鬼滅の刃-誠の花-   作:仲村 リョウ

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其の拾参:初任務へ

 最終選別から二週間が経ったある日──

 

「これが……日輪刀ですか……」

「はい。私が超丹精込めて作った日輪刀でございます」

 

 っと、ひょっとこのお面を被った三十代らしい男性が私に日輪刀を差し出してきます。

 

「申し遅れました。私、貴方の刀を打たせていただきました"滝銅仁(たきどう じん)"と申します」

「あっ、どうも……私は沖田総司と申します」

 

お互い頭を下げ合います。側から見ればまるでお見合いをしているかのような光景ですよね。

 

「ふむ……沖田総司ですか……」

「ええ……」

「──まあ、あまり深く聞かないでおきましょう。正直、あまり興味ありませんから」

「は、はぁ……」

 

お面越しなのでよくわかりませんが、ケラケラと笑ってると思います。てか、はっきりと興味ないって言われたのは初めてですね──それはそれで何か寂しいです。

 

「ではでは早速握ってみてくだされ。刀身の色が変わりますぞ」

「えっ?色が変わるんですか?」

「さあさあ。物は試しです」

「………」

「さあさあ」

 

 なんだか……せっかちな人ですね。カナエさんから聞いていた通り、刀鍛冶の人達は情熱的(変人)な方が多いと言うのは本当のようです。もう少し説明してくれたっていいのに……

 

 私は渋々と日輪刀を受け取り、柄を握り締めて鞘から刀身を抜きます。すると、切っ先から(まち)まで見慣れた色へと染まっていきます。

 

「ほほう──中々珍しい色の刀身ですなぁ……と言うか、見たことがないですねぇ。何色なんでしょう?」

「──浅葱色ですね」

「浅葱色──なるほど……貴方らしい色です」

 

てか、自分で言うのもアレですけど──私って新選組感溢れすぎでしょ!どんだけ新選組大好きなんですかって感じですよ!

 

「となると……適応した呼吸は何になるのでしょうか?」

「適応した呼吸ですか?」

「ええ。日輪刀は又の名を"色変わりの刀"とも呼ばれております。持ち主によって適性の示した色へと変化するのですよ。例えば炎であれば赤色。水であれば青色──といった感じですかな」

 

 なるほど……通りで滝銅さんが困惑される理由(ワケ)です。

 

「そうは言いましても──私、呼吸の流派は会得していませんからね……」

「なんとまあ、珍しい方がいるものだ──それよりも、貴方は確か自前の刀で鬼を殺したということを伺っていますが……」

「ええ」

「是非、その刀を見せてもらっても構いませんかな?」

 

あっ、そうですね。刀鍛冶さんなら何故私の刀で鬼を倒せたのか分かるかもしれません。

 私はそばに置いてあった加州清光を滝銅さんへと手渡します。

 

「ほほう……これはこれは……」

そう呟きながら滝銅さんは刀身を抜き、じっくりと見て回します。

 

「なかなか良い刀ですなぁ……しかも刃こぼれがした形跡など一切見られない……私がこれと同じような物を作るのに、あと何十年とかかることか──いやはや、私もまだまだだ……ですが、日輪刀ではないですねぇ。本当にこの刀で鬼の頸をとれたと?」

「はい。ある鬼は斬られた箇所が再生できないと焦っていましたけど……」

「再生できないと仰ったのですか?」

「はい」

「またまた興味深いことを……ふむ──」

 

何か考えた様子で、しばらく軽く俯いた滝銅さん──刀身を鞘へと収め、私へと返してくると……

 

「正直申し上げますが……私にもこの刀で鬼を倒せた理由が分かりません」

「そうですか……」

「──ですが、もしかしたら……里長なら何か分かるかも知れません」

「里長ですか?」

「はい。我々、刀鍛冶の里の長でございます。もし、よろしければ(おもむ)けられるよう進言致しましょうか?」

「はい。お願いしてもいいでしょうか?」

「ええ。私もかなり興味がありますからね」

 

またケラケラと笑いながらそう言う滝銅さん。変わっている方ですけど、本当に刀に対しては情熱的な人ですね。

 

「さて、私はこれでお暇いたしまょう。あまり長居しては怒られてしまいますからね」

 

滝銅さんは菅笠(すげかさ)被るとスタスタと部屋から出ていき、玄関へと歩いていきます。う〜ん……やっぱり、せっかちな人でもあるのですかね?

 

「あら、沖田ちゃん。もう終わったの?滝銅さん早歩きで帰られたのだけど……」

 

 滝銅さんが出て行って間もないと言うのに、もう蝶屋敷から出て行かれたのですか!?

