Sapphire 〜ハリー・ポッターと宝石の少女〜   作:しらなぎ

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賢者の石
1 宝石の少女


 風に靡く艶やかな黒髪、光に照らされ深い海の色にも、淡い空の色にも彩を変える蒼の瞳、月光のもとで泡立つように煌めく白磁の肌。

 

 少女はまさに宝石だった。

 

 

 

*

 

 

 11歳の誕生日。今日はいつもよりもっともっと特別な日だ。シャルルは朝から上機嫌で心臓をドキドキと高鳴らせていた。

 

 目が覚めた時、枕元にあったプレゼントは母親のアナスタシアからだ。繊細なレースをあしらい、幾重にもシフォンが重ねられた真っ白なワンピースをさっそく身に纏えば、小さな天使のようだった。光の輪を輝かせた黒髪が、白い生地に眩しいほど映える。

 ふわふわした足取りで階段を降りれば、広間にはいっぱいの煌びやかなプレゼント達が。親戚達から送られたものだろう。

 

 食事は朝から豪勢だった。忙しい父親…ヨシュアも今日は食卓に並び、シャルルにキスを落とす。仕事に出る前に、ヨシュアはプレゼントをくれた。大きな箱をワクワクしながら開けると、シャルルの背丈の半分ほどもある真っ白なテディベアだった。ルビーの瞳がきらきら光っている。

「ああ、なんてことなの!ずっと欲しかったの!」

 感動でシャルルはぎゅうとテディベアを抱きしめた。ふわふわの体毛が彼女を包み込む。ダフネが自慢してきて以来、ずっと欲しいと思っていたのだ。

 

「ありがとう、お父様」

「いいんだ、おめでとう、可愛い小さな天使」

 弟のメロウからは可愛い手鏡を貰った。アナスタシアと一緒に選んだらしい。水色をメインに、水晶があしらわれた丁寧な意匠の手鏡だ。

「お姉様、おめでとう!ぼく、これが似合うと思って選んだんだ。気に入っていただけるといいけど……」

 不安そうにもじもじ言うメロウを抱きしめる。

「一目で気に入ったわ!とっても可愛いプレゼントをありがとう」

 

 さっとほっぺに朱が差した愛らしいメロウに微笑みが零れる。今年のプレゼントもとっても嬉しくて、シャルルは幸せだったが、まだ物足りなかった。今日は特別な日なのだ。

 

 そわそわとしながら本に目を落としつつ、窓辺で空を眺めていると、遠くから何かが一直線にやってくる。

 

 シャルルは飛び上がった。待ちに待った梟だ。

  梟は優雅に窓で羽を休めると、待ちきれないとばかりに頬を上気させるシャルルに嘴を寄せた。手紙を咥えている。

 半ばひったくるように受け取ったシャルルを、梟は不機嫌そうに睨んだが、シャルルは全く気付かずに手紙を見つめた。

 

「ついに来たわ!わたしもホグワーツに入学できるのね!」

  シャルルは封筒にキスする勢いで、中の手紙を読む。マクゴナガルから送られた、正真正銘の入学許可証だ。

 

「お母様!お母様!」

  いつもは上品に振る舞うシャルルが、スカートを翻して走るのを見てアナスタシアはくるりと目を丸くした後、可笑しそうに微笑んだ。愛しい娘は、どうやらそれほどまでにホグワーツの入学が嬉しいらしい。

 

「あのねっ、あのねっ、ついに来たの!ねえ、わたし早く準備に行きたいわ!」

「まあ、そんなに焦らないで。明日、ヨシュアがダイアゴン横丁に連れて行ってくれるわ」

「とっても楽しみ!ああ、早く行きたい」

 

  うっとりと瞳を煌めかせるシャルル。メロウがむすりと彼女を見上げた。

「お姉様、ぼくを置いて行ってしまうの?」

「ごめんねメロウ、でも冬休みにはきっと帰ってくるわ。きっとね」

「絶対、でしょう!お姉様はぼくと離れてさみしくは思わないの?」

「とってもさみしいわ!もちろん、そう思うに決まってるでしょう?けれどとっても楽しみな気持ちもあるの」

 浮かれた様子のシャルルには、彼の甘えにも今は心乱されてはくれないようだ。メロウはつまらなそうに肩を竦めた。

 

