元柳斎が流刃若火を解放すると同時に、冬獅郎と京楽も動き出した。
「卍解! 大紅蓮氷輪丸!」
莫大な水氷に覆われ、氷の竜と一体化した冬獅郎が現れる。その背には四つの花弁を持つ氷の花が三つ浮かんでおり、徐々に冷気が浸透し始めていた。
また京楽は解号なしに花天狂骨を発動する。
「さて、どうしたものかね」
二刀一対の斬魄刀を手にする京楽は呟く。
剣八と
その答えを、兵主部が出した。
「
「なるほど。明快だね」
「分かりやすくていいぜ。だが問題は……」
それができれば苦労しない、ということだ。
常人では追いきれない速度で戦う剣八と
だが、元柳斎はそこに容赦なく爆炎を放った。
始解にして卍解に匹敵する絶大な熱量が崩壊しつつある叫谷の一部を撫で尽くす。
『あああああ!? 邪魔すんな死神いいぃぃぃぃっ!』
しかし
それを見て冬獅郎も理解した。
「なるほどな。更木は霊圧の特殊攻撃が効かねぇ。つまり更木ごと攻撃すりゃいいってことか」
そこで冬獅郎は刃を天に掲げる。
氷輪丸の基本能力にして最大の力、天相従臨が発動する。天候を支配し、環境を自在に書き換える絶大な力だ。京楽が、あと百年もすれば己を超すと評した天才の力である。霊圧による支配は叫谷にすら及び、無表情だった空が暗雲で染まる。
「いくぜ。
かつては卍解が馴染むまで時間をかける必要があった。
それも剣八との修行で克服し、冬獅郎は真の力を僅かではあるが引き出せるようになっている。空より降り注ぐ雪の結晶が剣八と
これはただの雪ではない。
冬獅郎の霊圧が封じ込められた雪だ。
触れればそこから氷が侵食し、まるで花でも咲くかのように体を覆う。回避不能なこの範囲攻撃から逃れる方法があるとすれば、流刃若火のような熱量で吹き飛ばすことだろう。
『あ”?』
慌てて抵抗しようとするがもう遅い。
ただでさえ更木剣八という破壊の権化と戦っているのだ。自らを覆う氷を砕くなどという
剣八は動きを止めた
その一撃は間違いなく
「――黒」
そこに京楽が現れ、
口にした色の部分を攻撃できるという面倒なルールであり、その色が自分にとっても大きなリスクであるほど威力が増す。隊首羽織と女物の着物を脱いだ京楽は真っ黒な死覇装であり、威力は充分だ。
だが狙うべき場所が悪い。
そこは剣八の両腕。特に力を伝達する筋繊維だ。しかし
そのはずだった。
「黒めよ、一文字」
同時に現れた兵主部が斬魄刀・一文字を解放する。見た目は薙刀のようである一方、筆のようにも見えてしまう不思議な斬魄刀だ。
その能力は理不尽そのもの。
黒く塗りつぶした部分の力を兵主部が奪い取るというのだ。
しかし当然ながら特殊能力に分類されるため、剣八の
京楽の剣が左右同時に振り下ろされる。
筋繊維を同時に断ち切り、剣八の腕から力が抜けた。黒く染められた腕から墨のようなものが滴る。
「悪いね。女の子を傷つけるのは趣味じゃないけど、そうも言っていられないんだ」
ただ、この程度なら食い尽くした霊圧を回復にまわすことで再生してしまう。故に剣八を止めることができるのは僅かな時でしかない。
しかしそれだけの時間があれば充分であった。
「卍解」
一度は奪われ、滅却師の始祖に利用されたその力。
発動するだけでこの世を滅ぼしかねないと封印を命じられた力が甦る。
「残火の太刀」
この世すら滅ぼす爆炎を封じ込めた刀がその手に残る。見た目こそ焼け焦げた貧相な斬魄刀に過ぎないが、それは誤りだ。解放すれば周囲の温度を際限なく上げてしまい、水分という水分を蒸発させてしまう。山本元柳斎重國という男が極め、制御しても尚これほどの力だ。
「終わりじゃ。天地灰燼」
残火の太刀に封じ込められた爆炎を一度に解放し、消し飛ばす。
単純にして最大火力の必殺技だ。
これほど文字通りに必殺を体現した技もそうないだろう。太陽の中心温度にすら匹敵する熱量が視界を白く染め上げ、氷の花に抱かれた
『孵り亡べ、
そして進化した際にその力は斬魄刀として封じられる。
