Sapphire 〜ハリー・ポッターと宝石の少女〜   作:しらなぎ

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31 50年前の日記帳

 窓の近くに寄ると、忍び寄るような冷たい空気がたゆたっている。揺れる湖の波紋を見上げると、細い銀色の月光が蜘蛛の糸のように垂れている。

「もうすぐだわ」

 シャルルは嬉しそうに呟いた。

「お茶会の準備を整えますね」

「手伝うわ」

 ターニャに近付くと、困ったように身を捩り固辞する。

「あの、お気持ちは嬉しいですけど……スチュアートさんに」

「シャルルよ」

「あ、と、シャルルさんにそんなことはさせられません……」

「そう?」

 

 シャルルはターニャのことを同情すべき魔女だと思っていたし、マグル育ちのハーフマグルだけど彼女は純血の重みをよく分かっているから、ある程度対等に扱うつもりでいたけれど、シャルルに尊重されるとターニャはむしろ不安になるようだった。

 取り巻きでいたいならそう扱うのがいいだろう。

「お菓子はパンジーとダフネとトレイシーが持ち帰るものでいいわ」

「かしこまりました」

「そう言えばトレイシーって……」

 

 クリスマスに見た彼女のことを思い出した。

 家の用事でなにやら戻ってきたらしいけど、気付いたら何も言わずに帰っていたし、手紙にも「何のこと?」ととぼけた返事が書かれていた。

 隠したいならそのままにしておいてもいいが、様子がおかしかったように思う。

 

「シャルル!久しぶりね!」

 帰ってきたパンジーとハグを交わす。

「おかえりなさい」

「ただいま」

 二人ともそう挨拶をすることに少し擽ったくなって笑った。ホグワーツは第二の家だった。

「今日は編み込みなの?わたしが送ったバレッタを付けてるのね。似合ってるわ」

「そうでしょう?パンジーのセンスだもの」

「当然よ」

 そう褒めると、パンジーはちょんと唇を尖らせて澄まし顔をしてみせた。

 

 荷物を持ってイル・テローゼが入ってきた。

 久しぶりに見ると、相変わらずハッとさせられるほど美しい少女だった。髪の毛の一本一本が発光しているように金に輝き、紫の瞳は瑞々しい葡萄畑みたいに香り高く意志の強さを浮かべている。音が出そうなほど長いゴールドの睫毛は、彼女の血の卑しさを見る者から忘却させる魔性を纏う。

 この年でこれほどの美しさと凛々しさを持つ彼女が、スリザリンで蛇蝎のごとく嫌われているのは他寮生からは驚愕と根も葉もない噂を引き起こしていた。

 ホグワーツに来てからずっとムッツリ引き結んだ唇や、不機嫌そうに眉を寄せた表情で、張り詰めた孤高の雰囲気を醸し出していたが、帰ってきたテローゼは、顔は僅かに強ばっているがリラックスした様子に見えた。

 

 シャルルはテローゼへの態度を決めかねていた。

 小生意気で、不遜で、身の程を弁えずにシャルルの譲歩を突っぱねたテローゼに苛立っていたが、休みを挟んで彼女への苛立ちは霧散していた。

 彼女はシャルルの視線に気付いていただろうが、素知らぬフリして自分のベッドに向かった。その瞬間シャルルは声をかけた。

「ごきげんよう、テローゼ」

 不審げに、嫌そうな顔をして渋々と言った感じを隠さずもせずに、テローゼがシャルルを見下ろした。

「ええ」

 シャルルはニッコリした。

 呆れた顔のパンジーが、話にならないわというように目を回して見せた。

「シャルル?もうあの子を許すの?」

「許すも何も、彼女と取引したのは事実よ」

「あいつは勉強会にも出てないじゃない」

「回数は取引内容に入れてなかったから仕方ないわ」

「はぁ……。ま、あなたに言ったって聞かないものね」

 パンジーはとっくに諦めていた。シャルルは頑固だし、よく分からないマイルールを持っている。でもパンジーはテローゼの無礼な態度を許すつもりは無いから、ギッと巨大な目でしっかり睨んでおく。テローゼは肩を竦めてベッドのカーテンをシャッと閉じた。

 

