英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》   作:MOGOLOVONIO

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 ここ近日、漸く残暑が引いてきた現実世界ですが、本作世界の日本は、2031年でありながら夏の暑さは原作が投稿された2016年頃から大して悪化してはいません。そうでなければ、断熱甲を展開できる英人や宗次以外、夏季に酷暑デパフが掛かってしまうか、健康面の問題と其れによる世間の非難を招きかねない故に出撃に制限を課せられる事態になってしまうからです。
 尤も、[機械仕掛けの計画]通りに設備を整えられていた原作と異なり、迦具土神機関が待遇格差による特別感の植え付けよりも生徒の健康を優先して特高設営方針へ密かに介入したので、温度調整機器が本来石油ストーブしか無かったD組にも、3学年分全てに於いて最新のエアコンが設置されています。

 以上、作中の環境に於ける独自設定を述べてからの、エース隊vs人型CE回です。




第37.5話 混成の闘鬼と無我の一閃

 

  糸魚川原発正面ゲート前、急ぎ駆け付けた俺達第32分隊が幻想兵器を形成させて構えると、人の形をしたCEは、倒れ呻き声を上げている1-Aの少女達など気にも留めないと言わんばかりに、此方へ向かって、左腕を前に突き出した半身の体勢を取る。

 それはまるで、空手の有段者を思わせる、巌の様に静かでありながら、業火の如き荒ぶる力を秘めた構え。

 

(「拙いな……」)

 

 自身の額に冷たい汗が浮かんでいるのを感じた。

 

 正二十面体型、両刃剣型と様々なCEと槍を交えたが、死の恐怖を感じた事はあっても、常に勝機の光は見えていた。

 だが、目の前の敵は初めて、月すら照らさぬ夜の如く、勝利への道が全く見えない。

 

(「どうする……」)

 

 一手でも間違えば、一瞬でも臆せば、彼女達と同様に、血に塗れて地面に転がる事だろう。

 湧き上がる恐怖と()()を呼吸と共に飲み干すと、静かに精神を研ぎ澄まして、すり足で距離を詰めてくる人型CEの一挙一投足に、周囲を気にする余裕さえ犠牲にして全神経を集中させ__

 

「何だこれはっ!?」

 

(「__っっ!?」)

 

 原子力発電所の西側から声が発せられ、その数秒後に。

 

ドンッ!!

 

 眼前の人型CEが、地面の破裂する音と共に俺の真正面から離れた。

 目で追った行先は、先程の音源、弓を構えている射撃隊__恐らく2-Dの先輩方。

 

(「__?」)

 

 一瞬、彼等の奥側から視線が向けられた様な気がした頃には、放たれた6本の幻想の矢が人型CEとの距離を縮めており__

 

「何っ!?」

 

 人型CEが、スライディングするように身を屈めて回避しながら、射撃隊の足元まで滑り寄り、驚愕で硬直した1人の先輩に向けて、飛び上がるようなアッパーを顎に見舞った。

 

「あが……っ!」

 

 幻子装甲の完全消失を伝えるアラーム音の発生と同時に人型CEは、結晶製の腕で脳震盪に到らせたと思わしき崩れ落ちゆく敵兵には、用済みと言わんばかりに、付近の先輩へ正拳突きを放っていた。

 

「ぐはっ……!」

 

 鳩尾を打ち抜かれた彼は、くの字に折れ曲がって苦悶の声を漏らしたが、アラームが鳴っていないので装甲は残ってくれたらしい。

 __其れを察したのか、人型CEは容赦なく追撃のローキックを放って、彼の左足をへし折った。

 

「ぎゃあぁぁぁ―――っ!」

 

 幻子装甲が切れたアラーム音さえ掻き消す、痛々しい叫び声が響き渡り、先輩達の体は恐怖で竦んでしまっていた。、一方の人型CEは、凹凸が無いのっぺらぼうのまま、淡々と射撃隊を殴打して沈めている。

 

「慌てるな、皆で囲んで攻撃するんだっ!」

 

(「………?」)

 

