ガリアの魔王と商人聖女   作:孤藤海

53 / 66
元素の兄弟

元素の兄弟と呼ばれた者たちは四人、いずれも油断がならない雰囲気だ。一方、タバサの護衛に付いている騎士たちは、クリステル、アリス、ソワッソン、フランソワの四人。いずれもトライアングルのメイジだけど、相手は手練れだという話なので少し不安も残る。

 

「ローゼマイン、回復薬を譲ってもらっていいかしら?」

 

あたしはここまで来るためにだいぶ精神力を使用してしまった。このまま戦闘に突入するのは拙い。

 

「リーゼレータ、グレーティア、キュルケとコルベール先生に回復薬をお譲りして」

 

警戒を強めるタバサの護衛騎士やルイズ、サイト、そしてローゼマインの護衛騎士たちの間を抜けてローゼマインの騎獣の後部座席にいる側仕えの二人から回復薬を受け取る。

 

「皆様はロマリアよりシャルロット様を害するよう命じられたということでしょうか? ご覧になっていただければわかる通り、四人で命を果たすのは難しいと存じます。ここは引いていただけないでしょうか?」

 

ローゼマインの言ったとおり、こちら側はあたしとジャンに、ルイズとサイト、タバサと護衛騎士が四人、ローゼマインの護衛騎士が騎獣の中で待機するはずのレオノーレを除いても、マティアス、ラウレンツ、アンゲリカ、エックハルト、コルネリウスと五人。それにマチルダとハルトムートとクラリッサもいる。人数的にはこちらが圧倒的に有利だ。

 

「生憎とその申し出は受けられませんね」

 

そう答えたのは、子供にしか見えない外見の少年だ。子供の意地とは思えない、冷静な声音だった。その態度は不気味だけど、ここにいるのはトライアングル以上のメイジばかりだということには気づいていないはず。きっと大丈夫だ。そう自分に言い聞かせる。

 

「なあ、シュヴァリエ・ヒリゴイールってのは、どいつだ?」

 

「たぶん、俺だ」

 

「じゃあ、ぼくはきみとの戦いを所望する」

 

「もう、ドゥドゥー兄さまったら」

 

少女の言葉でサイトに戦いを挑んだハンサムと言っていい少年がドゥドゥーという名前だとわかった。ドゥドゥーに指名されたサイトはデルフリンガーを手に前に出る。

 

「やれやれ、じゃあ俺は本命をいただくとするか」

 

「クリステル様、シャルロット様の護衛でしたら、わたくしたちが引き受けます。複数人で当たってくださいませ」

 

「ローゼマイン様、かたじけなく存じます。アリス、シャルロット様の護衛をお任せします。ソワッソン、フランソワ、行きますよ」

 

「待ちな、クリステル。あたしも一緒に戦うよ」

 

「お願いします、マチルダ殿」

 

大柄な男がタバサの方へと足を踏み出したのを見て、タバサの護衛騎士三人とマチルダが立ち塞がるように前に出る。

 

「じゃあ、お嬢さんの相手はあたしたちがしてあげようかしら」

 

それを見て、あたしはジャンと一緒に少女の方へと足を向ける。残った子供については、エックハルトがアンゲリカと一緒に対応に向かうのが見える。子供相手でも全く容赦がなさそうな二人が向かうのは安心すべきなのか、心配すべきなのか。

 

「わたしの相手はあなたたちってことね。そうそう、わたしの名前はジャネットよ。それにしてもあなたたち、随分と年齢の離れた組み合わせね」

 

そう言ったジャネットは、ひだをふんだんに使った黒と白の綺麗な衣装の上にレースで編まれたケープを纏っている。およそ戦いには向かなそうな衣装だ。

 

「年齢差なんて真実の愛の前には何の障害にもならないものよ」

 

「あ、そういう組み合わせだったのね。正直、わたしには理解ができないわね」

 

「好きに言ってたらいいわ」

 

まずは小手調べとしてフレイム・ボールを投げつける。ジャネットはアイス・ウォールであたしの魔法を難なく防いだ。あたしの魔法はジャネットのアイス・ウォールにわずかにひびを入れただけ。そこからわかることは、ジャネットの方があたしよりも魔法力が高いということだ。

 

「あなたたち、どうしてイザベラの元を離れたの? 今からでもロマリアからガリアに寝返らない?」

 

「さすがに仕事の途中で裏切ったら信用をなくすでしょ」

 

「あら、傭兵として生きていくのなら信用は必要でも、ガリアの騎士として生きていくのならば、そんなものは不要ではなくて?」

 

「生憎だけと、わたしたちの行動はダミアン兄さんが決めているの」

 

ジャネットは積極的にこちらに攻めてくる様子はない。なので聞いてみたところ、この四人の要は子供に見える少年ということだった。

 

「じゃあ、あの子に聞いてみる……というのは難しそうね」

 

ダミアンはエックハルトとアンゲリカに攻め立てられ防戦一方という様子で、話ができる状態ではない。あの二人はエーレンフェストでも戦闘力は屈指だと言っていた。その二人を相手にして戦いになっているのだから、ダミアンも相当に強い。けれど、ローゼマインはまだ四人の騎士を温存している。最終的な勝敗は明らかだ。

 

シャルロットに向かった大柄な男もソワッソンとフランソワが交互に攻め、クリステルが援護を行っている。更に隙あらばマチルダが相手の動きを阻害するように土魔法を使い、自由を奪っている。大柄な男はシャルロットの護衛騎士の連携の前に、はっきりと劣性だと言っていいだろう。

