一度、ゲルマニアに戻っていたあたしは、タバサに必要な物資を満載したオストラント号で再びガリアへと飛んでいる。オストラント号に積まれているのは、様々な軍需物資。その中でも目を引くのが新式の銃が整然と並べられた木箱だ。
威力と射程を大幅に向上させるライフリングの技術自体は、少し前からハルケギニアでも知られていた。けれど、冶金技術の遅れと平民の武力向上を嫌う貴族たちの反発もあり、あまり積極的に取り入れられてこなかった。
魔法が王道、武器は邪道、それがハルケギニアの貴族の一般的な考えだ。けれど、あたしたちはアルビオン軍が魔法学院を襲撃した事件で熟練の銃兵はメイジにも対抗できうることを実際に目にした。
だから、戦力不足のタバサの一助になればと、タバサが蜂起の準備を進める裏で改良型の銃の生産を始めていたのだ。ローゼマインの再訪が急であったため、先のサガミールの丘での戦いには間に合わなかったが、次の戦には絶対に間に合わせてみせる。
「しかし、貿易船のつもりが、今ではすっかり戦のための輸送船か……」
「ごめんなさい、ジャン。貴方の望みと全く違う使い方をさせてしまって……」
「いや、不本意なのは確かだが、わたしも教え子のことはできる限り手助けしてやりたいと思っているのだ。不本意であっても嫌ではない」
「ありがとう、ジャン」
話しているところに、すっと白いオルドナンツが飛んできた。
「シャルロットです。さきほどルイズたちがトリステインから到着しました」
「キュルケよ。こちらも明日には到着できるわ」
そう吹き込んで、オルドナンツを返す。
「また皆が戦場に立つことになるのか……」
「望む未来を掴むためとはいえ、心配よね」
呟いたジャンの言葉には苦い響きが強い。タバサを見捨てるという選択を選ばない皆のことは誇らしくもある。けれど心配も強いのはあたしも同じだ。
「タバサや魔法学院の皆のためにも、あたしたちはできることをしましょう。差し当たり、先にあたしは仮眠を取るわ。六時間後に交代しましょう」
オストラント号はトライアングルクラスのメイジがいなければ、本来の性能を発揮できない。最速でガリアに到着しようと思えば、あたしかジャンが精神力を注ぎ続ける必要があるのだ。
「わかった。ここはわたしに任せてキュルケは先に休んでくれ」
ジャンに言われて、あたしは先に船室で仮眠を取った。その後、六時間後には予定通りに交代をして、そのまた六時間後には交代。そうして翌日の昼過ぎにはガリアのタバサの元へと到着した。
タバサはトーナミ川の畔の野戦陣地にいた。ここで敵を迎え撃つためにできるだけの防衛設備を築いているということだ。
「シャルロット、元気にしてた?」
「うん、キュルケが来てくれて嬉しい」
「シャルロットに手紙を預かっているわ。後で読むといいわ」
あたしが預かってきたのは、タバサの母が書いた娘を案じる手紙だ。タバサの母は精神状態こそ落ち着いたものの、まだタバサのことを娘とは認識できない。手紙もどこかにいる娘の身を案じるもので、タバサのことを案じて書いたものではない。あたしが持ってきたのは、そんなタバサの母が書いた手紙の中で、今のタバサの状態に合った一通だ。
この手紙は、タバサに母の治療が実態より順調だという錯覚を起こさせ、後でがっかりさせることになるかもしれない。けれど、元よりタバサはいつ死んでもおかしくない戦いに身を投じているのだ。この戦いを生き抜くための力になるのなら、錯覚でもなんでも利用してしまうつもりだ。
「手紙は後でゆっくり読んでもらうとして、まずは新式銃の試し打ちが必要でしょ。早く降ろしてしまいましょう」
新しい銃は、射程と威力だけでなく、当然ながら射撃時の感覚も弾道も違う。これまでと同じ感覚で撃っては狙ったところには飛ばない。
敵は大軍なので正確な狙いなど必要ないかもしれないが、どこに飛んでいっているのかわからないまま撃つのでは、銃兵たちも不安だろう。やはりそれなりには射撃練習をしていた方がよいだろう。