 恐らく分隊のみならずクラスも纏め上げる立場である小隊長だろうか、がいち早く正気を取り戻し、怯える部隊へ指示を出した。

 そうして、射撃隊6名が一瞬で倒され、時間を稼ごうとした勇敢な盾役3名迄も崩れ落ちた頃には、残された28名で円状に包囲を完成させていた。

 

 ただその所為で、俺からは人の輪に遮られて、覗けはできるも人型CEに近づけない状況になってしまった。

 何より、あまり大勢で囲んでいては、味方に当たる危険があるため、長物の槍を自在に振り回せない。

 

(「駄目だ、危険だぞ此れはっ……」)

 

 2-Dの先輩達を侮るつもりはない。

 ただ、あの人型CEは数で押せば勝てるなんて、生易しい相手ではないのだ。その程度の相手であれば、幻想兵器の性能は未知数なれど、体術や共同での作戦遂行能力に長けている筈の1-Aの女子達が、ああも一方的に敗れはしない。

 

 数の力が決定的な差となるのは、個体の力量差が少ない時であり、多数側の連携が上手く取れている時だけである。

 常に集団で戦ってきたエース隊員は、連携する事自体には慣れているが、常にこちらより多数のCEを相手にしてきた以上、一体を大勢で攻める術には不慣れであろう。

 

「行くぞっ!」

 

(「……勘違いじゃない。あの先輩、俺の視線を意識している……」)

 

 その彼が正面から突撃し、それに合わせる様に人型CEの左右と背後からも、1人ずつ突進してきた。

 

 ……素人目で見れば、4人の完璧な連携が発揮されたと感じるのだろう。

 然し俺からすれば、慣れぬ行動に加え、間違って向かいの味方に武器が当たるかもしれないという不安が無意識に働いており、先程よりも個々の動きは鈍っている。

 そんな隙を容認する筈もなく、人型CEが最も早く動きだした小隊長に向けて、自ら飛び掛かっていく。

 

「喰らえっ!」

 

 人型CEの正面から、上段に構えていた剣が真っ直ぐ振り下ろされた。

 だが遅かった。人型CEは剣の切っ先よりも早く懐に潜り込み、肝臓をアッパーで突き上げる。

 

「ごはっ……!」

 

 正面から真上に浮いた彼を追い越しながら、人型CEは背中から体当たりをかます。

 それは間違いなく、八極拳の技・❛鉄山靠(てつざんこう)❜。

 

 彼がアラーム音を響かせ吹き飛んで、辛しまうもうじて意識が残っていたのか宙で身を翻し、背後から迫っていた味方を躱してその後ろの木にぶつかった。

 

「くそっ!」

 

 そんな事態に左右から迫っていた2人と、小隊長らしき先輩と衝突せずに済んだもう1人が、驚いていながらも足を止める事なく接近し、同時に突きを繰り出した。

 狙いは十中八九、CEの弱点であり、胸で赤く輝いているコアだろう__が、人型CEは伸びてきた2本の剣の腹を、両手で裏拳を放って弾き飛ばし、背中に突き刺そうとしてきた槍を脇に挟んで、槍の使い手毎その勢いを利用する様に振り回し、2人を薙ぎ払って槍の使い手も吹っ飛ばした。

 

「何だ、あれは……っ!?」

 

 気付けば、包囲している2年生も、遅れて到着してきた3年D組の先輩方も、弓月小隊長らクラスメイト達も、人型CEの一挙手一投足に見入ってしまっている。

 

 それも仕方あるまい。

 空手、ボクシング、ムエタイ、八極拳。

 人型CEは汎ゆる武術の打撃技を駆使しているのだから。それもにわか仕込みではない、全て上位の有段者並みに使いこなしている。

 人間であれば1人が1つしか修められないレベルの技を、幾つも同時に身に着けている。まるで、武術家の記憶を幾つも集め、混ぜ合わせたかの如く。

 

(「そういうカラクリか。」)

 

 ……あれは、CEが今迄に奪い集めてきた、人々の精神や記憶という巨大なプールから、武術に関する情報だけを抽出して作り上げた怪物だ。

 言わば長野県民を中心とした、200万人を超える犠牲者達の中から、選りすぐられた武の結晶。

 

(「勝てるのか?英人なら兎も角俺が……?」)

 

