ガリアの魔王と商人聖女   作:孤藤海

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逆転の策

「ローゼマイン、君はいつまでこちらに滞在するつもりだ」

 

ある日、日課のようになっているタバサとの軍議に向かう前に、わたしは盗聴防止の魔術具を握らされた上でフェルディナンドから尋ねられた。

 

「ユルゲンシュミットのことなら問題ないと思います。こちらで季節一つ分を過ごしたとしても、ユルゲンシュミットでは一日程度しか経っていないはずです。世界扉の魔法には、どうやらそのような効果があるようです」

 

「話を逸らさないように。私はいつまでこの争いに関わるつもりなのかと聞いている」

 

「正直に言って、迷っています。ですけど、次の戦いが終わるまでは、少なくともタバサを手助けしたいと思っています」

 

次の戦いは一万で六万の敵にぶつかることになる。戦のことには詳しくないわたしでも、はっきり言って勝負にならないことはわかる。

 

「厳しい戦いであればこそ、君の身にも危険が及ぶ可能性が高くなる。そのことは理解できているのだろう?」

 

「ですけど、わたくしがいれば最悪、世界扉でタバサだけでもユルゲンシュミットに逃がすことができるではありませんか。激しい戦いが予想されるからこそ、わたくしはタバサの近くにいたいのです」

 

タバサはなるべく多くの側近たちを助けたいと思うだろうけど、わたしは自分の側近たちとタバサまでが最優先だ。タバサの側近については余裕があれば、という程度までしか思い入れはない。

 

「君の望みはわかった。だが、私にとって最優先はローゼマインの安全だ。本当に危険だと思えばシャルロット様を置いてでも帰還してもらうが、よいな?」

 

「はい、フェルディナンド様がそこまで危険だと判断するということは本当に危ないのだと思います。それならば、側近たちのためにも、わたくしは帰還します」

 

「それならば、よい」

 

タバサと側近たちでは、わたしが守らねばならないのは側近たちの方だ。他国の友人と自分の側近では、側近を優先させなければならないことくらいは、わたしにもわかる。

 

ひとまず話を終えて、わたしたちはタバサの元に向かった。そうして今日も、なんとか勝利に結びつく策がないかの話し合いを始める。

 

「少しでも敵の攻撃の勢いを削ぐために、トーナミ川の川岸に陣を築いて、渡河してくる敵を叩く。やはり、これしかありません」

 

カステルモールの言葉に反論する声はない。他の手も色々と考えられたのだが、この案が最善と昨日までの会議でも決まっていた。けれども、この作戦で決定となっていないのは、この案でも完敗がそれなりに抵抗したものの敗戦になるくらいしか期待できないためだ。このままでは、敗北は避けられない。

 

「シャルロット殿下、ただいまトリステインからオルドナンツが届きました。トリステイン魔法学院から、有志が殿下のために援軍に来てくださるようです」

 

アルヌルフが伝えてきた情報にタバサは微妙な表情になった。助力自体は嬉しいのだろうけど、敗色濃厚な戦に魔法学院の皆を巻き込みたくないという思いも強いのだろう。おそらく有志とはルイズやギーシュたちだろう。

 

「シャルロット様、危険だと言ったところで彼らは翻意はしないでしょう。それよりも彼らが加わることで何か打てる手がないか考えてみませんか?」

 

「加わることで打てる手と言っても、人数としては最大でも五十人くらい。戦況に影響するような手が打てるとは思えない」

 

確かに六万の敵と戦うのに五十人の味方が増えたところで何も変わらないだろう。けれども、それは普通の貴族なら、の話だ。

 

「もしも彼女たちが来てくれたならば、少しは打てる手があるのではありませんか?」

 

わたしが頭に思い浮かべているのはルイズとティファニアだ。二人の虚無はガリア軍にはない彼女たちだけの武器だ。

 

「打てる手……」

 

呟いたタバサと一緒に、わたしも考える。二人が使える虚無の魔法は、あれから増えていなければルイズのエクスプロージョン、ディスペル、イリュージョンそしてティファニアの忘却の四種類。