「お母様、わたしは当然スリザリンよね?きちんと入れるかしら?」

「もちろん入れるわ。わたしもヨシュアもスリザリンだったの。とても誇り高い、素敵な寮よ」

「わたし絶対にスリザリンに入りたいの!」

「ええ。けれど、レイブンクローも悪くないわ」

「お母様はレイブンクローの末裔の一族ですものね!でも、やっぱりスリザリンよね。おんなじ寮に入りたいもの」

 きらきらした瞳に見つめられる。アナスタシアも娘にスリザリンに入って欲しかった。

「わかっているとは思うけれど、お友達はきちんと選ぶこと。純血の名に相応しい振る舞いをすること」

「はい、お母様」

  シャルルは素直に頷いた。小さい頃から言われ続けてきた教えに染まり切っていた。あるいは、それ以上に、シャルルは純血主義者だった。

 

 アナスタシアは満足そうに自慢の娘の髪を撫でた。一束掬うと、小さな白い耳がちらりと見える。

  アナスタシアの白魚のような指を、流れるように黒い波が滑り落ちてゆく。艶やかに光り輝く、美しい髪だ。アナスタシアの銀髪とも、ヨシュアの茶髪とも違う。天使の輪を浮かべるこの黒髪はあのひとに似ているのだ。スっと筋の通った形の良い鼻や、少し上向きの薄い上唇も。

 

  アナスタシアは娘の成長を喜びながらも、憂いていた。愛らしく、美しく育つシャルル。入学すれば、もう隠し続けることはきっと出来ない。シャルルが真実を知るいつかは、きっと、そう遠くない未来だ。

 

 

 

  久しぶりの漏れ鍋にシャルルはキョロキョロと視線を彷徨わせる。今日は入学準備のために、ヨシュアとダイアゴン横丁へ赴いていた。

 趣味の悪いローブを羽織った老婆や、珍妙なマグルの格好をした魔法使いたち、小汚いパブ。雑多な雰囲気は馴染みのないものだ。あまり好きなものでもない。

 

 けれど、今日のシャルルには何だが何もかもが輝いて見えた。だから明らかにマグル生まれだろう子供がシャルルとぶつかっても、いつもならば顔を顰めただろうが、今日だけは微笑みさえ浮かべた。

 

「ご機嫌だね、お姫様」

  からかうようにヨシュアが手を差し出した。その手を取り、シャルルは気取ってどこかのマダムのように言う。

「当然ですわ。今日は大人の身嗜みのためのお買い物ですもの」

 ふたりは見つめあって同時にくすくす笑った。

 

 石畳のアーチを恭しく手を引かれくぐれば、薄暗いパブから、華やかで賑やかな魔法界だ。

 

  ふたりはまず真っ直ぐにオリバンダーの杖店へ向かった。シャルルの強い要望だ。家では、ヨシュアの先祖の杖を貸してもらって魔法の練習をしていたが、やっぱり自分ぴったりの杖が欲しかった。未成年の魔法使用はもちろん犯罪だが、「狡猾な魔法族は賢く魔法を使う」と唇の端を釣り上げ、ヨシュアが匂いを隠す魔法を部屋に張ったのだ。

  仮に見つかっても優秀かつ、法律関係の仕事に就き、顔も広いヨシュアなら、あっという間に握りつぶしてしまうだろう。

 

 オリバンダー杖専門店は古臭く埃っぽかったが、所狭しと並べられた箱や薄暗い店内が神秘的な雰囲気を醸し出していた。

 

 ついにわたしだけの杖が手に入るのね…!

 

 シャルルは胸がざわめいて落ち着かない気分になった。微かに震える手をぎゅっと握る。

「ようこそいらっしゃいました」

 店の奥から亡霊のように現れたしわがれた老人にシャルルだけでなく、ヨシュアまでもびくりと肩を微かに揺らす。

 

「これはこれは懐かしい…あなたは確かスチュアート家の長男でしたかな?」

  老人はヨシュアの暗いブラウンの癖っ毛をジロジロと眺めて呟いた。「杖は…スギの木にドラゴンの髭、忠誠心が高く馴染みやすい」

「よくお覚えで」

「覚えていますとも、そう、今まで売ったすべての杖の持ち主をね」

 