 再び恐怖が込み上げてくるのを感じながら、それでも人型CEの動きから一瞬たりとも目を離さない。

 |CEの脅威から皆を護る為に、更なる高みへ至る為に観察して《英人ならできたぞ、英人ならできたぞと奮い立たせて》。

 __故に、1つの習性を看破する事に成功した。

 

「うわぁぁぁ―――っ!」

 

 悲鳴の様な雄叫びを上げながら、2年生の男子がレイピアで突きかかった。

 彼の狙いも当然、CEの弱点であるコアであったが、人型は左腕の回し受けでレイピアを逸らし、返す右拳で男子の顎を打ち砕く。

 

(「矢張り、コアを囮にしている。」)

 

 CEはコアを砕かぬ限り動きを止めず、だからエース隊員はコアを狙う。然し、何処を狙うか分かっている攻撃など、目を瞑っていても避けられる。

 

 誘って相手を思うように動かし制する、それが為し得るレベルの達人級。

 だからといって、仮に手足や胴体を狙っても、簡単に当たってくれる相手ではなく、多少損傷しても生物ではないので動きは鈍らないし、時間経過で再生されてしまう。

 

(「強い……だが、戦うしかない。」)

 

 図らずも__否、恐らく自発的な献身で以て2年の先輩方が、敵の技を暴き出してくれた。

 彼らの功績を無にせぬよう、これ以上の被害を出さぬよう、包囲の輪が緩んだ所を見計らって突入し、猛威を振るう人型CEに槍を見舞う。

 

❛空壱流槍術・全方撃❜

 

 打つ、払う、突く、槍で可能な全ての攻撃を流れる様に繰り出し、去れど人型CEは最初の撃ち落としを横に避け、足元への薙ぎ払いを飛んでかわし、最後の突きも拳で払った。

 だが、避けられるのは承知の上、休まず次の技を放つ。

 

❛空壱流槍術・絶三段❜

 

 本来であれば心臓、喉、眉間という急所を狙う三連突きを、最も避け辛い腹へと穿つ。

 今迄の相手と違い、コアを狙ってこない事に少し戸惑ったのか、人型CEが大きく後方に跳躍して突きを避けながら、警戒するように再び半身の構えを取った。

 

「__みんな怪我人を連れて下がれっ!後は彼に任せるんだっ!」

 

 先程木にぶつかった先輩の指示が耳に入ってくる中、真っ直ぐ集中して人型と睨み合う。

 

(「矢張り強い……っ!」)

 

 槍を持った爺ちゃんにも劣らぬ威圧感に、手に汗が滲み槍が滑る。

 そんな俺の焦燥を煽るつもりか、人型CEはゆっくりとすり足で距離を詰めてきて、突然爆発する様に突進してきた。

 

「しっ!」

 

 予想通りの攻撃に対し、下段から掬い上げる様に突きを放つ。胴を狙った高めの突きと違い、下を潜って回避する事は不可能だ。

 よって、人型CEは地面を蹴って跳躍し、そのまま飛び回し蹴りを放ってきた。

 

 だがそれも想定内。跳躍攻撃はグルファクシス相手に散々懲りていた。

 突きの勢いに任せて屈みながら前に飛び、人型CEの蹴りを潜り抜け、着地の隙を狙って振り向きざまに槍を片手で薙ぎ払う。

 

❛空壱流槍術・柳風車❜

 

 細い腰を叩き折ろうと繰り出された殴打を、人型CEは敢えて左の脇で受け、胴体にヒビが入るのも構わず、槍の柄を左腕で挟み取る。

 

「くっ……!」

 

 咄嗟に蜻蛉切から手を離し、変換器のスイッチを3回押して一度消す。

 約1秒程度の短い動作だが、それを見逃してくれる甘い相手ではなく、武器を失った所へ素早いジャブを見舞ってくる。

 

(「隙がない……っ!」)

 

 「武装化」、その一言を叫ぶ余裕すらなく、只管攻撃を避け続ける。

 

「兄弟っ!?」

 

「駄目よっ!」

 

 外から映助と陽向の声が聞こえた時、結晶製の拳が幻子装甲に当たり、滑衝甲で消耗や衝撃を抑えたものの、人型CEは察知したのか攻撃が受け流される余地を無くすべく、更に接近し腕や脚を振り回し、点でなく面で攻撃する方針を取ってきた。