 

気になるのはサイトたちで、タバサ側で唯一、ドゥドゥーを相手に苦戦している。けれど、ここにはサイトの不利を黙って見ていられない予備戦力がある。

 

「ラウレンツ、サイトを援護してくださいませ」

 

唯一、押されていたサイトの所にも援軍が向かった。これで、あたしたちの優位は揺るがないはずだ。

 

「あなたの判断で、投降をした方がいいんじゃないの?」

 

「残念だけど、それはできないのよ!」

 

他の三人がそれぞれ劣勢なのを目にして、ようやくジャネットも本気で攻めてくる気になったようだ。ウォーター・カッターをあたしに向けて撃ってきた。警戒を解かず魔法の準備をしていたジャンの炎の蛇が、ジャネットの魔法を飲み込んで消滅させる。その間にあたしは、フレイム・ストームをジャネットに向けて放った。

 

あたしたちに向かって攻撃魔法を使った直後のジャネットは、防御魔法が使えない。なんとか、あたしの魔法に飲まれる直前にウォーター・シールドを使ったけど、そんなものでは、たっぷりと精神力を注ぎ込んだ、あたしの魔法は防げない。

 

炎の渦に飲み込まれて、ジャネットの体が宙に浮く。魔法の効果が消えて地面に足をついたときには、かわいらしかったジャネットの衣装はぼろぼろになり、覗く肌は火傷でただれていた。

 

ジャネットの火傷は重く、勝敗はついたかに見えた。けれど、ジャネットが自らの火傷を負った肌の上に掌を当てて治癒魔法を使うと、酷い傷がみるみる治っていく。ジャネットは水の秘薬を使用したようには見えない。それなのに驚くべき回復力だ。

 

「あなた、本当に人間なの?」

 

「さあ、どうかしらね」

 

魔法の回復力が高いのか、それとも本人の治癒力が高いのか。いずれにしても先ほどの火傷は常人なら、戦闘継続は不可能という怪我だった。それなのに、こんなにあっさりと戦闘力を回復されたのでは堪らない。

 

そして、どうやら驚異的な継戦能力や回復能力を持っているのは、ジャネットだけではないようだ。アンゲリカの剣に左の脇腹を切り裂かれたダミアンも、傷を掌で抑えて治癒魔法を使いながら戦闘を継続している。

 

「皆、こいつらの治癒力は尋常じゃないわ。普通の人にとっての致命傷を与えたとしても、油断しちゃ駄目よ!」

 

あたしの忠告を受け取った皆が承知の声を返してくる。特に相手の命を奪うことを良しとしないサイトには今の忠告は絶対に届けなければいけない声だった。

 

サイトとラウレンツはこれまでも何度か共闘してきた。お互い相手の呼吸は掴めているのだろう。サイトが攻撃を行い、ラウレンツが援護するという連携で、先ほどまでとは逆にドゥドゥーを押している。

 

大柄な男に対応しているクリステルたち四人も前衛に近接戦を得意とするフランソワ、中衛に手数の多いソワッソン、後衛に万能型のクリステルと更には妨害役のマチルダという連携で、戦いを圧倒的に有利に進めている。二人が苦戦しているのを見て、ダミアンが忌々しげに舌打ちした。

 

「このまま戦い続けても不利だ。ジャック、ドゥドゥー、ジャネット、退くぞ!」

 

「なっ……待ってくれよ。ぼくはまだ……」

 

反論をしかけたドゥドゥーは油断していたわけではなかった。サイトからも、ラウレンツからも視線は外していなかった。けれど、それまで黙って精神を集中させていたルイズのことを意識の内に入れていなかった。そのルイズの魔法がドゥドゥーのわずかな隙を狙って叩き込まれた。

 

吹き飛ばされたドゥドゥーにサイトがすかさず駆け寄って切り裂いた。サイトらしいというか、あたしの注意にもかかわらず致命傷とならないように切られていたが、ラウレンツがシュタープを紐状にして縛っていたので問題ないだろう。

 

そして、ドゥドゥーが捕らわれたのを見て足を止めた大柄な男には、それまで後ろに控えていたマティアスが飛び掛かっていた。それは受け止めていたものの、ソワッソンが風の刃を飛ばし、クリステルが水の刃で切りつけるに及び、ついに膝をつく。

 

「ジャック!」

 

ダミアンの叫びを聞いて大柄な男が懸命に顔をあげた。そこにフランソワがブレイドを纏わせた軍杖を振り切った。ジャックの頭が宙を舞い、血しぶきがあがる。

 

「ジャック兄さま!」

 

「よせ、ジャネット! ここは退くんだ!」

 

ダミアンに窘められジャネットが後退する。一応、フレイム・ボールを撃ってみたけれど、それは予想通り防がれた。

 

「深追いは必要はありません」

 

ローゼマインの声でアンゲリカとエックハルトは追撃を中止したようだ。強敵の元素の兄弟を相手に一人を討ち取り、一人を捕縛できたなら上出来だろう。そう判断して、あたしたちもジャネットを追うことはしなかった。




当初はタバサ側にも被害が出る予定でしたが、カステルモールが死んだ後では大して印象にも残らない無駄死にと判断して戦力差で押し切る方針に変更。
スクウェア1人、トライアル7人、ルイズにサイトにローゼマイン一行と明らかな過剰戦力の前に、割を食って見せ場を失った元素の兄弟。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。