ガリアの魔王と商人聖女   作:孤藤海

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ハルケギニアの祈念式

イザベラたちと一緒に満たした小聖杯を持って、わたしたちはガリアが設定した祈念式の会場へと向かっている。先日、火竜山脈で一度目の隆起が発生したという連絡を受けた。それを受けてイザベラは土魔法に長けたマチルダを隊長とした調査隊を出発させている。イザベラ本人も祈念式が終わり次第、現地に向かうことになっている。

 

今回の祈念式は延期も検討されたが、わたしがハルケギニアにいられる時間は簡単には伸ばせないと、イザベラは隆起が発生した場所の調査より祈念式を優先してくれた。わたしとしては、その期待になるべく応えたい。

 

祈念式を執り行うのはわたしとイザベラとブリジットだ。モルガンは儀式自体には参加せず、ハルトムートの解説のもとメモを取ることに専念する。ちなみにジェロームは留守役としてリュティスに残り、アルフォンスは外務卿としてトリステインに向かった。

 

「奉納式で小聖杯に満たした魔力を、祈念式で土地に満たすのです。魔力に満たされた土地は農作物の収穫量が増えます。このことはイザベラ様はご存知だと思いますけど、現地の人たちにはどこまで知らされているのでしょうか?」

 

「今のところは土地の収穫量を上げるための試作のマジックアイテムと説明をしています。ハルケギニアでも土壌改善の魔法がありますので、その方が理解が早いと思いましたので。それに、ローゼマイン様も懸念をされたようにユルゲンシュミットでは効果を発揮しても、ハルケギニアでは思うような成果が得られないこともありますので」

 

そう答えたイザベラにモルガンが補足を加える。

 

「仮に祈念式を行ったことで逆に収穫量が下がるような事態となった場合には、ガリア王家でその低下分を補填することを約束しています。ひとまずは三箇所ですから、イザベラ様もローゼマイン様も気楽に取り組まれてください」

 

その後はブリジットが今回の三箇所を選定した理由、比較検証を行うための類似の土地などについて説明をしてくれた。三箇所はそれぞれ主に育てている作物も違うらしい。それらを通して、祈念式の効果がすべての農作物に均一に現れるものなのか、それとも品種等によって違いが出るのかも調べるつもりのようだ。

 

「わたくしのアレキサンドリアはまだ祈念式による農作物ごとの収穫量の差異の情報はないのですけど、実家のエーレンフェストなら、それらの情報も持っているはずです。次回、こちらに来るまでに、わたくしの方でも調べておきます」

 

アレキサンドリアの前身のアーレンスバッハは魔力不足が酷い状態だった。その後は女神様の魔力を用いて一気に土地に魔力を満たした。そのような特殊な事情のある土地との比較となるので、アレキサンドリアの収穫量の情報は当てにならない可能性もある。それよりもエーレンフェストの方が的確な情報を持っているはずだ。

 

幸い、エーレンフェストにはわたしの側近の文官であるフィリーネがいる。彼女に調べてもらえばいいだろう。国外に内政の情報を流すことにもなるが、身内には甘い部分もある養父のジルヴェスターならばアレキサンドリアの来年の収穫量の予測の参考にするためと言えば、拒絶はされないと思う。

 

そのような打ち合わせをしているうちに、祈念式の会場に到着した。ちなみに今回は裾の長い神殿長の儀式服ではないので、普通に歩いて設けられてある舞台に向かう。

 

「癒しと変化をもたらす水の女神フリュートレーネよ。側に仕える眷属たる十二の女神よ。命の神エーヴィリーベより解放されし御身が妹、土の女神ゲドゥルリーヒに新たな命を育む力を与え給え。御身に捧ぐは命喜ぶ歓喜の歌。祈りと感謝を捧げて清らかなる御加護を賜わらん。広く浩浩たる大地に在る万物を御身が貴色で満たし給え」

 

祝詞を唱えながら、小聖杯の中に満ちる緑に光る液体をたらす。地面の黒が少し濃さを増した気がするけど、それほど大きな変化ではない。

 

「最終的な結果は収穫期を待ってみなければわかりませんけど、ここではあまり大きな変化はないかもしれませんね」

 

「イザベラ様はこの結果を予想されていたのですか?」

 

「はい、ここはガリアでも有数の穀倉地帯の一角なのです。元から土地は肥えていましたし、増加するにしても限度はあるのではないかと予想されていました」

 

いくら魔力を注いだとしても、その植物の限度までしか成長しない。人の背丈ほどが最高の植物が大木になることはないのだ。

 

「それでは、これから回る先は痩せている土地もあるということですか?」

 

