『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!   作:IXAハーメルン

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第七十五話

 ダチョウ君の遺志を受け継ぎ魔石と、ついでに体力の回復も済ませた。

 一家に一台活人剣、ありだね。

 SPの効率めちゃくちゃ悪いけど。

 

 コロンとオレンジに輝く魔石。

 ちょっとおいしそう。一口くらい食べても……って、そんなことする余裕ないか。

 

「ほいっと」

 

 ぐっと握り、小さな罅が入ったのを確認してぶん投げる。

 

 仲間を食われたダチョウ君の遺志をその身で噛み締めろ!

 

 輝きを纏い、まっすぐにその胴体へ吸い込まれる魔石。

 でっぷりと太った巨鳥。それを目で追いながらも、体の重さに慣れていないのか、それとも余裕ぶっているのか避ける気配はない。

 

 

 刹那の静寂……耳を劈く爆音!

 

 

 多少離れているはずだが、それでも爆風がこちらの顔を舐め、弾き飛ばされた土が服にまき散らされた。

 

 発動したのはシンプルな爆発。

 だがそれは消えることなく、巨鳥を薪として一層のこと激しく燃え上がった。

 ナパージュ弾だっけ?的な感じ。

 

 おお……もっさもさの羽がよく燃えてる、すごい熱そう。

 見てるとおなかすいたなぁ……鳥の丸焼きとか食べてみたいかも。

 

 燃えてて殴ろうにも殴れないし、近づき手持無沙汰で暫くぼうっと見ていたのだが、なんだか喉に引っかかるような違和感に気付く。

 顎に指、頭に疑問符。

 なんだ?

 

 あ……苦しんでない……!?

 

「やば……!」

 

 気付きと変化は紙一重、鋭い眼光が深紅のカーテンからこちらを見定める。

 豪炎を切り裂き、その大頭が私を啄もうと飛び掛かってきた。

 

 キツツキよろしく、しかし絶え間ない地響きを伴って地を穿つ嘴。

 右へ、左へと命がけの反復横跳び。

 しかし首の長さも有限、ある程度の距離を取ればそれ以上は伸びず、全身に纏っていた炎をぶるりとかき消し、巨鳥は高々と嘶いた。

 

 見た目こそでっぷりと太ってかけ離れた姿だが、これでもちゃんとストーチ(ダチョウ)

 炎の扱いはお手の物ということだ。

 

 睨み合い。

 鳥も背中に沿ってたたまれた翼を振り、こちらが何も仕掛けてこないことをけん制する。

 なぜ襲ってこないって? 誰が攻撃圏内にわざわざ行くかっての。

 

『ケェェェェッ!』

 

 巨大な目を引ん剥き勝鬨を上げると、突如としてその体が空中へ浮かんだ。

 支えるのは、その膨らんだ体に見合わぬすらりと長い脚、とはいっても小さな木ほどの太さはあるが。

 

「いや立てんのかい」

 

 思わず毒づいてしまう。

 

 太った体はさぞ重かろうと思っていたのだが、案外軽やかな動きでこちらへと駆け寄ってくる。

 もっさもっさとした羽の塊が来る様子はなかなかにファンシーで、どこかコミカルな雰囲気もあった。

 動けるデブ? いや、単純に大量の羽で膨らんでいるだけで、別に太っているわけではないのかもしれない。

 

 単純におなかいっぱいで動きたくなかったのね。

 仕方ない、誰にだってそういうときはある。

 

 それにしてもどうしよう。

 激しく動き回る巨大な胴体、その上ここまで体高があるとなればまともに殴れない。足元に近づくのも爪長くて危ないし……

 熱気にやられて噴き出した汗を拭い払う。

 

 あ、木登れば顔にも近づけて一石二鳥じゃんね。

 

「とうっ! ……むっ」

 

 びょいーんと跳びあがってしなる枝を握り締めたその時、どこかしっくりこない感覚に戸惑う。

 元々不思議と人肌ほどの温度があった木の表面であるが、今はそれ以上、触っていて熱いと感じる程度には温度が上がっていた。

 ずっと触っていれば低温やけどくらい起こしそうだと、早めによじ登って枝の上に立つ。

 

 うむむ。

 いつの間にか燃える葉の色が白くなっているのもそうだが、どうやら気付いていないだけでモンスターの行動だけではなく、もっと小さなことも変化しているらしい。

 これ以上熱くなるのなら流石に木の上へ逃げて……なんてことも難しいかも。

 

 バチンッ!

 

「ふぁ!?」

 

 目の前の枝が消える。

 

 バチンッ! バチンッ!

 

 突然の消滅は足元から。

 意識外からのそれに最初は気付かなかったがこの巨鳥、跳びあがってその嘴で枝を切り落としていっている。

 あまりに巨大な体のせいで狙いが定まっていないが、どこまで鋭利な嘴なのだろうか、滑らかな切断面はうかうかしていた場合の末路を示していた。

 

 ふざけた奴……!

 

 上へ横へと跳んで枝を乗り移れば、あちらも徐々に慣れてきたと見え、次第に正確となっていく突きがすぐ横を突き抜け木片が飛び散る。

 このままだジリ貧だ、なんとか手を打たないと。

 

――――――――――――――――

 

種族 ストーチ

名前 ゼノ

 

LV 5600

HP 6324/17843 MP 2221/5451

 

――――――――――――――――

 

 レベルの上昇が止まってる……消化が終わったってとこ?

 それよりHPやMPが妙に削れてるのが気になる……さっきの火は対してダメージを受けてなさそうだし、なんでだ?

 いや、そうか。モンスターといえど私と同じなんだ。レベルが上がった直後は、まだHPが最大値まで回復していない……!?

 

「枝ぁっ!?」

 

 確かに先ほどまで枝があったはずなのに、伸ばした右手が空を切る。

 

 やられた!

 ただむやみに私を狙っていただけじゃない、逃げる先まで考えて枝を切り落としていたのか!

 まんまと追い込まれたってわけだ。もう、ほんと頭良すぎて嫌になっちゃう。私の頭が悪いだけ?

 

 空が遠のき、世界が逆転した。

 天は地に、地は天に。

 レベルが上がろうと逆らえない重力の枷が身体を縛り付け、ゆっくりと地面、いや、巨鳥の赤黒い喉奥へ誘う。

 

 終わった。


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