ガリアの魔王と商人聖女   作:孤藤海

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戦後処理

出陣していた将兵たちが帰還するのを待ってタバサが行ったのは、あたしたちが捕虜としていたオーギャッツ侯爵の処刑だった。苦労して捕虜としたオーギャッツ侯爵をあっさり処刑すると決めたことにサイトは少しだけ複雑そうな顔を見せていた。

 

けれど、サガミールの丘から出陣していた兵たちの、全身に返り血を浴びながらも晴れやかな顔は、地中に三ヶ月も閉じ込められていたことの鬱憤を雄弁に語っていた。その鬱憤をぶつける相手が必要なこと、その相手が捕虜とした中で最高位のオーギャッツ侯爵に向かうことは誰の目にも明らかだった。

 

そして、その日は休息に当てたタバサは、翌日にはオーギャッツ侯爵の領土に軍を進めて城を陥落させ、侯爵の妻子を捕らえた。そして、妻子四人をタバサは間髪入れずに処刑してしまった。

 

「奥さんと子供まで殺す必要はあったのか?」

 

オーギャッツ侯爵本人を処刑するのは仕方がないと認めたサイトも、これには少し戸惑いの表情を浮かべていた。

 

「旧オルレアン公派の皆は、先祖代々の領地も国から支給される禄も捨てて、サガミールの丘に集まってくれた。それに報いるにはオーギャッツ侯爵の領土をすべて分配しても到底、足りない。それに、この後のこともある。ジョゼフに付いている諸侯に降伏を促すためにも最後まで抵抗した場合には相応の結果になることを示すしかない」

 

おそらく、その決定はカステルモールやアルヌルフとも相談して決められたことなのだろう。二人はタバサの後ろで頷いていた。

 

「あたしはオーギャッツ侯爵の家族の処刑は、当然のことだと思うわ。オーギャッツ侯爵の家族を許したとして、彼女たちは夫や父親を殺したシャルロットのことを許すことはないでしょうね。それなら敵に忠実な貴族を四人増やしてしまうだけだもの」

 

「やりすぎてしまえば、却って敵を作ってしまったり、国内を混乱させてしまうことにもなりますけど、かといって明確に自分の命を狙っている者がいるのも、安心できませんもの。難しいところですね」

 

王族であるローゼマインは似たような悩みを持っていた経験があるようだ。その言葉には納得させられるだけの実感が籠っていた。あたしとローゼマインがタバサを庇う発言をすると、サイトも納得まではいかないものの理解の表情を見せてくれた。

 

「この後はクボー侯爵の領地に攻め入ることになる。夜襲を受けた際、前線の将兵を置いて逃走したクボーは信望を失っている。援軍に来る諸侯はいないし、明らかな負け戦に協力する傭兵隊もいないけど、それでも領民は動員されれば従わざるをえない。けれど、その際に降伏すれば命は助けると申し入れれば、おそらくクボーは受け入れると思う。それは先んじてオーギャッツ侯爵の一族が全員処刑されたのを見ているから」

 

クボーとて貴族だ。どれだけ薄れていようと、いざとなれば命を捨てる覚悟も持っているだろう。だから、拙いのは腹をくくって最後の抵抗をされることだ。家族の命というのは、自棄を起こさせないためには格好の材料だ。

 

「たった四人の命でクボー領に暮らす多くの民の命を守ることができる。オーギャッツ侯爵の家族には悪いけど、やらない理由はない」

 

人を守るために、人を殺す。矛盾するようだけど、それを実行しなければならない立場に、タバサは立ってしまった。

 

タバサはサガミールの丘に駆けつけてくれた皆に、オーギャッツ侯爵の領土すべてを分割して与えた。といっても、具体的に領土を分け与えたわけではなく、広さを示しただけだ。タバサたちはこれからすぐにクボー侯爵の領土に攻め入り、そこで新たな領地を得る予定なので、今の時点では従軍している皆が領地に入っている暇はないのだ。

 

「オーギャッツ侯爵の領土の慰撫はマヤーナに任せる。他の皆はクボー侯爵の領土に攻め入り、短期で侯爵の城を降伏させる」

 

そう方針を決めた後、タバサはローゼマインの方を見た。

 

「今回は本当に助かった。けれど、これ以上、ローゼマインを巻き込むわけにはいかない。ローゼマインはもうユルゲンシュミットに帰ったほうがいいと思う」

 

