Sapphire 〜ハリー・ポッターと宝石の少女〜   作:しらなぎ

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27 赤毛の女の子

 東塔でやっと3人に追いついたシャルルは、肩で息をしながら叫んだ。

「待って……ポッター、ポッター!」

 脇目も振らず、逃げるように走っていた3人がギクリと振り返り、シャルルの顔を見て顔を強ばらせた。敵対心と怯えの滲む、どこかばつの悪そうな2人とはうらはらにポッターはただ、混乱した表情だ。

 出来るだけ彼らの動揺と敵対心を和らげるように振る舞いたかったのだが、シャルルは興奮を抑えられず、駆け寄ってポッターの手を強く握り締めた。頭の中がジンジンする。ポッターは火傷したみたいに手をひっこめようとした。

「い、一体なに!?」

「スチュアート、なんでここに……!くそっ、ハリーから手を離せ!」

「ああ、もうわたし、なんて言ったらいいか……」

 目を白黒させ、ウィーズリーとグレンジャーに視線で助けを求めている。シャルルは胸が震えた。目の前にサラザールの子孫がいる。血の特徴を持った明確な直系が……。

 母方の実家であるダスティンはたしかにロウェナ・レイブンクローの末裔だが、彼女の血は傍系に広がっていて、ダスティンは特に遺産を保持しているわけではない。限りなく薄い血が混じったというだけだ。レイブンクローの知性を重視し誇っているだけだ。

 しかし、スリザリンの血だけは目に見える形で遺産を今に遺している。

 ハリー・ポッターという英雄がスリザリンの末裔のいう、ある意味皮肉な運命に奇跡すら感じる。彼はどれだけ運命に愛されているのか。感動が襲ってきて、シャルルは途切れ途切れに喋った。

「まさかあなたが……スリザリンの……」

「僕が一体何だって?」

「ポッター、あなたはパーセルマウスだったのね……!」

「パーセルマウス……?」

 戸惑い切ったポッターに、「あーもう!」とウィーズリーが頭を掻き毟った。

「何で僕に最初に言ってくれなかったんだよ、ハリー!」

 無理やりシャルルの手を叩き落として、ウィーズリーがポッターの肩を掴む。

「何が?パーセルマウスって何なの?」

「君は蛇と話が出来るんだ!」

「そうだよ」ポッターは眉をへの字にして何でもない事のように頷く。歓喜の表情のシャルルと力ない様子のウィーズリー。

「でも二度目だよ。初めては入学する前に動物園の蛇と話したんだ。ブラジルに行ったことないって言うから、そんなつもり無かったけど僕が逃がす形になって……」

「蛇が、ブラジルに行ったことがないって話したの?」

「それがどうしたの?そんなこと出来る人、魔法界にはたくさんいるだろう?」

 仰天してシャルルは目を見開いた。首を振って必死にポッターを見つめる。そうか、彼はマグル育ちだからその力の価値を知らないのだ。

「いないわ、ポッター。その力は特別なのよ。由緒正しい血にしか宿らないの」

 ウィーズリーが嫌悪感に満ちた眼差しでシャルルを睨み付けた。「由緒正しい血だって?反吐が出そうだよ。もうウンザリだ、頼むからさっさと帰ってくれ!君はなんでハリーを追いかけて来たんだ?」

「なんでって、いてもたってもいられなくて……」

「君がどう思うか知らないけど、ハリーはスリザリンの連中が喜ぶような存在じゃない。熱心なお話は寮で素敵なお仲間としてればいいさ!」

「継承者ってこと?それは当然よ。ポッターがパーセルマウスでも継承者だとは思わないわ。……でも秘密の部屋が開かれたってことは他にも末裔がいるってこと……!?それとも記憶のないうちにサラザールの遺した何らかの干渉が子孫に、とか……?」

 ブツブツ呟き出したシャルルを不気味そうに眺め、「どういうこと?」「知らないよ。スリザリンって薄気味悪い連中ばっかりさ」と話している。シャルルは顔を上げた。

「それとも、あなたが継承者なの?もしそうなら、」

「そんなことあるもんか!」

 歯を食いしばってシャルルを睨みつける。

「わかってるわ、一応確認しただけ。あなたの今までの行動は、スリザリンとは正反対だもの。継承者だとは思ってない」

 自分を信じてくれる人がシャルルであることに、ポッターは一瞬喜びかけ、すぐに苦々しい気持ちになった。スリザリンにはドラコ・マルフォイがいる。自分を継承者だと思うはずがない。

