ガリアの魔王と商人聖女   作:孤藤海

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敗戦の報

祈念式を終えたわたしたちは、イザベラと一緒に大隆起が発生した火竜山脈の調査に赴いていた。現地ではすでにマチルダがガリアのアカデミーに所属するメイジを率いて調査を実施しているはずなので、まずはその調査団に合流することにする。

 

「リーゼレータです。マチルダ様、現地付近に到着しました。ロートを打ち上げますので、見えたなら方向を指示してくださいませ」

 

リーゼレータがオルドナンツを飛ばしてから少し待ってレオノーレがロートを上空に打ち上げる。赤い光が上空に昇って少し、マチルダからのオルドナンツが帰ってくる。

 

「マチルダだ。太陽を基準に右に四十五度の方向だよ」

 

レオノーレが指示してくれた方向に飛んでいくと、すぐにマチルダの騎獣が見えた。そちらに向けて飛んでいると、上空に何かがあるのが見えた。

 

それは山脈の一部だった。事前に聞いていた通りではあるけど、本当に山の一部が空を飛んでいるというのは壮観だった。その中で、大地を持ち上げる風石が淡い輝きを見せている。わたしは麗乃時代の記憶にある空に浮かぶお城の話を思い出して微かに興奮すら覚えていたけど、この地に生きる人たちにとっては一大事なのだ。務めて顔に出さないようにした。

 

「あれが大隆起が起こった後の大地の姿なのですね。あそこで生息していた生物は生存ができているのでしょうか?」

 

「さあね。今のところはそこまで調査の手を回す余裕はないよ。まずはあっちの調査が優先なものでね」

 

そう言ってマチルダが示した先には、大きく抉れた大地があった。元は大地が続いてはずの場所は急斜面になっていて、そこに水が流れ込んでいるのが見える。

 

「火竜山脈の地下を流れる水脈の一つを断っちまったみたいだね。元通りにすることは難しいけど、何とかガリア側を流れる川に合流させられないか検討させているところだよ」

 

削り取られた大地は広大だ。その中の一筋の流れなので遠目からではたいした量に見えないけれど、実際には無視できない水量なのだろう。

 

「削られた土地の状況を近づいて確認してもよろしいですか?」

 

「ああ、別に構わないよ。減るもんじゃないからね」

 

マチルダの許可を得て、わたしは騎獣を穴の上に移動させた。ただの穴なので危険はないと思うけど、先にコルネリウスとハルトムートが近づいてみている。少し地表を確認した二人が危険はないと許可をしてくれたので、わたしは地面の近くまで騎獣を降ろした。

 

抉られた後の大地は平らではなく、随分とデコボコとしていた。鋭角になっている場所も多いことから、おそらく巨大な風石の結晶があった上の部分が空に持ち上がったのだろう。だから、浮き上がった大地の下部は風石の結晶が見える。

 

「あそこからなら、容易に風石の採掘ができそうですね」

 

「いや、空に浮かんでいる大地から、どうやって採掘をするのさ」

 

言われてみれば騎獣でもなければ採掘は難しそうだ。それかいっそ、逆さまになった船でも作ってみる? けど、どうやって作ったらいいのか、わからない。

 

「とりあえず、空に浮かんだ山脈の方も見てみたいですね」

 

地面の方は単に浮かび上がった風石に引っ張られただけという印象で、特に変わった部分が見られなかった。得られる情報が少ないと見たわたしたちは、マチルダの許可をもらい、騎獣に乗って上空の山脈に近づいていく。

 

「ローゼマイン、念のため風の盾を張っておいてくれないか?」

 

もうじき空に浮かぶ山脈の真下に入ろうかというところでコルネリウスが言ってきた。落石くらいなら騎獣の防御力だけで十分だと思うけど、それで護衛騎士たちが安心できるのなら、シュツェーリアの盾を使うくらいは構わない。わたしは盾を張った状態で山脈の下部に見えている風石に近づいていく。

 

「ハルトムート、あそこに見えている風石を採取することはできそうですか?」

 

「お任せください」

 

ハルトムートはクラリッサを呼ぶと、二人で風石の結晶に近づいていく。そうして風石に手を振れるとメッサーで欠片を削り取って戻ってくる。

 

「どうぞ、お納めください、ローゼマイン様」

 

