ガリアの魔王と商人聖女   作:孤藤海

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ロマリアの謀略

ジョゼフを破り、イザベラを降してリュティスに入ったタバサは、これより三日以内に投降すれば命は助けるが、以後は一切の降伏を認めないという触れを出した。もはや勝ち目はないと見た多くの貴族は投降をしたが、三家だけ、あくまで抵抗を続けた貴族もいた。

 

タバサはそれら三家の領地にシバー侯爵、マヤーナ伯爵、リョシューン伯爵の三将にそれぞれ一万の兵を与えて、いずれの貴族の城も二日とかからずに攻略した。その際には城にいるものは貴族だけでなく平民の使用人たち、果ては犬猫に至るまで悉くの誅殺をした。あくまで逆らう者には容赦はしないというタバサからの強烈なメッセージだった。

 

こうしてガリアを統一したタバサは新政権の樹立に取り掛かった。軍事に関しては五色備えを率いてきた各将軍がそのまま要職に就くことになったが、政治に関してはそうもいかない。城勤めをしていた者は最後まで南朝に仕えた者も多かったが、執務を円滑に回すためには彼らを登用するしかなかったのだ。その結果、城内の危険度が増したため、護衛騎士を増員せざるをえなくなった。

 

その一方、イザベラはタバサに仕えることを了承してくれた。彼女はタバサの母とも面識があったようで、今はタバサ親子やあたしたちと一緒に食事も取る重臣になっている。

 

そうして新たな体制を整えたタバサだったが、全てが思い通りにはいかなかった。その筆頭が補佐兼連絡役としてロマリアから送り込まれた助祭枢機卿バリベリニ卿だ。

 

モデルとなったのはトリステインのマザリーニだ。今回の統一戦争を戦い抜くにあたりタバサはロマリアから大量の借財をせざるを得なかった。トリステインにならってガリアでも是非にとのロマリアの要請を断り切れなかったのだ。

 

ロマリアはいずれ聖戦のために、ガリアに協力を要請してくる。四の四が揃わないからといって、あのロマリアが諦めるとは思えない。伝説の力が失われたのならば、現実の力を集めて、野望を実現するに違いない。その現実の力に一番適しているのが、大国ガリアの軍であることは、まず間違いないことだった。

 

この前の戦では多くの将兵が亡くなった。彼らはタバサとジョゼフというガリア王族の内紛に巻き込まれたようなものだ。もう二度と、無意味な戦でガリアの民の命を散らせるようなことはしない。タバサがそう誓っていたことを、あたしは知っている。

 

その誓いを守るために、タバサは多用してはならないと封じていた手段を解禁することにした。それはティファニアの忘却の魔法を使って相手の秘密を聞き出すという手段だ。

 

タバサは密かにトリステインからティファニアを呼び寄せると、バリベリニ卿の信仰心と忠誠心を忘却させた。そうして尋問をした結果、得られたのは恐ろしい計画だった。実はタバサには双子の妹がおり、その妹が生きているということだった。しかも、そのタバサの双子の妹は、虚無の担い手である可能性が高いという。

 

ジョゼットという名のタバサの妹がいるのは、セント・マルガリタ修道院という場所で、そこでは様々な事情でガリア国内で生きていけない者たちがひっそりと暮らしているということだった。そのジョゼットを修道院から連れ出してタバサの替え玉にして、ガリア自体をロマリアの傀儡国家とする。それがロマリアの計画だった。

 

「教皇はガリア全ての民を己が野望のための捨て石にするつもりか」

 

バリベリニ卿の言葉を聞いたタバサは見たこともないほどの怒りを見せていた。ガリアの民を守る、それは先の統一戦争を経た今のタバサが何よりも優先していることだ。

 

ジョゼットが王位に就くということはガリアの民がロマリアの野望のために好きなように扱うことができるようになるということ。それは絶対に許容できないことだ。

 

「始祖の降臨祭の前にバリベリニの手引きにより進入したジュリオがわたしを誘拐。そして偽りの王として、わたしの双子の妹であるジョゼットを立てる。それがロマリアの立てた計画」

 

タバサはすぐにあたし、ジャン、マチルダ、イザベラ、カステルモール、クリステル、旧オルレアン派の文官ジェローム、モルガンの八人だけを集めた会議を行った。ジェロームとモルガンはリュティスに入ってから知ったが、城の様子を密かにカステルモールたちに流し続けてくれていた忠臣らしい。そして、八人だけにロマリアの計画を知らせての対策会議を始めた。

 

「しかし、よく妹君の件が今まで発覚しませんでしたな。双子で、入れ替えを行うつもりだということは容姿は大変似ているのでしょうに」

 

