ガリアの魔王と商人聖女   作:孤藤海

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サガミールの丘

かつて雪風のタバサと名乗っていたシャルロット・エレーヌ・オルレアンは、現ガリア王ジョゼフに対する反乱軍を指揮して、ガリア北部のサガミールの地で籠城戦を行っていた。籠城戦といっても、シャルロットが籠る場所には、高い城壁もなければ堅固な城門もない。あるのは川から引き込んだ長大な幅の堀の中に小高い丘があるだけだ。

 

その小高い丘の下に無数の坑道を掘り、地下に主要施設を設けてある。これは蜂起前に制空権がない状態で、どうすれば長期間の籠城が可能か、ローゼマインと話し合った結果の戦い方だ。ちなみに発案はローゼマインだったが、実際に頼りになったのはルイズの使い魔であるサイトだった。

 

サイトはなぜか地下に籠っての戦い方に詳しかった。そのサイトからの助言により、現在シャルロットが居住する指揮所の他に将兵たちの居住場所、物資保管庫に加え救護所や炊事場まで設けられ、更にそれら各所を結ぶ坑道が掘られた。

 

それらを行ったのは、土のメイジたちだ。シャルロットは旧オルレアン派の中でも特によく父に仕えてくれた者たちを密かに集め、その作業に当たらせた。並行して、水のメイジと火のメイジは秘薬の作成に全力を尽くしてもらった。

 

初めから籠城戦と決めていたため、キュルケの力も借りてサガミールには一年分の食料と水が運び込んである。そして、長い地下生活に対応するために、魔法のランプも大量に運び込んだ。

 

用いる旗は、ローゼマインのマントにあやかり黄色とした。そこにガリア王家の交差した二本の杖を描いた。

 

サガミールの丘に籠るのはシャルロットの檄に応えてくれた、バッソ・カステルモール、アルヌルフをはじめとした元ガリアの東薔薇騎士団の者たち、モローナ伯爵、シバー子爵、マヤーナ男爵、リョシューン男爵をはじめとした旧オルレアン派の忠臣たち一千五百。包囲するのはジョゼフの派遣した四万の大軍だ。

 

包囲軍は堀を作るときにも用いた広い川が流れる西を除いた三方に布陣した。南に総大将のサマリーノ公爵が率いる二万、東にクボー侯爵の一万、北にオーギャッツ侯爵の一万という布陣でサガミールの丘を包囲している。

 

包囲が完了した翌日、誘降の使者を堀の手前で追い返すと、ガリア軍はすぐに総攻撃を開始してきた。堀を渡ろうとしてくるガリア軍に対し、川沿いに作った壕から、すぐに魔法と銃撃と弓矢による迎撃が行われる。

 

サガミールの城兵たちの攻撃はガリア軍の前衛に甚大な被害を与えた。けれど、ガリア軍は大軍だ。倒しても倒してもすぐに後方から新たな敵がやってくる。倒しきれなかった敵兵たちは堀を埋め尽くす勢いで渡ってくる。

 

その最前線がいよいよ堀を渡り切ろうかというところで、シャルロットは岩に偽装された観測所の中から水の使い手リョシューンにオルドナンツを送った。リョシューンはすぐに籠城戦の前から大量に作成しておいたスリーピング・ポーションを堀に放出。同時にそれを媒介にしてスリープ・クラウドで辺りを包んだ。

 

水メイジたちの魔法により堀を渡っている途中で眠らされたガリア軍の将兵たちは悉くが溺死した。サガミールの堀がガリア軍の死体で埋まるほどの大勝利だった。

 

それから三日間は休戦となった。シャルロット側としても大量の死体は伝染病の原因ともなるし、ガリア側も遺体の回収を望んだからだ。堀から遺体を引き上げてガリア軍に向けて引き渡したりと、両軍はある程度の協力をした。

 

そうして、停戦期間が明けると再び攻囲軍による総攻撃が開始された。今度は堀を単純に渡ることはせず、土メイジを動員して堀に土橋を作って攻め寄せてきた。前線に出てきた土メイジを何人かは倒すことができたが、風メイジの護衛も付いていたため、倒しきれない。そうこうするうちにサガミールへと繋がる土橋が完成した。そこに包囲軍の兵士たちが殺到する。

 

今度も敵が渡り終えようというところで、城方は油の詰まった器を括り付けた矢を撃ち込んだ。同時に小さな袋も投げ込む。袋は土橋に落ちると、辺りに黄色い粉を撒き散らす。それはロマリアから輸入された火の秘薬である硫黄だった。

 

