ガリアの魔王と商人聖女   作:孤藤海

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艦隊戦

ガリアとロマリアをつなぐ“虎街道”は左右を切り立った崖に挟まれた幅数十メイルの細長い街道だ。当然ながら展開できる兵力は限られ、守るに易く、攻めるに難い要衝だ。正攻法では双方に多大な犠牲を生む消耗戦になるのは目に見えている。

 

だから、あたしたちは虎街道を空軍戦力を用いて突破することにした。道幅が狭いということは、退避する場所も限られるということだ。空からの砲撃に虎街道は強くない。

 

けれど、ロマリア側もそんなことは百も承知だ。ロマリア側も艦隊を虎街道上空に展開してきた。艦数は四十隻ほど。再建された両用艦隊の戦闘艦は八十隻ほどだから艦数では半分ほどに過ぎない。けれど、ロマリア側は親造の艦が多く士気も旺盛。更にはロマリアには独自の空軍戦力としてペガサス部隊がある。

 

ガリアの各艦には対空装備として“空飛ぶヘビくん”が装備されている。これでペガサス隊に対する防衛力はかなり高まっている。

 

それでも、あたしたちの騎獣部隊に手痛い打撃を受けた記憶は両用艦隊の皆にとっては新しいものらしく、緊張感は強い。既存部隊であるペガサス部隊への対応訓練は両用艦隊も行っていると聞いてはいるが、ガリアとロマリアはこれまでは同盟国であったため、実際の交戦経験はないのだ。その緊張感がどのように作用するかも不明だ。

 

総じて見れば、やや有利ではあるものの油断はならない戦い。それがガリア首脳部がこの戦いに対して下した評価だ。

 

そうした評価に基づき、あたしは軍監として旗艦シャルル・オルレアンに乗り込んでいる。他にジャンも同様の役職で第二戦隊の旗艦ロレーヌに乗艦している。他にいざとなれば戦闘に参戦できる騎獣持ちの貴族は、ほとんどが艦に乗り込んでいる。

 

「キュルケ殿、あと三十分で虎街道上空に差し掛かります。上甲板までお越しください」

 

「ありがとう、ヴィレール少尉、すぐに向かいます」

 

部屋の扉を叩いた士官にそう答えて、キュルケは上甲板に上がった。甲板上の指揮所には艦隊司令のクラヴィル卿の他、艦隊参謀のリュジニャン子爵、シャルル・オルレアン付きとしてキュルケと一緒に派遣されたソワッソン男爵がいた。

 

「キュルケ殿、偵察に出た風竜からの報告によると、ロマリア艦隊は予想通り虎街道上空に単縦陣で布陣しているようです。我らは艦数の差を生かして同じ単縦陣にて反航戦での戦いを挑みますが、それでよろしいですか?」

 

「わたくしは艦隊戦に詳しいわけではございません。わたくしの役職については飾りのものと考えて、単なる騎獣持ちの戦力の一人と考えてくださって構いません。実際の戦闘に関してはクラヴィル卿にお任せいたしますわ」

 

「私に関しても同様にお考えいただいて結構」

 

「わかりました。では、主に敵のペガサス部隊に取り付かれそうなときにはお力をお借りさせていただきます」

 

クラヴィル卿がそう答えたところで、あたしはソワッソン男爵と一緒に少し離れる。両国の艦隊の間で遠距離での砲撃戦が行われている間は、指揮所にいても邪魔になるだけだ。

 

「敵のペガサス部隊が接近してきた場合には、まずは私が向かいます。キュルケ殿はしばらくは出撃を控えていてください」

 

「わかりました」

 

そもそも多くの艦が“空飛ぶヘビくん”を発射している中では騎獣で飛ぶことはできない。それでも敵が艦の近くまで接近してきた場合には出撃した方がいいはずだ。それでも、あたしの騎獣での出陣をなるべく見合わせろという指示はタバサの意向をくんだものだろう。ここで断るのはソワッソンに迷惑となるだけだ。

 

あたしたちが話している間にもガリアとロマリアの両国の艦隊の距離は詰まってくる。ガリア側は第二戦隊を先頭に第一戦隊、第三戦隊の順で従陣を組み、敵艦隊に砲撃戦を仕掛ける。第四戦隊は多数のペガサス部隊を擁するロマリアの奇襲を警戒して非戦闘艦の護衛に残すため戦闘には不参加だ。

 

接敵を前にガリア艦隊からは竜騎士隊が、ロマリア艦隊からはペガサス部隊が飛び立ち、互いを牽制しあう。そしてついに、第二戦隊の先頭を進む防空巡洋艦アルマが敵の空軍部隊に対して“空飛ぶヘビくん”を発射。続いて、通常の散弾を用いて対空射撃を開始した。

 