それが解放されたに過ぎない。
「ぬぅ……何ということじゃ」
帰刃した
目元より上に残っていた仮面がほぼ全て砕け、残ったのは彦禰と融合している部分のみ。また全身の黒い斑点が大きくなり、黒の割合が増したのだ。爪は完全に黒く染まっており、胸元にあった虚の穴からは血のように黒い何かが溢れ出たような痕が生じている。
そして全身へと馴染んだ黒い斑点が蠢き、
まるで霊王を取り込んだユーハバッハである。
『クソがよおおおおおおおおおおお! 殺せ! 殺せ! クソうざってぇ雑魚死神を殺せええええええええええええああああああああああああああああああああああああああああああああ!』
咆哮と共に刺々しい背中がボコボコと泡立ち、そこから
ただ元柳斎も慌てず、残日獄衣によって太陽を纏った。
だが、あの
まさに無尽の黒き閃光。
疑似的な
「不味いねぇ。こりゃ」
「氷輪丸!」
京楽は浮竹でも無理かな、などと現実逃避し、冬獅郎は氷の壁を張る。
しかしその備えは無駄であった。
「あああああああああああああああああああ!」
鈴のような咆哮に伴い、無数の斬撃が放たれる。
その一つ一つが必殺といえるほど洗練されており、その一つ一つに卍解の力が宿っている。振るえば即死の奥義、
これによって分裂体の
更には斬撃の余波が
『解放した我すら傷つけるかあああああああああああ!』
一つ吼えれば嵐すら消す。
『死ねえええあああああああああああ!』
それは
産絹彦禰を取り込み、その記憶すら知る今の
かつて最強の十刃とされた
仮に瀞霊廷で放てば、一撃で消滅せしめるだろう。
対抗するのは最強の死神、更木剣八だ。その身一つで極大閃光を受け止め、斬り返す。
『できるよ。剣ちゃんなら』
自身の斬魄刀の言葉を信じ、剣八は踏み込んだ。
仮に
『がっ―――』
再び、世界が裂けた。
◆◆◆
現世、空座町では痣城の参戦により状況は巻き返されていた。雨露柘榴の反則じみた能力により虚は次々と滅ぼされ、これによって一護たちにも余裕ができる。
浦原が用意した結界柱を四方へと配置し、簡易的な空間凍結を実行したのだ。
「今ですテッサイさん! ハッチさん!」
『心得ましたぞ』
『お任せくだサイ』
この際だからもっと結界を強固にしてしまおう。
そう考えた浦原はテッサイと
空座町全体が贅沢なほど頑丈な結界により覆われ、霊なるものが現世へと影響しにくくなる空間凍結が完成する。
この完成と同時に浦原は通信機に向かって叫んだ。
「黒崎サン! こちらは完了しました!」
『ああ、ありがとよ浦原さん』
ここからは一護も遠慮なく戦える。
卍解・天鎖斬月が解放され、浦原のいる場所にまで莫大な霊圧が流れてきた。
しかし良いことばかりではない。
空の裂け目が再び現れ、初めのものと合わさって十字になったのだ。これによってさらに三界が接近し、空間が不安定化する。それに伴い、
「なんて力だ。これが更木剣八……死神という枠を超えている……ッ!」
王属特務が出動する案件であるにもかかわらず、当の零番隊は壊滅状態。かろうじて兵主部と二枚屋が生き返っているものの、万全ではない。
「まさか霊王すら超えるというんですか……」
ありえなくはない。
この嫌な予測が当たらないよう、願うばかりであった。
◆◆◆
「おいおいおいおいおい。マジモンの危機じゃねぇか」
「うっさいわ! はよ虚をぶっ叩かんかい!」
空座町の一画で、愛川羅武と矢胴丸リサが言い争いながら虚を叩く。互いに消耗の激しい虚化は避け、始解だけで目に付く虚を討伐していた。
もちろん、この二人だけではない。
「死に晒せやあああああああ!」
ジャージ姿のまま
そんなひよ里を見て羅武が叫んだ。
「ひよ里ィ! 前に出すぎんな! ハッチは動けねぇんだぞ!」
「あぁん? うっさいわ! ハッチやったら自力で結界張って守れるやろ!」
「アホか! んなことできるなら俺たちで守らねぇよ!」
だが、この事態に対して静観を決め込むほど落ちぶれてはいない。