 

 その時、ポッターはふと思いついた。シャルルはドラコ・マルフォイと仲がいい。サッとグレンジャーと視線を合わせ、考える目付きになったポッターにシャルルは首を傾げた。

「スチュアート、君はスリザリンが好きなんだろ?」

「ええ!」

 無垢な喜びを浮かべてシャルルが即答した。

「じゃあ誰が継承者か知っているんじゃないのかい?」

「ハリー!」咎めるようなグレンジャーの声が飛ぶ。シャルルの脳内はだんだん冷静になってきて、苦笑いをしてしまった。

 らしくなく興奮して、何も考えずに飛び出してきてしまった。

「残念ながら知らないわ」

 駆け引きをかなぐり捨ててシャルルは正直に答える。頭がまだぼーっとして考えるのが面倒だった。今はただスリザリンの末裔であるハリー・ポッターしか目に入らない。

「たぶん、この学校で一番それを知りたいのはわたしよ。でも手掛かりがないの。かと言って、いくらパーセルマウスとはいえあなたなわけないと思うし……」

「さっきからパーセルマウスと継承者を結びつけるのはどうして……」

 言い切る前にウィーズリーがポッターの袖を引っ張った。

「もう帰ってちょうだい、スチュアート。ハリーにかまわないで」

「……そうね。ごめんなさい、本当に高揚してて……。もう戻ることにするわ。でもポッター、わたしはあなたの味方よ。どうせ今年もトラブルに飛び込んで行くんでしょうし、なにか手伝えることがあったら言ってね」

 睨みつける3人の背中を感じながら、シャルルは地下に戻り始めた。

 

*

 

 歩いていると、興奮がどんどん落ち着いていくのを感じた。さっきまでの自分の醜態を思い出し、恥ずかしくなってくる。

 まるでグリフィンドールみたいに猪突猛進に向かっていってしまった。

 特に目的も何もなく、ただサラザール様の子孫を見つけたというだけで、彼を追いかけてしまったのだ。もう少し言いたいことを取り繕うとか、味方になれるよう動くだとか、一緒に秘密の部屋を探せるように誘導するだとか……冷静になると出来そうなことがどんどん浮かんでくるのに。

 ウィーズリーとグレンジャーの様子を見ると、2人はパーセルマウスの価値を知っているんだろう。ポッターを心配するあまり過敏になっているところに、純血主義の寮生が飛び込んで行くなんて最大限警戒させてしまったに違いない。

 ウィーズリーの敵愾心に満ちた態度を思い返せばしばらく軟化は無理そうだ。

 サラザール様の子孫なら、秘密の部屋を見つけられるかもしれないのに……。

 

 シャルルは恥じて、後悔した。

 ただの一生徒であるシャルルが部屋や遺産を見つけられるとは到底思わないので、今までのように継承者の動向を見守り、あわよくば特定するしかない。

 

 それにしても……。

 ポッターじゃないのなら、やはりホグワーツには他にスリザリンの末裔がいるのだろうか。サラザール様の遺志を継ぐ継承者と、その思想と正反対の生き様を見せる生き残った英雄。対照的な末裔たちがいると思うと、シャルルの胸はロマンに甘く痺れた。

 ああ、伝説に立ち会えているんだから、どうせなら特等席で見たいのに!

 もどかしくてもどかしくて狂おしいほどだった。

 

 談話室は案の定ポッターの話題でいっぱいだった。当然ではあるが、どうしても彼がパーセルマウスであることを認め難い人が多いらしく、真偽の程やら家系図やら噂話が飛び交っている。

「あっシャルル!戻って来たのね。ポッターなんか追い掛けて……」

「だって、気持ち分かるでしょう?」

「分かんないわよ」

「シャルルほどの創設者フリークはいないものね。でも、ちょっと目立っちゃったかも」

 言いづらそうにダフネが言った。

「あんな場面でポッターを追いかけたら、継承者の味方みたいに見られちゃうわ。現に色々言われてるのも聞こえてきたし……」

 たしかにそうだ。言われて気付いた。あの時は何も考えてなかった。保守的なレイシストの集まるスリザリンの中で、わたしは他寮生からリベラルでフェアな珍しい生徒だという立ち位置を獲得していたから、ポッターが継承者だと確定的な場面で追いかけるのは得策ではなかった。

