十二鬼月を最も多く倒した幻の10人目の柱、『鬼柱』。
 その正体について。

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心無惨

 夜の帳も降りきった丑三つ時、とても道とは言えぬ山道を下る影がある。白いワイシャツにペイズリー柄のチョッキと黒のズボン。軽装と言えば軽装だが、あまりにこの場に似つかわしくない格好をしている美青年の名は、鬼舞辻無惨。人を喰らい、陽の光を浴びれば灰になる鬼の頭領である。

 唯一の弱点である日光を克服させ得る「青い彼岸花」を見つける為、人の寄り付かない山に自ら分け入ったが、成果は芳しくない。

 眉間に皺を寄せつつ鬱蒼とした山道を抜けると、開けた場所に出た。月明かりが、背の低い草を撫でるように照らしている。

 

「やっと見つけたぞ。鬼舞辻無惨」

 

 ぬるりと、ゆめまぼろしの様に黒衣の男が現れた。目深に被ったフードで顔は見えず、身に纏ったロープは足元までスッポリと覆っている。海の外から様々なものが渡ってきた明治、大正の世。混ざりきれない西洋の匂いが、まだ判然と立ち上っていたこの時代にしても、奇異な服装だった。

 

「また鬼殺隊の奴らか」

 

 無惨がまず抱いたのは苛立ち、次に辟易だ。

 どこから自分の情報が漏れたのか。下弦の鬼あたりがうっかり漏らしたとしたなら、対策を考えねばなるまい。自分の名を言った瞬間に死ぬ呪いでもかけてやろうか。わざわざ十二鬼月なんてものを作ってやったが、大半は役立たずばかりだ。

 自分が無能の尻拭いをせねばならないことに悪態ついていると、次第に自分をしつこく追ってくる異常者に矛先が移った。

 そもそもコイツらがいなければこんなことは起きないのだ。

 

「お前たちも飽きずによくやることだ。仲間はどうした?策を弄しても無駄だ。まとめてかかってくるといい」

 

 どうせ隠れ潜んでいる雑魚がいるのだろう。大方コイツは囮で、相手をしている間に私の頸を跳ねる算段か。群れることしか出来ない屑共の考えを読むなど造作もないと。

 

「いや。私は鬼殺隊ではない。ここに人間は私1人だ」

「ほう」

 

 先程まで虫けら見るような視線を投げていた無惨の目に、僅かな好奇の色が滲んだ。口角も愉快そうに上がる。

 見たところ日輪刀を所持している様には見えない。浅知恵が働く者なら、服の中に潜ませていることは否定できないが。

 ただ、鬼殺隊にあのような格好をしているものは見たことはないし、そもそも日輪刀など無惨にとっては大した脅威ではない。

 何より、この人間が1人で自分を探し当てたとしたら、その能力と執念はなるほど、異常者とは言え評価に値する。

 

「おもしろい奴だ。私を探した理由はなんだ」

「知れたこと。貴様は家族の命を奪い、あろうことか妹を鬼にした」

 

 うんざりするほど聞いた理由だった。だからこそ無惨は、自身の感情より損得勘定で相手を見れた。辛うじて、と頭に付くが。

 「青い彼岸花」が一向に見つからない無惨にとって、男の探索能力は、一時の癇癪を抑え込む位には興味を引かせる。

 

「よくもそんなことに労力を割けるものだ。お前は地震や嵐を一生恨むのか? 普段なら踏み潰してやるだけだが、今日の私は寛大だ。そんな無駄なことに一生を捧げるはずだったお前に、意味を与えてやろう」

 

 芝居がかった調子で言葉を紡ぐ。

 

「鬼にしてやる。その能力を私の為に役立てろ」

 

 無惨にとっては最大限の譲歩だった。自分を探し、自分の前に立ち、自分の機嫌を損ねた相手に、これ以上無いくらいの慈悲をかけてやったつもりだった。

 顔が見えずとも、男が息を呑むのがわかった。

 

