ガリアの魔王と商人聖女   作:孤藤海

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タバサとの合流

平賀が捕らえたオーギャッツ侯爵を騎獣の後部座席に放り込んでもらい、わたしは皆を回収してサガミールの丘を目指す。北に展開していた諸侯の軍は、オーギャッツ侯爵が捕らえられたと知ると、各々、撤退を開始している。

 

ギーシュは追撃をしなくてよいのか聞いてきたけど、この場での勝利はもはや動かない。それなら、無益な血を流す必要もない。それに、わたしにとって重要なのは戦果よりも側近たちや水精霊騎士隊の皆に犠牲者が出ないことだ。

 

フェルディナンドや側近たちの騎獣に囲まれて飛んでいると、東に布陣するクボー侯爵の陣も大きく動揺しているのが見えた。外縁部の部隊はすでに思い思いに逃げ散っていて、中央の部隊もそれに続こうとしているようだ。

 

その中を猛烈な勢いで切り裂いていく一団がいる。その一団が掲げている旗は黄色。事前にタバサから黄色の旗を掲げていると聞いていたので、あれがサガミールの丘から出撃したタバサの率いる兵たちなのだろう。

 

「ローゼマイン様、こちらに魔獣が向かってきます」

 

レオノーレに言われて見ると、風竜がこちらに向かって飛んできていた。

 

「あれは、わたくしたちが助けようとしているタバサの使い魔、シルフィードです。皆に攻撃をしないように伝えてくださいませ」

 

「アンゲリカ、その魔獣は味方のものです。攻撃してはなりません」

 

さすがはレオノーレ。皆と言っていても、わたしが誰を頭に思い浮かべたか、しっかりとわかっている。レオノーレは、まずは危険人物であるアンゲリカを制止して、その後で皆にオルドナンツを飛ばしていた。

 

ハルトムートが先に立って風竜の元に向かった。そうして少し話した後、わたしたちの方へと先導するように飛んでくる。その途中でシルフィードが急に停止した。

 

既に視力を強化したわたしの肉眼は風竜の上にいるタバサと後ろにいる男性の姿が確認できている。タバサにも、わたしの姿が見えてくる頃だと思うけど、どうしたのだろうか。考えているうちに戸惑いを見せながらもシルフィードが近寄ってくる。

 

「本当にローゼマイン?」

 

「ええ、わたくしはローゼマインです。ハルトムートからわたくしの姿が成長したことを聞いていなかったのですか?」

 

「聞いていた。けれど、ハルトムートが大げさに言っているだけだと思った」

 

言われてみれば、納得の理由だった。これは普段のハルトムートが悪い。

 

「きゅい! 本当に驚いたのね!」

 

「こんなところで、しゃべっちゃだめ」

 

驚きのあまりか、人の言葉を解する風韻竜であるシルフィードが思わず感想を言ってしまい、タバサに窘められていた。

 

「三ヶ月もの間、地中での持久戦を行っていたと聞いて心配していましたが、ご健勝なようで安心しました」

 

「これも、ローゼマインとサイトのおかげ」

 

地下に陣地を築いてはどうかと最初に言ったのはわたしだけど、実践的なアドバイスをしたのは、ほとんどが平賀だ。わたしは感謝されるには値しないと思うけど、今はそんなことを議論しているときではないだろう。

 

「タバサが率いている隊の状況はいかがですか?」

 

「その前に、わたしは今はシャルロットと名乗っている。タバサという名前はジョゼフがわたしの名前を奪い、代わりに与えた名前ということになっているから、他の皆の前では使わない方がいいと思う」

 

今となっては楽しい思い出も多く、愛着のある名となっているけど、特に旧オルレアン公派にとっては、複雑な感情を抱く者もいると説明され、わたしたちは頷いた。

 

「まずはシャルロットの知らない者たちを紹介しますね。こちらが元エーレンフェストの領主候補生であったフェルディナンド様。わたくしの保護者で、家族同然の方なのです」

 

そう言って紹介したフェルディナンドは、久しぶりに見る社交用のきらきらした笑顔を浮かべている。

 

「お初にお目にかかります。ローゼマインの保護者のフェルディナンドと申します。火の神ライデンシャフトの威光輝く良き日、神々のお導きによる出会いに、祝福を祈ることをお許しください」

 

タバサ、この笑顔に騙されちゃダメだからね。この人、内面は悪辣で腹黒だからね。

 

無論、そんなことは言えるはずもなく、わたしはフェルディナンドとタバサが初対面の挨拶を交わすのを黙って見ていた。その後のエックハルトとユストクスの紹介は二人の主であるフェルディナンドにお任せする。

