ガリアの魔王と商人聖女   作:孤藤海

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形勢逆転

新式銃を集中配備の上、温存されていたアルヌルフ率いる赤備えの働きもあり、ガリア軍はガセキ平原からの撤退を果たすことができた。カステルモールが後退しながらロマリア軍と戦っていると、そのうちに敵軍に乱れが生じたのが見て取れた。

 

「陛下、アヴェルーザ修道騎士団、オッジャ修道騎士団、ヴェットラル混成連隊が後退を開始したようです」

 

前線からのオルドナンツを受け取ったカステルモールは笑みを浮かべてシャルロットへと報告を行った。後退を始めたのは、いずれもガリア東部を拠点とする都市を拠点とする部隊だ。おそらくゲルマニアが国境を超えたことが伝わったのだろう。

 

「全軍、反転! 逆襲を開始する」

 

シャルロットの指示に従い、本陣の部隊が反転する。黒、白、青の各備えは緒戦で前線に立っている。それからの後退しながらの戦いでは赤備えが前線に立った。従って、これからの戦いではシャルロットの黄備えが前線に立って各隊を引っ張ることになる。

 

ほどなく一度はロマリアに降ってみせたモーリー侯爵より、これよりバヤコワカ侯爵に攻撃を仕掛けるというオルドナンツも届く。モーリー侯爵は初めから策があることは伝えており、策が成った暁には再度、ガリアに寝返るよう伝えた上でロマリアに降らせた。

 

ロマリア軍の中では、いち早く後退を始めた各隊に続いてそれに近い東部の各都市から出陣している部隊が後退を開始した。そこからは雪崩を打ったように後退が始まった。

 

タイミングから考えてゲルマニアがガリアに呼応して戦争に参加してきたのは明白だ。大国ゲルマニアの軍に襲われれば自らの故郷が危ない。そして、そう考えた都市の部隊が撤退しては、今度はガリア軍を抑えられない。いくら聖戦を豪語していても、隣が撤退を開始すれば、自分も続きたくなるのが人情だ。

 

「見よ! 敵はすでに逃げ腰ぞ! この戦、我らの勝ちだ! 敵兵を蹴散らし、穢れし教皇の首を落とせ! さすれば、この無益な戦も終わりぞ!」

 

シャルロットの声に背を押され、総崩れになったロマリア軍を黄備えが切り裂いていく。この戦いで大きな損害を与えられれば、もはやロマリアに、ガリアとゲルマニアの両面作戦を行えるほどの戦力はない。

 

ここでこの戦いを終わらせる。そう決意を新たに、けれど勝ち戦でこそ油断せぬように控えていたカステルモールの目に、不意に一匹の風竜の姿が飛び込んできた。その風竜は迎撃するために飛び立ったシャルロットの直掩の竜騎士隊を蹴散らし、真っ直ぐにこちらへと向かってくる。

 

「ワルド!?」

 

シャルロットが驚きの声をあげる。誰なのか尋ねると、元トリステインのグリフォン隊の隊長でスクウェアクラスのメイジだということだった。ワルドはトリステインを裏切ってアルビオンに寝返ったが、アルビオン崩壊後は行方不明となっていたらしい。

 

「あの動き、俺がゼロ戦で戦ったときと段違いだ。竜が違うとしても、あんなに動きが変わるものなのか!?」

 

シャルロットのトリステインの学友であるサイトの驚きの声に、頭に浮かぶ言葉がある。まさかという思いは強い。けれども、もしもその通りであったら大変な事態だ。

 

「クリステル、ソワッソン、フランソワ、アリス、シャルロット様のことは頼んだ!」

 

騎獣を出して、カステルモールはワルドの元に飛ぶ。ワルドもカステルモールのことを認識したようで、ライトニング・クラウドで迎撃してくる。カステルモールも同じ魔法で迎撃を行った。二人の軍杖から伸びた雷光が空中で火花を散らす。両者の魔法の威力はほぼ互角。その事実で二人は互いを油断のならない相手と認識した。

 

ワルドは騎乗する風竜に鞭を打ち急上昇をする。カステルモールも騎獣に精神力を込め、それを追う。すると、今度は急に反転して急降下でカステルモールへと向かってくる。しかも反転した竜はすでにブレスの準備を整えていた。

 

風竜から伸びてくる炎を、左旋回で回避する。しかし、逃れた先でカステルモールが目にしたのは、ワルドの放ったウィンディ・アイシクルだった。すでに氷の槍は目前。回避は不可能だ。

 

「かあっ!」

 