 

(もう帰られたって……足が速すぎるでしょ)

 

「え、ええ──日輪刀も受け取りましたし、私の刀のことも聞きました」

「──何か分かったの?」

 

 私は静かに首を横に振ります。

 

「う〜ん……そう簡単には分からないものね」

「あっ、でも刀鍛冶の里の里長に見てもらえるよう、進言してくれるらしいですよ」

「そうなの?里長が見てくれるなら、何か分かるかもしれないわね」

 

もし分からないと言われれば、もうそういう刀だと割り切りましょう。

 

「それでそれで?沖田ちゃんの日輪刀はどんな色だったの?」

 

 ワクワクに満ち溢れたカナエさん。まるで子供のようですね。

 

 私は苦笑いを浮かべながら、日輪刀の鞘から刀身を抜いてカナエさんに見せます。

 

「わぁ……綺麗な浅葱色──沖田ちゃんらしくていいわね」

「そ、そうですかね?」

「本当……沖田さんらしくていい色です」

「あら、しのぶ。お帰りなさい」

「ただいま姉さん」

 

街に医薬品を買いに行っていたしのぶさんが帰ってきました。

 

「全く……沖田さんは本当に新選組に染まってますね。日輪刀まで浅葱色とは驚きです」

「私が一番驚いてますよ。これだと、だんだら羽織りを着ていなくも目立っちゃうかもしれないですよ」

「それは大丈夫だと思うわ。沖田ちゃんが本物の沖田総司だって信じてるのは、お館様や私達と一部の人くらいだもの」

「まあ、そうですよね──確かに日輪刀にしては珍しい色ではありますけど、刀身が浅葱色というだけでは、沖田さんが本物だって気付く人はいないでしょう」

 

確かにそうですね──目立つには目立ちますけど、現実では私は何十年前に亡くなっている人間です。今更、だんだら羽織りを着て歩いて回っても、新選組が好きな変人だと思われるだけでしょう。

 そして、何故か後世では私が男として出回っているようですし……

 

 それはそれで複雑ですけど──

 

「カーッ!!任務ジャ、オキタ!!鬼殺隊トシテノ初メテノ任務ジャー!カカー!」

「うわっ!?びっくりした〜……」

 

突然部屋の窓から私の鎹鴉が入ってくるなり、大きな声を上げます。

 

「北東ノ集落ニテ、人間ガ連日イナクナッテイル!直チニ行ケイ!」

「分かりましたから。そんなに叫ばないでください」

「アト、蝶ノ妹モ同行スルノジャ!」

「蝶の妹って……私もですか?」

「ソウジャ!直チニ行ケイ!カカー!」

 

そう吐き捨てると鎹鴉は飛び去っていきます。相変わらず騒がしい鴉ですね──

 

「……丁度いいですね」

「えっ?」

「沖田さん。すぐに支度してください」

 

しのぶさんはそう言うと、そそくさと部屋から出ていきます。

 

「どうしたのでしょう?」

「う〜ん……そうねぇ──きっと……」

 

▽▽▽

 

 しのぶさんと北東の集落へ向けて歩くこと二日ほど経ちました。北の方へと移動している事もあってか、雪も積もっており寒さも中々堪えます。歩くたびに白い息が吐き出され、呼吸を行う度に肺が凍りそうです……全集中・常中を維持させるのも苦痛ですね。

 途中、藤の家で休憩していますからマシですが……

 

「沖田さん。体調の方は大丈夫ですか?」

「はい。薬と全集中のおかげで何とか──」

「目的地までもう少しですけど、何かあれば無理せずにすぐ言ってください」

 

 先頭を歩くしのぶさんの問いかけに「はい」とだけ返して、再び無言で歩き続けます。と言うのも、あまり喋りすぎますと全集中が途切れてしまいますので、その配慮もあるのでしょう。特に私は凄く気を使われてます。だって言わずとも病弱体質なのですから──全集中を続けなければ、今みたいに長距離を短期間で歩くなんてことは出来なかったでしょう。教えてくれたカナエさんや協力してくれた皆さんには感謝しかないですね。

 

 また、しばらく歩き続け、もう少しで日が暮れる時間が近づいてきました。夜に近づくにつれ寒さが増していくのを感じます。

 

「見えましたよ。あれが報告のあった集落です」

 

山の開けた場所から少し見下ろした先には、人家が集まった場所があります。いかにも古き良き日本の光景と言った感じですねぇ……任務でなければ、ゆっくり眺めていたいのですが……