「はい、効果を最も測りたいのは、その場所ですね。では、次に回る場所は中間の場所ということですか?」

 

「そうです」

 

「では、次の祈念式はイザベラ様が執り行ってみてはいかがでしょうか? すでに小聖杯に魔力は満たされていますので、祈念式自体にはそれほど魔力は必要ありません」

 

実際にはそれなりに魔力は必要になるが、イザベラも二度目の魔力の奉納の際には最初に比べて随分とスムーズになっていた。今度は一人でも大丈夫なのではないだろうか。

 

「確かにローゼマイン様に見ていただいている状態で行える祈念式は今回が最後になるかもしれません。わたしの方こそ、お願いさせていただいてよろしいでしょうか?」

 

「はい、何か問題がないか、しかと隣で見させていただきますね」

 

そう約束して、次の祈念式の場に向かった。次の祈念式の会場の農村は、確かに先の農村に比べて足元の土がぱさついているように見えた。

 

「本来の祈念式では暗唱をするのですけど、今回はこちらのメモを見ながら祝詞を唱えていただければ良いでしょう」

 

わたしが手渡したメモを見ながら、イザベラが祝詞を唱える。よく考えてみれば、ここはユルゲンシュミットではないので祝詞は必要ないかもしれないけど、さすがに祝詞の有無と効果までは今回の検証対象とはしない方がいいだろう。

 

祝詞を唱えたイザベラが小聖杯の中に満ちた緑の液体を大地に垂らす。すると、これまで水気が少なかった地面は黒く色を変えた。今回は変化が目に見えたこともあり、同じ舞台の上に立っているブリジットも目を見開いている。

 

「やはり元の土地の状況が悪いほど、効果も大きいようですね。正確な評価は収穫まで待つ必要がありますけど、なるべく土地が痩せているところを優先した方がいいのかもしれませんね」

 

とりあえず、そう評価をして最後の祈念式の会場へと向かった。そこでは、比較実験を優先してわたし一人で祈念式を執り行った。そこでは少しひび割れたような土が見る間に色を変えて、薄っすらと下草すら生えさせていた。

 

そして、そこで儀式の様子に興奮してしまったハルトムートとクラリッサが余計なことを言った。二人はわたしの土地再生の儀式のことを口にしてしまったのだ。

 

「それは一体、どのような儀式なのですか?」

 

そうすると、当然ながらどうやって収穫量を上げたらよいか、悩んでいるイザベラたちは興味を持つ。

 

「わたくしたちの国には、土地の魔力を奪ってしまう魔獣がいるのです。そういった魔獣により荒らされてしまった土地を再生するための儀式なのです」

 

仕方なくわたしは儀式のことを説明する。そうすれば見てみたいと思うのが人情というものだろう。結局、わたしは魔力消費も大きく、普段はそう使うものではないと前置きをした上で披露することになってしまった。

 

わたしたちは痩せた土地が多い村でも、更に外れに位置している荒れ地に移動した。そこでシュタープをフリュートレーネの杖に変える。

 

「癒しと変化をもたらす水の女神フリュートレーネよ、側に仕える眷属たる十二の女神よ、我の祈りを聞き届け、聖なる力を与え給え。魔に属するものの手により、傷つけられし御身が妹、土の女神ゲドゥルリーヒを癒す力を我が手に。御身に捧ぐは聖なる調べ。至上の波紋を投げかけて、清らかなる御加護を賜わらん。我が望むところまで御身が貴色で満たし給え」

 

祝詞を唱えて荒れ地に杖をつくと、はめ込まれた大きな緑色の魔石が強い光を放る。魔力が渦巻き、わたしを中心に風が起こった。黒い土の部分が音を立てるような勢いで広がり、見る見るうちに新緑が芽生えて広がり、伸びていく。それを見ていたイザベラ、モルガン、ブリジットから驚きの声が上がる。

 

普段の再生の儀式では草が足首丈くらいまで伸びるまで魔力を注ぐが、今回の場所はできれば農地にしたいはず。あまり多くの草は邪魔になるだろう。わたしは魔力を注ぐのを早めに切り上げた。

 

「このような感じです。イザベラ様」

 

儀式を終えた土地を見てイザベラたちが目を輝かせている。

 

「この儀式があれば、急速に農地を広げることができるでしょう。けれど、この儀式を多用して農地を広げるという行為はユルゲンシュミットでも行われていません。その意味をよく考えてくださいませ」

 

わたしはひとまず、消費魔力が多すぎて何度も行える儀式ではないことを改めて釘をさすことになった。それもこれもハルトムート夫婦のせいである。

 

儀式を行うとき、予め二人にはしっかり釘を刺しておかなけらばならない。そう誓いを新たにした祈念式だった。

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