窓越しに手渡してくれた風石に軽く魔力を流してみる。反発はなかなかに強く、それなりに高い魔力が籠っているのがわかる。

 

「これは、なかなかに良質な魔力が籠っているようですね」

 

大地を持ち上げるほどの力を秘めているのなら、魔力量も多いだろうと思ったけど、予想以上の魔力が籠っている。わたしはリーゼレータに空の魔石を貸してもらい、そちらに魔力を移してみた。わたしの感情が高ぶったときに使うためのものであるため、それなりに大きい魔石だったけど、ハルトムートが手渡してくれた掌に乗るくらいの大きさで十分に染め上げることができた。染まった魔石の色は濃い黄色だ。

 

「元が風石だけあって、風の属性のみのようですね。ローデリヒも試してみてください」

 

ハルトムートから新しい風石の欠片を取ってきてもらい、ローデリヒでも魔力の移動ができるか試してもらう。結果としては少し苦労はしたけど魔力の移動はできた。ローデリヒの魔力は元は中級貴族としては低めだったけど、今はわたしの教えた魔力圧縮に励んだおかげで平均的な中級貴族よりもやや高いくらいになっているはず。つまり、上級貴族なら魔力の移動も比較的容易に行えるということだ。

 

「これくらい魔力があるならば、ユルゲンシュミットとの貿易が行えれば魔力的には随分と助かりますね。欲を言えば、もっと多様な属性が欲しいところですけど」

 

他の可能性として、含まれている魔力が、もっと大幅に低ければ風石の魔力を他に逃がすことで大隆起を防げた可能性もあった。けれど、掌の上に乗るくらいの大きさで中級貴族では苦戦するようなら、そのような手は使えない。

 

仮に風石の魔力を使って大規模な儀式を行うにしても、とてもではないが巨大な風石の魔力を使い切ることはできない。ひとまず大隆起を抑える方法はないものと考えるよりなさそうだ。

 

大陸の底部から出て、空に浮かぶ山脈の上に回る。すると、山の中腹に所在なげに佇んでいるサラマンダーの姿が見えた。

 

「なんだか元気がないように見えますね」

 

「空に浮かんだことで急に気温が下がったはずだからね。サラマンダーも急な気温の変化に戸惑っているのかもしれないね」

 

マチルダの感想に頷きながら、わたしはサラマンダーは恒温動物なのか変温動物なのか考えていた。トカゲっぽい見た目からは変温動物に見えるけど、それなら尻尾の炎で体温が大変なことになりそうだ。それはおいておくとして、すぐに生物が死滅するほどの影響はないようだ。それなら、ひとまず人を残したまま空に浮かばれても救出はできそうだ。

 

けれど、変化した環境下でいつまで動植物が生息していられるかは限らない。アルビオンでは人が生活をしていられるのだから、植物の種類次第では人も生活できると思っていたけど、それは机上論なのかもしれない。

 

そんなことを考えていると、一羽のオルドナンツが飛んできた。オルドナンツはイザベラの腕に止まった。

 

「イザベラ様、シャルロット様の軍がガセキ平原の戦いにて敗北、アルヌルフ伯爵の軍を殿軍に後退を開始しているようです」

 

その声の主はイザベラがタバサの軍に同行させた北薔薇花壇騎士だと言う。

 

「シャルロット様が心配です。イザベラ様、もしよろしければシャルロット様の様子を見に向かいましょうか?」

 

わたしたちの人数では戦局には影響を与えることはできない。せいぜいタバサを救出して逃げ帰るくらいだ。それでも、タバサの命を救うくらいはできるかもしれない。

 

「お願いできますか、ローゼマイン様」

 

「ローゼマイン様、様子を見に向かうのは構いませんが、わたくしかコルネリウスが危険と判断したら、すぐに引き返すとお約束ください」

 

「わかっています、レオノーレ」

 

レオノーレにそう釘を刺されたけれど、最初から不許可とは言われなかった。

 

「ローゼマイン、ガセキ平原の場所はわかっているのかい?」

 

「マチルダ様はガセキ平原の場所をご存知なのですか?」

 

「ああ、ロマリアには少しの間、滞在していたことがあるからね」

 

「では、案内をお願いできますか?」

 

「ああ、任せときな」

 

わたしは周囲を飛んでいる護衛騎士たちにオルドナンツを飛ばすと、騎獣を南西に向けて飛ばし始めた。

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