 

このうちのエクスプロージョンなら大兵力を一気に倒せる可能性がある。けれど、ルイズにそれだけの魔力が貯まっているとは思えない。あるいはフェルディナンドの激マズ回復薬を飲めば使えるようになるかもしれないけど、こちらで試したことのある回復薬での回復量はせいぜい一日休んだ程度の量までだ。一か月、あるいは一年単位の魔力を回復させようとしたときに、どのような副作用がでるかわからない。

 

それにエクスプロージョンでなぎ倒すというのは、リスクも大きい。アルビオンとの戦いのように船に搭載された風石を消滅させた上で火をつけて不時着させるというのは、確かに大きな戦果だったけれど、騒ぎは限定的だった。それは、エクスプロージョンでの直接の死者はほとんどいなかったためだ。

 

アルビオン軍を壊滅させたのは、あくまでトリステイン軍の突撃だ。だから逆転の原因を作ったといっても周囲の抱いた感触は、皆で勝ち取ったというものだった。けれど、もしもエクスプロージョンで直接ガリア軍を薙ぎ払ったらどうなるか。

 

自らの魔法で夥しい死者をだしたとき、ルイズが平常心を保てるとは思わない。むしろ、それで何も感じなかったら、そちらの方が問題だと思う。

 

そして、一瞬のうちに数万の兵を焼き殺す大量破壊魔術を目にした味方の心境はどうか。称賛に繋がってもルイズは生きにくくなるだろう。それならましな方であり、もしも恐怖に繋がったらどうなるだろうか。

 

今は味方と思ってくれている北朝方のガリアの諸侯も、今のうちに殺しておくべきと主張してくる者もでてくるだろう。そして、それを退ければ、シャルロットと諸侯の間に隙間風が吹くことになってしまう。

 

虚無の魔法はあまりに強力すぎる。誤ればルイズを死に追いやってしまうことになりかねない。相手に強い警戒心を抱かせすぎてしまうと、ろくなことにならないことを、わたしはフェルディナンドの一件で学んだのだ。

 

となると、残るのはディスペルとイリュージョン、そして忘却。この三つは魔法が直接、被害を与えるわけではないところも都合がよい。けれど、逆を言えばそのまま使っても大軍を前にはあまり効果を発揮しないということだ。

 

「要所は魔法で安定させた崩れやすい石の城を作って、機をみてディスペルで魔法を無効化させる、というだけじゃ被害は限定的だし……」

 

「ローゼマイン、考えを纏めているにしては悪辣な策を口からこぼすのでない」

 

わたしが必死で考えていると、フェルディナンドから注意をされた。

 

「それならば、フェルディナンド様も何か考えてくださいませ」

 

「といっても、私はそれぞれの魔術を見たことがない」

 

「イリュージョンはわたくしも見たことはございませんよ。ただ、それを使った偽の兵で敵を誘導したことで、難しい上陸戦が被害なしで行えたと聞いただけです」

 

「ふむ、偽の兵が作れるのなら、存在する兵を存在しないように見せることもできるのか? それならば有効な奇襲が行えると思うが……」

 

「それでいこう」

 

そう言ったのはタバサだった。

 

「けれど、いくら姿を隠せるとしても、数の違いは明らかです。敵に態勢を立て直されたら厳しくなるのではありませんか?」

 

「兵の姿を消すだけならば、そうなると思う。けれど、他の策と組み合わせれば、この上なく強力な手段になりうる」

 

「どうやら、シャルロット様には何か案がある様子ですね。お聞かせいただいても?」

 

そうフェルディナンドが言うと、タバサはわたしたち二人と護衛騎士のエックハルトとコルネリウス。そして自身の護衛のカステルモール、アルヌルフ、ソワッソン、マノーア、クリステル、作戦参謀に任命したオーギュストとエドゥアルドを除き、部屋から出るように言った。

 

「この策が決まれば、おそらく勝てる。だからこそ、敵側に漏洩することがないよう、事は慎重に運ばなければいけない」

 

そう言って、タバサは思いついた策をわたしたちに話し始めた。

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