「お心遣い、ありがとう存じます。けれど、シャルロットはわたくしにとっても大事なお友達ですから、せめて怪我人の治療などの後方支援くらいはさせてくださいませ」

 

「ローゼマインが治療を行ってくれるなら、本当に助かる」

 

ローゼマインの治療はハルケギニアの水魔法のように秘薬が必要ない。その上、一度に大勢を癒すことができるのだ。協力してくれると、非常に助かるだろう。

 

「ルイズたちは、これ以上はここにいない方がいい。次の戦は勝ち戦だから、心配せずに今はトリステインに戻って」

 

「わたしたちも、と言いたいところだけど、確かにトリステインが態度を明らかにしていない状態で、明確にタバ……じゃない、シャルロットに味方するのも拙いわね」

 

ルイズがそう判断したこともあり、トリステイン組は帰国をすることになった。サイトは人間が相手だと上手く斬ることができない。それは戦場では命取りになりかねない。ルイズの判断には、おそらくそのような理由もあっただろう。

 

「キュルケはどうする?」

 

「あたしはもう、シャルロットにどっぷりと肩入れをしちゃってるからね、今更、誤魔化しきれるものじゃないでしょ」

 

「わかった。キュルケ、わたしと一緒に来てほしい」

 

「ええ、もちろんよ」

 

そんなわけで、クボー侯爵の領土への出陣の際には、あたしとローゼマインも従軍することになった。先陣にモローナ伯爵、第二陣にリョシューン男爵、その後にタバサとあたしやローゼマインがいる本軍。最後尾をシバー子爵が固めるという布陣だ。

 

ちなみにタバサの使い魔であるシルフィードは今はアルヌルフを背に乗せ、上空で周囲の警戒に当たっている。シルフィード自身は、背に乗るのはタバサがよいと言っていたが、大将が一人で空にいるのは安全面でもよくないということで、今のような状態となった。

 

サガミールの丘での勝利とオーギャッツ侯爵領の併合により、タバサの率いる軍の士気は旺盛。更に軍内には元東薔薇騎士団に所属していた多数の高位メイジがいる。

 

対するクボー侯爵が率いるのは、数こそ一千ほどであるものの、参陣していた諸侯が逃げ帰ったことにより、メイジは皆無といってよく。平民たちにしても領民をかき集めたもので、士気も練度も低い。

 

「クボー侯爵、この戦、其方に勝ち目はない。おとなしく軍を解体して投降すれば一族含めて命を助け、生活できるだけの扶持も与えよう。だが、このまま我らと一戦するとなれば、一族皆がオーギャッツ侯爵と同様の末路を迎えることとなろう。返答や如何に!」

 

目一杯の威厳をこめて、タバサが発した言葉を乗せてオルドナンツが飛び立った。それを受け取ったクボー侯爵の陣に動揺が走るのが、ここからでも見えた。今や領民たちの思いは、クボー侯爵の投降で一致しているはずだ。侯爵にそれを押し返せるだけの統率力があるかが試される。

 

見つめる先、クボー侯爵の陣の兵たちが中央に道を作り始めた。そこを怯えた様子で歩いてくるのは一人の壮年の貴族だ。

 

「シャルロット、あれがクボー侯爵で間違いないの?」

 

「わたしもクボー侯爵の顔は直接は見たことがない」

 

「じゃあ、どうするの?」

 

「カステルモール、お願い」

 

「はっ!」

 

タバサもクボー侯爵の顔は知らないようで、結局はカステルモールに任せていた。元東薔薇騎士団を率いていたというカステルモールの部下にならクボー侯爵の顔を知っている者がいるかもしれない。

 

カステルモールは一人の部下を呼ぶと、一緒に隊の前方へと馬を走らせた。そして出てきた男性にディテクトマジックを使用して魔法で姿を変えたものでないことを確認した上で拘束し、タバサの前へと連れてきた。

 

「シャルロット殿下、確かにクボー侯爵でございます。侯爵は殿下に降伏の意志を示しています」

 

「よく決断してくれました、クボー侯爵。領地は接収させてもらいますが、悪いようにはいたしません。また、わたくしの軍に従軍して功をあげたなら、相応の地位を新たに授けることもいたしましょう」

 

「寛大な処置を感謝いたします」

 

腹の中ではどう思っているかはわからないが、クボー侯爵はそう言ってタバサに頭を下げた。そんなクボー侯爵にタバサは旧オルレアン領の外れに小さな屋敷と、シュバリエ五人分の扶持を与えたのだった。

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