タバサがアルヌルフを呼んで熟練の銃兵を連れてくるように言う。そしてアルヌルフが銃兵隊を率いる貴族にオルドナンツを飛ばしている間にルイズ、サイト、ギーシュの三人が天幕の中から出てきていた。
「ゲルマニアから来たにしては早かったじゃない」
「一刻も早く新式銃を届けるために急いだからね。おかげでかなり疲れたわ。銃兵たちの試し撃ちの感想を聞いたら、悪いけど少し休ませてもらうわ」
「へえ、新しい銃ってどんななんだ?」
「そういえば、サイトなら銃も扱えるんだったわね。じゃあ、確認してみてくれる?」
ガンダールヴであるサイトなら、武器なら何でも上手く扱えるはずだ。あたしは降ろしたばかりの木箱から新式銃を手渡してサイトに渡した。思った通り、サイトは説明をせずとも銃を撃ち、更には的にも命中させた。
「どうかしら?」
「うーん、撃ってみたはいいけど、そういえば俺って従来型の銃を撃ったことないんだよな。だから、違いとかはわからん」
「何よ、それじゃ駄目じゃないの」
よくよく考えてみれば、サイトはガンダールヴの力でがらくたのような銃でも使いこなせるのだがら、ある意味、物の正統な価値を計るには不適当だった。あたしがそう考えていると、サイトは慌てたように言葉を足してくる。
「そういえば、ハルケギニアの銃って着剣はできないんだな」
「着剣ってなに?」
「銃の先に短剣を付けられるようにするって言えばわかりやすいかな。銃兵が敵に接近されても戦えるようにするのが目的だな」
「キュルケ」
タバサに言われて、あたしはすぐにジャンを呼んだ。そうして錬金を使って銃に小さな溝を作り、短剣にも細工をして取り付けられるようにしてもらった。すると、それまでは銃であったものが槍のような形状に変わった。
「これなら、銃兵の護衛に槍兵を置かなくてもよくなるかもしれない」
銃兵は乱戦に弱い。特に今回、タバサ側は小勢であるため、敵に囲まれるような展開になる可能性が高い。それだけに銃兵をどう運用するか悩ましかったのだろう。
「これで銃兵の戦闘能力が上がりそうね。けど、それだけじゃ苦戦は免れないわね。何か策はあるの?」
「考えている」
そう言ったタバサがルイズの方に視線を向けた。
「あたしはこれから、シャルロットの策のためにここを離れることになるの」
「ルイズが? どんな策なの?」
「情報漏洩を防ぐために誰にも策の内容は言っちゃダメって言われてるの」
口ではそう言っているが、顔はぜひ聞いてくれと言っている。けれど、あたしはルイズに聞くことはやめておいた。
タバサがルイズの虚無を使うことにしたのなら、それは戦の趨勢を左右するものなのだろう。仮に失敗すればタバサだけでなく、タバサに味方したトリステインの皆やガリアの貴族たちの命も失われる可能性が高い。そんな大事な秘密は興味本位で聞いてよいことではない。
「ルイズ、シャルロットが秘密と言ったのなら、それは貴族の誓いをもって守らなければならないものよ。どれだけ誇らしくても絶対に誰にも言っては駄目よ」
「それくらい、わかってるわよ」
まあ、こうやって釘をさしておけば、ルイズも簡単に誰かに話さないだろう。もし仮に話しそうになってもサイトが止めてくれるはずだ。
そうこうしているうちに、アルヌルフが頼んでいた銃兵を連れてやってきた。その銃兵が試し撃ちをした感想は、射撃の感覚がかなり違うために、すぐに狙った場所に撃つことは難しい。けれども、それを補って余りある射程と威力があるため、敵集団に向けて撃つのには適している、というものだった。新式銃が戦に仕えると聞いて、あたしたちは早速、更なる性能向上のため新式銃に着剣ができるように改造を施していった。
その翌日には準備を整えた南朝方の六万の兵がリュティスを発ったという連絡がタバサの陣へと届いた。戦いは間近に迫っている。