁどうでもいいよね、あんな奴!(おい)
「むっふっふ、ねぇねぇユーシス。今日のボクを見てなんか気づかない?」
夢幻回廊攻略会議の後、ミリアムはいつもの調子でユーシスに問いかけた。
一般的に女性が男性に対して「気づき」を求める質問を投げかけるとき、アクセサリや髪形などを変えた場合が多い。
リィンあたりは特にそういったものに鈍感で、よく女性陣を残念がらせていたものだが、ユーシスはそういったものに比較的敏感なタイプだった。
だが、今のミリアムにそういった変化は見受けられない。
服装も、帽子も、装備も、ついでにオーブメントのクオーツの並びもいつもの通りだ。
もしかしたら彼女の相棒である戦術殻「アガートラム」に何かしらの変化があったのかもしれないが、彼がこの場に現れていないことから、恐らくは違うはず。
しばし考えた後ユーシスは早々に観察を放棄し、降参を選んだ。
「わからん。一体何があったんだ」
「実はね……身長が1リジュ伸びてたんだ! ついでに色々成長してたよ!」
「わかるか! というか誤差の範囲だろう、それは!」
「ふふーん、アーちゃんも成長期らしいからね、ボクもおねえちゃんとして負けられないんだよ!」
薄い胸を張るミリアムと、嫌がりながらも結構ノリノリで対応してしまうユーシス。
誰が見ても仲睦まじいカップルに見える二人。
そんな二人を遠目に見つめる視線が二つあった。
「ねぇねぇルーファス。人間ってなんで自分の身長や、特定の部分の肉の付き方にこだわるのかしら?」
一人はユーシスの兄であるルーファス=アルバレア。
もう一人は豪奢なゴスロリドレスを着た人形のような少女。というか稀代の人形師ヨルグ=ローゼンベルクが手掛けた正真正銘の人形ラピス=ローゼンベルクである。
「基本的に身長があったほうが運動能力的に有利だからだよ。肉の付き方については……そうだね、異性を魅了するにあたって有利だから、かね」
まるで娘に「子供はどうやったらできるの?」と聞かれるような難しい問いをルーファスは難なく答えた。
「ふぅん。人間って男は胸部と身長の大きな女性が、女は筋肉モリモリマッチョマンが好みってことかしら」
「個人差が大いに出るかもしれないが、統計的にはそうだろうね。まぁ君とは無縁の話かもしれないが」
「当然よ! 私は誇り高きローゼンベルク人形。この体に削る部分も盛る部分も存在しないわ!」
えへん、と薄い胸を張るラピス。
彼女に若干の誤解と拡大解釈をさせたような気もするが、大したことではないと流してルーファスはオーブメントの最終調整に入る。
「ちなみにルーファスの好みは出るところが出た女性なの? それとも
「……ノーコメント、とさせていただこう」
立て板に水という言葉を体現するように淀みなく回答するルーファスにしては珍しく、言葉を濁した。
僅かだが俗にいえば、ギクリとした。といっていいリアクションだった。
そしてそれが「平たいボディ」のタイミングで起こったことにもラピスは感づいた。
「あら、もしかして当たり?」
「あまり人の好みやプライベートを詮索するものではないよ。特に我々のような世界の住人にはね」
「いいじゃない、教えてくれたって。スウィンやナーディアには言わないでおいてあげるから、ね」
何やら誤解されているようだが、ルーファスは別に未成熟な少女や幼い幼女に強い興味があるわけではない。
断じて、ロリコンではない。
本音を言えば、どちらかと言うと苦手な方だ。
忌まわしいあの義父が犯した罪を思い出すからだ……
*
七陽暦1187年。ルーファス9歳の時。
父ヘルムート=アルバレアが一人の赤ん坊を連れて家に帰ってきた。
「ルーファス、お前の弟だ」
そう言って、父アルバレア公はメイドに赤ん坊を預け、無言で書斎へと歩いていった。
突然弟と告げられた存在に当然ながらルーファスは疑問を抱いた。
最初は不義の子である自身の代わりに正当にアルバレアを継げる嫡子を作ったのかと思った。
