Sapphire 〜ハリー・ポッターと宝石の少女〜 作:しらなぎ
もうひとつ気になることを、シャルルは今度はそっと尋ねた。
「その、マグルから不当な扱いを受けていたって?」
「あいつらは脳みそがない」
リドルは吐き捨てた。また、瞳に赤いものがサッと走った。ルビーみたいな一瞬の輝き。
「僕は魔法が使えることで孤児院で浮いていた。マグルというのは理解出来ないものを排したがる愚かな生物なんだ。そしてハリーも保護者の家で虐待めいたことを受けている」
ハッと喉から悲鳴に似たため息が漏れる。
リドルとハリーが、マグルから……。
「虐待……って……?」
「さぁ。ジニーが言うには、去年の夏休み餓死寸前のところを兄たちが助け出したらしい」
「餓死……」
知らなかった。
ポッターがそんな目に合っているなんて。彼は英雄なのに、穢らわしいマグルによって……。
そして、リドルというスリザリンの継承者を……。
ふつふつと怒りが込み上げてくる。
「だから彼に興味があるんだ。彼に特別な力があるかどうか……シャルル?」
彼女は拳を握りしめ、もうリドルの話を聞いていやしなかった。笑っている時は夏の空のような色合いをしていた瞳が、湖の底のような昏い色に輝いている。
「ほう…」
好ましい激情が浮かぶ彼女の様子に、リドルは面白げに腕を組み、唇に指を当てた。
「たしかに君はマグルを嫌悪しているようだ。マグル生まれを庇ったのは方便というのも嘘じゃないかもしれない」
だが、彼女は怒りを浮かべたまま、眉毛をピクッと動かした。そして僅かに口ごもった。
「マグル生まれには興味がないの。なかったの。ただ、最近……」
「最近?」彼は首を傾けてうながした。
「あなたやポッターもそうだけど、マグルによって不遇な状況に陥る魔法族はいるでしょう?わたしの取り巻きの女の子もそうなのよ」
唇を噛み、背中からメラメラ燃えている何かの筋が上るようだった。まっすぐ虚空を睨んでいる。
「以前、ルームメイトのマグル育ちの子の話をしたわよね?彼女の背中ったら、本当に惨いものだったわ…母親に手酷い暴力を受け続けていたのよ。彼女、マグルを憎んでいるわ」
「そういう奴は往々にしているものだ」
「彼女、化け物だと呼ばれていたのよ…れっきとした魔女なのに!可哀想に…マグルの血が流れ落ちればいいのにって、泣いていたわ。それを見て、上手く言えないのだけど……考えに少し変化が生まれて」
「どんな風に?」
「彼女がマグルの血を引いているのは彼女のせいじゃないって……。だから魔女として扱ってあげようって。純血主義にも理解があって、ちゃんと分を弁えている子なの……」
そう言って、シャルルはリドルの顔色をうかがうようにチラリと視線をあげた。リドルは寛大にうなずいた。
「魔法族でも理解がない奴はいる。だから僕はマグルを憎み、思想に共鳴するなら混血でも受け入れてきた」
「あなたも?」
「ああ。むしろそういう人間は強くなる。自分の流れる血を自分で捨て、自分で魔法族であることを選んだんだ。僕と同じように」
「自分で選ぶ……」
そういう考え方もあるのか。と目からドラゴンの鱗が落ちた。
たしかに、選択肢がある分、自分で決めたというのは決意に繋がるのかもしれない。リドルは機嫌よく蛇のように目を細めた。
「なんなら君が救けてやればいい」
「そうしたいけど……」
「簡単だ。根元を絶つんだ」