 後から冷静には考えられるんだけど。

「まあ、仕方ないわ。しばらくは言わせておくことにする」

「いいの?」

「今までの下地もあるし、信頼を取り戻すのはいずれ出来るわ」

「ならいいけど……。それで、ポッターの様子は?」

「彼は自分がスリザリンの末裔であることを知らないばかりか、パーセルマウスについても知らなかったわ。でも蛇と話すのは初めてじゃないんですって。ポッター家で今までパーセルマウスがいたという話は聞かないから、ブラック家とかほかの純血家系からの隔世遺伝か、母親が本当はマグル生まれじゃないとか考えられる可能性は色々……」

「有り得ない!」

 ドラコが苛立ちを吐き捨てて遮った。

「ポッターがスリザリンの末裔?継承者?何もかも有り得ないことばかり……!何かの間違いだ!」

 憤慨して、綺麗に整えられた前髪を感情のまま掴むので、ほつれて前髪が数束垂れている。スリザリンでは概ね継承者はポッターではないということで意見が一致していたが、パーセルマウスを話せることで揺らぎ始めてもいる。それがさらにドラコの苛立ちを加速させていた。

 

「どこかでスリザリンの血が混じった可能性はあるわ。サラザール様は1000年も前の人なんだもの」

「だからってこうも都合よくポッターに発現するなんてことがあるか!?ブラックやマルフォイ、他の由緒正しい家系を差し置いてだぞ!?」

 血の上った顔でドラコが噛み付いた。肩を竦める。

「そんなこと言われても、あなたが目の前で見たことが事実だわ」

「……君、まさか」訝るような目付きでドラコはシャルルを眺めた。「継承者は別にいると思うけど、ポッターがパーセルマウスだと分かった以上、わたしは彼を最大限尊重するつもりよ」

 ドラコは顔を歪ませて赤ら顔でシャルルを睨んだが、何を言っても響かないであろうことはわかっていた。「Shit!」と叫んでソファを思い切り蹴ると、足を踏み鳴らして寝室に消えた。

 

*

 

 ベッドの上は衣装が散乱していた。フリルやレースが使われた少女趣味のワンピース、ピンクのネグリジェ、片方だけなくした靴下、古くなったローブ。イライラしながら畳んでいたパンジーはとうとう持っていたシャツを投げ捨てて「あーもう!」と唸り声を上げた。

「なんでホグワーツにはしもべ妖精がいないの!?」

「いるわよ、厨房に」

「そうなの!?」ガバッと身体を起き上がらせる。

「ここに呼びつけられないの?」

「さぁ。屋敷によってルールは違うから分からないわ。厨房の場所もまだ知らないし」

「しもべ妖精に会いにわざわざ足を運ぶなんてナンセンスよ。手を叩いたら来ないのかしら」

 うちじゃそうするんだけど、と3度拍手したが何も起きない。「ハウスエルフ、来なさい」やっぱり何も起きない。シャルルもとっくに試してみたが効果はなかった。ホグワーツのハウスエルフの仕事はホグワーツの維持や下働きのはずだから、生徒のパシリは届かないようになっているんじゃないだろうか。彼らが呼ばれていることを知りながら、それを無視するなんて有り得ないことだから。

 

「片付けを自分でさせられるなんて」

 パンジーはブツブツ文句を口にしつつ、仕方なくまた畳み始めた。マグル式のやり方で。シャルルは苦笑を浮かべて杖を振った。みるみるうちにベッドの衣服たちは宙に浮かんで、ピッシリと折り目をつけて小さくなり、トランクに規則正しく吸い込まれていく。

