ガリアの魔王と商人聖女   作:孤藤海

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ガリア統一

周囲の反応で、シャルロットは自分の背後にジョゼフがいることを悟った。加速という虚無の魔法を知ったときから、シャルロットは射出を行う魔法をジョゼフに命中させることを諦め、ひたすらブレイドの魔法の準備に集中していた。

 

ジョゼフが杖の範囲内に入ってくれば、間髪入れずに刺し貫く。そのためのブレイドの魔法を構築しつつ、周囲の音と気配を探る。シャルロットとジョゼフの攻撃では、ジョゼフの方が圧倒的に早いだろう。だが、そんなことは関係ない。今の自分にできる最善がそれだと信じて、ひたすら精神を集中する。

 

そうしてジョゼフの気配に気づいた瞬間、シャルロットはその身を反転させブレイドの魔法を纏わせた杖を振り抜いた。けれど、それより早く、ジョゼフの振り下ろす短剣が自分の首に当たるのをシャルロットはその目で確認した。

 

シャルロットの首から鮮血は散らなかった。短剣は首に当たったところで動きを止めており、代わりにシャルロットの手首に巻き付けられていたお守りが弾け飛んだ。そして、その直後、ブレイドの魔法を纏ったシャルロットの杖が、ジョゼフの胸を貫いた。ジョゼフがよろめき、二歩、三歩と下がった後、仰向けに倒れた。

 

「今のは……何だ?」

 

「異国の友人がくれたマジックアイテム。わたしの身を守ってくれるもの」

 

「そうか……友人か……友人の差で負けるのなら、それは仕方がないな」

 

冷静に考えれば、あの危険な虚無の魔法でシャルロットを道連れする可能性などを考えて一刻も早く止めを刺すべきだ。けれど、なぜかジョゼフにはそんなつもりは全くないということがわかってしまったのだ。

 

ジョゼフが友人と過ごしているという場面を、シャルロットは見たことがない。側に侍る佞臣はいても、忠言をくれる臣も相談のできる誰かもジョゼフにはいなかった。

 

「わたしには、わたしのために命を懸けてくれる多くの友人がいた。だから、わたしはここまで戦ってこれた」

 

キュルケもローゼマインも、ルイズとサイトも、ギーシュやモンモランシーにしても何の得もないばかりか、むしろ国から追われる立場になるかもしれなくとも、シャルロットのために戦ってくれた。そして、今はカステルモールやアルヌルフ、クリステル、モローナたちなど、多くの忠臣がシャルロットを支えてくれている。

 

「ジョゼフ、この戦いはわたしの勝ち」

 

「ああ、そうだな。俺の負けだ」

 

ジョゼフの声は妙に清々しく聞こえた。その声を聞いて、初めてジョゼフが今まで正気ではなかったことを悟った。

 

「最後に何か言い残すことは?」

 

「そうだな、お前の母のことだが、ベルサルテイルの礼拝堂に一人のエルフがいる。お前は顔を覚えているはずだ。そいつに、俺からの最後の命令だと言って、薬を調合させろ。それで母の心は元に戻るはずだ」

 

「イザベラに対しては何かない?」

 

「ないな」

 

「わかった。カステルモール、一息に止めを」

 

シャルロットが命じるとカステルモールは素早くジョゼフの傍らに移動して、その首を落とした。

 

「南朝の王、ジョゼフは死んだ。南朝の兵たちは武器を捨てよ。投降した者については命までは取らぬ。あくまでも抵抗するのなら、容赦はしない!」

 

シャルロットがそう叫ぶと、同じ言葉を吹き込んだオルドナンツが前線に向けて一斉に放たれた。これで突然の大魔法により動揺している味方も落ち着くだろう。

 

「ジョゼフの虚無で多くの負傷兵が出たはず。わたしの守りは護衛騎士だけでいい。後方のシバー伯爵の軍は前線の救援に向かわせて」

 

そう指示をして、その日の進軍は停止して、まずは負傷兵たちの救助に全力を尽くすことになった。そうして迎えた日没後の軍議で、南朝方の兵は大半が投降をしたと報告がされる。続いて、リュティスに残っていたジョゼフの娘であるイザベラが降伏の意を伝えてきたという報告も届いた。ここまでは吉報といえた。

 

吉報もあれば凶報もあった。それは、これまで北朝の主力を成してくれていた五色備えの筆頭、モローナ侯爵が戦死していたというものだった。また、シャルロットの率いてきた五万のうち、実に一万近くがジョゼフの虚無で戦死したということだった。しかも、そのうちには名も判別できぬ黒焦げの死体が多くあるということだった。

 

「貴族はともかく平民は誰が戦死したのか確認するのも難しそうですね」

 

貴族については、シャルロットの方でも誰が参戦しているのか把握できている。けれど、貴族に従っていた兵たちや貴族に雇われた兵などは、部隊ごと全滅していれば、誰が戦場にいたのかすら、はっきりとしない。

 

「ともかく五色備えは維持しなければならない。アルヌルフ、引き受けてもらえる?」

 

「モローナ侯爵の代わりができるとは思えませんが、全力を尽くさせてもらいます」

 

「引き受けてくれたこと、感謝する。それではアルヌルフ伯爵、現時点をもってわたしの護衛騎士を解任する。以後は赤備えの再建に力を尽くしてほしい」

 

「かしこまりました」

 