彼の瞳が血のように赤く染まっていた。奇妙に照りを帯びる強い眼差しに圧倒され、身が竦む。根元を絶つ。僕と同じように。
彼の言わんとすることにシャルルは恐れをなした。
「こ……殺すの……?わたしが?」
「僕は5年生でそれをした。2年生でも出来るようにアドバイスすることは出来る」
マグルを殺す。ターニャの母を。
それを考えるとぐちゃぐちゃになって、ただ、怖気付く。
「君がしたいならそうする選択肢もあるということだよ。君が決めるといい」
「マグルを……」
「そろそろ時間だ」
「あっ、待っ……」
止める間もなく、リドルはしゅるりと消えてしまった。
シャルルは呆然として、しばらくその場で座り込んでいた。
*
……体が重い。
翌朝、目覚めたシャルルは酷い倦怠感に起き上がることすら困難だった。しばらく目を閉じだるさをやり過ごして、のろのろと着替える。
手の先が自分で分かるほど冷えて、立ち上がった表紙に重い立ちくらみがあった。
時計を見るともうすっかり遅い時間だった。朝食を食べる余裕はなさそうだ。
昨夜は色々なことを考えすぎてなかなか寝付けなかった。
「やだ、やっと起きたの?さすがに寝すぎよ──シャルル!?」
談話室に降りると、朝食後のティータイムをしていたパンジーが振り返って悲鳴をあげた。ずいぶん慌てた様子で駆け寄ってくる。
緩慢な動きでシャルルは微笑んだ。
「おはよう、パンジー」
「呑気に挨拶してる場合じゃないわよ!酷い顔……やだ、身体も冷え切ってるわ!」
顔や手をぺたぺた触って、本人よりもよっぽど焦ってパンジーが暖炉の前まで連れていこうとする。シャルルは苦笑して緩く首を振った。
「大丈夫よ」
それに冷えているといっても、寒さや悪寒はない。
「何が大丈夫なのよ。医務室に行った方がいいわ、青いというより土気色よ!」
「…そんなにひどい?」
「ひどいってものじゃないわ!せっかくの顔が台無し!具合は悪くないの?」
「うーん…貧血だと思うの」
それを聞き、パンジーは少し声をひそめた。
「いつもこんなに重くなかったわよね?」
勘違いしているようだが、意図的に血を流したというわけにはいかないので曖昧に肩を竦めておく。
「寝不足もあるし、最近忙しかったから……」
「自主勉強でそんなに追い込まれてるんじゃ世話ないわ!ここ最近ずっと体調も優れなかったでしょ。マダムにかかったほうがいいわ」
そう捲したてると、パンジーは怒ったようにシャルルの腕を組んで、ずんずん歩き出した。振り返ってターニャに教科書を運ぶように言いつける。
ターニャ……。
彼に言われたことを思い出す。彼女に提案してみた方がいいのかもしれない。だが、いくら憎んでいる穢れた血とはいえ、母親の殺害を仄めかされたら普通なら平静を保てないだろう。
「まったく、そんな顔色でいつ倒れてもおかしくないわ。世話が焼けるんだから。あなた、人の意見を全然聞かないけどね、このところなんだかずっと変よ!お茶会にだって顔を出さないし、暇さえあれば図書室か寝室にこもって……そりゃあ病気にだってなるわよ」
隣でパンジーがぷりぷり怒っている。
だが、シャルルはぼーっとしていて何を言っているか耳を通り抜けていった。
でも心配してくれているのはわかる。
思い返してみれば、同じ部屋だというのにこうしてパンジーとくっついて交流するのはずいぶん久しぶりな気がする。…
「ありがとう、パンジー」
「お礼を言うなら少しは自分を省みなさいよ!」