「もういい。お前はしゃべるな」

「やはり異常者に話は通じないか」

 

 痩せ衰え、野垂れ死ぬだけの野良猫に餌をくれてやったつもりだった。だと言うのに野良猫はそれをはね除け、あろうことか噛みついてきた。

 無惨には、黒衣の男が息を呑んだ理由が理解できない。理解しようともしない。

 ただ、己にとって快か不快か。望みに沿うか沿わないか。この男には他者を慮るといった最低限の社会性すらなかった。

 後に彼は自身を大災に例えるが、それは当たっている。

 根本的な所で違えているところを除けば。

 

「失せろ」

 

 無惨は腕を伸ばし、無造作になぎ払う。ただしそれは人間のものとは訳が違う。

 瞬きの間もなく10m程に伸ばされ、振るわれた右腕は容易く人体を破壊し、生じた衝撃波と撒き散らされる石や小枝が人を絶命させるには十二分過ぎる。

 只人ならこれだけで終わる。鬼殺隊の甲の隊士でも、捌けるのはごく少数だろう。

 

「やはりおもしろい奴だ。今のは幻の類か」

 

 だと言うのに、草花が根こそぎ削り取られた地面には、血の一滴も布の一切れも落ちていない。

 

「出てこい。そして頭を垂れて蹲え。平伏せよ。今なら先程までの狼藉を許してやる」

 

 例え新月の夜でも餌の気配を逃さない鋭敏の感覚が、まだ人がいることを告げている。

 

「一つ聞きたい」

「よかろう。一つだけ答えてやる」

 

 音もなく、背中側から現れた男に向き直る。口許には隠しきれない喜色があった。

 「青い彼岸花」こそ見つからなかったが、久し振りに使える拾いものを見つけたかも知れぬ、と。

 

「なぜ人を喰らってまで生き続けたい?」

「何かと思えばそんなことか。私は完璧に限りなく近い生命体だ。私が生きずして何が生きると言うのか。むしろ私に食われたことに感謝すべきだろう」

「弱肉強食、より優れた生物が生き残るのは道理だと?」

「全くもってその通り」

 

 ありきたりな質問をするにしては理解が早いではないか。

 自分の意図を素早く察する相手に、無惨は上機嫌になった。つい、口が滑らかになる。

 

「私は変化が嫌いだ。変化とは殆どの場合、劣化なのだ。完璧で永遠不変の存在に、私はなる」

 

 男は数秒黙り、ようやく口を開いた。

 

「弱肉強食の原理に基づくというのなら、お前には従えんな」

「そうか。では死ね」

 

「黒血枳棘」

「っ! 〈漆黒軍の騎士〉」

 

 今度は逃がすまいと血鬼術まで使った。腕から迸った血が鞭のようにしなり、有刺鉄線のような触手となって襲い掛かる。無惨の血は強い毒性を持つ。掠めただけで細胞が壊れ、おぞましい死体を晒すことになる。

 とっさに男は肉盾となる呪文を唱えた。

 

 触手に捕らわれた吸血鬼の騎士は、一瞬抵抗する素振りを見せたが、声にならない悲鳴をあげて、呆気なく崩れ落ちた。地面に気味の悪い肉塊が転がる。

 

「ハハハッ! どんな手品だ! タネは貴様を殺してから、じっくり調べるとしよう」

奇術師(ソッチ)ではない魔術師(マジシャン)だよ。吸血鬼でもダメか。ならこちらはどうだ」

 

 距離を取りながら男が小さく口を動かす。無惨の聴覚は一語一句を完全に聞き取るが、その言葉はどの言語体系にも当てはまらない。未知の言葉と共に、今度は甲冑を纏った骸骨が無惨に襲い掛かる。

 

「洒落臭い!」

 

 今度は叩き付けるようにして触手を振るう。爆発するような音が木々をざわめかせた。

 

「どうした? こんなものか?」

「いや。まだまだ」

 