避けられないなら打ち払うのみ。気合とともにエア・ニードルを纏わせた軍杖を振りぬき、カステルモールは自らに当たると思われた氷の槍を切り裂いた。騎獣には何本か氷の槍が突き刺さったが、騎獣は生物ではないため、実質的な被害はない。

 

「貴様! ヴィンダールヴだな!」

 

急上昇から反転しての急降下。しかも、その機動の最中にブレスの準備までする。このように竜を思い通りにできる者など、カステルモールは見たことがない。

 

「いかにも。わたしは伝説の虚無の一翼たる、ヴィンダールヴだ! 伝説の虚無の力を得しスクウェアメイジの力、しかと思い知れ!」

 

「何が伝説の虚無の力だ! 借り物の力で吠えるな!」

 

叫びながら騎獣に精神力を込めて突進するも、ワルドは風竜を操って距離を取る。風竜と騎獣を比べると、小回りでは騎獣の方が優れるものの、速度では風竜の方が上だ。そして、一番重要な点。それは、持久力で圧倒的に不利という点だ。

 

騎獣は普通に飛ばしているだけで精神力を消費する。最高速度で飛行するとなれば、その消費は更に上がる。カステルモールが勝利するには短期決戦に持ち込むしかない。ここにきてカステルモールは切り札を用いることを決意した。

 

ワルドの竜から一度、距離を取ってその間に風の魔法を準備する。騎獣の欠点が持久力ならば、騎獣の利点は頑丈さだ。元が石であるので固い上に、真っ二つでもされない限りは、飛行を続けることができる。そのため回避を最小にした無理攻めも行うことができる。その差異はすでにワルドも認識していることだろう。

 

カステルモールが放ったエア・カッターを回避するため、ワルドが風竜の首を巡らせた瞬間を狙い、ある呪文を唱える。そしてワルドの竜がカステルモールの方へと向き直ったところを狙い、騎獣を突撃させる。

 

ワルドが迎撃のために選択したのはライトニング・クラウド。カステルモールが軍杖に纏わせていた魔法も、同じライトニング・クラウドだ。両者の魔法が拮抗する間に更に距離を詰める。

 

このまま騎獣での体当たりが成立するかと思えたとき、ワルドの竜が急に前転のような行動を取った。カステルモールに襲い来るのは、丸太のように太い竜の尾だ。

 

ワルドの乗竜の挙動は、自然界では到底、ありえないものだった。それゆえ全く予想などできなかった。これは避けきれない。突進していたカステルモールと騎獣は、ワルドの風竜の尾の一撃によって消滅する。そして、それと同時に、死角となる位置からカステルモールはワルドに向かって突撃した。

 

「私は騎獣に乗った偏在を生み出す方法を身につけた。生身の竜を扱う貴様には真似できまい!」

 

分身体ともいえる偏在だが、自分以外の偏在を作り出すということは、未だかつて誰も成功していない。けれど、騎獣は己の精神力で作り出すものだ。カステルモールは密かに特訓を重ねて騎獣に乗った偏在を作ることに成功した。

 

騎獣に乗った偏在など想定をしていなかったようで、ワルドは無防備な姿を晒している。カステルモールは騎獣に全力で精神力を注ぎ込み、軍杖に纏ったエア・ニードルでワルドの体を貫いた。

 

その瞬間、ワルドの体が掻き消えた。代わりに竜の側面から別のワルドが姿を見せた。

 

「確かに私には竜の偏在を作ることはできないな。だが、そんなものは必要か?」

 

ワルドは風竜の手綱に足を引っ掛けて側面に姿を隠し、竜の上には偏在を配置していたらしい。そのような方法を、カステルモールは考えてもみなかった。

 

己の偏在でいかに相手を欺くかということばかりを考えていて、相手の偏在にいかに騙されないかということに注意を払うのを忘れていた。致命的な失策だ。これでは、このような結果になるのも必然というものか。

 

カステルモールの体をワルドの軍杖が貫いていく。狙いを過たず、しっかりと急所を貫いている。もう自分は助からない。カステルモールはそのことを理解した。

 

シャルロットの元に駆けつけてから今日までの数々の戦いが走馬灯のように駆け巡る。それはカステルモールの人生の中では、ごく短い期間。だけども濃密で、最も充実した期間だった。その充実した人生を与えてくれたシャルロットのためにも、何としてもこの敵だけは葬らなければならない。

 

「見事だ。だが、ただでは死なぬぞ」

 

カステルモールは最後の力を振り絞り、軍杖にエア・ニードルを纏わせ直した。

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