「浦原のアホは何しとんねん……! はよ何とかせいや!」
何だかんだで元隊長を信頼しているひよ里であった。
◆◆◆
卍解を解放した一護はもはや誰にも止められない。空間すら切り裂き、どんな虚ですら一撃にて葬る。一護が通過した場所はもれなく切り刻まれていた。
また遠くの虚も関係ない。
「月牙天衝!」
鞘が黒く染まり、霊圧が斬撃となって放たれる。居合という今までとは異なる動きを求められる点では扱いに難しさもある。しかし黒崎一護という男は死神になって僅かな期間で瀞霊廷に乗り込み、隊長格すら上回った才能あふれる男である。この程度の修正は容易い。
『へへへ。様になってんじゃねぇか!』
「ったりめぇだ!」
戦闘の合間にも斬月は語りかけてくる。
ずっと斬月だと考えていたユーハバッハの残滓はもういない。一護はそれで違和感を覚えるものの、特段に嫌悪しているわけでもない。なぜなら
空座町全体に広がり続ける虚の群れは着実に殲滅されていた。
だが順調な狩りに陰りが見える。
二つ目の空間の裂け目が生じたのだ。
「っ! 嘘だろ……」
それに伴って無数の黒腔は開き、新たな虚が空座町へと侵入する。
「あっちは親父たちが!」
黒崎家の血筋に宿る強い霊力を感じたのだろう。
大量の虚が一心たちが体を休めている場所に向かっているのを目撃した。当然、一護は急ぐ。天鎖斬月の速度なら充分に間に合う速度だと確信していた。
だが、瞬歩で駆け抜けようとする一護の足首に何かが巻き付いて止められる。
「んなっ!?」
「ゲッゲッゲ。丁度目の前に死神とはラッキーだぜ!」
運悪く一護のすぐ側に黒腔が空き、そこから
もしも家族の元に殺到する虚に気を取られなければ、即座に気付けたであろう程度の敵だ。またこれが破面ではなく普通の虚ならば一護の速度で引き千切ることもできた。更に言えばこのタイミングで死角に、気配を隠すタイプの破面が現れたという不運もある。
とにかく様々な不幸が重なり、一時的にでも足止めされてしまったのだ。
蛙のような破面からすれば一護という極上の魂を喰らい、更に力を付けようという魂胆があったのだろう。身の丈に合わない願いを抱いた代償は大きく、一護の月牙天衝に飲まれて消し飛ばされてしまう。
「不味い! 親父! 遊子! 夏梨!」
さっきまでなら月牙天衝で吹き飛ばすという選択肢もあった。
だが今は距離が近すぎる。このまま月牙天衝を放てば、その斬撃は家族にまで及ぶだろう。攻撃力が高すぎるという弊害だ。
このままでは……。
一護は全力で駆け付けようとする。
ギリギリ間に合うか、間に合わないかといったところだ。
だが、密集しつつある虚の群れは爆炎によって吹き飛ばされてしまった。
「ったくよ。俺の可愛い娘たちに手ェ出すんじゃねェ」
「親父!?」
「よぉ一護。心配かけさせたな」
「っ! うっせぇ! 戦えるんならさっさと起きやがれ!」
「おうよ。こっからは俺も本気だぜ」
死神化した一心は斬魄刀・
「これでも護廷で隊長張ってたんだ。俺の本当の実力って奴を見せてやるさ。一護、テメェはさっさと行け。家族を護んのは
「ああ、分かった。空座町は――」
「違ぇよ」
空座町の空を覆う虚へと特攻をかけようとした一護に、死覇装の襟を掴んで制止をかける。そのせいで一護は転びそうになり、額に皺を寄せて睨みつけた。
「どういうつもりだよ」
「テメェにゃテメェにしかできないことがあんのさ。浦原の奴が準備しているはずだ。あいつんところに急げ。元凶を止めろ」
「元凶だと?」
「あの空の裂け目。アレを作ってるやつをぶん殴るんだよ」
一心は剡月の切っ先で十字に裂けた空を指し示す。今の裂け目の向こうには瀞霊廷と、夜の砂漠が薄っすら見えている。先程よりもくっきり見えるようになっているのは、三界が更に接近したからだった。
つまり時間がない。
「いいか一護。母さんのことはテメェが帰ってきたら俺の口から説明してやる。だからよ、生きて、この世界を救ってこい」
「……! 忘れるんじゃねぇぞそのセリフ!」