モローナ侯爵はガリアでも屈指の戦上手だった。はっきり言って後任は誰でも苦労することになるだろう。年長のアルヌルフの経験は護衛騎士としても心強かったが、大軍を率いるとなると彼以上の適任は思い浮かばなかったのだから仕方がない。

 

翌日、未だ負傷者の手当てと救助が終了していないシバー、マヤーナ、リョシューンの各隊は城外に残し、直属の軍のみを率いてシャルロットはリュティスへと入った。イザベラはガリア王族が暮らすベルサルテイル宮殿前で、大臣たちとシャルロットを待っていた。

 

「イザベラ、まずはリュティスの街に住む多くの民を巻き込んだ戦をすることなく、潔く降伏してくれたことを感謝する」

 

「父の仇に感謝してもらう筋合いはございません。わたしは正統なるガリアの最後の王族としての務めを果たしたまでです。さあ、どうぞ父にしたように娘のわたしも、その呪われた魔法でヴァルハラへと送ってください」

 

「その覚悟は見事。だが、そう死に急ぐこともあるまい。其方の処分は後に決定するゆえ、しばらく城の一角で謹慎しておられよ」

 

イザベラたちを配下に任せてシャルロットはベルサルテイル宮殿に入った。まず向かうのは母の心を元に戻すための薬を作れるというビダーシャルの元だ。そのビダーシャルはジョゼフの命令だと伝えると、あっさりと薬を作ることを約束してくれた。

 

「あなたはなぜ、ジョゼフに協力をしていた?」

 

「我の望みは、我らの聖地に悪魔の末裔が近づくことを防ぐこと。ジョゼフはそれを約束してくれていた」

 

あまりにも簡単な条件に、しばしシャルロットは言葉を失った。

 

「そんな簡単な条件なら、わたしも引き続き協力できる」

 

「どういうことだ?」

 

「教皇のエルフとの戦いにガリアは協力をするつもりはない。ガリアの民を無意味な戦で散らすようなことは、わたしにとっても許容できないこと。わたしはジョゼフのように虚無を使うことはできないけど、ガリアには虚無の担い手にとっては絶対に必要な指輪と始祖の秘宝がある。それを教皇には渡さないと、わたしは誓おう」

 

ジョゼフが持っていた土のルビーは回収している。そして、元はアルビオンに伝わっていた風のルビーもガリアが回収している可能性が高い。同じく始祖の秘宝も最低一つ、上手くいけばアルビオンの秘宝もすでに入手済だろう。

 

「その見返りに、お前は何を求める?」

 

「ガリアを豊かにするためにエルフの知恵をわたしに貸してほしい。ガリアが強ければ強いほど、教皇は影響力を発揮しにくくなる。そうなれば、教皇もエルフの土地への遠征を諦めざるを得なくなる」

 

「……いいだろう。嘘か真かしばらく様子を見させてもらおう」

 

ビダーシャルと話を終えると、シャルロットはそのままカステルモールたちと会議室へと入った。

 

「殿下……いえ、陛下、あのような怪しいエルフを信用してよろしいのですか?」

 

「信用はしない。けれど、利害が一致しているのも確か。教皇という共通の敵がいる間は協力関係を築けると思う。ジョゼフができたのだから、わたしにできない理由はない。それよりも、わたしはイザベラを味方に引き込みたいと思う」

 

「イザベラを!? 御父上の仇の娘ではありませんか!? しかも、イザベラにとっても陛下は父親の仇です。とても味方に引き込めるとは思いません」

 

カステルモールは常識的な人間だ。だからエルフに対しては理由はなくとも反感を抱いている。けれど、イザベラに対する反応はエルフ以上だった。

 

「そうでもない。イザベラとジョゼフの間に親子と言えるだけの交流はなかった。ジョゼフは娘に対して愛情を持っていなかったし、イザベラの方も父親という響きに親近感は覚えていても、真に愛情までは持っていないと思う」

 

「それはそうかもしれませんが、しかし、なぜ危険を冒してまでイザベラを味方に引き込まねばならないのですか?」

 

「わたしには、何かがあったときに後を継いでくれる親族がいない。今の状態ではわたしに何かが起きたとき、後継者の座を巡って争いが起きてしまう」

 

「ですが、それでは陛下が危険です」

 

「危険は承知。それよりも、わたしはガリアの安定を取る」

 

もしもシャルロットがジョゼフとの戦いを始めなければ、昨日の戦いでの一万五千もの死者も、その前の両用艦隊の死者も、トーナミ川での死者も、シャルロットの知らないところで起こった北朝の貴族と南朝の貴族の戦いでの死者もなかったのだ。多くの死を生んだシャルロットには、これ以上ガリアの民を無駄に死なせない義務がある。

 

側近の同意を取り付けたシャルロットはすぐにイザベラを呼び、力を貸してほしいと伝えた。話し合いは多少は難航したものの、イザベラは最後には協力を約束してくれた。

 

他にもキュルケとコルベールを勧誘してガリアに移籍してもらった。そして様々な任を担ってくれていたマチルダも正式にガリアで登用することになった。キュルケについては相談役として側に控えてもらい、コルベールとマチルダは再編したアカデミーの所長と副所長に就いてもらった。

 

こうしてシャルロットは南北に別れたガリアを統一し、女王としての道を歩み始めた。




今後の章割り
・第二章 ロマリアの謀略(9話)
・第三章 宗教戦争(18話)
・第四章 変わるガリア(6話)
・終章  エピローグ(3話)

一応、最後まで書き終えていますが、誤字チェックや推敲の時間を十分に取るために今後も週三回投稿と考えています。
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