 

(「どうする、恐らく奴のスタミナは無尽蔵。このままでは此方の体力を削り取られて……!」)

 

 ……逆転の術がない訳ではない。人型CEの四肢を砕いたとしても効果は限定的だが、人間と違い急所たるコアに攻撃が届きさえすれば即座に片付く。

 ならば単純な話だ。防御本能の抑制で幻子装甲を一旦消失させ、奴が腕か脚をぶつけて来た際、装甲を再展開して固定し、挙動が止まった瞬間に貫手でコアを穿つ。それだけで勝敗は決するのだ。

 残存する体力と認識力は初陣での正十二面体型の時よりずっと余裕がある。もし幻子装甲の再展開が僅かにでも遅れて身体へ当たっても、或いは再展開による固定が間に合うも奴の攻撃の勢いで此方の身体が振れても、負けてたまるか為せば成るのだと()()()()()で耐え抜けばよい。

 そうだ、心一つ思い一つ、それだけで必勝は貫けるから、と決断し__

 

「___っ!?」

 

 視界の端に現れた存在を認知した、その驚愕の所為で、身体が硬直し、隙を晒してしまった。

 当然、好機と捉えただろう人型CEが文字通り一撃必殺になり得るラリアットを食らわせようと迫り__急に、奴の真後ろへ蹴りを放った。

 

「なっ……!?」

 

 蹴撃を受けていたのは、この場所に来て人型CEと対峙した時からずっと、まるで空気の如く存在感を消しており、正面ゲート付近からいつの間にか奴の背後に移動し接近していた音姫だった。

 

「……っ!」

 

 幻子装甲完全消失を知らせる絶え間ないアラーム音を鳴り響かせて吹き飛んでいる音姫は、左腕で防御の構えを取っていながら、骨折でもしたのか顔を苦痛に歪めており__瞬時に視線の先を彼女から人型CEへ戻す。

 身を挺して作ってくれた好機を潰す方が、彼女の思いを無にするからだ。

 

「武装化っ!」

 

 蜻蛉切を再形成しながら、無理な体勢で蹴りを放った所為で硬直していた敵を突く。

 だが流石に、急所を貫かせてはくれず、右肩を少し削っただけで、人型CEは仰け反って攻撃を躱し、そのままバク転して距離を取ってきた。

 20歩ほどの距離を空けて、再び睨み合いの構図に戻る。

 

 俺は怪我こそないが、死に至る攻撃を避け続けた分、体力と精神の消耗が激しい。

 対する人型CEは左脇と右肩に傷を負ったが、動きが鈍った様子はなく、その内修復されるのは間違いない。というか今、微細ながら修復の兆候さえ窺えてしまっている。

 

(「矢張り、コアを貫くしかないのか。」)

 

 距離を取られた所為で、幻子装甲で拘束し貫手により仕留める、という策は困難になった。

 それでも相打ち覚悟の槍技ならば、手足の2本か3本を奪うのは不可能ではない。

 だが、俺が敗れた後、四肢も頭部も奪っておかなければ、この強敵は暴れ続けるに違いない。3年生も残っている故全滅はない、と思いたいが、少なくとも壊滅的なダメージは免れない。

 仲間達も先輩方も血塗れになって倒れる、そんな未来は許されない。

 

(「此処で、突き貫くっ!」)

 

 然し、敢えて囮として晒す事で、徹底した回避と防御に守られたコアを、縦横無尽な機動力を封じれぬまま貫く手段などあるのか。

 

 答えは然り、たった1つだけ存在する。

 回避も防御も許さない、至高の一突きが。

 だが、それは外せば即死に繋がる、捨て身の一槍。

 

(「……やるか。」)

 

 爺ちゃんの姿を脳裏に浮かべて、静かに覚悟を決める。

 

 __そもそも、槍とは、突きとは、当たれば敵を屠る強力な一撃である代わりに、外せば無防備な姿を晒して命を取られる危険な攻撃。

 だが、命を賭けてでも守るべき者達(仲間)が居る、命を賭けねば到達できぬ領域(ヒカリ)がある。

 

 強く決意を固めながらも、槍を構えたまま体と心の力を抜き、己を“(から)”に近づけていく。

 

「えっ、宗次殿……?」

 

 シャロのが発した戸惑いの声が耳に届き__それが引き金になったのか?