見たことのない兵器で仲間二騎が撃ち落とされたのを見て、ロマリアのペガサス部隊は距離を取った。アルマの空けた敵空軍の穴を進み、第二戦隊の各艦が次々に砲撃を開始する。両艦隊の間で砲弾が飛び交い、被弾した艦が進路を変えて離脱を図る。ガリア艦隊からも六隻が黒煙を上げて戦場から離脱した。双方ともに今は目の前の敵に忙しいため、離脱した艦は放置して目の前の敵に集中している。

 

「本艦隊も間もなく敵艦隊を射程に収めます」

 

「全艦、砲戦準備!」

 

クラヴィル卿が声を張り上げると、マストに旗流信号が掲げられ、旗艦の命令が各艦に伝えられる。艦の皆に緊張感が満ちるのがわかった。『シャルル・オルレアン』の率いる第一戦隊において、旗艦は防空巡洋艦ジャンヌに続く二番手。比較的射程の短いジャンヌに対してシャルル・オルレアンは長大な砲を多数、配備している。ジャンヌは対ペガサス隊に集中するため、砲撃はシャルル・オルレアンから開始される。

 

「砲撃開始!」

 

クラヴィル卿の指示の元、シャルル・オルレアンが砲撃を行った。轟音とともに艦が右側に大きく傾いた。

 

「艦の態勢、戻せ! 次弾装填! 装填後は準備が整い次第、一斉射撃! 砲甲板の各砲術士官は連携を取って砲撃のタイミングを合わせよ!」

 

クラヴィル卿が叫ぶ間にもロマリア艦隊からも砲撃が返される。

 

「ロマリア艦隊は本艦に砲撃を集中させている模様!」

 

次から次へと飛来してくる砲弾に、リュジニャンが悲鳴のような声を上げる。さすがに旗艦だけあり、大型の上に多くの風メイジが防御魔法を唱えているが、それでも船首近くの砲甲板と船尾下部に被弾をしていた。

 

「本艦はそう簡単には沈まん! シャルル・オルレアンに攻撃が集中するなら好都合! 各艦は本艦を囮に全力で攻撃を加え、敵艦隊を撃滅せよ! 三度も無様な戦をすることは許されんと思え!」

 

クラヴィル卿が言った無様な戦の一度目と二度目はあたしたちとの戦いのことだろう。もしもここで戦力的に優位にありながらロマリア艦隊に負けるということは巨費をかけて建造された両用艦隊が張子の虎であったと言っているに等しい。両用艦隊各員の本戦にかける思いは想像以上に強かったようだ。

 

あたしも風魔法は苦手ながら艦の防衛に参加する。その間にも第一戦隊に所属する各艦はロマリア艦隊に向けて猛烈な射撃を加える。第一戦隊の各艦は反撃を考慮せず、できる限り接近しての射撃を試みる。

 

たまらずロマリア艦隊の各艦が他の艦に狙いを移すと、今度はシャルル・オルレアンが射撃を開始する。一隻単位ならオルドナンツを使って素早く命令を伝えられるガリアに対し、ロマリアは旗流信号か発行信号しか命令伝達手段がない。即応力ではガリア艦隊が圧倒的に優位だ。

 

やがて艦隊の先頭を進んでいた第二戦隊のアルマから回頭開始というオルドナンツが届いた。どうやら第二戦隊はロマリア艦隊の最後尾の艦まで進むことができたようだ。これから第二戦隊は敵艦を追いかけての同航戦に入る。今のところ、第二戦隊の旗艦ロレーヌが撃沈されたという連絡はない。

 

きっとジャンは大丈夫だ。それより今は自分のことだ。ジャンのことに気を取られている間にシャルル・オルレアンが直撃弾を受けて、あたしが戦死なんてことになれば、ジャンは絶対に気に病んでしまう。魔法学院の生徒たちが亡くなったときもジャンは気に病んでいたのだ。同じような思いはさせない。

 

「ええい、いつまでも鬱陶しい!」

 

苦手な風魔法で参加していたものの、あたしの防御への貢献なんて微々たるもの。それよりも得意の火魔法を使った方がいい。そう判断して敵艦に向けて巨大な火球を飛ばす。距離が離れすぎて、さすがに後から軌道を変化させることはできない。命中弾となることはないだろうけど、回避のために回頭を行って、それで狙いがずれてくれれば十分。

 

「あたしは、ここで死ぬわけにはいかないのよ」

 

トーナミ川で精神力不足を助けてくれた回復薬はない。それでも敵艦隊とはすでに半数以上とすれ違っているのだ。ここからなら、もってくれるはずだ。ガリア統一戦では何度も精神力が空になるまで魔法を使ったのだ。おかげで自分の限界はわかっている。

 

それからあたしは、敵艦に向けて精神力の続く限り火魔法を放ち続けた。

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