「ふふ、手厳しいわね」
小言を言われるのも悪くはなかった。友達に心配されて、怒られるというのはむしろいい気分だ。
パンジーはシャルルがふわふわへらへら呑気に微笑んでいることにさらにブツブツと語気を強めていたが、やがて諦めたようにため息をついた。この2年で、シャルルの性格をとっくに分かっている。
他者に対して柔らかく、穏やかで全てを受け入れる態度を取りながら、時折驚くほど頑固になるし、自分の行動に対しての誰かからの意見にあまりにも従う気がない。
心配するのがバカバカしいくらいだ。
けれど嫌になってしまわないのが、シャルルの奇妙なところだった。いつだって「仕方がないわね」と折れる気分にさせられる。
「まぁ、スチュアート!どうしたんです?すぐに横にならないと!」
顔を見るなり素っ頓狂な声ですっ飛んできたマダム・ポンフリーに、自分が思う以上に顔に出ているらしいことを察したが、シャルルは自覚症状がなくて眉を下げた。
「たしかに少しふらつきますが、そんなには…」
「貧血と寝不足と疲労が重なってるんです。あと、食事もおろそかにしていたわ」
パンジーが横から告発した。マダムは眉を上げてキンキン叱った。パンジーは「当然よ」とうなずき、「しっかり休みなさいね。このところ本当に見ていられなかったんだから」と去っていく。
シャルルはマダムが持ってきた魔法薬に小さく唸った。
「元気爆発薬は……」
「いいえ、ただでさえ今年は精神が不安定になる生徒も多いんですから」
頑とした彼女を説得するのはむりだ。シャルルはうなだれて、仕方なく薬を飲んだ。みるみる身体に温かい熱がめぐり、耳から湧き上がる蒸気で髪の毛がフワッとたなびいた。
こんなところ、誰にも見られたくない。
「授業はお休みなさい。教授には伝えておきますから、お昼時まで眠っていて良いですよ」
「ありがとうございます、マダム・ポンフリー」
考えなくても動作に染み付いた愛想の良い笑顔と返事をして、毛布を頭までかぶる。カーテンがしまって、医務室は静寂に包まれた。時折カチャカチャと奥の方で鳴る金属か硝子が擦れる音が聞こえるだけ。
明るい時間に横になるのはなんだか不思議だった。
目を閉じていても、眠くはなかった。
リドルのことを考える。そして昨日のことを。
昨日の血が貧血になるほどの量だったとは思わない。生理の時の方がよっぽど女の子は血を流している。
だから多分、精神的な疲労と肉体的な疲労が一気に身体に来たんだろう。
手帳を手に入れてから日々の生活を後回しにしていた自覚はあるし、特に最近はあまりに多くのことがありすぎた。
リドルは完璧な青年だった。
彼の氷のような佇まいを思うと、シャルルの胸は熱くなるような感覚に襲われる。熱もないのに汗ばんで、心音が早まるような。
「大丈夫かい?」
突如、考えていた彼がベッドに腰掛けていて、シャルルは小さく息を飲んだ。
「リ、リドル…」
「貧血だろうね。血を補充した方がいい。そうだな…ブラッディー・フレイヴァー・ロリポップや…ヴァンプ向けのものは効率がいいよ」
彼は、さわれもしないシャルルの髪を掬って撫でるような仕草をした。血の巡りが活発になる感覚に、シャルルは息を潜めてじっと彼の白く、細長い手のひらを見つめる、
「やはり負担が大きいな。君が抵抗を感じるなら、君を求めないけど」
優しげに、凪いだ瞳でリドルはシャルルを見下ろした。試されているのが分かった。身体を起こして「いいえ」と前のめりに答える。