  オリバンダーはシャルルへ視線を移した。「杖腕はどちらかな?」

「右腕です」

  メジャーがシャルルの腕を測り、顔を図り、鼻のあたりまできたところで、ぱしりと手で払い不快げに顔を背けた。

 

  目をぎらぎらさせて、オリバンダー老人はシャルルをじろじろ眺めた。居心地の悪さに身じろぎし、内心で眉をひそめ、なんて不躾な方なのかしら、とシャルルはおもった。

 

「ふむ、興味深い…この子はスチュアートよりもブラックの家系の特徴が見られるが──」

  オリバンダーが続けようとした言葉を、ヨシュアの硬く冷たい声が遮った。

「Mr.オリバンダー。早く私の娘の杖を選んでもらおうか」

「ほう…?」

  眉をぴくりと上げたオリバンダーはそのまま何も言わずに奥へと下がる。

 

 シャルルは、突然厳しい顔になった父親を不思議に思いそっと見上げたが、ヨシュアはすぐにいつもの優しく悪戯気な微笑みを浮かべた。

「ではMs.スチュアート、これなどはいかがかな?スギの木に不死鳥の羽根、振りやすい」

  もしかしたらこれが自分の杖になるかもしれない…!

 手渡された杖を持ち、シャルルは少し緊張しながら手首を軽くスナップさせた。

 

 ───ガチャンッ!!

  途端にカウンターのランプが砕け、辺りに破片が散らばった。シャルルはびっくりして杖をひょっとカウンターに戻すと、恐る恐るオリバンダーを見上げる。

  しかしオリバンダーは気にした様子もなく「これは違うか…ならば…」と違う棚を調べ、また新しい杖を手渡した。

「あの…」

「気にしなくてかまいませんよ、いつものことなのでな」

 そう言いつつ、オリバンダーは杖をシャルルの手に押し付けるようにして握らせる。

 

「クリの木、ドラゴンの心臓の琴線、薬草学に最適」

  シャルルは先程の惨状を思い出し、控えめに杖を揺らした。しかし、これも駄目だった。バサバサと棚の箱が横薙ぎに払われ、彼女は眉を下げた。

 

「では次にこれを。楡の木、ドラゴンの心臓の琴線、繊細で優雅な魔法を好む」

 楡の木!シャルルは純血の魔法族が好むこの芯材を使った杖が欲しかった。期待と不安でどきどきする気持ちを抑えて、祈るように手首を振る。シャルルの期待を嘲笑うかのように杖はうんともすんとも反応を返してはくれなかった。

 

「ふむ、この杖は相性が悪いようじゃな…」

 高貴なイメージのある楡の杖がまさか自分に合わないとは…シャルルは肩を落とした。もう三本も失敗しているし、わたしに合う杖なんてもしかしたらないのかも…。

 

 胸の前でぎゅっと握られた小さな手をヨシュアがそっと包み込んだ。

「大丈夫だよ、シャルル。わたしも杖選びには随分かかったけれど、ぴったりな杖が見つかったからね」

「お父様…」

「自分の一生を預ける杖だ、じっくり探していこう。きっとお前のための素晴らしい杖が見つかるよ」

「はい!」

 シャルル沈んでいた心がヨシュアの励ましで浮上し、シャルルは頬を染めて返事をした。

 

 そうよね、オリバンダーは昔からの有名な杖店だし、きっとわたしの杖も見つかるはず…!

 それから試した杖はどれも窓を割ったり、旋風を起こしたり、箱を崩したりと良くない結果に終わったが、シャルルは不安になる度にヨシュアの励ましを思い出して前向きになるようにと努めた。

 シャルルの不安と反対にオリバンダーの顔を楽しそうに輝いていく。

「これは珍しい組み合わせじゃが…ヤマナラシの木に不死鳥の尾羽根、14インチ。決闘に最適でしなやか」

 

 白くきめ細かい杖を手にした瞬間、シャルルの体を爽やかになにかが走った感覚がした。

───これが、わたしの杖…。

 振る前からシャルルには分かった。興奮で息が詰まる。ふー…っとゆっくり深呼吸したあと、シャルルはもったいぶるように優雅に腕を振った。

 

 杖の先から光が迸る。深い海の、晴れ渡る空の、瑞々しい草木の、様々な碧の光が噴水のように湧きだしてシャルルの周りを踊った後、溶けるように消えた。

 神秘的な光景にその場にいた3人は言葉を失いただ見惚れた。

 

