五条悟の次に強いやつって言われたいじゃん 作:五条悟のディスク
「簡単な話や。腹も適度にたまったやろ、軽く運動でもどうや?」
「嫌です」
なんてことを言うんだ。
次の新しい年に向けて備える大晦日、誰もがゆっくりと過ごしたいと思ってやまない今日この日に手合わせだと?寝言は寝てから言ってほしい。
どうせこういう時に言う運動って一般的なランニングとかスポーツじゃなくて試合とか模擬戦闘とかだろ。とんでもないことだ。
相手は禪院家の次期当主として期待が集まっているあの禪院直哉。五条先輩の次に強くありたいと思い、相応の力を持っていると自負しているがそのレベルの相手になればケガを負うかもしれない。無傷であるにはそれなりに苦労するだろう。
まぁ負けるつもりも毛頭ないが。
元々俺はガキ使見て蕎麦食べながらごろごろして過ごす予定だったのだ。五条先輩の顔を立てるというのも理由だが、お世話になっていた分お返しするために今日この場にいるだけだ。
わざわざ面倒ごとをおっ被るなんてごめんなのだ。
「無駄な殺生はしない主義なの。必要じゃないなら拳は出したくないの」
「なんや、ケチくさいな。減るもんでもあるまいし」
「減るもんならあるぞ。俺の呪力と元気だ」
わざとらしく大きなため息をつく。頼む、心底やりたくない意思表示だ。伝わってくれ。
相も変わらずニヤニヤとした嫌な笑みを浮かべながらこちらを見る直哉を伺う。
一体こいつは俺に何をしてほしいのだ。まさか本当に俺と戦いたいだけか?
「いやな、最近は呪術高専も質が下がったんやないかってな。教員の質でそこらの質も図れるんやないかと思ってな」
「なんて?」
想像していた言葉とは違ったため、俺は多少驚いた。
古いお家柄である禪院家。そういった一族では権威と実力こそがすべて、それに伴って五条悟の次位に強いと評判の俺とパイプを作るために持ち掛けてきたのだとばっかり思っていたのだが。
違うのか?
俺がそんなことを考えている間に次の言葉をつづける。
「東京におるやろ。禪院の落ちこぼれ、あんなのを在籍させてる意味あるんか?」
「今...なんて」
「真希ちゃんのことや。高専での設備も教員も限られてる。そんでもって呪術師は万年人手不足。学び舎としてのシステムを考えればより才能のある人間に重きを置くべきだと俺は思うんや」
「なるほど、実に効率的だ」
事もなげに言葉を繋ぐ。次第に自身の声が低くなっていくのを自覚する。
不快だ。不愉快だ。
いや、ただ俺を煽っているだけだ。のせられたら負けだぞ俺。一息入れて精神の荒波を沈めようと努める。
しかし直哉はそれを知っていてか、気づいているだろうになお口を開く。
「せやろ。あれは術式どころか呪力もない。見えもしない。そんなんの担任をしてるアンタの質を知りたい」
「親でもないだろ。そんな過干渉だと親でも嫌われるぞ」
「そうでもない、なんたって真希ちゃんとはいとこの関係。心配したって何らおかしくないやろ」
「そうか」
直哉の言葉を受け、俺の中に久々に明確な意思が芽生えた。
こいつは『わからせ』なければならないと。
大事な生徒、真希の意思のすべてを知っているわけではないが生半可な覚悟では呪術師はやっていられない。
呪力を持たず見えもしないその体では呪術師になぞ到底なれない。それでも彼女は立っている。
いとこだか身内だが知らないが、人の覚悟を踏みにじるこの男を許しておけないと俺は思ったのだ。
「いいよ。ただし、仮にも
「ぶちのめす」
直哉にとって円李はいまいち物差しで測れない男だった。
直哉にとっての物差しは実力。力をもつ存在を正しく評価し見定める。
直哉にとって力のない雑魚は守る価値もない。ましてや身内にいるだけでもストレスが貯まるような存在だ。
節円李。
五条悟に次ぐ実力者、直哉が至る事の出来ていない特級の地位につく呪術師の一人。
呪術界最強と比較できること自体が力を持つ人間である証拠であるが、直哉はいまだに判断しかねていた。
もちろん禪院本家以外にも家同士のつながりがあるため、古臭いネットワークを通じて話は聞いたことがあるがそれだけでは判断できないというのが直哉の考えだ。五条悟については家のつるみで実際に会ったこともあるが、なんせ円李とはこれが初対面だ。