 男はどこからともなく異形の生物を矢継ぎ早に呼び出す。同じものは一つとして無かったが、悉くが一息保たずに潰されていく。そんなことが七度繰り返され、男の意味不明の言葉が途絶える。

 

「物理的拘束は難しいか」

「諦めたか。ならばさっさと私の血肉となれ」

「……赤の呪文は不得手なんだが――!」

 

 改めて無惨が取り込もうと触手を動かした時、今まで一際短く、鋭く、男が声を発した。

 

 無惨は身体が痺れる程の絶叫を聞いた気がした。

 

 それが自分のものだと知ったのは膝を着いた後だった。

 

「さすがに生身で〈稲妻〉を受けるのは初体験か。この世に神仏がいるなら、一回位ぶち当てても良いだろうに」

 

 大地を焦がす赤い光が、無惨を撃ち抜いたのだ。

 赤の呪文の中でも最古にして最強、最速と言われる魔術は肉体に甚大な被害を及ぼす。

 皮膚の熱傷、体細胞の壊死、そしてこの状況で最も致命的な随意運動への異常。鬼と言えど電気信号で動いている以上、それは避けられない。

 特に脳へのダメージが重大だった。

 いつもの無惨なら、新しく身体を作り替えるなり、傷付いた部位を切り離すなりして直ぐ様反撃するのだが、10億ボルトという未知の熱量は、彼の脳機能を一時麻痺させる。

 無論、麻痺と言っても数秒程度の話だ。

 たかが天災程度で殺せるのなら、とうの昔に彼は死んでいる。脳機能の麻痺も、電撃という攻撃が初見であることが大きい。

 復帰してしまえば二度目はない。

 

 魔術師がみすみす、その隙を見逃せばということを除けば。

 

 

それを止めるために、一番の秘密すら叫び出すことになる

 

 

コジレックの審問 / Inquisition of Kozilek

 

 

 魔術師が唱えたのは、相手の思考に干渉する黒の精神魔術。多次元宇宙を食い荒らす三体のエルドラージの巨人、その内の一体が行う問いかけを模したもの。

 オリジナルには劣るが、およそ痛みと名の付くあらゆる辛苦が脳髄を苛ませる。ましてや脳が5つある無惨は、単純計算で常人の5倍の苦しみだ。苦悶の声をあげることすら許されず、痛みから逃れるようにのたうち回る。

 

 鬼になってから初めての頭痛はよく効いた。効きすぎた。

 

 久し振りの猛烈な頭痛は、かつての病人時代を否が応でも思い起こさせる。重度の癇癪持ちである無惨の中でも、それは特大の地雷だ。

 痛みを上回る怒りの発露は、言葉にならない絶叫と物理的脅威となって辺りに撒き散らされる。

 

「なんだコイツ、考えが短絡的過ぎて読みもクソも無い!本当に脳ミソ5つも付いてんのか……!」

 

 〈コジレックの審問〉の際、痛みに紛れて頭の中を覗いたが、そこには嵐の様な怒りしかなかった。これでは思考を直接触っても意味がない。

 

 無尽蔵のリソースを力任せに押し付けてくる。これはこれで非常に厄介と言えた。

 

 触手が魔術師に向かって降り注ぐ。動きは直線的なため回避は可能。しかしこのままでは無惨に近付けないのも事実。このままではジリ貧で、思い切りぶん殴ってやるという目的も果たせない。

 

「やはり物理的な拘束は必須。となると」

 

 リスキーだが、黒の呪文にはある。軽く、強大で、極めて鋭利な諸刃の剣。

 

 ある呪文を唱えた後に、それを呼び出す。死にそうな位の倦怠感と、死人が甦りそうな昂揚感の狭間で唱えたが、うまくいった。

 

 現れたのは、今にも消えそうな一本の蝋燭。

 

 月の光から生まれた柔らかな影が、蝋燭に吸い寄せられるようにして、あの世の様に黒く染まり、魔術師の背の倍近くまで肥大化していく。主が死に近付けば近付くほど、力を増していく生涯の隣人。

 

「〈死の影〉、取り押さえろ」

 