 否、集積された武術家達の記憶が、警告を鳴らしたのだろう。

 人型CEが大地を蹴り砕き、音速に迫る速度で此方へ突進してきた。

 

 __今、俺は、静寂の世界に身を寄せている。

 

 無限に迄伸びた刹那の間に、爺ちゃん(師匠)から教えられた言葉が蘇る。

 

「__槍は、突く為にある。」

 

 棒の如く叩く事も、剣の如く払う事もできるが、其れ等は余技に過ぎない。

 

「__ただ早く、強く、鋭く、一つの突きで敵を貫く。」

 

 其れを収めれば、汎ゆる技は不要と化す。

 無の拍子ゆえ回避は不能、無の意識ゆえ予測は不能。

 ただ最短最速にて、一の字を描くように放たれる一つの突き。故にその名は__

 

❛空壱流槍術奥義・無ノ一(むのいち)

 

 

 __後に聞いた話なのだが、当時現場におり目撃していた全隊員が、数秒の間、何が起きたのか理解できていなかったという。

 曰く、凄まじい速度で突進してきた人型CEを前に、俺はただ無防備に棒立ちしている様にしか見えなかったそうで。

 そして、俺に向かって結晶体の拳が振り上げられた時__即ち、槍の間合いに入ったその時、蜻蛉切が胸のコアを貫いた光景が広がっていたらしい。

 まるで映画のフィルムを切り落とした様に、何の予備動作もなく、何の激しい音もなく、ただ静かに槍が敵を貫いていたのだと、誰もが皆、鮮明に記憶へ刻まれていたそうだ。

 

 

 __少なくとも俺の真正面では、急所を貫かれた人型CEは、何が起こったのか分からぬ様に、拳を振り上げた姿勢で固まっていた。

 そのまま、時間が停止した賀如く数秒経過し、ふと風が吹いて、人型CEが振り上げていた腕をゆっくりと下げ、腰の高さで止めた。

 まるで、健闘を称え握手を求めるように。

 

__見事だ。

 

 果たして俺は、幻聴を聞いただけなのか、CEに宿りし武術家達の記憶が残したものか、若しくはこの結晶製の猛者が発していたのか、それとて分からない。

 何れにせよ、差し出された腕に応えるべく、己の手を伸ばそうとして蜻蛉切を手放す。

 当然、槍が重力に引かれて落下し、石突が地面を叩き__其れが停まった時を動かしたとでもいうのか、真芯を貫かれたCEのコアはひび割れ、人の形をした結晶体は粉々に砕け散った。

 

 __まるで粉雪のように舞う結晶の前で、全身の力を使い果たした様な感覚に襲われて座り込んでしまった。

 

「宗次君っ!」

 

 すると陽向が此方へ駆け寄って、俺の肩を強く掴んだ。

 

「大丈夫?生きてるよねっ!?」

 

「……勝った、のか?」

 

「うん、勝ったよ。宗次君が勝ったのっ!」

 

 どうにも今迄意識を失っていたかと自問する程に、実感が湧かずに呆然とするしていたら陽向が涙を浮かべながら俺に抱きついてきた。

 そこに、他の仲間達も駆け寄ってくる。

 

「兄弟、信じとったで!」

 

「Fantastic!これが噂のゼンでありますなっ!」

 

 皆の燥いでいるらしき騒がしい声が注がれてきて、漸く現実に意識が戻ってきたので、苦笑しながら頼み込む。

 

「俺の事より、怪我人の救助を手伝ってくれ。」

 

「そ、そうでした……っ!」

 

「A組はいけ好かないけど、死なれたら気分悪いですしね~」

 

 皆は慌てて俺の元を離れ、3年の先輩方と協力して怪我人の手当を始めた。

 

「ふぅ~、お疲れ様。既に特高の先生達が此処へ救護ヘリを要請してくれたから、もう少しで到着する筈だよ。」

 

「承知しました、弓月小隊長*1。ところで第30,31分隊は何方へ?」

 