そして実力があったとしてもそれをひけらかさない。実力を持つものが下のものを支配するのが当然という考えが染みついている直哉にとって少々理解しがたい存在が円李だ。
そんななかで自身の実力がどこまで通じるのか試してみたいという思いが今回の件の発端となった。
もし勝てなくても自身の心の中でもやもやしていた節円李という存在をはっきりとさせることができる、勝てればあの特級を下したという事実と共に禪院家次期当主としてより箔が付く。
直哉としては試合に持ち込むことができれば満足であった。
しかし知らない、すでに龍の逆鱗に触れるどころか踏みつけにして唾を吐いているような状況に陥っていることに。
途中からあきらかに不機嫌になっていることを知っていても、その原因に気が付くことができない。
なぜなら心の奥底から雑魚に価値がないと考えているからだ。
せいぜいが、おかげで余計な手加減をされないようになったラッキー程度に捉えている。それがどのような結末を呼び起こすとはわからずに。
当主である直毘人からの許可は驚くほどすんなり通った。
『好きなようにやるといい。特級の実力、しかと見定めさせてもらおう』と酒を片手に禪院家地下空間の上座に居座り観戦の構えだ。眼前の景色を肴に呑むつもりだ。
服装を改め対峙する。
「さて、ルールはどうする」
「戦意喪失するまででどうや。あとは...まぁ死なない程度でいこか」
「了解、いつでもいいぞ。かかってこい」
円李の全身から呪力が励起するのが見て取れる。ただ立っているだけにもかかわらず、全身を押しつぶすかのような威圧感が場に満ちる。
(舐めてんのか、それとも...まぁ譲ってくれるんなら行かせてもらおか)
直哉の持つ術式は現当主である直毘人が持つものと同じ【投射呪法】。
自身の視界を画角の中で自身が描く動きをトレースする術式である。現実的に可能な動きであれば、想像した通りの動きを無理やり実現できるという術式である。
1秒間を24等分したコマで軌跡を描きそれを後追いすることが投射呪法の本質である。使いこなすためには自身の運動能力や術式といった詳細な情報を知覚する必要があることが難しい点でもある。
節円李が持つ術式の一番の武器は万物を縛る力の向きと大きさを操る力である。一度とらわれてしまえば逃げることは難しいだろう。
投射呪法では1秒間の間で光速に達する、などの現実的に不可能な動きをトレースすることができない。逆に言えば再現可能であれば無理が効くともいえる。
「ほな行かせてもらうで」
先手必勝
五条悟に次ぐその力を見てみたいが、まずは様子見だ。
投射呪法による動きの具現により、淀みないスタートを切り円李に向かって駆け出す。仮にこの初動で決着がついたらそれはそれ、力を見るまでもないレベルだったというだけだ。
投射呪法は自身が再現可能の動きでなければ強制的な静止というデメリットがある。逆に再現可能であればいいということ、直哉は呪術界でも上位の呪力操作の精度をもってして強化した自身の状態を既定とすることでより再現度が難しい動きを具現させる。
しかし純粋な速度勝負では円李に勝つことができないことを直哉は知らない。
重力に干渉し、原子レベルに干渉する円李は簡易的な時間操作ができることを直哉は知らない。
投射呪法の基本的な戦術としては高機動、そして特性を活かして相手を行動不能にしたのち攻撃するというもの。投射呪法を発動できるのは自身と触れているもの。触れられた相手はほぼ確実に術者の想定した動きができないため、投射呪法の性質上触れただけで相手を短い間静止させることができる。
そして今まさに直哉が円李に触れようとするその瞬間、世界から色が消えて時間が引き延ばされる。
円李は目の前の男を観察する。
動きは悪くない、むしろ上から数えたほうが間違いなく早いだろう。速度も並みの術師や呪霊では歯もたたないだろう。しかしいかんせん円李と相性が悪い。
触れる寸前の手を避けて直哉の横に立つ。
「相手が悪かったな。もう絡んでくんなよ」
豪華な日本庭園にある大きな池の方をめがけて頬をぶん殴る。
流石に黒閃までしてはやりすぎだと思い呪力で強化した拳を振りぬいた。
世界に色が戻った瞬間に直哉は頭から池にダイブしたのであった。
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