「俺は約束を守る男だぜ」
胸を張り、一心は告げる。
「帰ってこい、一護」
「ああ。行ってくる」
一護は瞬歩でその場から消え去り、浦原の元へと向かった。
そしてその場に残った一心は、空より無限に現れる虚を見つめる。自然と剡月を握る手に力が入り、霊圧が高ぶった。
「ああは言ったが、俺も本調子じゃねェ。卍解は使えねェな。お手柔らかに頼むぜ、剡月」
久しく振るう相棒の名を呼び、黒崎一心も参戦した。
◆◆◆
虚を祓うのは死神だけの特権ではない。
滅却師として、雨竜は戦い続けた。空間中の霊子を収束し、次々と矢として放つ。その矢は虚に限定して滅却し、この世から完全に消滅させる力が宿っている。
皮肉にも
「クソ。どれだけ現れるんだ……!」
雨竜はその射程を利用し、群れから離れて動き回る虚を中心に仕留める。痣城双也が広域を殲滅してくれるお蔭で、どうにか耐えきれているのが現状だ。
しかしあくまでも耐えているだけだ。
(痛ッ……)
弓を引き続ける雨竜は指の皮が捲れ、血を滴らせていた。一体何百の虚を祓ったことだろう。もう数えるのも億劫である。
(思い出すな。あの時を)
こんな時、雨竜が思い浮かべていたのはかつて一護に勝負を吹っ掛けたあの日だ。撒き餌という虚をおびき寄せる特殊な道具を使い、空座町を舞台として虚の討伐数を競うことにした。予想以上の虚が出現した上に
状況は似ている。
あの時も指の皮が捲れても弓を引き続けていた。
だからだろう。
(しまっ――)
あの時と同じく、血で指が滑った。
それによって弓を引き損ね、ターゲットしていた虚が人を喰らおうとする。雨竜が陣取っているのはちょっとしたビルの屋上であり、その下は大きな道路となっている。必然的に人も多く、虚が襲ってくれば被害の拡大は免れない。
空間凍結で騒ぎになっていないことだけが救いだ。
だが、どちらにせよこのままで虚による被害者が生じてしまう。
「間に合え!」
ユーハバッハから受け取った能力、
人を喰らおうとした虚の仮面に四本の矢がほぼ同時に突き刺さり、虚は消滅する。
「これは……」
しかしそれは雨竜の能力によるものではない。
別の滅却師によるものだとすぐに分かった。雨竜は感じ取れた霊圧から何者か理解する。
「
「父を呼び捨てとは相変わらずだな雨竜」
「アンタがどうして」
「私は滅却師を継承しなかったが、人を救う道を選んだ。死にそうな人間を放っておくようなことはしない。それだけのことだ」
白いスーツを着た石田竜弦もまた、滅却師の矢を使って虚を次々と仕留める。
先の戦いでは雨竜に静止の銀で作った矢を託し、雨竜にも語らぬ本音を教えたばかりだ。ただ長年の確執が消えたわけではない。雨竜はどこか悔しそうだった。
そんな彼に対し、竜弦は呆れたように問いかける。
「それよりもだ雨竜。いつまで手を抜いている?」
「っ!」
「どうせ下らんプライドを拗らせているのだろうが、そんなものが何の役に立つ。力があるなら使え。滅却師として戦うのなら、人を護れ。仮にそれが忌々しい力だったとしてもだ」
雨竜は歯嚙みし、どこか苦しそうな表情すら浮かべる。
だが迷っている暇はないと考えたのだろう。
その背から光の翼が出現し、頭上には光輪が輝く。ユーハバッハから
故に
「それほど言うのなら使ってやるさ! どんな力でも! 護るために!」
雨竜は
「
無数の矢が雨の如く降り注ぎ、それは突如として消えた。
次の瞬間、それらは余すところなく視界いっぱいに広がる虚へと突き刺さっていた。
つまり、まだ確定していない未来についても干渉できるのだ。百パーセントの状態で確定していなくとも、確率選択により結果を自由に入れ替える。
無数の虚が同時に砕け散った。
雨竜もたいがいチート
原作では語られなかったけど、たぶん持っているでしょ。完聖体。
完全反立という能力から、
if「私と契約して天に立たないか?」ルートの需要ある?
-
闇落ち剣ちゃん見たい
-
本編だけでいい