「…ブラボー!美しい!」

「とても綺麗な魔力だった」

 ふたりに拍手され、シャルルは照れたように笑みを浮かべる。

 でも、満更ではなかった。自分も見とれてしまうような魔力と、それを見せてくれた杖が誇らしい。

 光に照らされ白さが際立つその杖をそっと撫でると、杖が答えを返してくれた気がした。

 

 待ち望んだ自分だけの杖を手に入れたシャルルは、隠し切れない喜びを口元に浮かべ、次の店へと向かった。1人でだ。

 ヨシュアはシャルルには重い教科書や、魔法薬学で使う鍋などを買いに行っている。ダイアゴン横丁には何度も訪れたとは言え、天使のように愛らしいシャルルが、ふらふらと甘い蜜を求める蜜蜂のように誰かを誘って連れていかれてしまうのではないかと、心配で心配でたまらなかったが、シャルルがむっとして「もうこどもじゃないのよ?レディとして扱ってちょうだい」とそっぽを向けば、仕方なしに別れることを許した。

 

 とは言え、そうひとりでうろうろもさせられない。だから、時間を取られる制服を作りにシャルルを向かわせたのだ。

 マダム・マルキンの洋装店はショーウィンドウにかっちりして上品なスーツや、流行の色柄の女性用パーティドレスが飾ってあり、しっとりとした雰囲気だった。そして、それらの隣にはホグワーツの制服が置かれていた。

 

 扉を開けると鐘の音が響き、ふくよかな女性が振り向いた。

「あら、あらあらいらっしゃい。お嬢ちゃんはホグワーツ?ひとりなの?偉いわね、こちらにいらっしゃい、寸法を測りますからね」

 マダムは口を挟む間もなく話し続けるので、シャルルは口を閉じた。ショーウィンドウとは真逆の雰囲気の女性だ。馴れ馴れしく触れられることや、気品さもなく親しげに話しかけられることは初めてだったので、シャルルは少し眉を下げた。

  マダム・マルキンの10の言葉に、ええ、とか、そうね、とだけ返していると、また鐘が鳴った。店中に響き渡るその音は、マダムのようでぴったりだと内心思う。

 

 店に入ってきたのは、ワインレッドのミモレドレスに暗い紫のローブを纏った上品な女性と、手を引かれた少女だった。黒髪のボブヘアの、釣り目の女の子だ。

 マダムの話を鬱陶しそうに振り払い、黒髪の少女はシャルルの隣に並んだ。上を向いた少し丸い鼻が子犬のようだ。

「名前は何?」

 シャルルを横目で見ながら唐突に女の子がそう言った。ツンと顎を上げ、腕を組んでいる。

「シャルルよ。シャルル・スチュアート」

 この子は純血に違いないとシャルルは分かっていた。少女の来ているミニドレスはピンク色が眩しく、少女には可愛らしすぎると思ったが、光に照らされてつやつやと波打っていた。上等な絹で織られているオートクチュールだろう。

 

 シャルルが微笑むと、彼女の姓を聞いた少女も、片眉を釣り上げて、シャルルの顔をまっすぐ見た。

「パンジー・パーキンソンよ」

 少女が口元を釣り上げて、勝気そうな瞳で片手を差し出した。パーキンソンは聖28族に数えられる、純血中の純血家系だ。シャルルは目を見開いて、すぐに手を握り返した。

「あなたもホグワーツなの?」

「ええ、あなたも?」

「ええ。寮はどこに入りたいの?わたしはもちろん、スリザリンよ」

「あなたと同じ部屋になれたら素敵ね」

 

 ふたりは微笑み合った。パーキンソンは初めの態度より随分と穏やかになって、あれこれと話しかけてくれた。

「うちのパーティーに来たことないわよね?」

「ええ、あまり大きなパーティーには出たことがないの」

「どうして?」

 シャルルは肩を竦めた。

「知らないの。お母様もお父様もなんだかとっても心配性で」

「じゃあ今度うちに招待してあげるわ。お友達だけのちいさなパーティーを開いてあげる」

「ほんとうに?お誘い楽しみにしてるわ」

 