「いいえ、このくらい負担でもなんでもないわ。食事を疎かにしていたから…これからはいちいち医務室に来ないように気を遣うわ」
「そうかい?無理はしなくともいいんだよ」
「思ってもいないことを言うのは辞めて」
その答えに満足したように、リドルはフ、と唇を緩めた。取ってつけた好青年の表情が冷たい美貌に戻ったことに安堵し、シャルルも微笑んで、ゆっくりとベッドに頭を戻した。
「直接指導してくれるんでしょう。もっと血を注げば、その、直接の答えが得られるの?」
「そうだね」
「じゃあ、せっかく医務室にいるのだし、今のうちに注いでおくわ」
「……」
彼は瞳を瞬かせた。
シャルルは起き上がって、常に持ち歩いている手帳を取り出すと、昨日のように杖で手首を裂く。みるみるうちに鮮血が飛び散り、手帳に吸い込まれていった。
「どうかしら。あなたの求める量に足りる?」
「……君は、思い切りがいいね…」
呆気に取られたようなリドルに、やや鼻を明かした気分になる。
「一度も二度もそう変わらないでしょう。わたしの血で結果が早く得られるなら、それに越したことはないわ」
「まぁ、僕には都合がいいけれど……」
何度かまばたきし、冷静な表情で思案すると「まだ少し足りないみたいだ」と答えた。
「そう」
また杖をかまえたシャルルを、リドルが素早く制止した。
「辞めておきなさい」
「でも」
「倒れられては困る。君には1か100しかないのか」
「血の補充は一度にやってしまったほうが効率が良くないかしら。マダムは理由を聞かない人だし」
「躊躇いがないというのも困るんだよ、全く……」
問題児を眺める目で、リドルは顰め面を浮かべた。躊躇いがないと困る?なぜ?困惑したシャルルを無視し、彼は話は終わりだ、と切り上げるように、白々しい微笑みを浮かべる。
「さぁ、もう寝るんだ、シャルル。また血を注いでもらえば君の見たい結果を見せられると思うよ」
彼の白い手がシャルルの目元を覆った。相変わらずすり抜けていったけれど、肌がぼんやりと膜がかっていた。
「でも、眠くないわ…」
シャルルは不満を訴え掛けてみたが、答えはなかった。ベッドのそばにさっきまであった彼の姿は消え、日記に戻ってしまったらしい。
シャルルはため息をつき、天井を眺めた。
考えることがたくさんありすぎる。…
とりあえず、吸血鬼向けの商品を取り寄せなければ。
医務室で元気爆発薬と血液増幅薬を飲んだシャルルは夜には部屋に戻る事が出来た。さっそくカタログでヴァンパイア向けの商品と、魔法薬通販で血液増幅薬を頼む。ストックはあるだけある方がいい。
フクロウ小屋に向かうと、黄色いローブが何人か集まっていた。マクミランやアボット、ボーンズは純血だ。去年は親しく挨拶くらいは交わす仲ではあったが、他寮生を認識するのが、シャルルはそういえばずいぶん久しぶりな気がした。
無害そうな微笑みを浮かべ、シャルルは彼らにニッコリと話しかけた。
「こんばんは。あなた達も手紙を出しに?」
彼らは振り返ってシャルルを認識すると、ギョッと目を見開き固まった。まるで石のように。怯え、そして嫌悪感。
その反応は思わぬもので、シャルルは首を傾けた。
「えーと、どうしたの?」
蒼白なマクミランが、仲間たちと視線を交わしたあとニキビの目立つ女の子を庇うように一歩前に出た。庇う?シャルルから?なぜ?