 

「前回ハルケギニアに来たときにはいなかった、わたくしの側近たちも紹介いたしますね。コルネリウス、レオノーレ、アンゲリカです。そろそろわたくしたちも移動したほうがいいでしょうから、正式な挨拶は省略いたしますね」

 

敵に幻獣の部隊はないようだけど、いつまでもこんなところで固まっていたら危険なことには変わりはない。わたしたちはサガミールの丘に移動した。

 

サガミールの丘の周辺にはすでに敵の姿はなかった。南に布陣していたサマリーノ公爵の陣には誰も攻撃は仕掛けていないはずだけど、オーギャッツ侯爵とクボー侯爵が敗れたのを見て、いち早く撤退したようだ。

 

「ここにいる者たちが北に布陣していたオーギャッツ侯爵を生け捕りにした、わたしの協力者たちだ。サガミールの丘に舞い降りた獅子を称えよ」

 

すでにサガミールの丘に戻ってきているわずかの兵たちが一斉に歓声をあげた。それを受けているサガミールの獅子、フェルディナンドは頭痛をこらえるような顔だ。けれども、士気を高めるためであるというのもわかっているか、特に制止することはない。

 

「ローゼマイン、フェルディナンド、中に案内する。その前に、わたしも護衛騎士を紹介しておく。元東薔薇騎士団団長のバッソ・カステルモール」

 

「シャルロット殿下の護衛騎士を拝命しております。バッソ・カステルモールです。以後、お見知りおきください」

 

続けてタバサはサガミールの丘に戻っていたマノーアとクリステルという名の二人の女性護衛騎士を紹介してくれる。そんなタバサの紹介に反応したのはキュルケだった。

 

「タバサも護衛騎士を置くことにしたのね」

 

「わたしも所属していた北花壇騎士団をはじめ、ガリアには優秀な刺客が多い。これから先は常にそれらの刺客を警戒しなければならない。就寝中などに周囲を警戒してくれる騎士は絶対に必要だから」

 

「タバサが信頼できる騎士を得られていたようで安心したわ」

 

まるでタバサの母親であるかのように安心した笑みを見せたキュルケに話しかけてきたのは護衛であるカステルモールだった。

 

「お話し中に申し訳ございません。もしや、貴女様がキュルケ様ですか?」

 

「ええ、そうよ」

 

「でしたら、一言、お礼を申し上げさせてください。貴女様が遣わしてくださったマチルダ殿とエルザス殿のもたらしてくれた物資と情報のおかげで、私たちはここまで戦うことができました」

 

カステルモールは、本来ならば魔法学院の友人という関係であるキュルケではなく、亡きオルレアン公に恩がある自分たちがシャルロットを迎えるために手を回さなければならなかった、と続けた。

 

「カステルモール殿はガリアの貴族なのですから、自由に動けないのも当然でしょう。わたしとは立場が異なりますわ」

 

「それでも、我らがすべきことを全てやっていただいたキュルケ様にはいくら感謝しても足りません」

 

「でしたら、わたしにもお礼を言わせてください。わたしの友人を助けていただいて、ありがとうございます」

 

キュルケが言うと、カステルモールは感極まったような顔で一礼していた。

 

「そろそろ移動しようと思うけど、いい?」

 

「はっ、私事で皆様の足を止めてしまい、申し訳ございませんでした」

 

すっきりとした顔のカステルモールと一緒に、わたしたちはサガミールの丘の地下にある会議室に入った。会議室でわたしたちは互いのこれまでの状況を伝え合う。

 

「ローゼマインは非常識」

 

ついにタバサにまで、そんな結論を出されてしまった。一方でタバサは少しばかり羨ましそうにも見える。同世代に比べて小柄なタバサは、育成の神アーンヴァックスの加護を望んでいるのだろう。同じ悩みを抱えていたわたしにはわかる。

 

わたしたちが話をしている間にも、続々とオルドナンツが飛んできて、戦況を伝えてくる。それに対しては、カステルモールが指示を返していく。

 

「深追いは危険ですので、アルヌルフには帰還命令を出しておきました」

 

つまり、戦はそろそろ終わるということだろう。側近たちにも水精霊騎士隊の皆にも死者なく、無事に戦いを終えられたことにわたしは安堵の息を吐いたのだった。




原作との差異:三ヶ月もの間、穴の中での籠城戦を繰り広げた結果、原作に比べてタバサの家臣団が充実。
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