「う、ぐぁ……」
先ほどから、何かが流れ出ていくような感覚が止まらない。
長くダウン状態でいると起こる、失血死のカウントが進んでいるのだろう。
「……クソッ」
あと少しで立てる。
そんなところまで身体を休ませた感覚がある。
だが、そのあと少しがどう足掻いても回復し切れない。
立つためのきっかけが、足りない。
それもそうだ。ゲーム時代では、一部のパーク効果を除いて自分で起き上がる事はできなかった。
実際の儀式においても同じなのだろう。
「……まずい、な。ネアが」
這いずりながら、必死にオーラを見て状況を整理する。
ネアの姿勢を見るに、彼女は負傷状態だ。
デビキンのダウン直後に攻撃をくらってしまったらしい。
どうする。俺はどこで起こされるべきだ?
「とにかく、移動を」
ずり、ずり、と這いずったまま場所を変える。
「きゃあッ!」
どこか遠くでネアの悲鳴が聞こえた。
見れば、ダウンしたネアのオーラ。
「ま、ずい。まずいまずいまずい」
3人這いずり。
残りのシェリルも大方の位置を把握されてる。
「カラシナ!」
声がした方を振り向く。
見れば、真ん中の固有建築から顔を出したシェリルがこちらに駆け寄ってきていた。
ほっと息をつく。とりあえず俺は復帰できそうだ。
「ああ、ありがと——」
金切り声が、した。
「ホゥウ」
「クソッ、おいおい嘘だろッ!」
早い。あらゆる事象のペースが早すぎる。
ゲーム時代はナースの下方修正を嘆いたものだが……実際に相手をするとなると、話は別だ。
「シェリル!」
「わかってるわよ!」
シェリルが一直線にこちらに向かってくる。
その間に割り込むようにナースがブリンクを行い——
——シェリルの脳天に鋸が突き刺さった。
「ァ……がッ」
シェリルの負傷が一定レベルのものに置換される。
その超回復の反動により、速度が上昇し俺の元へあっという間に到着した。
「こういう、事……でしょッ!」
「ああ。完璧だ。助かった」
シェリルに身体をさすられ、損傷状態が一定のものに置換される。
ダウンから回復だ。
さて——。
「サリー・スミッソン、お前の思い通りにはさせねぇぞ」
クールタイムは既に経過していたらしい。
パーク発動の感触がする。
「キィアァ!」
おそらく俺を狙ったであろうブリンク。
それを敢えてナースに近寄る事ですれ違うように回避する。
「切り返しを使うサバイバーは初めてか?」
「ウゥ……」
疲労スタン。
さて、どこに逃げ込むべきか。
「俺を追ってこい! チェイスしようぜ!」
正面には木箱地帯が見える。
俺の記憶が正しいなら奥側にジャングルジムが確定生成だったはず。
多少は時間を稼げるだろう。
今ナースには俺の足跡と血痕しか見えていない。
ここでタゲを取って少しでもシェリル達のいる方角から遠ざけなければ……!
「ホォウ」
ブリンク。
良かった、俺を狙ってくれるらしい。
ただ、まだオブジェクトには隠れられていない……が。
「もう一回!」
ブリンクの構えを取っているナースに向けて近寄る……ように見せかけ、再度切り返して前進。
「キィ……」
「同じフェイントかと思ったろ?」
これで何とかオブジェクトの木箱に辿り着く。
ギリギリ視線を切れるサイズだ。
さぁ、どちら側に回るか選択しな。
「キィア!」
「残念、外れだッ!」
木箱に入った角度から再度出る。
俺が進むであろう方向に予測ブリンクしたナースに向け、不敵に笑う。
「ッ」
鉈が空を切る音。
当たらないのに振っちまったか。
助かった、これでブリンク後の疲労スタン時間が延びる。
「つまりは……ジャングルジムまで間に合うってこったな!」
「ゥウウ!」
ジャングルジムへと辿り着く。
形状は4壁か。微妙だな。
「フェイントを入れて木箱地帯、そんで固有まで繋げたい」
理想を語っても仕方ない。
ここで俺はあるフェイントを思いついた。
「ホォウ……」
ブリンクを構える音。
俺はジャングルジムで一瞬だけ回復の動作を挟み、その後手前側の壁に即時移動した。
「キィイ!」
「残念」
壁の向こう側にナースが飛んだ気配。
成功だ。
お前のブリンクの正確さと、反射神経。
そして何よりナースコールを持っている事を読んでのフェイント。
「ホォ……」
「さて2択だ。俺はどっちに」
そこでぶつりと。
意識が飛んだ。
「アァウ!」
「……へ、はは。声でバレてたか?」
そういえば自身の呻き声がやたら大きかったような気もする。
ナース固有パーク、負傷者の呻き声を50%増加される「喘鳴」がついていると見て良いだろう。
囁きに加えてナスコ、喘鳴……この流れでいくならもう1つは死恐怖症か?
「うぐ」
ナースに担がれ、もがきながらもオーラを確認する。
3人で集まって回復中か。
よし、何とか立て直せそうだ。
「ブリンクは上手いが、下手なサバイバーとしかチェイスしてこなかったらしいな」
「……」
俺の言葉が分かっているのか分かっていないのか。
ナースは無言のまま俺をフックに吊るした。
「がッ、あぁ……!」
断末魔のごとき声をあげ、苦痛に耐える。
「は、あッ……クソッ」
オーラで各サバイバーの動向を確認する。
全員が回復を終えて、ネアとシェリルで奥側の発電機を発電している。
デビキンは……どうにも真ん中の固有建築内の発電機に向かっているようだ。
「2人回しのとこが見つからなきゃ何でもいい……」
ナースがブリンクしていったのは固有建築の方向。
そのまま行けばデビキンに囁きが反応し、しばらく索敵するはず。
「上手くいけば4人で残り発電機2台、しかもリーチのやつは無し……!」
崩壊の危機は乗り越えた。
それどころか勝ちの目がかなり見えてきている。
「はは、やるな」
デビキンが隠密しているのが見える。
隠れ方からなんとなくナースのいる方角も分かってきた。
そしてもう1人。
俺の救助にやってくるヤツも見えている。
「そう救助を急がなくても良かったのにな」
「この状況で憎まれ口を叩けるのは才能ね」
発電を止めて俺の救助にやってきたシェリルが呆れたような表情を作る。
フックから抜かれつつ、俺は自身の見た状況を語った。
「中央の廃病院でデイビットとナースが隠れんぼ中だ。さっさと発電しようぜ」
「うるさい」
シェリルにぐっと背中を押さえつけられる。
負傷中なこともあってか、俺はうめき声をあげながらしゃがみ込んだ。
「私と貴方は血の協定を組んでるでしょ? 回復してから走ればいいじゃない」
「……まぁ、それも悪くないか」
迅速効果は微々たるものだが、正直これ以上負傷状態でいるのは精神的にキツい。
背中をさすられ、無事に回復を終えたと同時に走り始める。
「ちょ、早っ」
「助かった、ただ今は時間が惜しい!」
「ちゃんと16メートル以内にいなさいよ!?」
分かってるさ。
断続的に聞こえる金切声が、デビキンの隠密の成功を示唆している。
さっさともう一台付けてナースを絶望させるとしようか。
絶望“させる”?
随分と大きく出たじゃないか。