シャルロットの指示のもと、マヤーナ男爵をはじめとした火のメイジたちが着火の魔法を使う。その瞬間、ガリア軍の作った土橋の上で大爆発が起きた。

 

爆心地の敵が吹き飛ばされ、周囲の兵たちも事前の矢でばら撒かれた油に引火した炎に包まれる。火だるまになった兵が土橋から堀へと身を投げる。その上に城方は容赦なく矢玉を浴びせかける。

 

せっかく作った土橋で燃え上がる炎と、その中で焼け焦げていく友軍の姿を見て、寄せ手は戦意を失ったようだ。シャルロットたちは、二度目の総攻撃も耐えきったのだ。そして、それ以後は大兵力を押し出しての戦いではなく、搦め手からの戦いに移った。

 

まずは夜間にフライの魔法を使って堀を飛び越えてくる者が現れた。だが、サガミールの地には巧妙に偽装された多数の監視所が設けられている。坑道の入口も隠されており、何よりフライで飛来した少人数のメイジでは兵たちの詰所を落とすことは難しい。逆に坑道などを使って背後に回った城方の兵たちにより殲滅されていった。

 

与えられる被害と受ける被害の差。何より失われるのがメイジばかりという状況に、すぐに包囲軍はメイジによる夜襲を諦めたようだった。

 

続いて敵は堀の下を通る坑道を掘り、地下通路を使って城内への進入を果たそうとしてきた。実はこの方法は、地下を主要陣地とした城を建築すると決めたときから対策を考えていたことだった。

 

ガリアの派遣した軍ならば、多数のメイジが含まれている。ならば、手掘りなどという非効率な方法ではなく、必ず魔法を使って坑道を掘ってくるはずだ。現にシャルロットも多くの土メイジを動員することで短期間でサガミールの丘を要塞へと作り変えたのだから。

 

そのための対策として魔法探知装置を大量に購入し、搬送してすでに地下の各所に設置していた。その装置に反応があったと聞いた瞬間、シャルロットは火のメイジを現場に急行させた。

 

攻囲軍のメイジの使う魔法の反応が近づいてくる。そして、いよいよサガミールの地下施設へと到達するかという段で、地中に置いてあった大量の硫黄を触媒に、火の魔法で爆発を起こさせた。その爆音と地響きはサガミールの丘の逆側からでもはっきりと聞き取れるほどであり、坑道を掘っていたメイジたちは即死した。

 

更に城方は敵の作った坑道を逆に進み、敵陣に踊り入った。そして散々に暴れた後、坑道を埋めて城内に撤退した。

 

それ以後は、敵は兵糧攻めに方針を切り替えたようだった。元々、派遣されてきた三将は官僚寄りであり、敢闘精神には欠けるところがあった。加えて、三人は以前からのライバル関係であり、功を争っている間はよいが、それぞれの陣の被害が大きくなるに従い、逆に攻勢に出る役割を押し付け合うようになった。その結果、攻囲軍の被害を最も抑えられる方策を取ることに決まったのだろう。

 

元より、シャルロットたちの狙いは長期戦だ。そうして、ジョゼフの軍に屈せずに戦い続けることで、他の領主の呼応を誘う。それが元々の作戦なのだから。

 

ここまでは予定通り。けれど、それからが大変だった。

 

城が陥落する原因として無視できないのが内応者の存在だ。そして、その多くは長きに渡る籠城戦による精神的な疲労に起因している。それを防ぐためには、何より城内の将兵たちの士気を高く保つことが必要だ。

 

シャルロットは人付き合いが苦手だ。けれど、そんことは言っていられない。自分に対する忠誠心が、士気を高めるために何より重要だからだ。

 

敵が兵糧攻めの構えを見せる中、シャルロットは城内の各所を回り、積極的に兵たちに声をかけた。自分のことを話す必要はない。籠城戦の中、体調を崩してはいないか、食事や水は不足していないかを尋ね、自分のために戦ってくれていることに礼を言う。それほど多くを語らずとも、基本的には静かに話を聞いていれば、相手は大抵は満足してくれる。

 

そうして籠城戦が一か月を経過した頃、キュルケからシャルロットの母が目覚めたというオルドナンツを受け取った。生憎と期待したような完治には至らなかったようだが、前までのように人形を娘と間違えるようなことはなくなったようだ。

 

できることなら、母に会いにいきたい。けれど、シャルロットのために集い、命を懸けて戦ってくれている一千五百の将兵を見捨てるようなことはできない。

 

再会のときは、この戦に勝ったとき。そう誓ってシャルロットは地面の下での籠城戦を続けた。

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