「嗚呼、聞いていなかったのか。いや人型CEの対処に専念してくれたから反省も謝罪も不要だけど、彼等には先生の承諾の上で、元の持ち場に退いてもらったんだ。あの強敵だって陽動かもしれないし、宗次君以外の面子だと撃退には大して役立てないと判断したからさ。一応向こうは今も無事だし、CEが攻めて来る事も侵入された形跡もないそうだから安心してくれ。」

 

「そうでしたか、人型CE以外を気に掛けられませんでしたが、ありがとうございます。」

 

「取り敢えず宗次君は手伝わなくていいから休憩しておいて。万が一、気の抜けた所を急襲してくる恐れに備えてさえくれたら十分だから。」

 

 その指示に頷いて答えると、弓月小隊長は第32分隊が対応している負傷者の方へ走っていく。

 

 呼吸を安定させつつそちらへ視線を向ければ、1年A組と2年D組、合わせてざっと40人以上が酷い怪我を負っている様に見えた。とはいえ、恐らくだが、命に迄関わる深刻な重傷者は居なさそうだ。

 

(「あの人型CEは、エース隊員の殺害よりも、1人でも多く無力化する事を優先して戦っていた。そのお陰でもあったのかもな。それで、原発への侵入を妨害されない位に隊員を排除したら、滞りなくゲートを越えて、といった辺りか。」)

 

 兎も角、元気一杯の仲間達や助かる見込みのある負傷者を眺めて安堵し、それから地面に散らばった結晶の欠片を見詰める。

 

(「蜻蛉切で削り取れた表面は、予想以上に小さかった。奴の身の熟しも抜群だったが、倒してきたどのCEよりも頑丈なのも一因だ。……だからその分、コアの消滅から外殻の欠片が消える迄の時間も、長いらしい。」)

 

 あまりにも強く、恐ろしい敵であったが、偉大な武術家でもあった結晶体。

 その遺骸を弔ってやろうと手を伸ばし__遮る様に、細い足が結晶の欠片を踏み砕く。

 

「これは敵よ。」

 

 俺を咎めているつもりか、音姫が左腕を赤黒く晴れ上がらせながらも、平然とした表情を作って睨んできた。

 太陽の下でありながら、月夜と同じ素顔を見せた彼女に小さく頷き返す。

 

「分かっている。」

 

 CEは全人類の敵、其れはどう足掻こうともう覆せない事実。

 仮にCEが人間と同等の知能や人格を得たとしても、共存共栄など有り得ない。

 あまりにもお互いを殺し過ぎてしまった。最早、何方かが滅びる迄戦う以外の道はないのだろう。

 

(「……英人が共存に国益を、犠牲者の恨み辛みや嘆きを跳ね除けてでも追求すべき価値を見出さぬ限り。」)

 

 実際に目の前で傷つき苦しんだ、A組の女子や先輩方の姿を見ても、絶滅闘争を否定して異種族と和解すべきだなどと吐ける程、俺は子供でも聖人でもないし、振り切ってしまえる程の必要性と覚悟が求められる様な大義も有してはいない。

 

 けれど、立ち上がって皆の元に向かいながら、一度だけ振り返る。

 言葉も交えず、ただ槍と拳をぶつけ合った、名も無い1人の強大な敵。

 

 その存在を、俺は生涯忘れる事はないだろう。

 

 

 

 

 

*1
先週の頃に、戦場で1年D組を統率する小隊長の立場を、正式に決定する事になり、立候補からの投票によって見事弓月分隊長が、教育機関に於けるクラス委員長としてだけでなく、戦闘部隊としても纏め上げる役職へ任命されたのだ。





 感想や質問に指摘等、何時でもお待ちしております。

 因みに2話前の後書きで記述した通り、今回の人型CEは原作に比べて、より堅い結晶体・滑らかな運動性・強大な出力と再生力を保有しております。恐らく原作宗次が戦えば、良くて手負いでの勝利、最悪奥義でも仕留め切れず敗死という結果に陥っていたでしょう。尤もこの差は、原作よりも宗次に対して、最近ではステルス巨大コア型の光線を真正面から受けて尚精神を奪えずに4体撃破してのけた、といった事情で長野ピラーが障害であると警戒している所為ですが。

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