 

「まずは集落の方達に話を聞きにいきましょう」

「そうですね」

 

 情報収集はいつの世も基本ですね──

 

▽▽▽

 

-北東の集落-

 

山から集落へ降りますと、そこは宿場町としても成り立っているのか少し活気があります。背中には長い銃を背負った人達も見られます。恰好的に警察の方ではなさそうですけど……

 

「──どうする?また、捜索を出すか?」

「昨日の者らが帰ってきてないんだ。

「警察の人らに任せた方が……」

「と言っても信じるかどうか……」

「いやいや。ありえねぇだろ。絶対熊か何かに襲われたんだって」

「けどよぉ。藤森さんとこのお子さんは見たらしいぞ……異形の者」

「おっかねぇ……」

 

 やはり噂にはなっていますね……集落の人達がいなくなれば不審に思うのは当たり前です。

 

「もしもし。少しだけよろしいですか?」

「んん?」

「あらら。この辺では珍しいめんこい子だなぁ」

「あら。お世辞でも嬉しいですね」

 

 「お世辞じゃねぇよ!」と笑い声が響きます。確かにしのぶさんは超がつくほどの美人さんですからね。男性の方達が見惚れてしまうのは当然ですよ。

 

「ありゃ。そちらの子も別嬪さんだな」

「へっ?私ですか?」

「あんた以外誰がいるんかね」

「い、いやですねぇ〜……そんなこと言われても嬉しくありませんよ〜」

 

(凄く嬉しそうですね)

 

「さておき──先程のお話、聞かせてくれませんか?」

「さっきの話?ああ──異形の者のことか?」

「ええ──私達、こう見えてそういうものの専門家なんです」

「てことは、本当にいんのか?」

「それは見てみないとなんとも言えませんね──ですが、私達もそれを知るために見たと言う方達にお話を聞いて回っているんです……ぜひ情報を頂けたらとお声をかけさせて貰ったのですが」

「そうだなぁ──俺らも実際に見たわけじゃねぇからなぁ……」

「そうそう。藤森さんとこのお子さんが見たとしか聞いてねぇからなぁ……」

「その藤森さんというのは……」

「ああ──ここから五町行ったところにマタギの家があるんだ……」

 

 聞くところによると、その藤森さんという方はマタギという生業で、男の子は帰ってこなくなった父親を探しに山へと入ったらしい。いずれ継ぐ職業の為、男の子の方は父親と何度も山へ入っており、遭難する心配はないと集落の人達はその時は捜索することはなかったそうです。

 しかし、事が起き始めたのは翌日の早朝だった──男の子は血相を変えて「異形の者が出た!」と集落中を走り回っていたらしい。半信半疑だった集落の人達は、もしかしたら熊かもしれないと思い、銃の腕がある者を集って山へ入っていったとのこと──ですが、捜索に出た方達は一日経った今でも帰ってこないというのが今の現状とのことです。

 

「それで、今警察隊の人達に捜索を出そうと相談していたという事ですか……」

「ああ。熊ならマタギだけで充分だが……本当に異形の者がいるとなれば、訓練を受けた人達に頼るしかねぇって思ってな……」

 

それもそうでしょう──銃を持った生業をしてるとは言え、一般人なのは変わりありません。もし、現実では理解できない者に出逢ったら混乱するのは当然です。まともな思考が出来ないまま撃っても命を落とすのは自分達だと、この人達は分かっているんでしょう。

 

「貴重な情報をありがとうございます。では、私達は藤森さんのお家に行ってきますね」

「あぁ──なあ……あんたら専門家なんだろ?もし、異形の者が現れたらどうしたらいい?」

「そうですねぇ──まず、夜に出歩くのはやめた方がいいでしょう。遭遇しても逃げてくださいね?なにせ、銃では殺せないみたいですから」

 

そう笑顔で語るしのぶさんを見た男性の方達は顔が青ざめていきます──怖がらせすぎですよしのぶさん……

 

▽▽▽

 

「報告通り……鬼はいますね」

 

 私がそう言いますと、しのぶさんは真剣な表情で──

 

「ええ。もう日が落ちますから、藤森さんのお家に行ったらすぐに行動しましょう。あの様子ですと、警察隊に捜索を依頼するのは確実でしょうし……余計な被害は抑えたいですから」

 

先程、しのぶさんが言った通り、鬼は日輪刀で頸を斬らなければ殺せません。銃弾で頭や心臓を貫こうとも、鬼はすぐに再生する……と言うよりは、傷を負ったことすらならないでしょう。例え訓練されている警察隊の人達でも鬼と遭遇してしまえば、壊滅するのは目に見えています。