「助かったわ、シャルル!終わらなくてウンザリだったのよ。さすがだわ」

 調子の良い賞賛もパンジーからなら悪くは無い。シャルルのベッドに腰を下ろして、シャルルに身体を寄せた。甘える彼女にくすぐったくなってクスクス笑う。

「どうしたの?甘えんぼさんの気分なの?」

「そうよ、しばらく会えなくなるから。プレゼント贈るわ」

「楽しみにしてる。手紙も待ってるわね」

「もちろん!ドラコの様子も教えてちょうだいね。あーあ、羨ましいわ、スリザリンで2人っきりで休みを過ごすなんて……」

 何でもない風を装っているが、パンジーの口調には嫉妬が滲んでいた。でも刺々しくはない。彼女が言ったように、ただ羨ましいんだろう。

「クラッブもゴイルもいるわ。先輩も数人」

「ほぼ2人っきりよ」唇を尖らせる。ほっぺたをつつくと嫌そうな顔をされて声を出して笑った。パンジーも本気で言っているわけじゃないと分かっていた。

「休みは何するつもり?遊びにもパーティーにも行けないでしょ?」

「図書室通いかしら」

「ちょっと、休みまで勉強漬け!?信じられない!手紙には課題のことなんか書かないでちょうだいよ」

「あら、わたしにとっては知識は冒険みたいなものなのよ。それにせっかくホグワーツにいるし、秘密の部屋を探してみるつもり」

「まあ!」

 パンジーは瞳を輝かせる。シャルルは苦笑しながら肩を竦めた。「と言っても、手がかりは何もないからただホグワーツの探索になるけれどね。それに教授方も休暇に入るから……」

 悪戯っぽい輝きを乗せてシャルルの目が細まる。パンジーはシャルルが何かしようとしているのは気付いたが、何を含んでいるか分からず首を捻った。

「監督生もいない、教授も休暇……。ふふっ、仮に夜間に出歩いても寮杯に影響が出る可能性は低いってこと」

「なるほど!あなたったら品行方正かと思えば1人でそんな楽しそうなことするつもりなのね?」

 

 人が来ない教室のいくつかは見つけてはいるが、どれも地下回廊にあるものだし、陰気で薄暗く、スネイプのホームに近いから人が来ないというだけだ。もっと闇の魔術の練習に便利な場所を確保したい。

 

 パンジーの準備が終わり、イル・テローゼもマグルの世界に戻るようだが、ターニャ・レイジーはいつまで経っても片付けを始める様子がなかった。

「あなたも残るの?」

 ベッドカーテンを薄く開いて本を読んでいるレイジーは無反応だ。シャルルは繰り返した。

「レイジー、あなたも残るの?」

 座ったまま飛び跳ねて、レイジーは驚いたように「は、はい」と答えた。相変わらず覇気のない顔つきと存在感の薄さだった。

 シャルルは「友人」と話している時、なにか命令する形でしかレイジーに話しかけない。雑談もほぼ振られたことが無い。だからレイジーは肩を強ばらせて恐る恐る言葉を待っていた。

 せっかく一人部屋になる予定だったのに、レイジーが残ると怒られるだろうか……。もし邪魔なら体調不良だと偽って医務室で泊まるか、談話室で寝静まったあとに部屋を戻ろうかと考えた。

「マグルの親のところには戻らないの?」

 内心はともかく、口調に嫌悪感や侮蔑の色は混じっていない。目を落とし、手に力を軽く込めて「は、はい……」と答えると気のない声で「ふぅん」と流して、あとは興味を失った。

 休みの間はメイドの立場から解放され、優越感を感じる相手もいなくなるというのに物好きなのね。シャルルは心の中で呟く。

 

*

 

 ホグワーツは静まり返っていた。生徒たちの中身のない喋り声やくだらない諍い、廊下を走る音。日常の音が消えた1000年の歴史がある城は、しんしんと降り積もる雪のように厳粛な静謐さを醸し出している。

 課題と参考書を抱えて中央棟を歩いていると、誰かの笑い声が聞こえた。回廊から中庭が見える。ポッターとウィーズリー達が無邪気に雪をこねくり回してぶつけ合っている。

 ああいう遊び方をシャルルはしたことがない。

「幼稚だな」

 ドラコがせせら笑った。「そうね。いつまでも無邪気な心を忘れない方たちだこと」

 彼らに対しても、あの遊び方に対しても思うところはなかったから、隣に立つドラコの望む言葉を返した。彼は嬉しそうにまばたきした。

 

 休暇が始まった1日目から課題に取り掛かることに、ドラコは「正気か?」という表情をしたが、彼も暇らしく一緒に図書室に向かっていた。ホグワーツをまるで自分の城のように胸を張って歩くドラコと、まるで自分たちの庭のようにはしゃぐ彼らは似た者同士だ。

 

 哀れなハッフルパフ生と哀れなゴーストが出てから、ポッターの継承者疑惑は確信をもって囁かれるようになった。パニックになる生徒も出始め、精神的な負担で医務室通いをする生徒も少なくないくらいだった。