タバサからバリベリニ卿の計画を聞いたジェロームが不思議そうに首を傾げる。

 

「どうやらセント・マルガリタ修道院では出自を隠すため容姿を変えるマジックアイテムが使われているらしい。急いで兵を送って現物を一つ、取り寄せてみたけど、本当に別人のようになった。あれならわたしとの血のつながりなど、誰も想像すらしないと思う。逆に言えば、そのようなマジックアイテムを使わねばならないほど似ている可能性は高い」

 

「いかに見た目が似ていても、サガミールの丘での長き籠城戦の折から陛下にお仕えしてきた我らが、姿が似ているだけの別人と入れ替わっていることに気が付かぬと、ロマリアは本気で思っているのか?」

 

一方、武官であるカステルモールは静かに怒りに震えていた。

 

「陛下の妹君は修道院で暮らしているということ。ガリア統一戦争を戦い抜き、今は執務に励まれている陛下の代わりができると考えるほど、ロマリアも馬鹿ではありますまい。それでも、陛下の身柄さえ押さえておけば、我らは反抗できぬと考えているのでしょう」

 

「ジェロームの言う方法ともう一つ、ロマリアはわたしの母にジョゼットをわたしだと認めさせるつもりでいる」

 

ガリア王族にとって双子は禁忌。産まれた子が双子ならどちらかは殺されるのが習わし。けれど、タバサの母は双子の妹の方を殺すことができなかった。だから、人目の届かぬところに送ることによって命を助けたのだという。

 

「産まれたばかりの子を殺せなかった母上が、目の前に現れた行き別れた娘を殺すことになる選択ができるとは思えない。だから、予め皆には伝えておく。もしもわたしが誘拐されるようなことがあれば、そのときは速やかにジョゼットを殺害してイザベラを王位に就けてほしい。何があろうとロマリアにガリアの実権を握られることだけは阻止せよ」

 

「陛下を誘拐など、我らが絶対に許しはしません!」

 

「ありがとう、クリステル。だけど、虚無の力はわたしたちでは計れない。特にロマリアの教皇ヴィットーリオの虚無は移動系だという。わたしだけをどこか別の場所に飛ばしてしまう魔法もないとは言い切れない」

 

実際に虚無の魔法、加速を使ったジョゼフの攻撃からカステルモールはタバサを守ることができなかった。けれど、それは心配ないはずだ。

 

「もしもそんな便利な魔法があるのなら危険を冒してジュリオは進入なんかしてこないでしょ? 少なくともジュリオに接近さえさせなければ、問題はないはずよ」

 

あたしが言うと、皆も対ジュリオに絞って対策を考え始めた。

 

「ヴィンダールヴであるジュリオの竜を操る技術はかなりのものだとルイズから聞いた。だから、勝負は彼が竜から降りてわたしの部屋に入ってくるときだと思う」

 

「でしたら、室内には必ず三人以上の女性騎士を待機させるようにいたしましょう」

 

「それなら、しばらくはあたしも同じ部屋で寝ることにするわ。あたしなら、トリステインにいる頃、何度か一緒に寝たこともあるから大丈夫でしょ」

 

「いや、キュルケは一緒に寝ないでほしい」

 

意外な言葉にあたしは目をしばたたいた。

 

「理由を聞いてもいい?」

 

「わたしはキュルケのことは見捨てたくない」

 

それは自分の護衛騎士たちはいざとなれば切り捨てるということだろう。非常なようだけど、王が自分を守る騎士を気にしすぎたら、騎士の方も王を守りにくい。

 

「そう、それなら仕方がないわね」

 

あたしがいると、むしろ余計な気を回さねばならないようなら逆効果だ。あたしは今回の護衛からは身を引くことにした。

 

「大丈夫、手は考えてある。これを使えば敵を欺ける。だから、キュルケは何があろうとわたしを助けにはこないこと」

 

タバサが見せたのはセント・マルガリタ修道院で使われていたという、姿を変えることができるというマジックアイテムだった。そうしてタバサはあたしたちにだけ計画を話してくれたのだ。

 

あたしの話をそこまで聞いたローゼマインはすっかり厳しい顔つきになっていた。空気を変えるために、あたしは敢えて明るい声で言った。

 

「そういうわけで、今はローゼマインたちはタバサには会わせられないわ。ジュリオを警戒させちゃうからね。たぶん、一両日中には動きがあると思うから。それまではアカデミーの中で本でも読んで過ごしていてくれる?」

 

あたしの提案は、ローゼマインに大変に喜ばれた。地位が上がっても、本狂いはどうやらそう簡単には治らないらしい。

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