ローゼマインの騎獣を使えるようになったことで、少数でも敵の本陣への奇襲が可能となった。けれど、敵の前衛を無視できるという点で、普通の地上からの突入に比べて必要な人員が少なくなるものの、敵陣を制圧するためにはそれなりの人数が必要ということには変わりがない。あたしは今、その戦力をどう捻出するかで頭を悩ませていた。
「あたしとジャンは参加するとして、加えて戦力的な面でもサイトには協力してもらいたいところね。けれど、それだけだと全然足りないのよね」
「ルイズは虚無は使えないのですか?」
「ある程度は精神力が貯まっているんじゃないかとは思うけど、難しいわね。他の魔法なら誤魔化せても、虚無は誤魔化せない。さすがにガリアの内戦にトリステインの貴族が明確に介入するのは拙いでしょう?」
「確かにそうですね」
顔は隠せても魔法を誤魔化すのは難しい。それでも他の属性ならば個人の特定まではできないはずだけど、虚無だけはそうはいかない。
「人数が少ない分、なるべくメイジを多くしたいところだけど、それが難しいのよね」
傭兵メイジというものもいるにはいるが、多人数を揃えるというのは難しい。そして普通の貴族となると、他国の内戦への介入という理由により助力を得ることが難しくなる。
「あまり気は進まないんだけど、ギーシュに頼むしかないかしら」
「タバサのお母様を救出する際に助力くださったギーシュ様なら、確かに協力してくれるかもしれませんね」
「隊長のギーシュと、副隊長のサイトが参加してくれたら、他の水精霊騎士隊の皆も協力してくれる可能性が高まるしね」
ギーシュにしても、他の水精霊騎士隊の皆にしてもトリステインの貴族だ。本当は他国の内戦には関わらせるべきではないのかもしれない。けれど、この作戦はローゼマインの協力なくして成立しない。ローゼマインがいつユルゲンシュミットに戻ってしまうのかも、次にいつハルケギニアに来てくれるのかも、わからないのだ。
やるなら今しかない。だからあたしはローゼマインたちとの会議を終えるとすぐ、まずはルイズとサイトの元に向かった。
「あの女性はローゼマインなのよね。ローゼマインはどうやってあんなに成長したの?」
小柄で、どちらかといえば実年齢より下に見られることが多いルイズは、ローゼマインの成長の秘密が非常に気になっているようだ。
「ローゼマインは、神々の力で急成長をしたと言っていたわ」
「何じゃそりゃ」
サイトの感想はあたしの率直な感想でもあった。けれど、今はローゼマインの急成長に対する感想を話しに来たのではない。
「ローゼマインのことは置いておいて、彼女が来てくれたおかげでタバサに勝ちの目が出てきたわ」
「それはどういうこと?」
「ローゼマインの騎獣なら、敵の本陣に直接、多くの兵を送り込むことができる。頭さえ潰せば後は烏合の衆。サガミールの丘を囲む敵は撤退するはずよ」
「確かにローゼマインの騎獣があれば、空を飛べない俺やルイズでも一緒に敵の中央まで行くことができるな」
「そういうこと。それで、サイト、あたしたちに協力してくれないかしら」
サイトがルイズの方を見る。ルイズは迷うことなく頷いて返す。
「タバサのことは気になっていたんだ。タバサを助けるためなら協力するぜ」
「わたしもサイトと一緒に行くわ」
ルイズを連れていくかは悩みどころだったが、自ら行くと言ってくれた以上、断るという選択肢はない。
「けど、俺とルイズにキュルケだけじゃダメだろ。他に当てはあるのか?」
「ギーシュにお願いして、他にも水精霊騎士隊から募ろうと思っているわ」
「確かに、ギーシュならタバサを助けるためって言えば、協力してくれそうだな。それなら一緒にギーシュのところに行こうぜ」
そう言ってくれたサイトとルイズと、早速、ギーシュのところに向かう。ギーシュはよく水精霊騎士隊の皆が集っているサイトのゼロセンの格納庫にいた。その場には水精霊騎士隊の実務を担っているレイナールや、マリコルヌの他、モンモランシーもいた。皆で美しく成長したローゼマインのことを話していたようだ。
「ギーシュ、タバサを助けるために協力してくれないか?」
「どうしたんだ、急に。わかるように説明してくれ」
サイトに説明を任せるのは不安だったので、その後はあたしが引き取った。まずタバサを攻めている将の一人が背後への警戒を怠っていること。ローゼマインの騎獣ならば、そこに奇襲をしかけられるので、それに協力をしてほしいということを伝える。