 そんな状況で残る生徒がいるはずがない。レイジーは恐ろしくないのだろうか。スリザリンからの被害者はいないが、スリザリンに穢れた血を引く魔女がいることを継承者が歓迎するはずがない。

 わたしとドラコは過程は違うが、結論は同じくしている。

 ポッターは継承者ではない。

 誇り高き継承者がポッターのような穢れた存在であるはずがないというのが彼の主張で、それは同意できた。

 わたしは彼の人間性から、犯行のような残酷で理知的な真似は出来ないと考えていた。

 話していても分かる。穢れた血や血を裏切る者を隠れ蓑に、継承者として粛清できるほど彼は狡猾じゃない。

 

 数時間も机に向き合っていると、ドラコの口数が多くなり始めた。

 話すことは大体同じだ。ポッターのこと。ウィーズリーのこと。穢れた血のこと。父上のこと。最初はまともに返事を返していたけれど、シャルルは本来勉強や本を読む時間を邪魔されるのが好きではない。口数が減り、上げていた顔を下ろし、止めていた手を動かしながら杜撰な返事をしてもドラコは気にしなかった。

 愚鈍な人間を毎日相手にしているからだろう。

 話題は狭いが、ドラコの豊富な語彙力だけはシャルルも感心するほど、あれこれ言い方を変えてポッターをなじった。シャルルはセオドールと過ごす時間が恋しくなった。

 

 窓からオレンジ色の光が射し込んで、日が暮れていることに気付く。「もうこんな時間なのね」5年生の呪文集から目を上げて腰を伸ばすと、「やっと気付いたか、シャルル」と退屈そうな声がした。

 羽根ペンを手の中でくるくる弄びながら、気だるげにドラコが肘をついていた。シャルルは危うく「まだいたの」と言いそうになった。

「今日の分はもう終えただろう。夕食に行こう」

 ありがたい誘いではあるが、シャルルは首を振った。「もう少しキリのいいところまでやっていくわ」

「まだやるのか!?本の虫め……。大体課題じゃないだろ?それ」

「ええ。予習よ」

「3年分の予習かい?」

 鼻を鳴らして「付き合ってられないな」と立ち上がる。「先に戻る。夕食を逃しても知らないからな」

 一応忠告してくれるあたり、彼は意外と優しい。

 

 ドラコを見送ってまた本に没頭し始めたシャルルが次に顔を上げたのは、日もすっかり暮れた後だった。体温調節機能があるローブを着ているとは言え、手先がすっかり冷たくなっている。

 忠告は無駄になってしまった。

 意識すると空腹感が軽く襲ってくる。厨房の場所はまだ見つけられていない。ハッフルパフで受け継がれていることは知っているが、彼らは人に教えたくないようだった。シャルルがそれとなく尋ねると、困ったような曖昧な笑みを浮かべるばかりで、やんわりと線を引かれてしまう。

 

 廊下を歩いていると、曲がり角から突然女の子が飛び出して来た。衝撃と共に本や羊皮紙が散らばった。

「ご、ごめんなさい」

 羊皮紙にゆっくりと雪が染みて行った。慌てて荷物を拾う女の子には見覚えがあった。

「大丈夫よ、ジニー」

 驚いて顔を上げたジニー・ウィーズリーはシャルルを見て小さく「あっ」と言った。

「ええと、パーシーの友達の……」

「シャルル・スチュアートよ。シャルルでいいわ。外に行ってたの?」

 しゃがみこんで一緒に荷物を拾い、ジニーの靴についた大量の雪を見て尋ねると、彼女は怯えたように顔を青ざめさせた。

 前も具合が悪そうだった。体調が悪いのだろうか。それとも、指摘されたくなかったのだろうか。

「顔色が悪いわ、医務室に……」

「だ、大丈夫。ありがとう。それからごめんなさい、ちゃんと前を見てなかったから」

「いいのよ」

「でも課題が……」

「このくらい乾かせば平気よ」

 優しく微笑むと僅かにほっとしたようだった。

「休みだけど、あんまり暗い時間に外にいるとフィルチが生き生き駆けつけて来ちゃうわよ」

 冗談めかして先輩らしいことを添えてジニーと別れる。ウィーズリーにしてはどこか怯えた雰囲気が特徴的な女の子だった。

 ジニーの靴についた雪に、泥と、赤いものがついていた気がするのは気のせいなのだろうか。少しの間背中に彼女の視線を感じていた。

 

 

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