ガリアの魔王と商人聖女   作:孤藤海

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艦隊戦を眺め見て

両用艦隊が虚無の魔法を恐れて散開して進軍してきているのは、途中の街で公演にかこつけて情報収集をしていた劇団キュントによって、伝えられていた。だからわたしたちは、集めた船のうち十隻だけを空に浮かべて、そこに空中装甲騎士団に乗ってもらった。こうすれば、敵は三十隻から四十隻という北朝の騎獣部隊にとって最適な艦数を寄越してくるという参謀オーギュストの読みの元の策だった。

 

南朝方は自分たちが圧倒的に有利に立っていると認識している。そう考えていれば、わざわざセオリーを外して動くようなことはしない。特に両用艦隊の指令は忠実に任務を果たすタイプだと分析されているのだから、尚更だ。

 

結果的に今のところは想定した通りに進んでいる。空中装甲騎士団に注意を引き付けてからの雲の中から飛び出したフェルディナンド、エックハルト、コルネリウス、アンゲリカの全力攻撃も、その後の北朝の貴族たちによる奇襲も綺麗に決まった。

 

それもこれも、北朝に幻獣部隊はいないと敵方が認識していたことが大きい。そうでなければ、もう少し注意を払っていたはずだ。

 

さて、最初の奇襲によって敵艦を十隻以上を沈めることができたけれど、さすがにそれだけでは終わらない。前衛艦隊を助けようと、後方から本隊が前進を開始している。単横陣のまま前進を開始した北朝艦隊にまったく怯む様子はなく、敵艦隊は前進を続ける。

 

この時代の艦は舷側に大砲を搭載している。そのため、効果的に砲撃をしようと思えば、敵艦に対して横向きにならなければならない。それをしないということは、敵は北朝の艦隊を時間稼ぎ目的か、火船であると読んだのだろう。けれど、それはどちらも外れだ。

 

北朝の艦隊から、円筒状の物体が発射される。コルベールが開発した魔法探知誘導弾だ。“空飛ぶヘビくん”という締まらない名前ながら、先端に取り付けられた魔法探知装置を発信しながら、ロケット推進による高速力で敵を討つという高性能の武器だ。問題は敵味方の識別能力がないので、近くに騎獣がいると、そちらに飛んで行ってしまうということだけど、今のように騎獣から離れたところで撃つには問題ない。

 

発射された得体の知れない物体に、咄嗟に敵艦に乗船しているメイジたちが魔法を使おうとしている。けれど、その魔法の使用こそが“空飛ぶヘビくん”の標的となる。

 

防御に成功した者もいるようだが、失敗した者もいるのだろう。小さな爆発が起きている気がする。表現が微妙になってしまうのは、“空飛ぶヘビくん”が直撃したらどうなってしまうのかが怖くて視力強化を打ち切ったためだ。表彰式での襲撃者やダールドルフ子爵夫人のような惨劇は、さすがに見たくない。

 

今回の戦いを見越して“空飛ぶヘビくん”は艦首に集中的に搭載されている。次々と繰り出される攻撃を見て敵艦隊も北朝方の攻撃手段は艦首に集中していると気づいたようだ。

 

艦首に攻撃手段がある艦と、艦首方向には大砲の数が少ない艦が正面から撃ち合ったのでは、どうあっても不利だ。ここにきて敵艦隊は回頭を開始した。舷側に取りつけられた大砲で一気に北朝の艦を沈めるつもりなのだろう。無論、そう行動してくるであろうことは、こちらも百も承知だ。

 

「再生と死を司る命の神エーヴィリーベよ。側に仕える眷属たる十二の神よ。我の祈りを聞き届け、聖なる力を与え給え。我がゲドゥルリーヒを奪おうとする者より、ゲドゥルリーヒを守る力を我が手に」

 

両用艦隊が回頭を終えるのを待って北朝の艦に乗っているわたしの側近、ハルトムート、マティアス、ラウレンツの三人が祝詞を唱え始める。

 

「御身に捧ぐは不屈の想い。最上の想いを賛美し、不撓の御加護を賜らん。敵を寄せ付けぬ御身が力を与え給え」

 

祝詞を唱え終えて三人がエーヴィリーベの剣を振るうと、雪と氷でできた冬の主の眷属達が現れ、敵艦に向かって駆けていく。秋が深まっているとはいえ、未だエーヴィリーベの季節でないため、数が少なく力もやや弱いが、それでも二十匹くらいはいる。

 