 心臓の代わりに、蝋燭の火を胸に灯した影の魔人が、暴力の嵐の中心に躍りかかった。

 

 エーテル体に近い〈死の影〉にとって、毒はあまり影響が無い。ましてやこれほど膨れ上がった〈死の影〉をまともに相手するのは、魔術の心得がある腕利きでも難儀する。

 

「どけぇ!」

 

 それでも魔術師の劣勢だった。単体では魔術師最強の手札も、無惨のデタラメなスペックの前では有象無象に過ぎないようだ。

 

「なんて奴だ。だが」

 

 それでも一撃で落ちることはない。そして核さえ無事なら〈死の影〉は動き続ける。

 触手を全身で受け止めながらも、影は仕事を全うしてみせた。自身を貫く触手を握り締め、無惨を抱き抱える。

 

「邪魔だ!離せ!」

 

 動きを封じられた無惨に魔術師が肉薄する。握り締めた右手にはドス黒い瘴気が集う。

 

 

お前の肉から皮膚を、骨から肉を引きはがしてやる。骨についてる肉片も全部こそげ落としてやる。それでもまだ十分じゃないんだ

 

 

 

憎悪 / Hatred

 

 

 

 己の生命力を直接『力』へと変換する古き呪文。極限まで命を削って、右手に注ぎ込んだ。

 

 

 

 必ず殺すと誓った仇敵の顔面は、物足りなさすら感じるくらい呆気なく砕け散った。

 

 

 

 存在を維持出来なくなった魔人はかき消え、魔術師がよろよろと二、三歩後ずさる。そこにいるのは首なしの身体と死にかけの魔術師が一人。

 

 耳が痛い位の静けさが満ちる。

 

「……持ってる手札は全て出し切ったぞ。それでも殺しきれんか」

「随分と好き勝手にやってくれたな。楽に死ねると思うなよ、貴様ァ!」

 

 こう言っている間にも顔の再生は終わりかけだ。触手も鎌首を揃えて、魔術師に狙いを定めている。

 

「どんな仕組みかは知らんが、貴様がやったことは何一つとして私に届かない!その奇ッ怪な力も貴様を食って私のモノにしてやろう。礼を言うぞ!」

 

 高笑いと共に触手がユラユラと魔術師をとり囲んでいく。

 逃げ場は、ない。そんな状況で魔術師が口を開く。

 

「最期に言っておきたいことがある」

「うるさい、黙れ」

 

 その一声で魔術師に無数の触手が――

 

「お前は弱肉強食の理に則り、己の正当性を主張した」

「――」

 

 動けない。触手も身体も口も。

 まるで時間が止まってしまったように。

 

「ならばお前も私も、ただの肉だ」

 

 そんな状況でも意識ははっきりしていた。五感もある。視覚は目の前の男を認識出来るし、舌は渇いた口のざらつきを伝え、耳は羽ばたき音を克明に聞き取り、鼻は未知の臭いを捉え、肌には言いようがない不安と恐怖が這いよった。

 

「お前にかかっているのは大修復以前に生み出された古の青の魔術。旧世代のプレインズウォーカーでも知らない者は多い。実際に扱える術者となれば更に限られる。……だが、あの方にとっては、造作もない」

 

 魔術師はのそり、のそりと、身体を引きずる様にして無惨に歩み寄る。

 

「〈停滞〉という魔術だ。対象となった者の時間をほぼ完全に止める。精神までは止められないし、外的要因には何の耐性も持たないが――」

 

 遂に鼻先のところまで近寄って酷薄な笑みを浮かべながら

 

「お前の望んだ『不変』だぞ?願いが叶って良かったじゃないか」

「――――」

 

 ありとあらゆる罵詈雑言が無惨の心から吹き荒れるが、それが口に出されることはない。

 男は踵を返して無惨からはなれ、適当な場所で胡座をかいた。

 

 そこへ巨大な影が降りてくる。

 

 あれは、なんだ。

 