「クリスマス休暇はどうだった?」

「今年はドラコのお屋敷に行けなかったから退屈だったわ。親戚に会いにベルギーに行ったけど、寒かったからあんまり観光も出来なかったのよ」

「ベルギー!素敵ね。わたし、国外には行ったことがないの」

「そうなの?」

 パンジーが驚く。

「ええ、昔っから行くのはダフネの家か、ダスティンの本家か、お爺様たちの別邸か、ホグズミードやダイアゴン横丁だけよ」

「ご両親過保護よねぇ。でも来年にはホグズミードが許可されるし、緩くなるんじゃない?」

「そうだといいけど」

 ソファに座った二人にターニャがスッと熱々の紅茶を給仕する。シャルルはターニャの陰鬱そうな顔に微笑んだ。

「ありがとう」

 彼女は困ったように眉を下げて小さくうなずいた。

 

 彼女が下がると、いよいよパンジーは不気味そうだった。

「どうしたのよ?またキャンペーン週間?」

「そんな言い方はよして」

 シャルルは拗ねたような幼い声で言った。ほっぺたがふくらんでいるのを、パンジーがツンツンつつく。

 シャルルの変わったマイルールによって、ターニャを侍らせたり、テローゼにかまってみたり、グリフィンドールの連中やハッフルパフの落ちこぼれに近付いてみたりする悪癖を、ドラコは「慈善事業」だとか「博愛主義」とか言うし、パンジーは「ボランティアキャンペーン」だとか言うのだ。

 

 でも去年の喧嘩を経て、パンジーはもう諦めて、怒りもせず呆れるだけで放っておいてくれる。たまにチクチクちょっかいをかけてくるだけだ。

 変わった考え方がシャルルのスタンスだと尊重してくれる。

 

 わざとらしく怒った顔をして見せるシャルルに、パンジーが「今更だけどね」と肩を竦めてみせた。

「もう何も言わないけど、何かあったわけ?レイジーに全然興味なかったでしょ?」

「うーん……」

 ターニャのプライベートな傷だから、シャルルはできるだけぼやかして言った。

「考えが変わったの。ターニャを可哀想だと思ったのよ」

「可哀想?あの子が?」

「クリスマスに残ってたからちょっとマグルの話を聞いたんだけど、マグルっておぞましい生き物よ。そんな世界に戻りたくなかったんですって」

「ふぅん……?」

 パンジーは振り返らどうでもよさそうに、俯くターニャを眺めた。

「ターニャはマグル混じりだけど、マグルを嫌ってるわ。きちんとわたしたちに対しても礼儀を持って接してくれるし、思想自体はわたしと変わらない。だから優しくしようと思ったの」

「物好きね」

 パンジーが紅茶を啜った。「でもマグルが嫌いなところは評価してあげてもいいわね」

「でしょ?」

 シャルルは顔を喜びで綻ばせた。彼女の扱い方をパンジーも分かってきている。ハーフマグルなんかどうでもいいけど、とりあえずてきとうに同意しておけばシャルルは喜ぶのだ。

 

 

 夕食のあと、ダフネがシャルルに寄ってきた。

「ただいまシャルル」

「ダフネおかえり!ねぇ……」

 シャルルはダフネに会いたかった。ローブの袖を掴んで廊下の端っこに引っ張っていく。なんの用事かピンと来ているようだった。

「ねぇ、あの……」

「わかってるわ。とりあえず戻らない?」

「そうね……」

 そわそわするシャルルに苦笑し、「そこまで怒ってなかったわよ」とダフネが教えてやると「ほんとう!?」とパッと睫毛から光が舞った。しかしすぐシュン……と子犬のような顔をした。

「でも、お父様からクリスマスを祝ってもらえなかったのよ」

「実はヨシュアから手紙を受け取ったの」

「ダフネに?ごめんね、手間をかけて……」

「いいけど早く仲直りしなさいね?二人ともすごく心配してたわ。秘密の部屋に関わっていないかとか、余計なことに首を突っ込んでいないかとか……」

「信用ないわね。わたしずっといい子だったのに」

「あなたのサラザール信仰は誰より二人が知ってるでしょ」

 まぁ実際、シャルルは関わる気しかなかった。ただ見つからなかっただけだ。校内探索で色々深夜徘徊してみたけど、隠し部屋とか隠し通路とかをいくつか見つけただけで、継承者に繋がるようなものはなかった。継承者もクリスマス休暇だったのだろうか。