何も言わず、微笑んだまま様子をうかがう。
「今夜は星が綺麗ね。春のダイヤモンドが美しいわ。そう思わない?ボーンズ」
名指しされたスーザン・ボーンズがあからさまにビクッと肩を揺らし、縋るようにマクミランの背中を見る。やっぱり、シャルルに怯えている。
「失礼、僕らはもう寮に戻らせてもらうよ」
硬質に拒絶し、横を通りすがろうとする彼の手をシャルルは「待って」と柔らかく掴んだ。彼は焼きごてを当てられたように瞬間的に振り払った。目を丸くし、手をさすって彼を見つめると気まずそうに視線をうろつかせた後、まっすぐ睨み返してくる。
「君が純血主義だなんて知らなかった、スチュアート」
マクミランがなじる口調で言う。シャルルはゆっくりとまばたきした。
スリザリンではそんなこと1年生から7年生に至るまで共有された至極当然の事実であったし、シャルルは誰よりも純血主義思想が強い。
だが、他寮生の前ではそれを上手く隠していた。
「…どうしてそんなことを?」
だから、否定も肯定もせず、シャルルはただ問いかける。
「君は、他のスリザリン生とは違うって思っていたよ。僕たちはまんまと騙されてたんだ」
「騙すなんて穏やかじゃない物言いね。わたし、何かしたかしら」
「しらばっくれないでくれよ!君はスリザリンの信奉者だ」
シャルルはポカンとして、うなずいた。
全くその通りだ。
「ええ、そうね」
マクミランは自分で言ったくせにショックを受けた顔をした。アボットやボーンズもハッと息を飲み、まるでシャルルに傷つけられたかのような表情をしている。
「スリザリンを信仰していると、なぜ純血主義者になるの?今まで、そんな蔑視めいたことを口にした覚えはないのに」
──あなた達の前では。
「なぜ?なぜだって?当然じゃないか?君はスリザリンで、サラザール・スリザリンは純血主義で、今だって継承者が──」
「わたしはレイブンクローよ」
芝居がかった仕草で怒りをあらわにするマクミランを遮って、シャルルは静かに言った。虚をつかれ、マクミランの口が止まる。
彼は困惑を浮かべて眉をひそめた。シャルルの言葉を飲み込もうとしている。
シャルルは彼らの思考回路が分かってきた。
別にスリザリンの信奉者だと隠してきたわけではないし、おおかた決闘クラブでハリーを追いかけたのが原因で広まったのだろう。あの時は歓喜と興奮で周囲を鑑みる余裕がなかった。
もう何ヶ月も前のことなのに、今更……。
そう思い、考え直す。
何ヶ月も前から、彼らはシャルルに不信感を募らせていたんだろう。シャルルが彼らと関わっていなかったから気づかなかっただけで。
自分の交友関係が、もうずっとスリザリン内に限定されていたことを、今更ながら自覚した。
けれど、驚くほどに心が凪いでいる。
嫌われて、怯えられ、噂されていると分かっても、それらは……そう、あまりにも些事だった。
シャルルは穏やかに、あやすような口調で彼らをひとりひとり見つめた。
「母の旧姓であるダスティンはレイブンクローの末裔だわ。わたしはそれを誇りに思っているし、魔法界を発展させた4人の創設者を素晴らしい功績だと信仰してる。
ロウェナ・レイブンクロー、サラザール・スリザリン、ゴドリック・グリフィンドール、ヘルガ・ハッフルパフ。
自分の祖先とその友人たちを好きだと思うことは、何かいけないこと?」
レイブンクローの末裔だから。
その理由は聞こえがいい。
アボットとスーザンが顔を見合わせた。どこかホッとしている。マクミランは尚も「だけどスリザリンは……」と言い募ろうとした。
「ええ、スリザリンは差別主義者だわ。けれど、わたしがスリザリンに入ったのは、両親がスリザリンだったからよ。いつも言ってたの、寮から見える湖がロマンチックでとっても素敵なのよって」
彼はかたくなな顔をしていたが、シャルルの海のように変わらない態度に気圧されて口ごもった。ゆっくりと見せつけるように彼の手のひらを取る。ピクリと跳ねるように動いたが、今度は振り払われなかった。
彼を見つめて溶けるように目を細めると、ふくよかな頬に赤みが差した。
「わたしは創設者が好きよ。だから、全ての寮の人と仲良くしたいと思う。それぞれの寮全てにいいところがあるし、悪いところもあるんだもの。寮に囚われた考えは寂しいわ。そう思わない?」