しかし、正妻である母に妊娠の兆候はなく、正統後継者というには父の態度はこの”弟”に対してあまりにも冷徹なものだった。
「父上……?」
バタリ、と扉が閉まる。それと同時に一人の少女が憔悴しきった様子で大理石でできたホールに入ってきた。
まだ日曜学校に通っていると言われても信じられるような、ルーファスより少し年上の少女。
人形のような少女趣味の恰好をしているが、それは着ているというより着せられているようなちぐはぐの印象を受ける。
恰好こそ綺麗だが、細部を見るとかなりあらが目立つ。貴族の子弟にしては髪につやが無く、仕草も礼儀作法を学んでいるとは言えないお粗末なもの。
本来の父ならば、ネズミの様に追い出しこそすれ、家に入れるなどあり得ないはずの存在だ。
「あっ……!」
少女は慣れぬ大理石の怪談で躓き、それに気づいたルーファスは転ぶ前に彼女を受け止めた。
「大丈夫かな」
「ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
少女はうわごとのように謝罪の言葉を繰り返す。
その病的な様子に、ルーファスは自分の背筋が凍り付くような錯覚を覚えた。
「心配はいらない。私が好きでやったことだ」
「で、でも……」
「それでも君が気に病むというのなら、この後私の部屋で幾つか質問に答えてくれればそれでいい。いいね?」
「はい。よろこんで」
そのなんてことない返答が、後におぞましい真実の糸口になることに流石のルーファスも気づいてはいなかった。
*
「寄進記録?」
父の書斎で執事が見つけたそれは、別段珍しいものではなかった。
アルバレア家は父や叔父を筆頭にほとんどが典型的な貴族主義の人間で、金遣いが荒い。
領民に重税を強いている分支出も多く、そのほとんどが市民に還元されることなく浪費されている。
まるで周囲に自身の財力を見せつけることが貴族としてのステータスの様に。
そういった意味で、貴族は七曜教会に多額の寄付金を送ることが多い。しかし、その寄進先は教会ではなくとある宗教法人だった。
「ええ。クロスベル議長の紹介で、内臓疾患の治療のためカウンセリングを受けていたとか」
おかしな話だ。
内臓疾患のためにカウンセリングが必要など聞いたことがない。
それにクロスベルにはウルスラ病院があり、医療体制はかなり充実している。わざわざ怪しげな宗教法人に多額の金を払ってカウンセリングを受ける必要性はない。
更に奇妙なのは、ユーシスの生まれた年の前後で寄進額が大幅に上がっていることだ。
「何かあることは違いないが、あの父上が正直に答えてくれるとも思えない。これはお望み通り闇に葬ってあげることにしよう」
結果的にその判断は正しかった。
その教団はクロスベルやカルバートで社会問題と化し、1198年には大陸のほとんどの治安維持組織が総動員されて殲滅作戦が行われるほどのいわくつきのカルト教団だった。
名をD∴G教団。
父はそのパトロンとなっていたのだ。
寄進記録が発見されれば、アルバレア家の立場は今頃危うくなっていただろう。
同時にルーファスはあの時の少女の正体を理解した。あれはユーシスの“母”だ。
教団のロッジにいた少女を父は────────
ギリ、と新聞をもつ手に力が籠る。
くだらない人間だと思っていたが、まさかここまでとは流石のルーファスでさえ想像すらしていなかった。いや、想像はしていたが、それでも見て見ぬふりをする自分がどこかにいた。
そしてそんな甘い自分はいなくなった。
思えば父と正妻の関係は幼いころからそうだった。
金と権力を交換するような商談じみた結婚。そんなものに愛など育まれるはずもなく、正妻は義弟と密通。
そんな関係の相手を女性として見ることなどできるはずもない。
社交界で父が男性とばかり話していることも、色事には妙に無関心だったことも、今考えれば得心が行く。