急に現れた見知らぬ魔獣の襲撃に両用艦隊が動揺しているのがわかる。その間に魔力を使い果たした三人を、同じ船に乗っていたクラリッサ、ユストクス、ローデリヒが回収してわたしのところまで戻ってくる。

 

はっきり言って、エーヴィリーベの剣による魔獣の召喚よりは、魔術具を使って攻撃した方が魔力の面では効率的だ。それでもエーヴィリーベの剣を使ったのは、敵を一時的にでも混乱をさせるためだ。

 

敵艦が魔獣に気を取られているうちに北朝の艦は急速に両用艦隊へと接近する。そして、敵艦の射程に入るかというところで、僅かな艦の乗員たちは自らの艦に火を放った。南朝が警戒したとおり、北朝の艦は火船として使うことが想定されていたのだ。

 

艦に火を放ったのは、騎獣が与えられなかったライン以下のクラスの貴族たちだ。彼らはぎりぎりまで操艦をした後はフライの魔法を使って地上に帰還することになっている。

 

こちらの艦に舷側を向けていた両用艦隊が回避運動を取りながら、北朝の艦へと砲撃を行う。けれども、このような戦いを想定していた北朝の艦は前面にだけは装甲を追加して耐久力を上げている。そう簡単に沈みはしない。十隻の火船は回避しきれなかった南朝の艦、三隻の舷側に衝角を食い込ませて炎に包みこんだ。

 

魔獣への対処と火船に対する回避運動のために、両用艦隊は完全に足を止めた。その間に北朝の騎獣部隊は主力艦を失い、対空防御力を低下させた小型艦艇群に対して攻撃を繰り返し、次々と沈めていく。

 

「ローゼマイン様、そろそろ潮時だと思われます」

 

レオノーレのオルドナンツを受けたわたしは、作戦終了を告げる赤い光をシュタープから打ち出した。一度は混乱の中にあった両用艦隊の主力部隊も、冬の主の眷属を片付けて再び救援に向かう態勢に入っている。もう少し頑張れば敵の前衛艦隊を全滅まで追い込めそうだけど、ここで無理をして高位のメイジを失う方が痛い。

 

わたしの放った赤い光を見たタバサはすぐにシルフィードをこちらへと飛ばしてくる。その後に続くのはタバサの護衛騎士をはじめとした北朝の幻獣部隊だ。自らの主が撤退を始めれば、他の貴族たちも撤退を開始せざるを得ない。攻撃を打ち切り撤退を開始する。

 

騎獣部隊が後退するのを見て、敵の竜部隊と交戦していた空中装甲騎士団も撤退を開始する。敵の竜部隊の追撃はない。騎獣部隊と空中装甲騎士団の両者を相手にしては勝ち目はないからだろう。

 

元より艦と騎獣では速度差は大きい。騎獣部隊は悠々と撤退をする。敵艦隊から離れると、わたしたちは戦果と被害を確認するために、すぐにタバサの元に集まった。

 

「敵艦の被害は三十五隻、味方の被害は騎獣部隊では四名」

 

敵の前衛艦隊四十隻のうち、最後まで戦闘行為を行っていたのが三十二隻。それに火船の攻撃で三隻が沈んだ。その結果の三十五隻という戦果だけど、その中には被害が軽微なうちに戦列から離れた艦もいるかもしれない。実際のところはそれよりやや少ないと見ていた方がいいだろう。それでも大勝利なのは間違いない。

 

最初の一撃の後すぐに戦場を離脱したわたしの護衛騎士たち、わたしと親しいキュルケやコルベールは無事だった。一方で、犠牲となった味方の四騎のうちにはタバサの女性護衛騎士の中では筆頭の地位にあったマノーアの名前もあった。今のタバサには女性の護衛騎士は少ない。そのような中であったので、マノーアの顔はわたしも知っている。

 

マノーアは一人だけ風竜という見慣れた幻獣を操るタバサに敵の目が向かぬよう、積極的に敵艦の近くを飛行していたことが災いして流れ弾を受けてしまったらしい。タバサが口惜しそうとな顔をしている。

 

いかに上手く戦おうと、犠牲の出るのは仕方のないことだとわかっている。けれど、それでも知った顔がいなくなるというのは悲しい。

 

「敵の被害は甚大だけど、まだ足りない。次の戦、今夜の夜戦で勝負をつける!」

 

いかに側近に被害が出ようと、もはやタバサは止まることができない。けれど、わたしは敵であれ味方であれ、これ以上、人が死ぬところは見ていたくない。次の夜戦が終わったらユルゲンシュミットに帰還しよう。密かにそんなことを考えながら、わたしはタバサの決意を深刻な表情を作って聞いていた。

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