 

「両親やメロウはどんな様子だった?手紙はやり取りしてたけど……」

「お元気だったわ。メロウはしょぼくれてたけどね。ダフネと会えて嬉しいけど、お姉様に会いたかったなんて可愛らしいこと言って……。あんまりあの子を寂しがらせるならわたしの弟にしちゃうわよ」

「ダメよ。アスティを妹にするわよ」

「交換する?最近生意気になってきて」

「あっ、そんなこと言うなんてひどいお姉様ね」

「お互いさまよ」

 ダフネが手のひらで口元を隠してケンケン吹き出した。シャルルも笑う。良かった。お父様が怒っていないと聞いて、ジワ~ッと全身に安堵が広がっていった。

 秘密主義なヨシュアにシャルルも意地になっていたので絶対折れてやるもんかと思って勝手に残ったけど、それが心配しているからだとちゃんと分かっている。

 それなのにクリスマスに初めてヨシュアからカードも何も無くて、素知らぬ態度を装っていたが、シャルルは内心「どうしよう」「かつてないほどに怒らせてしまったわ」「でもお父様だってひどいじゃないの」「なんにも教えてくれないんだもの。何も出来ない赤ちゃんみたいに」「でもクリスマスにお祝いしてくれないなんて……」と焦ったり怒ったり悲しんだりしていたのだった。

 

「これ」

 手紙と小包を渡される。プレゼントもあったのか。シャルルはダフネのベッドにぼふんと飛び込んで、足をブラブラさせながら包装をといた。

 杖ホルダーだった。腕にも足にもつけられるような仕様になっている。

 手紙はチクチクお小言は書かれていたし、あんまり好奇心を働かせるんじゃない、みたいなことを言い方を変えて繰り返し書かれていたが、心配していることや愛していることを強調してある。

 シャルルはホッと息をついた。

 杖ホルダーにはヨシュアが盾の呪文を掛けているらしい。

 

「これにもかかってるのに……」

 呆れるような、くすぐったいような吐息を零し、首元にかけてあるネックレスを取り出した。水晶のネックレス。透き通る水晶の中で銀色の液体のようなものが絶えず形を変えて揺らめいている。これにも盾の呪文が掛かっているというから、シャルルは制服の下にいつもこれを下げていた。

 幸い、必要になる事態は起きていない。

「答え……」

 シャルルは呟いた。必要な時っていつなんだろう。ヨシュアは意味深だ。

 

 

 

 ホグワーツ生なら、1年半も学校に通っていればたいてい自分のお気に入りの場所を見つけている。ブレーズ・ザビニと取り巻きが集まるのは、談話室の本棚近くの広めのソファ席か、ジェシカの部屋だった。

 魔法史教室にほど近い2階の廊下には紫髪のファンキーな女性の絵がある。ザビニと2人でお茶会をする時は薬草学クラブの温室や花畑の見える塔が多かったが、シャルルが「あなたと話したいの」ではなく、「あなた達と過ごしたいの」というと、眉を上げてシャルルをここに連れてきた。

 

「あら、いらっしゃい。キザな蛇ちゃん。お元気?私の歌でも聞きたいかしら?」

「やぁ、今日も素敵だねジェシカ」

 ザビニは絵にすら紳士的なのかと少し驚く。彼女の出身寮も血筋も定かではないのに。ジェシカというのは芸名だ。生前彼女は魔法界で有名なアーティスト女優だった。

「あなたの排気ガスみたいな髪も素敵よ」

「排気ガス?」ジェシカは答えずシャルルにも逆さまになりながら笑いかけた。「クラゲの女の子もキュートね」

「ジェシカ、君の休憩室に案内してくれないか?手土産も持ってきたよ」

 ザビニがローブから小瓶を取り出した。中には潰れたカエルが何匹も重なっていた。

「素敵!」

 ジェシカが歓声を上げると、絵からドアノブが飛び出てきた。ザビニは扉を開いて目を丸くするシャルルに「どうぞ?」と眉を得意げに上げてエスコートした。

 