父は、女性を愛せないのだ。
内臓疾患とはよく言ったものだ。
ヘルムート=アルバレアの病名は体の外にある内臓の異常。
ED、すなわち勃起不全。それも幼い少女は例外という、どうしようもない悪癖付きの。
そして私も人のことが言えない。
自分は何者なのか。愛というものが何なのか。そんな答え、この家にあるわけがないのだから。
*
内戦から1年が経った。
ARCUSⅡが着信の振動を鳴らす。会話モードを起動すると、聞き覚えのある声が間髪入れずした。
『やっほー、ルーファス。クロスベル総督はどんな調子?』
「万事つつがなく進行しているよ。君のほうもレクター君に迷惑をかけていないかね?」
『ニシシ……』
「なるほど。理解したよ」
『あ、そういえばねこないだユーシスがさ────────』
適当なところで導力通信を切る。
育児放棄を受けながら、それでもまっとうに育った弟とミリアムが仲を深めていることは“兄”として祝福すべきとこであるし、事実そうしてきた。
「しかし……ミリアム君は確か5歳児でなかったかね?」
ふと心の声を漏らして政務に戻る。
クロスベル総督として片付けるべき問題は山積している。
被占領地の国民感情の制御、特務支援課や遊撃士協会、アリオス=マクレインへの牽制。そしてこの地に眠る金の騎神エル=プラドーの起動。
難題には違いないが、この程度で躓いていては『父』を超える日など一生来ないだろう。
「さて、ではまずは鳥籠を作るとしようか」
*
「レキュリア」
偽物のルーファス=アルバレアとツァオ=リーから逃れて、たどり着いたクロスベル歓楽街。
宵闇の舞姫の『舞』に心奪われそうになった時、すみれ色の髪の少女に助けられた。
何故かその少女に言いようのしれない罪悪感のようなものを感じた自分がいた。
初対面だが、顔と名前、そして経歴は知っている。
『結社』の元執行者。今はS級遊撃士カシウス=ブライトの養子になっている────────
「どういたしまして。《
《殲滅天使》レン=ブライト。
何故だろう。その幼い年齢と体躯に見合わぬ淫靡な雰囲気が、どうしようもなくかつてのユーシスの“母”を連想させた。
*
皆、罪を背負って生きている。
スウィンとナーディアは『組織』に対する裏切りとかつての仕事を。
クレア=リーヴェルトはミリアムを見殺しにし、復讐のため家族を壊し、大戦の引き金を引いたことを。
レクター=アランドールは百日戦役を起こした父親と、スパイとして数々の人々を騙してきたことを。
アリオス=マクレインは親友を殺し、八葉の剣を邪法に染めたことを。
そして、ルーファス=アルバレアは……
「ねぇねぇルーファス。聞いてるの!? ルーファス!」
ラピスの声が耳朶を打つ。
柄にもなく感傷に浸っていた思考を戻し、夢幻回廊の攻略へと切り替える。
「ああ聞いてるとも。スウィン君の好みの女性のタイプの話だったね」
「違うわよ!」
依然として夢幻回廊は自分たちの記憶を戻してくれる様子はない。
利用できるから利用しているだけで、回廊側の目的も、元々自分たちが何をしてきたかもわからない。
だが、目的ははっきりしている。
これは私と、私の“兄弟”たちが自らの罪と向き合い、少しでも前を向けるようにする禊のための戦いだ。
罪悪感に鈍る心を雪ぎ、この血に流れる『鉄血』を受け入れる自分との戦争だ。
「はぐらかそうとしても無駄よ! あなたから答えを聞くまであきらめたりしないんだから!」
子供は、苦手だ。
少女趣味な格好をした人形のような少女は特に苦手だ。
「……そうだね。好みと言うと難しいが……子供は、苦手かな」
だが、その程度の苦手を克服できない人間が
だから、向き合う。
己の罪と、苦手とに。
「アガットさん、アガットさん。なんだかあの二人いい雰囲気じゃありません?」
「いや、ありえねぇだろ。いい年こいた三十路のおっさんが少女趣味だなんて」