「無惨とやら、私と出会って何も無いのも侘しかろう。これでも龍師範と呼ばれていてな。どれ、一つ教授してやろう」

 

 無惨は神も仏もいないと思っていた。

 それは、間違いだったと知った。

 

「上には上がいる」

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 やっと、終わった。

 

 無惨が灰になったのを見届けて、魔術師は死にかけの重い身体を持ち上げ、巨竜に向き直り、片膝を付いて頭を垂れる。

 家族を無惨に殺され、妹が鬼となり太陽光で死に、そのショックでプレインズウォーカーの灯に目覚めてからずっと、無惨を殺すためだけに生きてきた。

 

「ご協力感謝します。ボーラス様」

 

 そのために多次元宇宙の中でも、最強最悪とうたわれるプレインズウォーカーに服従した。

 

「礼は要らん。それだけの対価を払うのだろう?」

 

 頭上から低く、威厳のある声が降ってくる。

 ニコル・ボーラス。『ドミナリア最古の悪』、『全ドラゴンの神王にして父』、『世界の暴君』、その他にも数々の異名を持つ、エルダードラゴン。

 正義では討てない悪があるから。巨悪を倒せるのはそれ以上の巨悪だと信じたから。

 例えその悪行で誰かを犠牲にしてでも、家族の仇を討ちたかった。自分と同じ思いをするものを減らしたかった。

 

「どうか我が灯、我が命、お納めください」

 

 だからこの結末に納得している。元より自分の力だけでは無惨を倒すことは出来ない。契約したことに、悔いはない。例え自分のプレインズウォーカーの灯で、ボーラスの力が増そうと、どうでも良かった。

 

「ふむ……」

 

 ボーラスはしばらく考え込むような仕草をすると、指先に何かを浮かべる。

 

「面を上げよ。これはなんだと思う?」

「それは」

「そう、無惨とやらの肉の破片よ。〈停滞〉の呪文をかけた際、僅かに切り取ったが、こんな状態でも生きようと足掻いておる」

 

 表情が分かりにくい古竜の顔が笑った気がした。

 

「この肉片に、お前を食わせてみようと思う」

「……はっ?」

 

 間抜けな魔術師の声に、古竜の顔がますます笑みを深めた。

 

「その命、私に捧げるのであろう?ならばどうしようと私の勝手ではないか」

「それは! ですが!」

「これは死に行くお前への褒美だ。喜べ」

 

恐怖と嫌悪感に取り乱した魔術師を、古竜の魔術が捉えた。奇しくも、否。わざと〈停滞〉の魔術で魔術師の動きを封じた。

 

「――――」

 

 肉片が顔に付着する。己が異物に蝕まれていくという生物が本能的に拒絶するそれに、抵抗すら出来ない。

 

「どうなろうと今夜の記憶は、ソレから取り除いてやろう。憶えられるのも面倒だ。しかし肉が肉を食うとは、中々見られるものではない」

 

 薄れ行く意識のなか、魔術師は必死に術を練った。

 せめて、なにかと。

 

「楽しませてくれた礼だ。一つ教えてやろう」

 

 五感を可能な限りカットし、必死に記憶と精神に防壁を構え

 

「肉は食われる相手を選べないが、強者は選べる。憶えておくといい」

 

 ボーラスの言葉が魔術師に聞こえたかどうかは、分からない。

 後日、山間の小さな集落が神隠しにあったという記事が、地方の新聞に小さく載った。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 夢を見ていた気がする。もう、思い出せないが。

 

「ふん。どれもこれも役立たずどもが私の手を煩わせるからだ。まさか累が死ぬとは」

 

 下弦の鬼は既に集まっている。長居も面倒だ。さっさと終わらせようではないか。

 

「今回は全員に、二度目がないことを心に刻ませ――」

 

 何かがかき消え、代わりに累を失わせた下弦の鬼への怒りが吹き荒れた。

 

「――そろそろ下弦も入れ換え時か」

 

 その歪な思考の継ぎ目に、無惨は最期まで気が付かなかった。


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