「このままタバサが討たれるまで指を咥えて、ただ見ているだけなんて、騎士としてできないと思っていたんだ!」
「父の仇を討とうと頑張ってる女の子のためだ、ぼくはやるぞ! ぼくはっ!」
ギーシュとマリコルヌの他、数人が勇ましい声をあげた。
「でも……、やっぱり冷静に考えれば、そいつはできないよ。ぼくたちはもう、女王陛下の騎士なんだぜ? 好き勝手に動けるわけないじゃないか」
一方、レイナールは冷静に困難であることを指摘する。
「レイナールの言う通り、今回は他国の内戦への介入だから。一応、ガリア王ジョゼフのことはトリステインも敵だと思っているはずだから、勝てば称賛されるでしょうね。けれど負けたら厳しいことになる可能性が高いわ。そのための対策として顔は隠すことになる。だから名誉とは無縁の戦となるわね。得られるものがない戦いになるわけだから、今回は希望者だけでいいわ」
「わかった。そういうことで水精霊騎士隊の皆には話そう。けれど、いずれにせよ人数は不足するのではないか。僕がアルビオンで世話になった傭兵隊を紹介しようか?」
「アルビオンでってことは、実力はその目で確認できているってことよね。正直、メイジだけで最大だと百人くらいは乗れるというローゼマインの騎獣を埋めるのは難しいだろうと思ってたから、助かるわ」
「では、急いで連絡を取ってみよう」
兄に連絡を取るというギーシュにオルドナンツを貸し、相場の二倍の額を支払うという条件で緊急招集をかけてもらう。
「ところで、一つ質問をいいかい?」
「何かしら?」
「ミス・ローゼマインの側近に女性が増えていたようだけど、鎧をつけていたから、彼女たちも騎士なのだろう? ミス・ローゼマインが戦場に向かうのなら、彼女たちも同行するのではないのかと思うのだが、大丈夫なのかい?」
ギーシュが言っているのはレオノーレとアンゲリカという名の女性騎士のことだろう。二人ともギーシュが心配になるのも理解できる、とても戦場に立てるとは思えないような可憐な美少女だった。
「それについては、あたしも心配して聞いてみたんだけど、ローゼマインが言うには二人ともマティアスとラウレンツよりも強いって言ってたわ」
メイジも外見だけで実力を測ることは難しい。ユルゲンシュミットの騎士も接近戦も行うとはいえ、同様ということなのだろう。ギーシュも驚いたようだけど、それならば心配はいらないと納得したようだ。
ひとまずギーシュには水精霊騎士隊の皆を集めて参戦してくれるか意向の確認を頼んでおいた。その間にあたしはマチルダに向けてオルドナンツを送る。彼女はなんだかんだで荒事に慣れている。加えて彼女の巨大なゴーレムは戦力としてはもちろん、撤退する際の殿軍として最適だからだ。
そのマチルダからは諜報だけの約束だったはず、という文句が返ってきたが、重ねてお願いのオルドナンツを送ると、最終的には了承してくれた。ティファニアのアドバイスに従い、母親が平穏に生きられる場所を作るために戦っているタバサを助けたい、という部分を前面に出したことが奏功したようだ。とりあえず、マチルダは子供の頼みに弱い、と心の中のメモに記載しておく。
ちなみに当のティファニアについては留守番だ。彼女の忘却の魔法は乱戦に向かないし、何よりマチルダが戦場に立つなど許さない。
その後、集まった水精霊騎士隊からは三十名の参戦者を得られた。中心になるのは隊長のギーシュとマリコルヌ、そして大柄な力自慢のギムリ。それぞれが十名ずつの小隊の隊長として動くことになった。ちなみにサイトは副隊長ながらルイズの護衛を優先させなければならないことと、戦い方が他の水精霊騎士隊の皆と違いすぎるため別枠扱いだ。
学院からは他に補佐役としてモンモランシーも参加してくれることになった。ルイズも含めればメイジの総数は三十五人。それにサイトと、ギーシュが推薦してくれた傭兵隊が加わる。トライアングルクラスはあたしとジャンとマチルダだけで、ほとんどがドットメイジなのは不安材料だけど、人数はある程度、集まった。
あとはあたしたちがいかに要所を締めるかと、ローゼマインの護衛騎士たちがどのくらいの働きを見せてくれるかで勝負が決まる。あたしがタバサを助けるのだ。そんな強い思いを持って、あたしは急ピッチで戦いの準備を進めた。
護衛任務中は私語はしないため、可憐な美少女の一方は実際はただの脳筋だと発覚するのは当分後の話。