 絵の裏にはカラフルな空間が広がっていた。寮の寝室の半分くらいの大きさだ。カーブを描いた大きなソファには緑と紫のマルチカバーが掛けられ、丸いローテーブルが置かれている。奥の壁には茶色の本棚があり、書籍やぬいぐるみ、小さな観葉植物、人形やティーセットなどが所狭しと飾られている。スペイン風の刺繍の丸椅子もいくつか点々と並んでいる。

 少し錆びたゴールドのシャンデリアがレトロな雰囲気を醸し出していた。

 全体的に目に痛い配色で、ごちゃごちゃしているが不思議と纏まっていて居心地が良さそうだった。

 でもザビニや、スリザリン生の趣味ではない気がする。温かみがあるが上品とは程遠い。

 

「ここは?」

「ジェシカの部屋だよ」

 彼が説明にもなっていないことを端的に答えた。

 部屋の中にはミリセント・ブルストロードやサリーアン・パークス、ゾー・アクリントン、エゴン・フォスターが既に思い思いにゆったりと過ごしていたが、シャルルを見ると全員腰を浮かしかけた。ザビニ派は他にも何人かいる。同学年の派閥の中ではザビニ派がいちばん多かった。

 

 ソファのひとつを一人で優雅に使っていたブルストロードを寄せて、ザビニがシャルルを座らせる。

「な、んでスチュアートがここに?」

「お話してみたかったの。突然来てごめんなさいね。交ぜていただいてもかまわないかしら?」

 ブルストロードは渋い顔で「ザビニが誘ったならいいんじゃないの」とぶっきらぼうに言う。

 

「こんな部屋があったなんて知らなかった」

「なかなか悪くないだろ?少しうるさいけどね。でもここには誰も来ないよ」

「誰から教わったの?」

「母さ。母さんは性別も生死も関係なく愛されるのが上手い」

「あなたのようにね」

 ザビニの母親を見たことは無いが、母親譲りだろうと思わせる形の良いセクシーな唇を片方だけ吊り上げて、満足そうにシャルルを横目で見つめる。彼はスリザリンで成り上がりだと陰でバカにされているが、シャルルの手助けなど必要のないくらい、ひとりで自分の利益を確立している。

 シャルルに出来ることと言えば、対外的に「高貴な子女」がザビニを「認めている」というパフォーマンスをするくらいだ。

 

 シャルルは杖を振って棚から人数分のお皿を取り出した。

「これ、お母様から送られてきたフェアリーケーキよ。ブルストロードは甘いものはお好き?」

 彼女は面食らい、笑みを浮かべてお菓子を差し出してくるシャルルから居心地悪そうにひとつつまんだ。

「……いただくわ」

「プレーンにチョコチップとレモンメレンゲ、ストロベリークリーム、バニラとレーズンがあるわ」

「……ありがとう」

 勉強会でくらいしか話すことがないのでパークスは鷹のような目でシャルルを探っている。

「アンダーソンは今日はいないのね。いつも一緒でしょう?」

「さぁ。後から来るかもしれないけど」

 肩を竦めて気だるげにパークスは答えた。レモンメレンゲ味を一口食べ、紅茶を飲んで「美味しいわ」と呟いた。

 

 全員がシャルルの一挙一動に注目し、居心地が悪そうだった。変わらないのはシャルルと、彼女を連れてきたザビニだけだ。

 1点の曇りもない宝石のような高慢なシャルルは、周囲の空気にもちろん気付いていたが、だからといってそれに萎縮したり、自分が帰ろうと思うことはない。なぜなら周囲の人間がそれに合わせるのが当然だからである。

 ザビニと関わるうちに、他人の機微に合わせて気を遣うことを、ひとつの思考回路として覚えたくらいだ。相手に合わせて会話回しをする基本的な社交術はまだまだものに出来ているとは言えない。シャルルは人に関わる機会が少ないし、パンジーやダフネは自分のしたいこと、話したいこと、好きなことを話していればそれだけで人と繋がることが出来た。

 だから今もパークスとブルストロードが、シャルルに水を向けていた。

「スチュアートはクリスマス残ったんでしょう?休暇中のホグワーツはどうだった?」

「人が少なくて快適だったわ。先生方も緩くなっていて、ちょっとした時間破りくらいならお目こぼししてくれるのよ。それに巡回も減ってて、深夜に出歩いても見つからなかったの」