彼は赤い顔で何度か口を開こうとし、最後には眉を下げて恥じる表情を浮かべた。
「わ…悪かったよ、シャルル。たしかに君はずっと色んな人と交流を計っていたし、一度だってマグル生まれに酷い態度を取らなかった」
「分かってくれて嬉しいわ」
アボットとスーザンも笑顔を浮かべて近寄ってきた。「ごめんなさい、シャルル」「アーニー、だから言ったじゃない!」「それを言うなよ」
3人に囲まれ、ハッフルパフ生のあまりの善良性にシャルルは笑いたくなった。シャルルは「彼ら」の前で「言わない」だけだ。そして、純血主義を否定せず、「寮」の話にすり替えたことに気付かない。
けれど彼らの簡単さはハッフルパフ生の美点であり、彼らは純血だ。シャルルは彼らを微笑ましく思う。
「誤解が解けて嬉しいわ。でもなぜそんな風に思ったの?ハリーを追いかけたから?」
マクミランが気まずげに、うかがうようにシャルルを見上げた。
「それもあるし、君は最近他の人と話さないだろう?クラブにも出ないし…」
「論文を書いていて忙しかったのよ」
「論文?」
「個人的な興味で、魔法呪文の歴史背景をね。ビンズ教授にこの前提出してきたわ」
ほーっ…と誰ともなく感嘆の吐息が聞こえた。
「重ね重ねすまない、シャルル。君はレイブンクローの末裔らしく、勉学に励んでいたというのに……ポッターの仲間だなんて思い込んでしまって」
ますます萎れた様子でマクミランが言ったことに、シャルルは思わず噎せるほど笑った。
「っえ?…え?ふふっ、ふふふ!まさかマクミラン、あなたポッターを継承者だなんで思い込んでるの?」
思わぬ反応に彼はカッと頬を染めて、ムキになった。
「その通りだ。君も見ただろ?彼は蛇語を話したし、いつも被害者の傍に…」
「ええ、わたしも彼がサラザールの血を引いているのかもしれないと思うわ」
「なら……」
「でも、彼は継承者じゃない」
「な、何を根拠に……シャルルはポッターを信じてるのかい?」
「ええ」
キッパリと言い切るシャルルに、マクミランはたじろいだ。
根拠はある。継承者を知っているからだ。
けれどその前から、ポッターが継承者じゃないとシャルルは思っていた。
「ポッターはサラザール・スリザリンの思想とは真逆じゃない。純血主義者の間では血を裏切るだなんて言われて嫌われているウィーズリーや、マグル生まれのグレンジャーと親友なのよ。さらには純血主義を旗に掲げていたあの人を倒したのは、彼自身。そのポッターが純血主義だなんてありえないじゃない」
噂されているのは知っていたが、その噂を信じている人が目の前にいることがおかしくて、シャルルはなおもクツクツと口元を抑えながら笑う。
アボットが得意げに彼を見た。
「ね、ほら、シャルルも信じてないんだわ!」
「でも、例のあの人を倒した時、彼はほんの赤ん坊だった。それなのに、執着してわざわざ殺そうとしたのは、彼が次の『闇の帝王』になるに違いないと思ったからだろう」
「ポッターが次の闇の帝王?」
ダメだ、彼が言うことに笑わずにいられない。
ハッフルパフが頭を使おうとすると、こんなに支離滅裂になってしまうのね。
おかしくってたまらなかった。
言い募ろうとするマクミランを制し、シャルルは深呼吸した。
「はーっ…まぁ、そう思う気持ちも分からなくはないわ。彼、タイミングが良すぎて怪しいものね」
「だろ?」
「でもわたしは彼を信じてる。あなたはあなたの考えを信じるといいわ」
微笑んで、「それじゃ、手紙を出さなくちゃいけないから」と、釈然としなさそうな彼に手を振る。アボットとボーンズが嬉しそうに振り返してくる。
たしかにポッターはタイミングがいい。
けれど、その理由も今なら分かる。パーセルマウスだからだ。バジリスクが襲撃をかける時の声が、ポッターには聞こえてしまうんだろう。
ポッターは気付いていないのだろうか。自分が怪物の声を聞いていることに。それが蛇であることに。
気付いていて、去年のように自分たちで解決しようとしているのだろうか。
継承者であるリドルと、協力者であるシャルル。ふたりのことを追い詰められるのは、もしかしたらポッターだけなのかもしれない。ふと、そんなことを思った。