 制服を受け取ったシャルルが店を出る間際、パーキンソンが振り返って言った。

「わたしのことはパンジーでいいわよ」

「ありがとう!わたしのこともシャルルって呼んで、パンジー!また会いましょう」

「スリザリンでね」

「スリザリンで!」

 思いがけず手に入った純血の友達にシャルルは嬉しくなった。洋装店を少し進んだ先にあるアイスパーラーで腰掛け、バニラアイスを食べながらヨシュアを待つ。

 きっとヨシュアは喜んでくれるだろう。パンジーは勝気で真っ直ぐな物言いをするが、明るく溌剌としていて、話しやすかった。お喋りも楽しかったし、若い女の子の流行に詳しかった。

 

 アイスを食べ終わる頃、キャリーバッグを引いたヨシュアがやってきた。来る時は持っていなかったものだ。  

 シャルルの体に合わせた大きさで、銀とダークグリーンの色合いが上品だった。持ち手のところに銀の蛇が巻きついている。

「これは?」

 シャルルが駆け寄って、期待を隠せない様子でヨシュアを見上げた。

「入学祝いだよ。ホグワーツに行くにはたくさんの荷物を入れなければいけないだろう?気に入ったかい?」

「もちろん!とっても素敵…これ、スリザリンがモチーフでしょう?わたし、もっとスリザリンに入りたくなっちゃった」

 蛇の頭を撫でると、舌がチロチロと動いた。シャルルはこのサプライズプレゼントが大いに気に入ったのだった。

 

 

 入学までの2ヶ月間はあっという間に過ぎた。教科書を読んで、書いてあることをすべて理解するのは難しかったが、とても楽しかった。シャルルがもともと知っていたいくつかの呪文もあった。

 アナスタシアは薬草学と魔法薬学に長けていたし、ヨシュアは闇の魔術に対する防衛術と呪文学が得意だった。

 

 大人になっても規則を無視する傾向は変わらなかったため、悪い笑みを浮かべて、ヨシュアはシャルルに魔法を使わせてくれた。

 もちろん、一度で覚えることや、全ての理論や魔法を理解することは出来なかったが、1年生で習うほぼ全ての内容はおおかた頭に入った。

 シャルルのスポンジのような柔らかな脳みそが面白いくらいするすると色々なことを吸収していくのがヨシュアには面白く、誇らしかった。

 

 入学することを寂しがる、可愛い弟のメロウともきちんとシャルルは交流を測った。姉のすることはなんでも知りたがる彼に、ていねいに魔法を教えるのは、簡単ではなかったが楽しい作業だった。アナスタシアは入学前から杖を扱うことに関して歓迎的ではなく危険を感じていたが、ヨシュアはむしろ推奨していた。

 ありとあらゆる場面へ対処するために、こどもたちが理知的で好奇心旺盛、そして実践的であるのは喜ばしいと考えていた。闇の時代を生きたアナスタシアも、その考えは分からなくもなかった。なにしろ幼い頃からアナスタシアは"名前を呼んではいけないあの人"や"死喰い人"の恐ろしさについて、いっとう口を煩く教育してきていたので。

 

 その教育のおかげか、せいか、シャルルの中には"例のあの人"への畏怖、反感の他に、魔法界の在り方、純血、思想への尽きない考察、疑問、そしてアナスタシアが唾棄すべきだと考えるであろう、"例のあの人"への深い興味と一種の強烈な感情すら浮かびかけていた。

 

 シャルルにはシャルルなりの、ある意味で新しい純血思想というものが根付き始めていたのだ。

 

 

 8月にはパーキンソン家のティーパーティーにも招かれた。アナスタシアもヨシュアも聖28族との繋がりを喜び、快く送り出してくれた。

 パーキンソンの屋敷は、石造りの厳格な作りで、パンジーとも、パンジーの母とも印象が異なっていたが、裏庭にある庭園や薔薇のアーチは恐ろしく彼女たちに似合っていた。そこで、パンジーとシャルルはパーティーを抜け出して、ハウスエルフの作る特別なおやつと共にこっそりと逢瀬を楽しんだ。

 パーキンソンとスチュアートでは、やはり、大きく家柄が劣るが、シャルルはパンジーによく気に入られた。対等な物言いどころか、少し高慢な口ぶりをしても、パンジーはシャルルを許した。ふたりはよく気があった。

 パンジーもシャルルも、お互いが高貴な血と、正しい思想を持っていることを確信していた。

 

 

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