「夜に歩き回ったの?」

「普段はできないちょっとした探検よ」

「面白いものはあったか?」

 ザビニが口を挟んだ。フォスターとアクリントンは、ほぼ関わりがないからか貝のようにむっつりと押し黙っている。女子勢より緊張しているようだった。

「隠し部屋を見つけたくらいね」

「へぇ。俺が通ってるところと別だといいけど。寝心地良さそうなベッドはあった?」

 フォスターが「ズッ」と吹き出して、慌てて口元を抑えた。シャルルも「幸運なことにあなたの行きつけとは違うようよ」と呆れ笑いをした。ガールフレンドたちとの逢瀬を楽しむために、彼はジェシカの部屋以外にお気に入りのスポットを持っているようだ。舌を巻いてしまう。

 

「じゃあ秘密の部屋については、依然調査は進まないままか」

 サラリと彼が言う。見抜かれていたようだが当然だろう。シャルルがわざわざホグワーツに残り深夜徘徊して探検しているとなれば、否応にもその答えと繋がる。

「でもドラコがミスター・ルシウスから教えていただいた情報によると、以前も部屋が開いたみたい。その時はマグル生まれが被害を受けたんですって」

「被害?石になったのか?」

「亡くなったって」

 マグルの血が混じっている四人はサッと一瞬表情を曇らせたが、純血のザビニは「ふぅん?」と面白そうに小首を傾げた。

「前も継承者がいたんだな。じゃあ前開かれたときの子孫なのかもね」

「他には何か分かってないの?いつ開かれたとか、死んだ子の名前とか」

「マルフォイが言うには50年前らしいわ。一応図書室で当時の新聞や事件を調べているのだけれど、なかなか見つからなく、て……」

 

 シャルルはパカッと口を開けた。

「50年前といったら、今回の継承者は孫にあたるのかな。スリザリンの末裔がまだ残っていたとはね。よかったじゃないか」

「50年前……」

 一点を見つめて突然固まったシャルルに、ザビニがソファに体をもたらせながら「……?シャルル?」と不審そうに見やった。

「そうよ!50年前!なんですぐ思い付かなかったのかしら!」

 

 シャルルは叫んでローブから黒い手帳を取り出した。表紙には「T・M・リドル」と書かれている。50年前のスリザリンの監督生。二度のホグワーツ功労賞。死んだ生徒。秘密の部屋。何かが繋がっていく。

「どうしたんだよ……突然」

 ザビニは珍しく狼狽えていた。少し引いている。そういえば彼の前で突拍子もないところを見せたのは初めてだったかもしれなかった。パンジー達やドラコ達、セオドールはとっくにシャルルのそんな思いついたら猪突猛進なところに慣れているが、ザビニはシャルルを「せっかち」だとからかう割に、シャルルの猫を被った気品のある態度しか知らないのだ。

 しかしシャルルは動揺するザビニや、呆気に取られる四人を無視して手帳を勢いよく開いた。

 リドルの日記は絶対に何か秘密の部屋と関わりがあるはずなのに、それに気付いただけではこの日記に隠された何かを教えてはくれないようだ。

 相変わらず真っ白に佇んでいる。

 

「いたっ」

 

 夢中になって素早くページを確認しているうちに、紙が指先をピッと掠め、僅かにページに血が滲んだ。指先がじんわりと痛む。

「大丈夫?」

 パークスが義務的に労りの言葉をかけ、ブルストロードが目線でシャルルを伺った。頷くと杖を構えて「エピスキー」と唱えた。

「ありがとう、ブルストロード。すっかり痛みも消えたわ」

「いいけど、どうしたのよ?あんた変よ。突然ここに来てみたり、いきなり手帳?本?に齧り付いたり……」

 シャルルは苦笑した。

「ちょっと気が急いてしまって……継承者の手がかりを見つけたかと思ったの」

「それが手がかり?」

「そういう訳じゃないんだけど……」

 シャルルは誤魔化すように首を振ってリドルの日記帳に目を落とし──絶句した。

 

 真っ白なページに滲んだ血は消え、代わりに黒い文字が浮かんでいた。

 

『初めまして。君はブラック?』

 

 

 

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