 

「そろそろ藤森さんのお宅に着くはずですが……」

『馬鹿者が!!何故お前達だけで山に入ったんだ!!』

「「!?」」

 

藤森さんのお宅らしき人家に近づいた途端、老人男性の怒鳴り声が響き渡ってきました。私としのぶさんは思わず肩をビクッと振るわせてしまいます。

 

「誰か怒られているみたいですね」

「行きましょう」

 

 私は頷きますと、しのぶさんと共に藤森さんのお宅の門を潜ります。

 

「だ、だって……」

「だってもあるか!!もし、鬼に襲われたらどうするつもりだったんだ!!」

「あの〜……そのお話。詳しく聞かせてもらえませんか?」

「何じゃお主……ら……」

 

おじいさんがこちらへ振り向くなり、青筋を収めて言葉を無くします。

 

「……まさか、鬼狩りの」

「あら。ご存知なのですか?」

「……ここでは何だ。中へ入って話そう」

 

 怒りは何処かへ行ったのか、おじいさんは藤森さんのお宅の中へと入るよう促します。

 

「お前達はそこで待っておれ。動いたら……分かっておるな──」

 

子供達は背筋を伸ばしてコクコクと黙って頷きます。彼らにとってよほど怖い方なのでしょう。

 

 中へ入りますと、案内されたのは囲炉裏がある部屋です。おじいさんはお茶を淹れてくると言いますが、しのぶさんは「大丈夫です」とだけ伝えておじいさんを引き止めます。

 

「よく来てくださった、鬼狩りの方達」

 

そう言うと、おじいさんは頭を深々と下げます。

 

「以前に会ったことがあるので?」

「ええ──わしがまだ若い時ですが、天狗のお面を被った鬼狩りの方に助けていただいたことがあります……」

 

天狗のお面……もしかして鱗滝さんの事ではないでしょうか。

 

「さておき──鬼の話ですな」

「はい。詳しく聞かせてください」

「事が起き始めたのは五日前のこと──ある家で人が食い荒らされるという悲惨な事が起こった……最初は穴持たずが襲ったのだろうと思っていたのだが……ワシは違和感を感じた」

「違和感……ですか」

「ええ。熊がやったにしては何と言いますか……」

「的確な荒れされ方をしていた……そうじゃなかったですか?」

「え、ええ……それに急所を知っているのか、心臓を貫かれた形跡がありました」

「……そうですか」

「沖田さん──」

 

最初、私が遭遇した鬼もそのような感じでした。あの時も確か、急所を貫かれたような形跡がありました──

 

「熊が荒らしたにしては荒れすぎていない事が不思議で……」

「そして、熊だと思ったマタギの方が人家を襲った者を追ったと……」

「ええ。それがこの家のマタギです。また、ワシの息子の一人……」

「──そうですか」

「頼みます!どうか、息子を……捜索に出た者を見つけてくだされ!」

 

おじいさんは土下座の勢いで深々と頭を下げて懇願してきます。

 

「──分かりました」

「ありがとうございます!鬼狩りのお方達──」

「今日は誰も山に入れないよう喚起してください──行きましょう沖田さん」

「──はい」

 

 しのぶさんが立ち上がると、私も続けて立ち上がり人家から出ます。外はもう日が落ちており、鬼が活動する時間が訪れたのです……

 

「お姉ちゃん達、今から父さんを探しにいくの?」

「ええ。そうですよ」

「俺知ってるんだ。鬼を倒してくれる人達がいるって。父さんからよく聞かされていたんだ」

「ふふっ。それならあなたはここで待っていてください。私達が必ずお父様を見つけて来ますから──」

「──!うん!」

 

男の子は笑顔でそう答えると家の中へと入っていきます。

 

「さて。ここからお仕事開始ですよ沖田さん。また誰かが山に入らないうちに、鬼を討伐しちゃいましょう」

「はい──」

 

鬼は私達が来ることを予測しているはずです。しかも、山の中だ……鬼は体力が無限にある事を考えると、奴らにとって最高の狩場に違いありません。例え弱い鬼だとしても、気を抜かいようにしないといけません……

 

「沖田さん。昨日、私が伝えた事覚えていますか?」

「はい。覚えています」

「よろしいです。鬼と遭遇した時は……よろしくお願いしますね?」

 

 そうニッコリと微笑みを浮かべるしのぶさんを見て、少し怖いと感じたことは内緒ですた

 

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